リフレーション
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morishinjin 2023年07月29日(土) 17:36:49履歴
手法 
田中秀臣、野口旭、若田部昌澄
かつてのリフレ政策としては価格管理などのミクロ政策もあったが、現代ではマクロ政策に限られる。その手段としては政府がおこなう通常の財政政策（減税、公共事業の拡大）、金融政策、為替政策（円安に誘導するためドル買い円売りの介入）などがあるが、通常の手段に限られないことがある（田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、19頁）。昭和恐慌研究会
本書の執筆者たちは、「インフレターゲット+無期限の長期国債買いオペ」をリフレ政策と呼んでいる（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、300頁）。飯田泰之
そもそも僕は、リフレ政策とか金融緩和の核は、量じゃなくて質--より具体的には、ベースマネーの量ではなく、金融緩和の継続性とそれへの信任だと考えています。かつて時間軸効果と呼ばれていたものですね（飯田泰之・田中秀臣・麻木久仁子 『「30万人都市」が日本を救う！ 〔中国版「ブラックマンデー」と日本経済〕』 藤原書店、2015年、74頁）。田中秀臣、安達誠司
デフレ脱却のためには、金融緩和を中心としたリフレーション政策によって、人々のデフレ期待を一掃させることが重要である（田中秀臣・安達誠司 『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、83頁）田中秀臣
リフレ政策には金融政策とともに、それと整合する積極的な財政政策の存在が欠かせません（田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、263頁）。
政策メニュー
伝統的金融政策
田中秀臣
（1）伝統的金融政策 ・法定預金準備率の引き下げ上げ ・短期名目金利の引き下げ ・将来の名目金利引き下げに関するアナウスメント（時間軸効果） ・為替介入による通貨の減価（為替レートの引き下げ）（田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、237-238頁）
非伝統的金融政策
田中秀臣
（2）伝統的金融政策 ・オペレーション（市場操作）対象資産の拡大（外債、社債、株式、不動産投資信託など） ・インフレ目標・物価水準目標の導入 ・マイナス金利の導入（金融資産・貨幣に対する保有税の導入）（田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、238頁）
財政政策
田中秀臣
（3）財政政策 ・所得税減税、法人税減税 ・消費税の引き下げ（田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、238頁）
金融政策・財政政策の協調（ポリシーミックス）
田中秀臣
（4）財政政策と金融政策の合わせ技 ・公共投資など財政支出拡大 ・中央銀行の長期国債引き受けによる減税・政府支出拡大 ・政府紙幣の発行（田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、238頁）
インフレ期待
田中秀臣
ワルラス法則の諸商品は、財・サービス、労働、債券、貨幣ですが、ここに「将来の貨幣」を含めます。ワルラス法則によれば、貨幣を含む諸財が超過供給、つまり貨幣がじゃぶじゃぶのケースは、必ず将来の貨幣に対する超過需要をもたらしているということを意味します。つまり人々は貨幣不足が将来も続くと予想するわけです。これがデフレ期待（予想）という現象ですね。将来の貨幣の超過需要を解消しない限り、現在の貨幣を含む諸財の超過供給は解消しません。言い換えれば、将来の貨幣が不足しているということ。将来の貨幣が不足していますら、将来の貨幣価値が高まるだろう（=貨幣の不足が続くだろう）とみんなが期待して、貨幣を抱えてしまうわけです。デフレ期待が深刻な状態です。そうなると経済の動きが滞ってしまいます。当然、財・サービス、労働の超過供給、売れ残りや失業は解消できないままです。将来の貨幣の超過需要を解消しないと、そういった状況が続きます。これが、現代版の「流動性の罠」です。ケインズ経済学のように、現在ドカーンと貨幣を供給しても将来の貨幣不足を解消できないことに注意してください（高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、117頁）。田中秀臣
将来の貨幣市場の超過需要、つまり貨幣の不足を解消するために「インフレ期待」が必要になります。今お金を貯め込んでも、将来のそのお金の価値は目減りするという「インフレ期待」を持たせることが重要ですから、「インフレ目標」政策が必要という話になるわけです（高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、117頁）。
理論発生の起源・背景
若田部昌澄
リフレーションという言葉の初出は、イギリスの The Economist 誌1932年2月13号の「『リフレーション』か破綻か」（‘Reflation’ or Bankruptcy）という記事である（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、107頁）。アーヴィング・フィッシャー
フィッシャーは、デフレがデット（債務）の実質的負担の増加を通じてさらにデフレをもたらし、景気の自動回復が不可能になるというデフレ・スパイラルを懸念し、リフレ政策（デフレの起こした弊害を除去するためのインフレ政策）に大恐慌脱出の活路を見出した（田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、181頁）。若田部昌澄
当時のリフレーションとは、進行中のデフレーションを阻止し、さらにデフレ以前の適当な物価水準に復帰するまでインフレーションを進めることを意味していた。したがって物価水準目標政策と解釈すべきだろう。戻るべき物価水準について、例えば The Economist 誌は1928年の物価水準、フィッシャーは1920年代中葉の物価水準が適当と考えていた（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、107頁）。若田部昌澄
大恐慌初期に大恐慌が短期間で終わると予測して大失敗し、物笑いの種になったフィッシャーは、一九三二年の『好況と不況』、一九三三年の「デットデフレーションの理論」をはじめとして、デフレのもたらす長期的な害悪を取り除くべく、さまざまな物価安定化計画に執念を燃やしていた。フィッシャーは、小国であるがゆえに、スウェーデンは海外からの影響にさらされやすく、物価安定のプログラムはむしろアメリカのような大国でこそ容易に実行できると考えた（若田部昌澄 『経済学者たちの闘い』 東洋経済新報社、2003年、219-220頁）。若田部昌澄
しかし1929年の大恐慌到来後、フィッシャーのリフレ政策の提唱とともに、アメリカは再び注目を集めることとなる。そのフィッシャーは1911年の『貨幣の購買力』から物価安定化の計画の一環として金本位制の改良を提唱し（Fisher [1911] Chapter XIII）、それ以降も貨幣価値、物価安定化計画の強力な提唱者であった（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、71頁）。野口旭、若田部昌澄
大恐慌期には世界各国で、リフレ主義と清算主義との間で激烈な政策論争が行われたが、その図式は日本においてもまったく同様に成立していた。実際、その問題に関連するケインズ、フィッシャー、カッセルらの議論は、日本の論争の重要な背景を形成していた。（中略）ジョセフ・シュンペーターの「創造的破壊」という考えに代表される「清算主義」と、アーヴィング・フィッシャーの債務デフレ論から導き出される「リフレ主義」という対立軸を設定することによって、大恐慌期に世界各国で行われたリフレ主義と清算主義との間で政策論争をいきいきと描き出したのは、竹森 [2002] である（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、50頁）。ベン・バーナンキ
バーナンキが提案するのは、政策を開始する時点であらかじめ、こうしたやや高めのインフレ率のリフレ政策の過程とその後の物価安定を目標とした低いインフレ目標の双方についてコミットすることによって、中央銀行が明確に市場に意図を伝え、市場のインフレ期待に働きかけるという政策です（田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、71頁）。若田部昌澄
いわゆる右と左という分け方で言うと、リフレ政策は、左派に非常に親和性があるんです（田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、69頁）。
失業と賃金について
昭和恐慌研究会
リフレ政策は需要不足から生ずるデフレを克服し、完全雇用（インフレを加速させないような失業率）を達成するための政策である（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、v頁）。昭和恐慌研究会
リフレーション政策（リフレ政策）とは、「物価水準を貸し手と借り手にとっての不公正を修復する水準まで戻す政策」（Fisher [1932], Barber ed. [1997] Vol.10,p.85）と定義されるが、リフレの目的は景気を回復させる点であるから、実際には、リフレ政策とは、物価を「企業が失業者を吸収できるような水準まで戻し、その水準で安定させる」（Barber ed. [1997] Vol.10,p.186）政策である（岩田規久男編 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、300-301頁）。石橋湛山
石橋がリフレーション政策を主張したのは、失業は総需要のコントロールで解消できるものであり、それを放置したままでは「人生最大の浪費」に終わるという、彼の「社会はミミズではない」という視点の継続として述べられていた。失業は国民経済の富を損ねる最たるものであり、それを解消する「外科医」としての政府の役割をきわめて重視したのである（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、165頁）。石橋湛山
物価が上昇しリフレが実現しているということは、すでに労働者に購買力が創出されるということである。確かに物価が上昇して、労貨が物価上昇分しか上がらなければ、労働者の状態は一人当たりで見て変わらない。しかし、その分雇用が増えて失業が減っているから労働者総体としては購買力は上昇するだろう（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、110頁）。高橋洋一
雇用が確保されて就業者が増えると、実は、平均賃金は少し下がる。ニューカマーの人は、それまで所得がゼロだったけれど、働くようになって所得を得る。働き始めたばかりだから賃金の水準は低い。賃金水準の低い新しい人たちが増えるから、平均賃金はちょっと下がる。これは平均値の出し方の問題です。本当は、ゼロ所得の人も含めて平均賃金を計算すれば、就業者が増えれば平均賃金は上がるんだけれど、統計上ゼロ所得の人を除いて平均賃金を出す。みんなちょっとずつ賃金が増えている場合でも、平均値の計算の問題で、平均賃金が下がってしまう場合がある。ずっと働いている人は、過去の自分の所得から見ればちょっと上がっていて、ゼロ所得だった人は就職して所得が増える。だけど、ゼロ所得だった人が、就職した当初にもらえる賃金水準は低いから、全体の平均値を引き下げてしまうことがあるわけです（高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、60-61頁）。浜田宏一
もちろん企業が賃金を払えるようになって賃上げがおこる（儲かる企業は賃上げでより優秀な人を雇おうとするのが当然です）のには反対しませんが、人為的にリフレ政策をやるんだから賃金も増やせという議論は間違いです。ですから、リフレ政策は穏やかなインフレを通じて一種のワークシェアリングを実現していくというプロセスと考えるべきでしょう。みんなが少しずつ賃金を安くするかわりに、失業を減少させていく（田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、54頁）。浜田宏一
儲かって余力のあるところはどしどし賃上げしてくれという意味に取ればまったく正しい。儲かった企業は失業を増やさないし、総需要に対するプラスの効果がある（田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、53頁）。
日本
日本においての理論発生の起源・背景
石橋湛山の小国主義
田中秀臣
それに対して「期待の経済学」あるいは「リフレの経済学」の立場にたつエコノミストたちはむしろ小国主義的であり、これはいいかえれば自国の政策によって国内の経済・社会問題を解決し、他国を政策に利用せず、むしろ不干渉をもって近隣諸国と友好をはかる方策といえるだろう。その典型的な立場として、石橋湛山をあげることができよう。湛山の小国主義は、政府・日本銀行の適切な政策運営で日本経済の潜在成長をサポートしていく、というリフレ政策の立場を基礎に置いていた（田中秀臣 『経済政策を歴史に学ぶ』 ソフトバンククリエイティブ〈ソフトバンク新書〉、2006年、212-213頁）。
新平価解禁論
田中秀臣、安達誠司
高橋亀吉が一九二〇年代から三〇年代はじめにかけて強調した主張は、いわゆる「新平価解禁論」ないし「金輸出再禁止論」として今日知られている。高橋の主張の核心は、「昭和恐慌」期の平均一〇%を超えるデフレからの脱却をはかるリフレーション政策（デフレから脱却して経済を円滑に回転させる低インフレをもたらす政策のこと）の提言であった。高橋が、石橋湛山、小汀利得、山崎靖純ら「新平価解禁四人組」の一人としてリフレ政策を積極的に唱導したことは、日本の経済学の歴史を飾る出来事として知られている（田中秀臣・安達誠司 『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、14頁）。
二段階レジーム転換仮説
田中秀臣
金融政策のスタンスが、デフレ継続を許すものからデフレ脱却を積極的に促すのに転換することを「レジーム転換」「レジーム・チェンジ」と言います（田中秀臣 『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』 主婦の友社、2013年、90頁）。飯田泰之、岡田靖
「2段階レジーム転換仮説」とは、1930年代の世界大恐慌からの脱出の過程が、マクロ経済政策を縛る制度的枠組みの変更と、実際の政策の転換という、2つの段階を経て実現したという仮説である。これを日本に適用すれば、昭和恐慌からの脱出が、1931年12月13日の大蔵省令による金輸出再禁止と、32年11月25日に始まる国債の日銀引受けによる金融緩和の2段階を経て実現したことに対応する（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、187頁）。田中秀臣
実は日本銀行と政府が政策、レジーム転換を行うことがなによりも重要だということになります。それは例えば、日銀が前例踏襲主義を明白に放棄する政策でもいいわけです。日本銀行の国債の直接引き受けは、明らかに、日本銀行に従来のデフレ・レジームというべきものからの転換として人々の予想を転換させるでしょう。さらに他にも、いま日本銀行が堅持している「銀行券ルール」、つまり日本銀行の現金の発行残高以内にその長期国債の買い取り額を制限するというルールを放棄し、10-20兆円超の長期国債の買い取りをしてもいいでしょう。また金融緩和に明白にコミットする日本銀行総裁に変更すること、物価水準目標を導入した日本銀行法を制定すること、そしてこれらの政策が実際に実行されると市場が信じた段階でかなりのリフレーション効果（=脱デフレ効果）があると思います。それだけ「人々の期待の変化」は重要なのです（田中秀臣・上念司 『震災恐慌！〜経済無策で恐慌がくる！』 宝島社、2011年、216頁）。
貨幣数量説
岩田規久男
「貨幣供給量が増えれば、物価が上昇する」という単純な関係は、実際には必ずしも存在しないようである（岩田規久男 『デフレの経済学』 東洋経済新報社、2001年、104頁）。岩田規久男
貨幣供給量の増加率が上昇（低下）すると、消費者物価の上昇は大きく（小さく）なるという「貨幣数量説」は、一年といった短期では必ずしも成立しないが、五-一〇年程度の長期で見ると、ほぼ成立していることがわかる（岩田規久男 『デフレの経済学』 東洋経済新報社、2001年、104頁、113頁）。田中秀臣
しかし伝統的な貨幣数量説が短期において成立することは著者と同様に評者も賛成してしない。だがデフレ脱却のためのインフレ目標論の多くは長期における貨幣数量説が成立していればいいだけである（田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、164頁）。
効果
銀行貸出と金融緩和の効果
岡田靖、安達誠司、岩田規久男
貸出の増加は株価の上昇、生産の増加に約3年程度遅れて実現していることがわかる。つまり、デフレからの脱却局面での生産の回復は、必ずしも貸出の増加を伴うものではなく、むしろデフレからの脱出が実現して初めて貸出が増加したというのが事実なのである。このような、一見、不可解に見える現象が生じるには、デフレ予想からインフレ予想に変化すると、デフレ下でのバランスシート調整によって積み上がったキャッシュが、財・サービスへの支出に向けられることによって、景気回復が実現するためである。デフレが続くと、本来は借り手である企業が資金余剰主体になり、その一方で家計は、平時であれば過剰なほどの現金を抱え込んでしまう。このため回復初期には、そうした資金を設備投資や消費支出等のための資金需要に充当できるのである（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、177-178頁）。安達誠司
昭和恐慌期の大企業による資金調達のうち、62.5%が内部資金の取り崩しによってなされたこと、また、外部資金では、株式が37.5%を占めた一方、社債や借入れといったデットファイナンスはマイナス（すなわち、借金返済）だったことが示されている（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、242頁）。
評価
高橋財政
中村宗悦
当時はリフレ政策という用語は一般的ではなくインフレ政策と呼ばれてたが、ここでは高橋財政の本質をリフレ政策として考えている（田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、196頁）。石橋湛山
日本経済界は、昭和六年（西暦1931年）12月のの金輸出再禁止以降、外国貿易の増進と財政の膨張とで、リフレーションの恵みを受け、物価は上がり、生産は増し、景気は大いに振興した（小泉祐一郎 『図解経済学者バトルロワイヤル』 ナツメ社、2011年、203頁）田中秀臣
現実に1931年12月、若槻礼次郎内閣から政権を引き継いだ犬養毅内閣（高橋蔵相）がまず決断したことは、金本位制からの離脱であり、そして翌年の「日銀の国債引き受け」という超金融緩和政策であった。これは、「デフレ・レジームとしての井上財政」から「リフレ・レジームとしての高橋財政」への転換だと言える（田中秀臣 『不謹慎な経済学』 講談社〈講談社biz〉、2008年、179頁）。田中秀臣
その内実はは金本位制という固定為替レートをやめて、変動為替レートに移行することにより金融緩和を行うことが可能になった。この政策の変更で経済危機を脱却できたことが決定的だった。財政策はこのとき金融政策をサポートするように拡張的に運用されていた（田中秀臣 『脱GHQ史観の経済学 エコノミストはいまでもマッカーサーに支配されている』 PHP研究所〈PHP新書〉、2021年、54頁）。高橋亀吉
高橋是清蔵相のリフレーション政策は、政策当局が先手を打って自主的判断をしたものではなく、世論の圧力に強要されて後手後手になる形で着手されたものだ。それが政策当局への不信を生み、また、軍部による戦費調達のための公債の膨大な発行と、それが戦後もたらした高率な公債インフレーションの元凶になった（田中秀臣 『不謹慎な経済学』 講談社〈講談社biz〉、2008年、181頁）田中秀臣
実際に、昭和恐慌を脱出するときに、財政規律を守りながら、国債の日銀による直接引き受けを行わせた高橋是清蔵相の政策では、悪性のインフレも起こらず、国債の暴落も起こらなかったというのが史実です（田中秀臣・上念司 『震災恐慌！〜経済無策で恐慌がくる！』 宝島社、2011年、194頁）。若田部昌澄
日本銀行が編纂した『日本銀行百年史』（日本銀行で）には、国債直接引き受けについて「本行の歴史始まって以来の最も遺憾とすべき事柄であった」と書いています。高橋是清に協力したら、ひどいインフレになった、ともいっています。これは要するに、 大恐慌から脱出した高橋是清のインフレと、その後の第二次大戦後に至るまでのひどいインフレが連続していたという考え方です。しかし、両者を同一視するのは間違っています。戦時インフレの本質は、軍部の膨張を許した政治体制の失敗にあります（若田部昌澄 『もうダマされないための経済学講義』 光文社〈光文社新書〉、2012年、196頁）。岡田靖、安達誠司、岩田規久男
1931年12月から36年2月までの高橋財政期では、2.0%の穏やかなインフレの下で、実質経済成長率は7.2%へと昭和恐慌期の10倍にも上昇し、株価は70%、地価も下げ止まって1%上昇した（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、170頁）。田中秀臣、安達誠司
高橋是清が犬養毅内閣のもとで大蔵大臣に就任したのは一九三一年一二月一三日、悪名高い国債の日銀引き受け発行を開始したのが一九三二年一一月二五日、二・二六事件により暗殺されたのが一九三六年二月二六日であった。この約五年間におよぶ高橋蔵相在任期間の平均インフレ率をみると、プラス二・四%ときわめて安定的に推移している（物価指数はGDPデフレーターを使用している）。いわゆる「高橋財政」期が、デフレから脱却し、良好なマクロ経済環境を実現していたことがわかる。他方で恒常的に年率一〇%以上のインフレが続くのは、高橋蔵相暗殺後に本格的な戦時体制が確立されてからであり、実質的に軍部が政治的実権を握り、軍事費が急拡大したためであると考えられる（田中秀臣・安達誠司 『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、63-64頁）。田中秀臣
高橋は、1932年から1935年にかけて32億円の国債を発行し、その86%--つまり、27.5億円を日銀に買い取らせたわけです。しかし日銀は買い入れた国債の大部分を後で市中銀行に売ったため、日銀が保有する国債は、この4年間の間に2億8000万円、約10%しか増加しなかったというわけです（田中秀臣・上念司 『震災恐慌！〜経済無策で恐慌がくる！』 宝島社、2011年、176頁）。田中秀臣
それに歴史的な経験をいうと、戦前の昭和恐慌期にリフレ政策をとった後、国債価格は確かに下がってはいますが、暴落ではなく非常に安定的に推移しています。間違っても国債暴落なんて現象は起きていない（田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、122頁）。笠信太郎
また石橋湛山や高橋亀吉らが同時期に主張していた「リフレ政策」（デフレを脱し、低インフレ状態を実現して、経済の活性化を促す政策の総称）に対して笠は執拗な批判を展開した。笠はまた高橋是清による金本位再禁止、その後の超金融緩和政策によるデフレ脱却にも否定的である。笠のリフレ政策への批判は、まず日本銀行によるマネーサプライのコントロールでは物価水準を決定することはできない、「通貨統制」では「物価の一般的な不可避的な低落の傾向」を防止することは難しいとするものだった（田中秀臣 『経済政策を歴史に学ぶ』 ソフトバンククリエイティブ〈ソフトバンク新書〉、2006年、90-91頁）。笠信太郎
そして笠はこのリフレ政策の帰結が、やがて植民地獲得への意欲に至るであろうと（満州事変や中国本土への進出という既成事実を背景に）「予測」している（田中秀臣 『経済政策を歴史に学ぶ』 ソフトバンククリエイティブ〈ソフトバンク新書〉、2006年、93頁）。田中秀臣
高橋蔵相も石橋湛山らリフレ派の一部も、昭和恐慌を脱して安定的な経済成長経路に乗ったことで、「今後は公債発行を抑え、政治的には軍事支出を抑しつつ制、インフレ懸念を払拭する」という政策への転換を考えていた（田中秀臣 『不謹慎な経済学』 講談社〈講談社biz〉、2008年、183頁）。田中秀臣
高橋財政の前期（一九三二-三三年度）では軍事支出が対前年比四〇-六〇%にも上がる異常な伸びを示していますが、後期（一九三四-三五年度）には一〇%台の伸びに低下しています。（中略）二・二六事件による高橋蔵相の暗殺後、財政を引き継いだ広田弘毅内閣の馬場�０貘∩蠅蓮�対満州対策、国防の充実を強調し、日本銀行の国債引き受けを続行しました。軍事支出は一転じ、対前年比二〇-四〇%という高率の伸びを大戦開始まで継続していくことになります（田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、128-129頁）。田中秀臣
高橋是清は、経済が安定した段階で、積極的な経済政策を手仕舞いするつもりだった。ただし二・二六事件による高橋の暗殺とその後の放漫財政によってリフレ主義は無残な形で放棄されてしまった（田中秀臣 『脱GHQ史観の経済学 エコノミストはいまでもマッカーサーに支配されている』 PHP研究所〈PHP新書〉、2021年、54-55頁）。田中秀臣
テロリズムが一国経済の命運を決定したという事実は「高橋財政が戦時体制の拡大を招いた」という俗説に隠された（田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、130頁）。中村宗悦
歯止めなき軍事費膨張は、高橋が「二・二六事件」で暗殺されて以降のことである。その辺の目配りが雑駁に過ぎる。歴史の「先後関係」のみに目を奪われてしまうと、戦争前のあらゆる経済政策は戦争に道を開いたものになってしまう（田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、144頁）。
量的緩和政策
岩田規久男
金融政策をリフレ政策へと明確にレジーム転換をしないまま、日本銀行当座預金残高を積み上げ、少しずつ長期国債買いオペ額を増やしていっても、人々のインフレ予想の形成に働きかけることはできない（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、286頁）。
アベノミクス
田中秀臣
安倍首相が掲げる経済政策--いわゆる「アベノミクス」--は、積極的にリフレ政策を推進しています（田中秀臣 『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』 主婦の友社、2013年、8頁）。田中秀臣
政策レベルで言えば、アベノミクスの第一の矢である大胆な金融緩和政策とほぼ同じになる。「ほぼ」としたのは、日本銀行の現状の政策にリフレ派の多くは不満足だからだ（田中秀臣 『増税亡者を名指しで糺す!』 悟空出版、2018年、64頁）。
リフレ派
田中秀臣
「リフレ派」reflationistは、アベノミクスが世界的に話題になるにつれて、内外で言及されることが多くなってきた言葉だ（田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、198頁）。田中秀臣
リフレ派というのは、日本の長期停滞の原因がデフレとデフレ期待にあるとし、その解決策として、日本銀行の政策スタンスが重要だとする政策主張者たちである。特に政治的な主張と連動してはおらず、それこそ政治的には保守、リベラル、左翼まで属している。ちなみに日本銀行に要求する政策スタンスのキーは、デフレ予想を転換することであり、インフレ目標と大胆な量的緩和を唱えるのが定番である（田中秀臣 『増税亡者を名指しで糺す!』 悟空出版、2018年、64頁）。野口旭
経済学の流れからいうと、われわれリフレ派の背後にある考え方は、非常に古臭いといわれている「新古典派総合」で、化石と呼ばれています（笑）。要するにミクロの問題は市場に任せろと、政府と中央銀行はマクロの安定化をするべきだという立場です（田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、24頁）。野口旭
マクロ政策によって安定的なマクロ環境を維持し、民間部門が自らの力で産業構造調整をスムーズにおこなっていけるようにすることこそが、中央銀行も含めた政府のもっとも重要な機能だというのが、リフレ派の考えです（田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、23頁）。田中秀臣、安達誠司
それに対して「リフレ派」は、日本経済の停滞は総需要が不足しているためという認識を有していた。構造的な問題があるにしても、それは経済の停滞の根本的な原因というよりも、総需要の不足によるデフレや資産デフレによって深刻化するものであって、まずデフレと資産デフレの解消こそが問題解決の最優先課題であると考えた（田中秀臣・安達誠司 『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、174頁）。野口旭
総需要とは簡単には消費、投資、政府支出、外需の合計で、リフレ派はこれを増やすために、財政支出を拡大させたり、金融緩和で投資を促進させたり、円安によって外需を増やしたりする必要があるといっているわけですね。そして、そのうちのどの手段を重視するのかによって、財政拡張派、金融緩和派あるいはインフレ・ターゲット派、円安促進派という違いが出てくる（田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、20-21頁）。田中秀臣
日本は実際、九〇年代を通じて継続して財政出動を行ったが、「流動性の罠」から脱しきれず、「財政破綻」が懸念されるほど巨額の国債発行残高を生み出してしまったと批判されている。そのためリフレ派の多くは、財政出動に慎重である（田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、73頁）。田中秀臣
潜在成長率を高めようというのが構造改革派で、それに対してリフレ派は、潜在成長率自体は減っていないと主張します。ここが大きく違うのです。言い方を換えると、構造改革派は日本経済の潜在的な能力の低下が不況の原因と考えています。これに対してリフレ派は日本の潜在的な能力は大して低下してはおらず、正しい処方箋にしたがえば以前と同じだけの能力を発揮できると考えているのです（田中秀臣 『雇用大崩壊 失業率10%時代の到来』 NHK出版〈生活人新書〉、2009年、97頁）。田中秀臣
また彼らは、イノベーションは不況の中から生まれると言います。不況で無駄をどんどんなくせば、マシな企業しか残らない、そういう企業が新しいものを生み出すというわけです。しかしこれでは、逆に淘汰が進み、不況を極めてしまうだけでしょう。一方のリフレ派は、そうは考えません。不況はまともな企業がおかしくなってしまうから、なるべくそれを防いで、需要が生まれる中でイノベーションが起きるようにしようと考えます（田中秀臣 『雇用大崩壊 失業率10%時代の到来』 NHK出版〈生活人新書〉、2009年、99頁）。昭和恐慌研究会
私たちは、デフレから脱却して穏やかなインフレ経済に移行するマクロ経済政策をリフレーション政策（略して、リフレ政策）と呼び、日本経済が再生するためには、リフレ政策と構造改革とはともに不可欠な政策であると考えている。（中略）リフレ政策を採用することなく、デフレ下で構造改革だけを進めれば、かえって、デフレが深刻になり、失業率は上昇し、構造改革そのものが進まなくなってしまうという点である（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、v頁）。田中秀臣
「リフレ派」は、このようなリフレを現代の日本で遂行するべきだと唱える人たちのことだ。いまの日本銀行副総裁の岩田規久男氏、内閣府参与の浜田宏一（イェール大学名誉教授）、原田泰（早稲田大学教授）らがその代表格である（田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、198頁）。田中秀臣
日本のリフレ派としては、岩田、浜田、原田の他に、若田部昌澄、野口旭、田中秀臣、安達誠司、飯田泰之、片岡剛士、村上尚己、中原伸之、上念司、勝間和代、矢野浩一、山形浩生、松尾匡、中澤正彦、黒木玄、高橋洋一、山崎元、馬渕澄夫、金子洋一、宮崎哲弥、稲葉振一郎、中村宗悦、田村秀男、長谷川幸洋、森永卓郎、倉山満、浅田統一郎、栗原裕一郎らがいる（田中秀臣編著 『日本経済は復活するか』 藤原書店、2013年、210-211頁）。田中秀臣
リフレ派とは、日本のデフレを伴う長期停滞を脱出するための政策集団と括ることができるだろう。リフレはリフレーション（経済を低インフレ状態に持っていき、そこで経済の活性化を図る）の略である。主要メンバーは、岩田規久男（元日銀副総裁、学習院大学名誉教授）、浜田宏一（元内閣官房参与、イェール大学名誉教授）をはじめ、以下肩書を省略させていただくと、原田泰、若田部昌澄、野口旭、片岡剛士、安達誠司、飯田泰之、中村宗悦、上念司、山形浩生、松尾匡、浅田統一郎各氏らかなり経済論壇でも手ごわい面々が揃っている。ただ時代遅れの経済政策観に囚われている日本の学界、政策提言の現場、マスコミなどでは圧倒的少数派のグループでもある。高橋洋一さんも私もリフレ派の一員である（高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、226頁）。田中秀臣
また海外では、リフレ派の経済政策、つまりリフレ政策は「当たり前の政策」のひとつである。経済が停滞しているときに、積極的な金融緩和と財政拡張を行うことは、国際的には標準的な政策ツールである（田中秀臣 『増税亡者を名指しで糺す!』 悟空出版、2018年、64頁）。
反リフレ派の反論
小宮隆太郎
「ゼロ金利」のもとでMB（マネタリーベース）を増やした時に、どのようなメカニズムによってMS（マネーサプライ）が増えるかという金融政策の「波及課程」をほとんどの論者が説明していない（田中秀臣・安達誠司 『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、111頁）小宮隆太郎
小宮氏が「複雑な経済を2本の方程式で表現することは不可能である」とか、「歴史はそれ自体を研究対象とするにはよいが、そこから経済学的なインプリケーションを求めるのは間違いである」といったような経済学の学問的意味じたいを否定するような発言を日銀批判派に向けておこなっている点である（田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、221頁）。池田信夫
リフレ派は金融政策でごまかしていれば経済は自然治癒すると思っているのかもしれないが、そんなことは起こらない。金融政策は短期の安定化政策であり、長期の潜在成長率を変えることはできないのである（池田信夫 『希望を捨てる勇気-停滞と成長の経済学』 ダイヤモンド社、2009年、160頁）。
批判に対する反論
石橋湛山
「一たびインフレーションを始めると無限に之を続けねばならない」から、その結果第一次世界大戦後のドイツのようなハイパー・インフレが起きるだろうという批判があった。石橋は、ハイパー・インフレとは「非常時の政府の財政上の必要」から起こるものであると指摘し、自分の提唱するインフレには「初めから明確な限度がある」という。このリフレはハイパー・インフレのような「戦争という如き外的要因から迫られたそれと異なり、政府又は中央銀行の欲するままに統制し得る。これに何の危険があろう。一たびインフレーションを始めれば、止め度がなきに到ろうなどと言ふ者は、思索全く足らざる者である」（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、110頁）飯田泰之
リフレ政策実施前の金融政策論争のときに金融緩和否定派はきまっていつも経路が、経路がと言っていた。経路なんかわかるかと。むしろ道具としての経済学を考えるときにはどの経路が効くかではなくて……。（中略）経路がたくさんあるので、どれかは効く。どれも効かないと言う方に、むしろ立証責任が僕はあると思っています（飯田泰之・田中秀臣・麻木久仁子 『「30万人都市」が日本を救う！ 〔中国版「ブラックマンデー」と日本経済〕』 藤原書店、2015年、54頁）。
歴史
日本
昭和恐慌と高橋財政
岡田靖、安達誠司、岩田規久男
1930年から31年11月までの昭和恐慌期には、年間平均実質経済成長率は0.7%、同消費者物価下落率は10.8%に達し、株価と地価はそれぞれ29%と21%も下落した（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、170頁）。岡田靖、安達誠司、岩田規久男
中でも価格下落が激烈だったのは農産物で、1930年の下落率は34%に達し、繭の価格は半分になり、農村の生活は破壊されてしまったのである（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、169頁）。岡田靖、安達誠司、岩田規久男
対前年比で10%のデフレが、金輸出再禁止後、急速に終息に向かい、国債の日銀引受けが始まる2カ月前から、3%前後のインフレへと急速に変化していることである（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、174頁）。中村宗悦
金輸出再禁止直前の12月12日、『大毎』社会面は、「金が再禁論になったら/物価がは飛上る/サラリーマンは受難だ/儲けるのは事業家ばかり/某財閥は一攫数千万金」という見出しを打って、一般大衆のインフレ恐怖を煽った（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、135頁）。中村宗悦
1932年に入って、いよいよ高橋財政が本格的に発動された1年を扱う、新聞は相変わらず、リフレ政策による景気回復を「空景気」として、警戒感を弱めていない。しかし、相次ぐ日銀の利下げ、大蔵省債券・政府公債の日銀引受けなど、明確な金融政策の転換により、景気回復が本格的になると、新聞の「空景気」警戒の論調もまた大きく後退していったのである（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、119-120頁）。田中秀臣
兵士たちはリフレ政策による景気回復の果実が自分たちの出身階層や地域にまで及ぶのを待つことができなかったのであろう（田中秀臣 『経済政策を歴史に学ぶ』 ソフトバンククリエイティブ〈ソフトバンク新書〉、2006年、17頁）。飯田泰之、岡田靖
高橋蔵相によって生み出されたマクロ経済政策の枠組みは、リフレーションによる景気回復という本来の目的を逸脱し、もっぱら第二次世界大戦に向かう軍事費の調達手段という色彩を強めていくことになった（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、205頁）。岡田靖、安達誠司、岩田規久男
2・26事件以後の、準戦時体制における政策レジームの下で、実質成長率は低下し、インフレ率は10%台に上昇し、国民の消費生活は貧しくなったのである（岩田規久男編著 『昭和恐慌の研究』 東洋経済新報社、2004年、184頁）。田中秀臣
東京裁判は経済政策的に何を断罪したかというと、やはり高橋是清の政策が、戦争に結びついたということで断罪したんですね。東京裁判は、普通はいわゆる大日本主義者みたいなものを裁いた裁判と言われているんだけど、そこで石橋湛山は、自分で手を挙げて弁護に立ったんですよ。（中略）つまり高橋是清の政策がまずいというものに反論するために出ていったんですね。あれはただ単にデフレ不況を脱出するための政策で、軍備拡張には全くつながっていないと。しかも占領軍は、明治以来の政策と軍備拡張の政策とイコールにしているけれども、とんでもない。ただ自由化していって、それで発展途上国が先進国の仲間入りしただけであって、戦争に至った原因は別なものに求めなきゃいけないということを、彼は主張したんです。ところが裁判では、ほとんど採用されなかった（麻木久仁子・田村秀男・田中秀臣 『日本建替論 〔100兆円の余剰資金を動員せよ！〕』 藤原書店、2012年、78-79頁）。
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