経済・経済学に関するメモ。

エミール・デュルケーム
フランスの社会学者エミール・デュルケームは、『自殺論』の中で3類型を挙げています。自己本位自殺(過度の孤独感や焦燥感などにより、個人が集団との結びつきが弱まることによっておこる自殺)、集団本位的自殺(個人の自由が極端に少なく、自分が所属する集団の価値観や規範に対して服従しなければならない、未開社会に見られる自殺)、アノミー的自殺(社会的規制・規制がない状態において起こる自殺)の3類型ですが、日本の中高年労働者の場合、会社に追われた人間が陥りやすいアノミ的自殺がおおくなります(高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、152頁)。

失業との因果関係

ダニエル・ハマーメッシュ
失業率が高くなると長期間所得が低くなる人々が多くなり、なかには満足な生活が得られないと考えて自殺を選ぶ人が増えてくる、というものである(大竹文雄 『経済学的思考のセンス-お金がない人を助けるには』 中央公論新社〈中公新書〉、2005年、178頁)。
中野剛志
失業の増大は自殺者を増やしたり、社会を不安定化したりしますが、それは、単に人々が経済的に困窮するからだけではなく、自分たちの人間としての存在そのものが危機に陥るからなのです。経済的な困窮だけなら、役所が失業手当を支給すれば解決します。しかし、解雇による疎外感・孤独感は、お金では解決できません(中野剛志 『レジーム・チェンジ-恐慌を突破する逆転の発想』 NHK出版〈NHK出版新書〉、2012年、79頁)。
大竹文雄
スウェーデンは、よく知られているように、失業給付の水準が高い上に、失業対策として積極的に雇用政策を行っている。積極的な雇用政策とは、職業紹介、職業訓練、公的部門での直接雇用といった積極的な雇用政策のことをいう。スウェーデンと比べるとGDP比率で測った日本の積極的雇用政策への支出の大きさは非常に小さい。このことは、失業率と自殺率の関係が、雇用対策のあり方によって変わってくることを示唆している(大竹文雄 『経済学的思考のセンス-お金がない人を助けるには』 中央公論新社〈中公新書〉、2005年、179-180頁)。
田中秀臣
日本の場合、再就職の不安も非常に大きい。欧米の場合は、リストラ解雇されると新しい職場に移れるからハッピーだと思う人もかなりいます。この点は、日本と欧米の大きな違いです。日本人には、リストラされたときに再チャレンジしようという意欲が低い傾向があります(高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、150頁)。

日本

統計

田中秀臣
日本では、この10年間、自殺者のうち、男女が占める割合は68-70%と安定的に推移してきました(高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、154頁)。
雨宮処凛
生活保護受けてる人って一般の人より自殺率が2倍です。20代だと6倍(飯田泰之・雨宮処凛 『脱貧困の経済学』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、2012年、295頁)。

自殺の原因

川人博、高橋祥友
川人と高橋らは、このような中高年サラリーマンの自殺の増加の要因として、「過労自殺」の側面から、(1)業務過多による肉体疲労、(2)精神的ストレス、(3)目標達成できない落胆、(4)職場での人権侵害、などの要因を示している(田中秀臣 『日本型サラリーマンは復活する』 日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年、149頁)。
不況
田中秀臣
多くの実証的な研究が、景気悪化と労働条件の悪化、自殺者数の増加との相関関係を立証していることは注目すべき事実である(田中秀臣 『日本型サラリーマンは復活する』 日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年、147頁)。
田中秀臣
景気の悪化で自殺率は約三〇%通常より増加するといわれており、現実に自殺数は中高年を中心に増加している(田中秀臣 『日本型サラリーマンは復活する』 日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年、151頁)。
田中秀臣
日本の場合では失業率が高まると、それに応じるかのように自殺者数も増加していき、また失業率が低下すると自殺者数も低下していく。この関係を専門用語で「正の相関」という。仕事を奪われることによる社会的地位の喪失は(女性より)男性しかも中高年が受けやすいといわれている。実際に日本の失業率が増加すると、中高年の男性が自死を選択するケースが激増する(田中秀臣 『増税亡者を名指しで糺す!』 悟空出版、2018年、48-49頁)。
田中秀臣
景気が悪いとか経済的要因で自殺した人たちの大半が高年齢、中高年の男性です。女性はごく少数。ほとんどいない(飯田泰之・田中秀臣・麻木久仁子 『「30万人都市」が日本を救う! 〔中国版「ブラックマンデー」と日本経済〕』 藤原書店、2015年、90頁)。
高橋祥友
高橋祥友は、リストラ・解雇にともなう精神的なショックが自殺のきっかけを構成すると指摘している。たとえば、組織との絆の喪失、プライドの低下、失職後に依るべきはずであった家庭での役割の低下、再就職の不安などである(田中秀臣 『日本型サラリーマンは復活する』 日本放送出版協会〈NHKブックス〉、2002年、149頁)
田中秀臣
自殺者数が激増する要因として、不況との関係が重要だ。不況によって職場を失ったことで、人は自分の生きがいや生きる意味を喪失してしまう。この精神的ショックは、具体的に言えば、今まで帰属していた組織との「絆」の喪失、仕事から得ていたプライドの低下、失業後の家庭での役割の低下、再就職の不安などが挙げられる。とりわけ、男性の働き手には失職による精神的ダメージが顕著であるとも指摘されている(田中秀臣 『増税亡者を名指しで糺す!』 悟空出版、2018年、51-52頁)。
田中秀臣
不況期には中高年男性サラリーマンの自殺が増えますが、これは経済苦が主な理由ではありません。お金が足りないから自殺するという中高年男性サラリーマンが、それほど増加するわけではありません。自殺の大きな理由は、職場環境の悪化や、社会的な地位の喪失です。不況期にはリストラ・解雇される人がいるため、残った人の作業量が増えます。業務過多になって、肉体疲労や精神的ストレスが溜まります。目標を達成できなかった落胆や、いじめやハラスメントで、追い込まれる人もいます。一方で、リストラ・解雇された人には、経済的な面よりも、精神的なショックが大きく影響します。仕事がなくなり、地位も失う。プライドは低下し、組織との絆も喪失する。失職後に家庭に戻ると、家庭的に居場所がない人もいます(高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、149-150頁)。
田中秀臣
自殺は経済苦よりも、職場や社会的地位の喪失と強く結びついています。一方で、会社に残った人は仕事が忙しくなり、過労自殺します(高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、152頁)。
田中秀臣
景気悪化でリストラされ職を失うと、社会的な地位を喪失して、アノミー的自殺が増えます。一方で、残っている人たちも労働強化で、ストレスが増加して、過労自殺が増える。どちらにせよ、自殺者が増えていきます(高橋洋一・田中秀臣 『日本経済再起動』 かや書房、2020年、153頁)。
岸田研作
パネルデータを用いて自殺と景気循環の関係について調べた岸田研作氏の研究では、三〇代後半以降の男性の失業率の増加は、その自殺率を有意に押し上げ、自殺の変動を説明する最大の要因となっていることが示されている(2001年時点)(野口旭・田中秀臣 『構造改革論の誤解』 東洋経済新報社、2001年、171頁)
岩田規久男
日本ではほとんどの不動産融資はリコース・ローン(遡及型融資)で、担保物件の売却価格が返済すべき元利合計に満たなければ、貸し手は借り手に対してその差額の返済を求める権利を持つ。(中略)バブル崩壊後の経済の長期低迷で、中小企業の社長などが借金を返済できず、自殺に追い込まれるといった、いたましい事件が頻発したのもリコース・ローンのせいである(岩田規久男 『スッキリ!日本経済入門-現代社会を読み解く15の法則』 日本経済新聞社、2003年、95頁)。
竹中平蔵
倒産や失業はつらいことですが、本来自分の命を絶つようなことではないはずです。なぜ日本で、とくに中小企業のオーナーが自殺するケースが多いのかというと、これは経営者が銀行に対して個人保証をしていることろ無関係ではありません。(中略)倒産や失業が増えていることも問題ではありますが、それ以上に、倒産したら何もかも失うという、そんな社会のシステムになっているところに日本の重大な欠陥があります(竹中平蔵 『あしたの経済学』 幻冬舎、2003年、214-215頁)。
竹中平蔵
アメリカよりも日本のほうがはるかに弱肉強食の面もあるのではないでしょうか。たとえば、中小企業の個人保証の問題です。事業が失敗したら命を絶たなくてはいけないと思ってしまう社会は、このうえなく厳しい社会だと思います。アメリカは貧富の差はありますが、失敗しても命まで絶つことは日本ほど多くありません(竹中平蔵 『あしたの経済学』 幻冬舎、2003年、96頁)。
田中秀臣
現状では、日本の自殺者が急減しているのは、自殺対策に財政的な支援を拡大したこと、そして失業を低下させる景気対策が採用されたためである(田中秀臣 『増税亡者を名指しで糺す!』 悟空出版、2018年、51頁)。

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