経済・経済学に関するメモ。

池田信夫
金利水準がゼロに近くなると、伝統的な金融緩和策がいっさい効かなくなってしまうことがある。それが「流動性の罠」と呼ばれる状態(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、64頁)。
池田信夫
利子率が十分に低く、中央銀行がどれほどお金の供給を増やしても利子率が下がらない状態(流動性の罠)にあるとき、金融緩和策が効かず、GDPは増えない(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、42頁)。
池田信夫
ゼロ金利に近い状態で中央銀行がどんなにお金の供給を増やしても、資金需要が飽和しているので銀行の貸し出しは増えず、金融緩和の効果もなくなる。このようなときは、財政支出を増やさないと景気は良くならないとケインズは考えた(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、64頁)。

解説

ジョン・メイナード・ケインズ
ケインズは、金融緩和政策が採用されても、長期金利が変化しないような状況を、「流動性の罠(リクィディティ・トラップ)」表現した。これは、貨幣という高い流動性をもった資産に対する需要が、いわば無限大になるため、金融緩和政策によって貨幣供給量を増やしたとしても、増えた貨幣供給を債券に換えようとする経済主体が全く存在しない状態をいう。この場合には、債券価格もその金利もともに変化しない(岩田規久男 『マクロ経済学を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、155頁)。
田中秀臣
「流動性の罠」とは、ケインズ経済学を解釈したジョン・ヒックスが発案したもので、金利水準が異常に低いときは貨幣と債券がほぼ完全代替となってしまい、いくら金融緩和を行っても景気刺激にならないという状況を指す(田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、72頁)。
ポール・クルーグマン
人々が債券に投資する唯一の理由は、それが現金とは違って金利を生むからである。だから金利が極めて低くなると、債券を保有するインセンティブは消えてなくなり、それに代わって人々は現金を保蔵することになる。ゼロ金利ですら消費者や企業に支出させるのに十分に低くないのなら、それ以上、金利政策にできることはないのである(ポール・クルーグマン 『恐慌の罠-なぜ政策を間違えつづけるのか』 中岡望訳、中央公輪新社、2002年、94頁)。
ジョン・ヒックス
ヒックスの37年の名論文は、IS-LMモデルを導入していて、このモデルを論じる中で、不況状態では金融政策が効かなくなるかもしれないことを示しているんだ(ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の経済入門』 山形浩生訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2003年、378頁)。
ポール・クルーグマン
流動性の罠は、非常に簡単な経済では起こりうる--投資がないから、消費者が全体として現在と未来とのあいだでトレードオフを行う手段がないような経済でなら(ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の経済入門』 山形浩生訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2003年、394頁)。
ポール・クルーグマン
未来の生産力が今の生産力より低い場合にしか流動性の罠は生じない(ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の経済入門』 山形浩生訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2003年、397頁)。
田中秀臣
クルーグマンの「流動性の罠」モデルが登場してきた背景には、二つの経済状況があった。ひとつは九〇年代半ば以降の日本経済において、名目利子率が徐々に引き下げられ、ほぼゼロ水準に至ったこと、そしてもうひとつは、度重なる巨額の財政政策を行ったのに、その効果が限定的だったことである(田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、71-72頁)。

反論

ポール・クルーグマン
バーナンキとビンセント・ラインハート(元FRB金融政策局長)の2004年の論文「短期金利が極めて低い水準における金融政策の遂行」を読めば、日銀が1990年代にできたかもしれないのに、しなかったことが書かれています。この論文では「金利がゼロに近づいても、中央銀行は短期国債以外の、非伝統的な資産を買うことで金融政策の効果を発揮できる」ということが言及されており、いまのFRBの政策は、まさにこの論文によるものなのです(ポール・クルーグマン 『危機突破の経済学』 大野和基訳、PHP研究所、2009年、57頁)。
岩田規久男
デフレからの脱出が示しているように、デフレ予想からインフレ予想への変化による予想実質金利大幅な低下と、株式、土地、ドル建て資産などの資産価格上昇です。つまり、長期名目金利の低下余地が限られていることはデフレからの脱却にとって制約にはならないのです(岩田規久男 『日本経済にいま何が起きているのか』 東洋経済新報社、2005年、185頁)。

対策

期待への働きかけ

ポール・クルーグマン
短期的な金融拡大は、どんなに大規模なものであっても効果はない(ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の経済入門』 山形浩生訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2003年、380頁)。
ポール・クルーグマン
一回限りの一時的な金融緩和は効かない。みんなお金を貯め込むだけだ。でも、長期的なインフレ期待を高めれば、これは将来の実質金利が下がるのと同じ効果を持つ。だから景気刺激効果がある!(ポール・クルーグマン 『さっさと不況を終わらせろ』 山形浩生訳、早川書房、2012年、311頁)
ポール・クルーグマン
効果がないのは一時的な金融拡大だけだ。もし金融拡大が恒久的だと思われたら、それは(完全雇用モデルでは)価格を上げるか、(現在の価格があらかじめ決まっているなら)産出を増やす。(中略)金融政策が機能しないのは、中央銀行がいまは何をしようとも、機会さえあればすぐにもどって、価格を現状水準近くに安定させるだろうと国民が期待しているからだ。もし中央銀行が「無責任になることを信用できる形で約束」できるなら、つまり市場に対して、価格の十分な上昇を本当に許すと説得できれば、それは経済をブーストラップして流動性の罠から引き出せる(ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の<ニッポン>経済入門』 山形浩生訳、春秋社、2003年、55-56頁)
高橋洋一
流動性の罠に陥り、もう名目金利が引き下げられなくても、マネーの量的拡大をすれば「いつかはインフレになる」と民間が予想します。それを利用することで、需要を創出することができるわけです(高橋洋一 『この金融政策が日本を救う』 光文社〈光文社新書〉、2008年、70-71頁)。
原田泰、大和総研
量的緩和を行えば、金融はいくらでも緩和することができる(原田泰・大和総研 『新社会人に効く日本経済入門』 毎日新聞社〈毎日ビジネスブックス〉、2009年、16頁)。

日本

ポール・クルーグマン
日本がほんとに流動性の罠にはまっているんだと論じるのは非常にたやすい。でも、なぜはまってるのかうまく説明するのはずっとむずかしい。人口構成がいちばんの候補だ。ほかの「構造的」な理由もいろいろあがっていて、なかなか壮大な罪状一覧ができあがってはいる。でもそういうのは、ただの他愛のないミクロ経済的な非効率を引き起こすのはわかるけれど、需要が不足していることの説明にはならない。(中略)日本が直面してる問題は、需要の問題であって供給の問題じゃない。(中略)日本の供給力だけを上げて、需要はそのままにしておくような政策は、状況の役には立たない。それどころか、効率が上がって失業が増えたりすれば、国としてはかえってひどいことになるかもしれない(ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の経済入門』 山形浩生訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2003年、399-400頁)。

財政政策

田中秀臣
日本は実際、九〇年代を通じて継続して財政出動を行ったが、「流動性の罠」から脱しきれず、「財政破綻」が懸念されるほど巨額の国債発行残高を生み出してしまったと批判されている(田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、73頁)。
田中秀臣
財政政策への慎重なスタンスは財政赤字の深刻化懸念へのスタンスであり、財政政策への効果自体を否定するのは難しい(田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、74頁)。
田中秀臣
しかし残念ながら、公共事業に依存した財政政策は、実施している間は有効に作用するが、それによって「流動性の罠」から完全に脱することは不可能であった(田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、73頁)。
田中秀臣
IS曲線を右上方にシフトするのみでまったく金融政策に依存しない場合、かりに経済が完全雇用水準に達したとしても、実質金利の高止まりは解消されない。そして、財政出動が終わればこの実質金利の高止まり(デフレは依然として継続している)によって投資が抑制され、再び「流動性の罠」に陥るであろう(田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、77頁)。
田中秀臣
一〇〇兆円を超えると水策される過大なデフレ・ギャップを埋めるような公共事業を継続して行われる可能性があるとはおよそ信じられない(田中秀臣 『経済論戦の読み方』 講談社〈講談社新書〉、2004年、74頁)。
野口旭、田中秀臣
小渕政権時の政策戦略の問題点は、巨大なデフレ・ギャップを財政財政支出のみで埋め合わせようとしたところにある(図2-2参照)。それは、「ばらまき」がもたらす弊害と、政府財政赤字の拡大という、マクロ政策としての財政政策が持つ負の側面に典型的に現実化させる結果となった。したがって、少なくともその財政拡張は、「量的緩和」のような徹底した金融緩和政策と併用されるべきであった。もっともこれは、小渕政権の政策の問題点というよりも、従来的な金利操作拘泥していた当時の日銀の考え方の問題点というべきかもしれない(野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、71頁)
ポール・クルーグマン
流動性の罠に対する古典的なケインズ流の見方はもちろん、金融政策はある状況では無力だから、唯一の答えは財政的にポンプに呼び水を入れる公共事業をすることだ、というもの。この論文で検討したフレームワークは、金融政策的にはちょっとちがった示唆を示すものではあるけれど、一方で確かに、財政拡大でもうまくいくかもしれないことは示している。もちろんこのモデルはリガードの中立命題にしばられているので、減税は何の効果もない。(中略)日本はすでに、ものすごい公共事業支出で経済を刺激しようとしたけど、失敗してる。しかも事業のほとんどは、どうしようもなくムダなものばかり。どうでもいいところにかかる橋や、だれも使わないような空港などなど。確かに、経済は供給に制約されてるんじゃなくて、需要に制約されてるんだから、ムダな支出でもないよりはましではある。でも、政府にも予算の制約ってものがある(ポール・クルーグマン 『クルーグマン教授の経済入門』 山形浩生訳、日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2003年、401-402頁)。

金融政策

ポール・クルーグマン
現時点で金融緩和の余地がなくとも、将来の時点では金融緩和の余地があるからそれにコミットすることで、流動性の罠から脱出してデフレとデフレ期待を克服することができるできるとした。この将来の金融緩和の具体案としてクルーグマンはインフレターゲット(インフレ目標)政策を提示した。(中略)しかしクルーグマンのインフレターゲット政策の核心は、市場参加者の期待形成に影響を与えるということにある。(中略)つまりクルーグマンの提案はマイナスの実質利子率を達成することで経済の不安定性を解消する、というわけである(田中秀臣 『経済政策を歴史に学ぶ』 ソフトバンククリエイティブ〈ソフトバンク新書〉、2006年、185-186頁)。
浜田宏一
長期国債とか外債(外貨建て債券)とか中小企業のローン債券といった現金と性質の違うものを大量に購入し、流動性供給を行われなければならない(上念司 『「日銀貴族」が国を滅ぼす』 光文社〈光文社新書〉、2010年、77頁)

アメリカ

金融政策

ポール・クルーグマン
FRBは二〇〇八年以来、マネタリーベースの規模を三倍にした。それでも経済は停滞したままだ(ポール・クルーグマン 『さっさと不況を終わらせろ』 山形浩生訳、早川書房、2012年、51頁)。
ポール・クルーグマン
二〇〇七年から金利を引き下げ始めて、二〇〇八年末にはゼロ金利に達した。残念ながら、ゼロ金利でも低さが足りなかった。住宅バブルはそれほどの被害を引き起こしていたのだ。消費者支出は弱いままだった。住宅はどん底で横ばい。事業投資は低いまま。というのも、売上げが弱いままなのに拡張するわけにもいかないからだ。そして失業は悲惨なほど高いままだった。そしてこれが流動性の罠だ。ゼロ金利でもまだ高すぎるとこうなる(ポール・クルーグマン 『さっさと不況を終わらせろ』 山形浩生訳、早川書房、2012年、53頁)。
ポール・クルーグマン
アメリカの数字で見ると、回復するにはおそらく10兆ドルの量的緩和が必要ですが、それは多くの問題も発生させてしまいます。できないことではありませんが、そこまですると、FRBが資本市場をまさに牛耳ることになりかねないし、連銀をリスクにさらすことにもなりかねないからです。しかし、経済規模から見れば、日本もこのアメリカと同じくらいのことを行わなければならないほど、ひどい状況なのです(ポール・クルーグマン 『危機突破の経済学』 大野和基訳、PHP研究所、2009年、55頁)。

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