経済・経済学に関するメモ。

概要

西川潤
個々の市場で完全競争原理が働くとき、生産者や消費者は、市場価格による生産・消費により最大の利益を受けられる。このような完全競争原理を国際面に適用しようとするのが、自由貿易の理論である(日本経済新聞社編著 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、112頁)。
野口旭
どの国においても、貿易を自由に行っていけば、必ず衰退する産業が出てくるということになるのです(野口旭 『ゼロからわかる経済の基礎』 講談社〈講談社現代新書〉、2002年、202頁)。
野口旭
貿易を自由に行っていくかぎり、新たな産業が比較優位産業として成長する裏側で、これまでの比較優位産業が劣位産業に転じるというプロセスが生じます。つまり産業構造調整が生じます。しかし、その調整は、それほど簡単でもスムーズでもありません。それどころか、さまざまな社会的軋轢を伴う、きわめて困難な過程であるのが常です(野口旭 『ゼロからわかる経済の基礎』 講談社〈講談社現代新書〉、2002年、203頁)。

自由貿易のメリット

伊藤元重
・海外から安価な商品を輸入できる ・海外に商品を輸出して利益を上げられる ・海外から機械や原材料が輸入されることで、技術やノウハウが移転される ・海外市場で大量に販売する機会を得ることで、国内生産のスケールメリット(規模の経済性)が生かされる ・海外企業からの競争圧力があることで、国内の独占の弊害を軽減できる ・輸入を通じて多様な商品が消費できるようになる(伊藤元重 『はじめての経済学〈上〉』 日本経済新聞出版社〈日経文庫〉、2004年、30頁)
チャールズ・キンドルバーガー
「自由貿易は利益となる」という教科書の命題を押し通す代わりに、「自由貿易がその国によってプラスかは状況に依存する」と主張する(日本経済新聞社編著 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、48頁)。
中谷巌
選択の自由がなく、1種類の自動車、1種類の制服、1種類の酒、1種類の家、1種類の靴しか手にでできない生活がいかに悲惨なものか、想像することすら困難なほどです。自由貿易は、同じ種類の製品のなかの選択肢を拡大してくれます(中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、218頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
たとえ真に自由かつ公正な貿易協定が導入されていても、すべての国が利益を得ることは--少なくとも、すべての国が莫大な利益を得ることは--なかっただろうし、利益を得られた国でも、すべての国民に利益が行きわたることはなかっただろう。たとえ貿易障壁が取り除かれたとしても、すべての人が対等な立場で新たな機会を利用できるとはかぎらない。(中略)貿易自由化の理論(完全市場の存在を前提とし、自由化が公平であると仮定する)が保証するのは、総体として国が恩恵を受けるという点だけだ。理論は負け組の出現も予測している。原理上、勝者が敗者に補填を行なうことは可能だが、実際には、補填が行われる可能性はゼロに近い。(中略)正しい施策と正しい措置を公平に実施すれば、貿易の自由化は開発促進に寄与することができる(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 楡井浩一訳、徳間書店、2006年、115-116頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
貿易は、ゼロサムゲーム(誰かが得したぶんだけ必ず誰かが損する)ではなく、少なくともポジティブサムゲーム(いわゆるウイン・ウイン)になれる潜在性を秘めているのだ(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 楡井浩一訳、徳間書店、2006年、168頁)。
スティーヴン・ランズバーグ
「国際貿易」ゲームは、二つの貴重な教訓を与えてくれるだろう。一つは、貿易はチャンスを拡大すること。第二のもっと大切な教訓は、貿易が有益なのは、輸出ではなく輸入のおかげだということ。輸出産業は国際貿易のマイナス面にほかならない。(中略)販売することは苦痛を伴うが必要な作業であり、購入することにこそ価値がある(スティーヴン・ランズバーグ 『ランチタイムの経済学-日常生活の謎をやさしく解き明かす』 佐和隆光・吉田利子訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2004年、81-82頁)。
若田部昌澄
デフレのときには自由貿易のメリットが十全に得られないというのは本当だ(若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、167頁)。

歴史

伊藤元重
現代の経済学は、 アダム・スミス、デビッド・リカード、ジョン・スチュアート・ミルなどの古典派経済学者たちにその原点がある。興味深いことに、これらの経済学は多くのエネルギーを重商主義批判、あるいは自由貿易擁護に費やしている。そこから出てきた自由貿易論が、現代の経済学の市場論の基礎になっている。そこから出てきたの自由貿易論が、現代の経済学の市場論の基礎になっている。(中略)そして自由貿易論の基礎にあるのが、リカードによって確立されたの「比較優位」の考え方である(日本経済新聞社編著 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、43頁)。

マルサスとリカードの論争

トマス・ロバート・マルサス
保護賛成派のマルサスは次のように論じた。平時には自由貿易が望ましいが世界的な凶作のような非常事態で食料輸入を外国に依存するのは不利だ(日本経済新聞社編著 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、242頁)。
デビッド・リカード
その上でマルサスの議論に応える。穀物輸入を制限すると国内で穀物を作らざるをえない。国内の耕作が進むと、利潤率は下がる。(中略)また凶作なら、穀物の国際価格は上昇し、輸出国はむしろ余計に輸出しようとするだろう。さらに一国でも地域ごとに豊不作が異なる。世界中が同時に不作に陥ることは考えにくく、世界各国から輸入するほうが不作時のリスクが分散されるだろう(日本経済新聞社編著 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、243頁)。

アメリカ

ポール・クルーグマン
政治的には、自由貿易は粗雑な経済ナショナリズムに対抗するための重石として大事なの(ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の経済入門』 山形浩生訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2003年、196頁)。

日本

ミルトン・フリードマン
しかしフリードマンは、明治政府は「経済全体でなされる投資の総額や方向性を管理しようとしたり、国民総生産の構造を統制しようと試みたことは、一度もなかった」と見る。さらに関税自主権が当時なかったことで逆に低関税となり自由貿易が促進されたことが、成長を促進したと評価した(日本経済新聞社編著 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、98-99頁)。
若田部昌澄
自由貿易と経済成長との相関についてはたくさん研究があるけど、もっとも批判的なものでもマイナスになると示したものはない。自由貿易が利益をもたらすことの歴史的証拠は、ほかでもないこの日本だよね。ペリー来航で鎖国を解いた日本には、GDP比で5%から9%の利益があったそうだ(若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、164頁)。
若田部昌澄
開国という大転換が訪れ、交易が始まります。最近の研究では、その交易で得られた利益は、当時の推計GDPの一五%ほどに達するといわれています。これは相当に大きな利益です。なおかつ、これは完全自由貿易です。なぜなら関税自主権がなかった。すなわち日本の側から関税をかけられない。ある意味では世界的にもまれな、完全自由貿易という実験をやったようなものです。その結果、少なくともGDPを見る限りはプラスになりました(若田部昌澄 『もうダマされないための経済学講義』 光文社〈光文社新書〉、2012年、57-58頁)。

批判

西川潤
十九世紀以来、自由貿易は「強者の自由主義」として、先進国が発展途上国の門戸を開放させ、市場を押さえる手段として使われてきた(日本経済新聞社編著 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、112頁)。
ジョン・メイナード・ケインズ
自由貿易は長期的に各国の利益を増進させるだけでなく、国際的相互依存の高まりによって世界を平和にするという学説に、ケインズは反論を加えている。自由貿易の名の下に当時行われていたのは、輸出の拡大や海外権益の確保であった。それが帝国主義の動きを強め、国家の対立を激化させているというのが彼の見立てだ(日本経済新聞社編著 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、78-79頁)。

批判に対する反論

クリスティーヌ・ラガルド
しかし自由貿易や自由市場からの撤退は、この十数年で築いた繁栄や生活水準を損なうものでしかない。しかも最大の被害者は低所得者層(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、27頁)。
田中秀臣
貿易自由化や規制緩和の効果が実際に現れるのは、かなり長いスパンが必要ですね。五年とか一〇年とかで見ないと、本当にそれがよかったか悪かったかは言えないと思うんですよ(麻木久仁子・田村秀男・田中秀臣 『日本建替論 〔100兆円の余剰資金を動員せよ!〕』 藤原書店、2012年、137頁)。
中谷巌
自由貿易がどんどん拡大した理由は、貿易に参加する人たちの生活が、貿易をする前の状態と比べて格段に豊かになったためです。もし、貿易をすることによって、それ以前より生活水準が下がるのなら、誰も貿易取引に応じることはしないないでしょう。もちろん、強大な国が弱小な国に貿易を強要するということはありえます。たとえば、植民地時代には、植民地は宗主国の思うがままに不利な条件での取引を強要され、搾取されました。しかし、これは自由貿易ではありません。自由貿易はあくまで、貿易に従事する人たちの自律性(自分の意思で取引するかどうかを決められること)がなければ成立しません(中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、216頁)。
高橋洋一
経済学で貿易自由化の効用に反論することはまずできない。世界各国相互に利益があり、全体としてGDPは必ず増大する。そうであれば、全体に膨らむパイを、痛みを補うために使えば、容易に解決策が見いだせる(高橋洋一 『高橋教授の経済超入門』 アスペクト、2011年、191頁)。
岩田規久男
辛坊本は、彼ら自身は気が付いていないが、「日本は何から何まで、日本国内で調達し、生産したほうが国内雇用が増え、GDPも増えて豊かになれる」といっているのに等しい。彼らの主張が正しければ、貿易や直接投資を一切排除した鎖国こそが、日本が最も豊かになれる道である。戦後日本が高度経済成長を経て、世界の富裕国への仲間入りができたのは、自由な貿易があったからである。(中略)要するに、辛坊本は「貿易の利益」や「国際分業の利益」の原理が分かっていないのである(岩田規久男 『経済学的思考のすすめ』 筑摩書房、2011年、52-53頁)。

失業の増加

ニューズウィーク日本版編集部
国産品の値段や質が外国産品に劣る場合、輸入を自由化すると国産品が売れなくなって、その業界の収入が減り失業が増える(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、148頁)。
レスター・サロー
貿易の自由化によって平均的国民所得が向上するという理論は、失業者が出ることを想定していない。(中略)理論とは裏腹に、国内市場を失えば大きな失業コストを背負うことになるのだ。失業コストを計算に入れて分析しなおすと、貿易の自由化によって平均国民所得が必ず向上するとは言い切れなくなる(野口旭 『グローバル経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2007年、103頁)
ジョセフ・E・スティグリッツ
貿易自由化は成長をうながすかもしれないが、それと同時に職を失う労働者がでて、少なくとも短期的には貧困が拡大するだろう。場合によっては、さして成長してもいないのに不平等だけが大きくなる「両損」政策もある(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』 鈴木主税訳、徳間書店、2002年、127頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
金利の高騰がともなう貿易自由化は、雇用破壊と失業創出を招くばかりであると言ってよく、犠牲にされるのは貧困層だ(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』 鈴木主税訳、徳間書店、2002年、129頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
貿易自由化は約束したことを実現できないどころか、失業率を高めるだけという例があまりにも多かった。だからこそ、強い反対が起こるのである。しかし、貿易自由化への敵意を疑いなく強めたのは、これを推進するさいに見られた偽善だった。欧米は自分たちの輸出する製品に関しては貿易の自由化を進めたが、その一方で発展途上国の競合品に経済を脅かされそうな分野については保護政策をとりつづけた(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』 鈴木主税訳、徳間書店、2002年、97頁)。
みずほ総合研究所
海外生産が増加したとき、逆輸入増加による国内経済へのマイナスへのインパクトが懸念されることが多いが、実際には輸出が誘発されるプラス効果が先に大きく表れる。(中略)海外生産の増加イコール逆輸入増加・国内生産減少と考えるのは短絡的で、片側だけに着目した議論である(みずほ総合研究所編著 『3時間でわかる日本経済-ポイント解説』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、195頁)。
野口旭
一時的な失業の発生を恐れて貿易を閉ざしてしまうことは、その労働の有効利用の機会そのものを放棄することを意味します。(中略)産業の構造変化をもたらすさまざまな要因を無視して雇用に対する輸入の影響だけを問題視しても意味がないのです。さらにいえば、問題の焦点が「失業」それ自体にあるのであれば、そには貿易制限などよりもはるかに適切な政策手段が存在します。それは、財政政策・金融政策などの「マクロ経済政策」です。それらの目的とはまさに、一国全体の失業率やインフレ率を適切な水準に維持するというところにあります(野口旭 『グローバル経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2007年、104-105頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
金融政策と財政政策がうまく機能していれば、雇用喪失と歩調を合わせた雇用創出が実現可能なはずだが、たいていの場合、それは実現されない。(中略)稚拙な貿易自由化が失業率の上昇につながってしまうと、もはや自由化の恩恵がもたらされる望みは薄い(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 楡井浩一訳、徳間書店、2006年、122-123頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
貿易の自由化を実行する際には、万全の支援体制をとる必要がある。古い産業から新しい産業へ構造転換がなされるとき、一度だけ支援すればすむというような話ではない(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 楡井浩一訳、徳間書店、2006年、125頁)。
若田部昌澄
もちろん自由貿易にもコストはある。これは自由貿易のメリットを言うときにしっかりと指摘しておかなくてはならない。栗原さんの言った、比較劣位にある職業や産業を諦めなければいけないというのがまさにそれだ。トレードによって全体ではウィン-ウィンになるとしても、その過程で起こる転換では、勝者と敗者が出てくるのは避けられない。と言うよりも、転換が起きないと自由貿易のメリットは実現しない。そこは再分配政策やセーフティーネットで解決するほかない(若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、150-151頁)。

格差の拡大

中谷巌
保護主義に傾く理由もじつはあるのです。その最も重要な理由は、自由貿易が各国間の分業を進める結果、国内における所得分配に深刻な影響が出てくるということにあります。(中略)自由化を推進させる上で大切なことは、自由化によって損失をこうむる人たちに相応の所得補償をするといった政策の発動だと思われます(中谷巌 『痛快!経済学』 集英社〈集英社文庫〉、2002年、225-226頁)。
大和総研
貿易の急拡大は、一面、先進国からの技術移転や国際的な品質基準の統一などを背景とした、発展途上国の輸出促進によるものでもありません。資本制度や法律の整備も進んだことにより、企業は最も有利な生産拠点の立地を選択することができるようになりました。このような流れから、発展途上国の所得水準が向上し、先進国から発展途上国への輸出も拡大するという好循環をたどっているのです(大和総研 『最新版 入門の入門 経済のしくみ-見る・読む・わかる』 日本実業出版社・第4版、2002年、204頁)。
新井明、柳川範之、新井紀子、e-教室
韓国の輸出額は約1500億ドル前後、それに対して北朝鮮は10億ドル程度しかありません。国民所得も格段の差がついています。韓国の人口は、北朝鮮の2倍あることを考えても、この格差はものすごいですね。国を開いて、比較優位をいかして、それをどんどん変化させながら海外と貿易をしながら進めば、経済が発展していく可能性をもつわけですね(新井明・柳川範之・新井紀子・e-教室編著 『経済の考え方がわかる本』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2005年、171頁)。

自由貿易協定

ニューズウィーク日本版編集部
投資拡大をめざして2カ国以上の国や地域が関税を含めた貿易制限措置を一定期間内に撤廃、削減する協定(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、126頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
アメリカ財務省とIMFを中心とする市場原理中心の改革を「ワシントン・コンセンサス」と呼び、彼らはもっぱら効率性ばかりを追求して公平性を犠牲にしすぎている、と批判する。特に、貿易の自由化・資本の自由化と資本市場の自由化を強制することで、開発途上国の人々を苦境に陥らせている--と、スティグリッツはアメリカの対外経済政策を一刀両断する。(中略)ワシントン・コンセンサスのような市場原理主義的な政策スキームに代わって、スティギリッツは「第三の道」を提案している。この「第三の道」の中核は、開発戦略において、政府が中心になって物的・制度的なインフラを構築し、市場が円滑に機能できる諸ルールを整備すること。また、独占・寡占の弊害を防ぐために競争政策を採用することである。さらに、産業間の調整が進む過程で失業が深刻になれば、政府が適切なマクロ経済政策をとってそれに対応することも強調している(田中秀臣 『不謹慎な経済学』 講談社〈講談社biz〉、2008年、115-116頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
貿易の自由化--市場を開放し、商品とサービスの自由な移動を確保する--は、経済成長をもたらすとされていた。しかし、どうひいき目にみても、これまでの証拠はこの主張を裏づけるものではない。これまでの国際貿易協定が貧困国を経済成長に導けなかった一因は、バランスの欠如だ。先進国には裁量的な関税が認められ、同じ先進国の製品にたいしては低い関税率を、いっぽう途上国の製品には平均してその四倍の関税率を設けてきた。また、途上国が産業育成用の補助金の撤廃を強いられる一方、先進工業国は巨額の農業補助金を継続することが認められてきた。これにより、農産物の取引価格が不当に低くおさえられ、途上国の生活水準の下落を招いたのだ(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 楡井浩一訳、徳間書店、2006年、53頁)。

北米自由貿易協定

ジョセフ・E・スティグリッツ
発効から一〇年以上を経った今、NAFTAの失敗は既成事実となっている(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 楡井浩一訳、徳間書店、2006年、114頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
協定成立からの一〇年間で、両国間の所得格差は逆に広がってしまい、--一〇パーセント以上に--、また、NAFTAがメキシコ経済を急成長させるという結果も、みられずじまいだった。メキシコの一〇年間の成長率は、実質ベースで一人当たりの国民所得でたったの一・八パーセントにすぎない。(中略)NAFTAは急成長を実現できなかっただけでなく、メキシコの貧困を悪化させた一因ともなった。(中略)NAFTAは関税を撤廃する一方、非関税障壁が丸ごと存続することを容認した(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 楡井浩一訳、徳間書店、2006年、117-118頁)。
ジョセフ・E・スティグリッツ
NAFTAは関税にこだわるあまり、メキシコの競争力強化に必要な措置をおろそかにしてしまったのである(ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 楡井浩一訳、徳間書店、2006年、117-118頁)。
ポール・クルーグマン
わたし自身は、NAFTAは成立すると思いますし、また、そう願っています。しかし、これを、貿易ブロック化に向かう大きな流れの一環だと見るのは間違いです。貿易ブロック化の脅威がないとすれば、なにが脅威なのでしょうか。それは時代錯誤の保護主義、狭小で利己的な保護主義です(ポール・クルーグマン 『良い経済学 悪い経済学』 山岡洋一訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、206頁)。
ポール・クルーグマン
貿易によって雇用がどれだけ増えるとか減るとかいった問題の立て方そのものが、アメリカ経済の仕組みを誤解している証拠である。とりわけ、NAFTAが雇用にどのような影響をあたえようとも、他の経済政策、とくに金融政策によってかならずそれが相殺される事実が見落とされている(ポール・クルーグマン 『良い経済学 悪い経済学』 山岡洋一訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、219頁)。
ポール・クルーグマン
理論的には、NAFTAはアメリカの非熟練労働者に悪影響をあたえることを認めざるをえないが、実際には、それを裏付ける証拠がない。したがって、影響はきわめて小さいと考えるのが妥当である。NAFTAにともなうアメリカの雇用、環境面のコストはごく小さいものであるが、国民はそう考えない。また、NAFTAはアメリカにとってたしかに経済効果があるが、その程度はわずかなものである(ポール・クルーグマン 『良い経済学 悪い経済学』 山岡洋一訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、226-227頁)。
スティーヴン・ランズバーグ
NAFTA(北米自由貿易協定)を批判したペローは、アメリカの賃金と雇用が低下するという推計を持ち出した。協定に賛成する対立候補二人は、ペローの土俵に上がって反論しようとした。本当に適切な反論の根拠は、協定によって消費者物価が下がり、手に入る商品の種類が豊富になるという推計だったのに、二人はそこに久気づかなかった。協定のおかげで、アメリカ人が少なく働いて多くを消費できるようになれば、私たちの勝ちなのだ(スティーヴン・ランズバーグ 『ランチタイムの経済学-日常生活の謎をやさしく解き明かす』 佐和隆光・吉田利子訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2004年、83頁)。

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