経済・経済学に関するメモ。

解説

野口旭、田中秀臣
「日本的システム=構造問題」論は、内外に広範な支持基盤を持っている。おそらくその最大の想源は、野口悠紀雄氏による『一九四〇年体制--さらば「戦時経済」 』(東洋経済新報社、一九九五年)である。この書は、九〇年代の日本において、構造改革主義のバイブルというべき役割を果たした(野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、79頁)。
野口悠紀雄
この「一九四〇年体制」論の主要な論点は、以下のように要約できる--戦後の日本経済を高度成長へと導く基盤となった日本的雇用や間接金融システムが成立したのは、日本経済の戦時経済への移行が完成した一九四〇年ごろのことである。また、官僚の介入による地域間、産業部門間の所得格差是正システムが成立したのも、やはり一九四〇年ごろである。つまり、戦後日本の経済システムは一九四〇年代の戦時統制経済を引き継いで形作られた。しかし、それは、高度経済成長と所得分配の平等化を両立させるという点では、自由放任型の資本主義以上の成果をもたらした。ところが、その「日本的システム」がうまく機能していたのは、日本経済が欧米への「キャッチアップ」の段階にあったからであった。その段階を終えたいまとなっては、もはやそれは日本経済の成長にとっては障害となっいる。したがって必要なのは、「構造改革」である--(野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、79-80頁)。

反論

原田泰
日本経済の構造問題があるのは確かであるが、それが90年代初に大きな問題となって、それゆえに90年代に日本経済が停滞したということはありえない。現在構造問題といわれていることは、80年代にも構造問題として存在していたからだ(原田泰 『コンパクト日本経済論(コンパクト経済学ライブラリ)』 新世社、2009年、46頁)
伊藤修
これらが戦後に影響を与えたのはもちろんだが、ここで直接に戦後のシステムができあがって固まってしまった(「一九四〇年体制」)とするのは行き過ぎである。かつて寺西重郎氏が指摘したように(『日本の経済発展と金融』 岩波書店)、戦後には大幅に条件が変わるのであり、まったく別のありように変貌する可能性もあったのだから、戦後の各時点において、特有のしくみが「選択されつづけ」て機能したのだとと考えなければならない(伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』 中央公論新社〈中公新書〉、2007年、49頁)。
野口旭、田中秀臣
この把握にはやはり大きな問題がある。それは、「体制」や「システム」という言葉によって問題領域を閉じてしまうことによって生じる、思考の単純化、ステレオタイプ化であれう。(中略)「護送船団方式」とは、金融システム保護を名目とした記入業界保護のシステムだったわけであり、それは結果として膨大な社会的非効率性(=潜在GDPの喪失)を生んでいたのである。(中略)重要なのは、こうした政府介入による社会的非効率性は、明確な経済学的根拠に基づくものであり、「体制」や「システム」という言葉によって曖昧化されるべきものではないという点である。金融護送船団方式が非効率であったのは昔からのことであり、バブルが崩壊してから突然そうなったわけではない。それは、国鉄経営の悪化が、日本経済のマクロ的状況とは無関係に生じていたことと同じである。これらの問題は、不適切な政府関与それ自体から発生していたのであり、「日本的システムが時代への適応に失敗したため」などという理由に基づくものではまったくないのである。おそらく、「日本的システム=構造問題」論の最大の難点は、資源の誤配分に基づくミクロ的な非効率性と、資源の遊休(=失業)に基づくマクロ的な非効率性を峻別する視点をまったく持っていないというところにある(野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、80-82頁)。
野口旭
「1940年体制論」というイデオロギーを展開した本だからである。科学は反証可能であるが、イデオロギーは反証不可能である(田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、149頁)。
河野龍太郎
一国経済の経済システムは、それぞれの国のこれまでの経済事情によって、他の国と異なるのが普通である。法律、税制など様々な制度に大きく依存している。このため、経済システムの評価は、は長期的視野に立って行われるべきものだが、これまで見たように景気循環と同じく極めて短期的視野で評価されやすい。一見、合理的でないように見える慣行が存在しても、長期で見れば、経済的に合理的な慣行であることも多い。不況期に「システムがおかしいから、それをドラスティックに変えよう」と安易に言うべきではない(ダイヤモンド社編著 『日本経済の論点いま何が問題なのか』 ダイヤモンド社、2004年、127頁)。

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