経済・経済学に関するメモ。

池田信夫
ある人間が、ある仕事を一人ですることによって別の仕事ができなくなるとき、その損失が他人より少ないことを「比較優位」という。これに対し、単純に他人より仕事の生産性が高いことを「絶対優位」という(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、46頁)。
池田信夫
貿易の分野でも比較優位に則した国際分業を行うほうが、世界全体が豊かになる(ニューズウィーク日本版編集部 編著『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、46頁)。
池田信夫
すべての分野で能力に劣る人や国があったとしても、能力の優れた人より安くできる仕事があれば経済に貢献できるということだ(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、47頁)。
小室直樹
「比較優位説(比較生産費説)」は、経済学における最大の発見とも言われている。国内市場のみならず、国際貿易においても自由市場(貿易)主義を実現すれば、貿易を行う双方にとって益となる(厳密には、双方共に不利益を齎さない)事を理論的に証明したのである(小室直樹 『経済学をめぐる巨匠たち』 ダイヤモンド社〈Kei BOOKS〉、2003年、39頁)。

反論

伊藤修
さきにふれたリカードの比較生産費説は、自由貿易の利益を説明している。(中略)これは原理として不滅の心理である。ただし、この原理が成り立つにはいくつかの前提条件が必要で、どれかが欠けると「みんなの利益」にならなくなる。その意味で留保条件があるといってもいい。自由貿易には歴史上つねに反対があるが、それもこのことに関わっている。留保条件には以下のものがある(現実に重要なもののみをあげる)。(1)--為替レートが適切な範囲内にあること……なんらかの理由で為替レートすなわち両国の商品の交換比率が一定以上に片寄ると、どちらかの国にとって損失になってしまう。(2)--完全雇用の状態にあること……自由貿易理論は「限りある生産力の有効活用」を前提にしているが、活用されていない資源がある(たとえば不況で大量失業が出ている)とき、単純に「不得意な生産は相手に任せよう」とはならない。(3)--将来の優位産業の芽を摘まないこと(中略)(4)--産業調整コストがゼロであること……不得意な産業から撤退して得意な産業へ資源を移動する(たとえば労働力を農業からIT産業へ移す)のは、実際には無視できない摩擦をともなう。(5)--外部効果がないこと(中略)全面的な市場経済といえども、社会へのすべての負荷や貢献を評価し値段をつけること、いいかえれば処理することはできない(伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』 中央公論新社〈中公新書〉、2007年、185-186頁)。
根岸隆
たとえ農業には比較優位がなくても、環境保護の見地から絶対必要だという主張もある(日本経済新聞社編著 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、274頁)。

比較劣位産業と構造的失業

新井明、柳川範之、新井紀子、e-教室
比較優位の考え方は、固定的に考えたり、押しつけたりすれば強者の理論になりますがそれをうまく使って自分の得意なものを発見して、そこからつぎのステップに発展していこうとすれば、きわめて有効な理論にもなるのです。そういう二面性をもつ理論であることに注意をして比較優位の理論を使えば、貿易から人生まで応用できる、すぐれものの理論なんです。(中略)比較優位は、全体では利益は向上するけれど、一部では仕事をあきらめるなどの犠牲を払う必要が出てくる考え方です(新井明・柳川範之・新井紀子・e-教室編著 『経済の考え方がわかる本』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2005年、131-132頁)。
スティーヴン・ランズバーグ
一八一七年に、デヴィッド・リカード--言葉ではなく数字を用いたが、この問題を厳密に考えた最初のエコノミスト--が、の国際貿易に関する今日の議論すべての基礎を築いた。それから一五〇年、国際貿易に関する議論は発展して非常に精緻になったが、経済学の中では最も確立されたその基礎は少しも揺らいでいない。貿易理論はまず、ある産業のアメリカ人生産者を外国からの競争者から守るとなると、他の産業のアメリカ人生産者が被害を受けることになると述べている。第二に、ある産業のアメリカ人生産者を外国の競争者から守るとすると、必ず経済効率が低下することを予言している(スティーヴン・ランズバーグ 『ランチタイムの経済学-日常生活の謎をやさしく解き明かす』 佐和隆光・吉田利子訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2004年、306頁)。
伊藤修
競争力に劣るようになった産業の縮小を押し戻すのは、相当無理な輸入制限か膨大な補助金を必要とし、ほとんど不可能である(伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』 中央公論新社〈中公新書〉、2007年、180頁)。
野口旭
比較優位とは、常に比較劣位と裏腹の関係にあります。一国にとって、あらゆる産業の生産性が高いということは考えられますが、「あらゆる産業が比較優位になる」ということは考えられません。したがって、どの国においても、貿易を自由に行っていけば、必ず衰退する産業が出てくるということになるのです。(中略)構造調整が済むまでの一時的な現象にせよ、失業の増加となって現れます。(中略)ついこの間までそこにあった自分たちの店、自分たちの工場、自分たちの産業がなくなってしまうことは、たしかにその当事者たちにとっては耐え難いことでしょう。しかし、貿易を行うかぎり、それを受け入ないわけにはいきません。そして、貿易を閉ざした経済とは、発展のない経済にほぼ等しいということも、やはり事実なのです(野口旭 『ゼロからわかる経済の基礎』 講談社〈講談社現代新書〉、2002年、202-204頁)。
野口旭、田中秀臣
比較優位があって初めて比較劣位があるのだから、こうした現象を「脅威」と騒いでいたら、自由な貿易など不可能である。逆にいえば、貿易の利益を享受するためには、この苦痛に満ちた産業構造調整の過程を経るしかないのである(野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、89頁)。
若田部昌澄
もちろん自由貿易にもコストはある。これは自由貿易のメリットを言うときにしっかりと指摘しておかなくてはならない。栗原さんの言った、比較劣位にある職業や産業を諦めなければいけないというのがまさにそれだ。トレードによって全体ではウィン-ウィンになるとしても、その過程で起こる転換では、勝者と敗者が出てくるのは避けられない。と言うよりも、転換が起きないと自由貿易のメリットは実現しない。そこは再分配政策やセーフティーネットで解決するほかない(若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、150-151頁)。

そのほか

小室直樹
もし米国人が比較優位説を理解していたら、北部の人も南部の人も自由貿易にした方が良い事が分かった筈である。比較優位説が理解できなかったからこそ、南北で対立が起きて米国最大規模の戦争へと繋がったのである(小室直樹 『経済学をめぐる巨匠たち』 ダイヤモンド社〈Kei BOOKS〉、2003年、41頁)。

Menu

貨幣・通貨

資本主義・市場経済

管理人/副管理人のみ編集できます