経済・経済学に関するメモ。

高橋洋一
この理論は、マクロ経済学におけるIS-LM分析の枠組みを海外部門に導入した、開放マクロ経済学のモデルである(高橋洋一 『高橋教授の経済超入門』 アスペクト、2011年、158頁)。

基本的なモデル

清野一治
このモデルの分析が当てはまる場合は大体1年、長くて数年のタイム・スパンであると考えられている。このような比較的短期においては賃金および価格は固定されていると考えも大きな間違いは生じないと考えられるので、ケインズ経済学に基づくモデルが採用され、総供給は完全弾力的であって、現実の産出量は総需要によって決定されるものとされている。(中略)この資本移動性の程度が、このモデルにおいては重要な役割を果たすことになる(石井安憲・清野一治・秋葉弘哉・須田美矢子・和気洋子・セルゲイ・ブラギンスキー 『入門・国際経済学』 有斐閣、1999年、229頁)。
中谷巌
現実の経済において、日本やアメリカなどの「大国」の経済活動が世界に影響を与えていますが、利子率に関していえば、資本が自由に国境を越えて大量に移動する現代では、金利は国内の状況だけで決まるわけではなく、世界の金融市場の影響を受けることになっていますので、「小国」の仮定はとりあえず妥当なものであるといえます(中谷巌 『入門マクロ経済学』 日本評論社・第5版、2007年、167頁)。
清野一治
比較的短期の政策効果の分析に用いられるマンデル=フレミング・モデルは、次のような特徴をもっている。これらの特徴がこのモデルの長所と短所(有効性と限界)となっていることを注目してほしい。まず第1に、モデルは主として開放小国の短期の政策効果を分析するために構築されていることである。(中略)第2に、モデルはIS-LMモデルの開放経済版であり、したがって経常(貿易)収支と資本収支の決定式を含んでいることである。そして、第3に、経常収支は内外の産出量と為替レートで決定されると仮定されている一方で、資本収支の決定は自国と外国の利子率格差によってのみ決定されると仮定していることである(石井安憲・清野一治・秋葉弘哉・須田美矢子・和気洋子・セルゲイ・ブラギンスキー 『入門・国際経済学』 有斐閣、1999年、242頁)。
清野一治
このようにマンデル=フレミング・モデルは、ある意味で非常に制限的な諸仮定のもとに構築されていることは、このモデルを用いて経済政策の効果を考察する際に十分な注意を払っておくべきことである(石井安憲・清野一治・秋葉弘哉・須田美矢子・和気洋子・セルゲイ・ブラギンスキー 『入門・国際経済学』 有斐閣、1999年、243頁)。
伊藤元重
マンデル・フレミング・モデルは、開放経済モデルとしては、重大な問題を欠陥を抱えています。為替レートを無視して金利だけで資本移動が起こるという仮説はそもそもまちがいです。ただ、その後、マンデルの後継者たちによってこうした欠点は修正されており、現在でもこのモデルの基本的な考え方は政策担当者の思考過程に深く入り込んでいます(伊藤元重 『マクロ経済学』 日本評論社、2002年、352頁)。

固定相場制下でのモデルの運用

中谷巌
中央銀行は不胎化政策によって短期的にはLM曲線のシフトを阻止することは可能ですが、資本移動が自由な世界では大量の資本が流入したり、流出しつづけるため、長期的に不胎化政策をつづけることはできません。とくに「小国」モデルでは、この傾向は非常に強いと思われます。アメリカや日本のように世界全体に対してなんらかの影響を与えることができるほど大きく、純粋な意味で「小国」とはいえない経済の場合、不胎化政策をつづける余地は純粋な「小国」に比べると大きくなります。だたし、それも程度の問題で、今日のように資本市場のグローバル化が進んだ状況のもとでは、どの国も国際情勢を無関係に不胎化政策をとりつづけることは不可能なのである(中谷巌 『入門マクロ経済学』 日本評論社・第5版、2007年、168-169頁)。

変動相場制下でのモデルの運用

岩田規久男
公共投資による生産の拡大効果は、円高・ドル安による輸出産業と輸入競争産業の生産の縮小のよって相殺されていく。つまり、国際間の資本移動が自由な変動相場制の下では、財政政策は門間総投資ではなく、輸出の閉め出してしまうのである。このように、「資本の国際間移動が自由な変動相場制」の下では、公共投資による生産の拡大を相殺する要因が働くため、公共投資乗数は低下する。日本における公共投資乗数は、一九五〇年代から七二年までは、一年目で二・三、二年目で四・五程度であったが、その後、七三年から変動相場制度へ移行し、国際間の資本移動の自由化が進められるにつれて、一年目一・四、二年目一・九程度に低下した。それに対して、八〇年代には、公共投資乗数のそれ以上の低下はみられない。これは八〇年代の初めに、資本の国際間移動の自由化が完成し、その後の変化がないからであろう(岩田規久男 『マクロ経済学を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、1996年、208頁)。
浅田統一郎
完全資本移動という極端な想定のもとでは、固定相場制の場合と変動相場制の場合で財政政策と金融政策の有効性の序列が180度入れ替わってしまう、ということである(浅田統一郎 『マクロ経済学基礎講義』 中央経済社・第2版、2005年、179頁)。

クラウディング・アウト

橘木俊詔
クラウディング・アウト効果を国際経済にまで拡張すると、「マンデル=フレミング効果」というのがのちの時代になって提出された(橘木俊詔 『朝日おとなの学びなおし 経済学 課題解明の経済学史』 朝日新聞出版、2012年、140頁)。
池田信夫
国際貿易を考えた場合には、財政支出によって金利が上がると、変動為替相場制の下では国外からの投資が増えて為替レートが上がり、輸出が減って民間投資がクラウディングアウトされるという「マンデル・フレミング理論」もある(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、65頁)。
伊藤元重
国際間の資本移動がどの程度利子率の変化に敏感に反応するかによります。もし国際間の資本移動が利子率の変化に非常に敏感であれば、クラウディング・アウト効果は非常に強く働き、財政政策の効果はまったく打ち消されてしまうこともあります(伊藤元重 『マクロ経済学』 日本評論社、2002年、353頁)。

マサチューセッツ・アベニュー・モデル

林康史、河野龍太郎
マサチューセッツ・アベニュー・モデルを支持する経済学者は、価格調整の緩慢さ、価格の粘着性などを認めるニュー・ケインジアンが多い(ポール・クルーグマン 『通貨政策の経済学-マサチューセッツ・アベニュー・モデル』 林康史・河野龍太郎訳、東洋経済新報社、1998年、24頁)。

国際金融のトリレンマ

片岡剛士
先ほどのマンデル=フレミング効果の提唱者でもあるロバート・A・マンデル教授(コロンビア大学)が提示した「国際金融のトリレンマ」と呼ばれる考え方です(片岡剛士 『円のゆくえを問いなおす- 実証的・歴史的にみた日本経済』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、85頁)
若田部昌澄
国際通貨制度の変遷は、基本的にはつぎの三つの要素をどうやって結びつけるかの歴史です。一つ目の要素は「資本移動の自由」です。(中略)二つ目は「固定相場」です。(中略)三番目が「物価の決定」です。これは「独立した金融政策」といい換えることができます。(中略)「中央銀行が貨幣の量を変えること」が金融政策で、この三つ目の要素は、中央銀行の金融政策により物価を決めることができる、という意味です(若田部昌澄 『もうダマされないための経済学講義』 光文社〈光文社新書〉、2012年、135-136頁)。
若田部昌澄
まずは定義を書いてみようか。「資本の国際的に自由な移動、自国の物価の安定(金融政策の自律性)、自国の為替の安定(固定相場)、この三つを同時に成立させることはできない」(若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、188頁)。
片岡剛士
さらに独立した金融政策とは、為替レートの安定化や国際資本移動の自由化の影響を受けずに、安定的な物価上昇率を達成するように金融政策を運営することを指します。トリレンマとは、選択肢が3つ存在する場合に、3つを同時に達成することは不可能であるというこちです。つまり国際金融のトリレンマとは、為替レートの安定化、国際資本移動の自由化、独立した金融政策という3つの政策目的を同時に達成することは不可能であるということになります(片岡剛士 『円のゆくえを問いなおす- 実証的・歴史的にみた日本経済』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、86頁)。
片岡剛士
(1)は、為替レートの安定化と国際資本移動の自由化の2つを達成するというものです。この場合、金融政策はこの2つの達成が優先されるために制約を受ける、つまり為替レートの安定化や国際資本移動の自由化を優先することで、安定的な物価上昇率の維持を通じた、国内経済の安定化の達成という目標を諦める場合がありえるというのが含意です(片岡剛士 『アベノミクスのゆくえ 現在・過去・未来の視点から考える』 光文社〈光文社新書〉、2013年、81-82頁)。

モデルに対する批判

吉川洋
すなわち財政政策は、為替レートの変化を通して純輸出を100%クラウディング・アウトする。このように強い結果がえられるのは、マンデル・モデルでは「為替レートの期待変化率」がゼロという特殊な仮定が設けられているからである。こうした結論は非現実的である(吉川洋 『マクロ経済学 第2版』 岩波書店、2001年、152頁)。

識者の見解

日本

高橋洋一
実際、九〇年代の日本で公共投資を連発したにもかかわらず、一向に景気は回復せず、巨額の国家債務だけが残ったのも、この理論でよく説明できます。(中略)ただし、財政政策が効果を発揮するケースもあります。それには、十分に金融緩和がなされているという条件が必要です。つまり、ちゃんと金融政策が機能していれば、財政政策も意味をもつわけです(高橋洋一 『この金融政策が日本経済を救う』 光文社〈光文社新書〉、2008年、32-33頁)。
野口旭
マンデル=フレミング・モデルは不完全雇用の状態を想定しているので、日本の現状のような場合に役に立ちます(田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、116頁)。

参考文献

  • 高橋洋一 『この経済政策が日本を殺す』 扶桑社〈扶桑社新書〉、2011年、3頁。

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