経済・経済学に関するメモ。

田中秀臣
量的緩和とは、民間銀行が日本銀行の当座預金口座に預けている準備預金の額を数値目標として、市場に資金を供給していく金融緩和の手法です(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、31頁)。

経緯

ニューズウィーク日本版編集部
日本ではデフレ脱却をめざして、2001年3月から06年3つきまでに実施したのが初めての例といわれる(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、144頁)。
ジョン・テイラー
テイラーは日本銀行のアドバイザーだった一九九〇年代から一貫して量的緩和政策の採用を助言していたといいます(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、190頁)。
田中秀臣
日本では、金融政策決定会合の審議委員であった中原伸之氏によって提案され、二〇〇一年三月に初めて採用されています(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、31頁)。
高橋洋一
2006年3月、その当時、「消費者物価上昇率が0%より上回っていた」という判断から、それまで実施されていた日銀の量的緩和政策が解除された。当時竹中平蔵総務相補佐官として消費者物価統計を所管する総務省にいた私は解除に強く反対した。その年の夏に消費者物価統計の改定を控えて数字が高く出る「上方バイアス」を指摘し、中平蔵総務相と中川秀直自民党政調会長も量的緩和解除に反対していた。しかし、日銀が解除を強行したのは、与謝野氏が経済財政担当相として協力に日銀をサポートしたからだ(高橋洋一 『高橋教授の経済超入門』 アスペクト、2011年、97頁)。

バーナンキの背理法

ベン・バーナンキ
バーナンキの背理法は、もし日銀が通貨を発行してもインフレが起きないとしたら、日銀が日銀券を発行することで世界中の資産を買い占めることができてしまう。そんなことはありえないから、インフレが起きないという前提が間違っている。だからインフレが起きるというわけです(田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、115頁)。

日本銀行の見解

速水優
ゼロ金利や量的緩和は企業経営の危機感を失わせ構造改革を阻害する(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、165頁)
池田信夫
いくらマネタリーベース(日銀の供給する通貨)を増やしても、不良債権を処理しないかぎり、銀行の健全性は回復しない。これを強制したのが、2003年の竹中プランだった。それ自体の効果は限定的だったが、これをきっかけにして償却が一挙に進んだ。ゼロ金利・量的緩和は、それを支援する政策として大きな効果があったというのが、白川総裁の評価である(池田信夫 『希望を捨てる勇気-停滞と成長の経済学』 ダイヤモンド社、2009年、129頁)。

効果

UFJ総合研究所調査部
量的緩和政策にはさまざまな期待が持たれていました。具体的には、(1)世の中のお金の量が増えてインフレ期待が高まれば、デフレからの脱却が可能になる。(2)ゼロ水準の短期金利が長期間にわたって続くという期待が強まるので、長期金利が低下し(これを時間軸効果と呼ぶこともあります)、景気にプラスに作用する。(3)日銀当座預金が高い水準を維持していれば、銀行の資金繰りに困ることはなく、金融システム不安が回避される(UFJ総合研究所調査部編著 『50語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2005年、242-243頁)。
みずほ総合研究所
それ以降続けられている量的金融緩和策の効果は、どのような形で実体経済へと波及してゆくのか。理論上は、次の波及ルートが考えられる。第一は、「ポートフォリオ・リバランス・チャンネル」と呼ばれるものである。(中略)第二は、「期待への働きかけを通じたチャンネル」である。(中略)量的緩和に伴う効果としては、そのほかにも、為替レートを円安方向に向かわせる効果や、資産価格を押し上げる効果などが、理論上考えられれる(みずほ総合研究所編著 『3時間でわかる日本経済-ポイント解説』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、56-57頁)。
山崎元
近年、日銀から民間の銀行に対しては大量のお金が供給されていたのですが、健全な借り手はなかなかお金を借りないし、お金を借りたい企業や個人の多くはお金を貸す側にとっては不安な相手ということで、銀行から銀行外への貸出を通じてお金がまわらないことが、金融緩和が物価や景気に有効に働かなかった原因でした。しかし、この状況は、景気が回復したり、何らかのきっかけでインフレが始まったりした場合に、健全な借り手がお金を借り始めると、爆発的な貸出の伸びにつながりインフレに直結する可能性があります。これを、制御するにはたとえば金利が二桁になるような強力な金融引き締めが必要かもしれません。しかし、そんな荒療治はきっとしないでしょうから、物価が上昇し始めると加速が急になる可能性があります(山崎元 『お金をふやす本当の常識-シンプルで正しい30のルール』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2005年、88頁)。

効果が無い或いは無かったとする見解

小宮隆太郎
「ゼロ金利」のもとでMB(マネタリーベース)を増やした時に、どのようなメカニズムによってMS(マネーサプライ)が増えるかという金融政策の「波及課程」をほとんどの論者が説明していない(田中秀臣・安達誠司 『平成大停滞と昭和恐慌〜プラクティカル経済学入門』NHK出版〈NHKブックス〉、2003年、111頁)
伊藤修
日銀が金利をゼロにまで下げても(ゼロ金利政策)、市中銀行がもういらないというほど資金を供給しても(量的緩和政策)、マネーサプライ(貨幣の流通量)はふえなかった。つまり金融政策は効かなくなった(伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』 中央公論新社〈中公新書〉、2007年、146頁)。

反論

岩田規久男
日銀が二%から三%程度のインフレ目標の達成に説明責任を負ってコミットしなければ、量的緩和によってデフレを脱却することはできない。(中略)量的緩和はあくまで穏やかなインフレ予想の形成のためのあらゆる手段のうちの一つに過ぎない(岩田規久男 『経済学的思考のすすめ』 筑摩書房、2011年、173頁)。
岩田規久男
量的緩和といいながら、貨幣供給量の基礎となるマネタリーベース(日本銀行当座預金と現金の合計)の増加率が量的緩和政策の5年間で、年率12%しか増えなかったからである。この程度の量的緩和では、経済がデフレに陥っていると、貨幣はデフレ脱却に必要なほど増えないし、デフレ脱却のために不可欠なインフレ予想も生まれないのである。実際に、量的緩和期間中、貨幣はわずか11%しか増えなかった(岩田規久男 『「不安」を「希望」に変える経済学』 PHP研究所、2010年、81頁)。
飯田泰之
日銀はこれまで自分でゼロ金利政策や量的緩和政策を実施しながら、その効果に疑問を呈するような発言をかさねてきたという過去もある(飯田泰之 『世界一わかりやすい 経済の教室』 中経出版〈中経の文庫〉、2013年、236頁)。
森永卓郎
そのような戦力を逐次投入する形での小出しの金融緩和は、デフレ政策の継続にほかならない(森永卓郎 『日銀不況-停滞の真因はデフレ政策だ』 東洋経済新報社、2001年、40頁)。

流動性の罠

齊藤誠
この理論は「金利がゼロに張り付いていると、貨幣供給を増やせば物価が上がる、という貨幣数量説は成立しない」という内容のもので、大阪大学(当時)の齊藤誠氏が『先を見よ、今を生きよ』(日本評論社、2002年)という本の中で非常に難しい数式を使って「証明した」とされていました(上念司 『「日銀貴族」が国を滅ぼす』 光文社〈光文社新書〉、2010年、93-94頁)。
反論
高橋洋一
齊藤氏の示した数式をそのまま使って、財務省(当時)の高橋洋一氏が再計算したところ、実はトンデモない計算違いがあることを発見してしまいました。彼の数式に一切手を加えずに再計算したところ、「お金を刷ればインフレになる」ということも同時に導き出せることがバレてしまったのでした(上念司 『「日銀貴族」が国を滅ぼす』 光文社〈光文社新書〉、2010年、95頁)

批判

フィッシャー効果

田中秀臣
「インフレ率が上昇しても名目利子率がその分上がるだけで、(さきほど指摘したような)実質利子率への影響はない」という議論がある(これを「フィッシャー効果」という)これは先の式を移項して、「名目利子率=実質利子率+インフレ率」と読み替え、「実質利子率は実物経済によってすでに決まっているので、貨幣的な要因によっては変化しない」とする説である。すなわち、「インフレ率が変化した分だけ名目額が変化するが、投資や消費には効果をもたらさない」という考え方とも言える(田中秀臣 『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』 講談社〈講談社BIZ〉、2006年、76頁)。
反論
ベン・バーナンキ
そのような議論は長期には成立しても、たとえば経済が過熱したり、あるいは不況に陥ったりといった不均衡状態には当てはまらない。実際に中央銀行が金融緩和政策を採用して経済をインフレ基調にしたとき、物価水準は緩慢にしか変化せず、したがって名目利子率は緩慢にしか修正されない。そのため実質利子率が低下する現象が短期的に成立して、実体経済を浮揚させる効果を発揮する(田中秀臣 『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』 講談社〈講談社BIZ〉、2006年、77頁)

ハイパーインフレ懸念

田中秀臣
「岩石理論」とは「それまで斜面で止まっていた岩石を押して転がすと、すぐに加速して止められなくなり、猛スピードで転がって斜面の下の住民を押し潰してしまう」というもので、「デフレからハイパーインフレへの瞬間的なジャンプ」を主張する理論です(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、246頁)。
小野善康
貨幣を極端に増やしても、それ以外の流動性資産の実質的価値はかえって上昇するので、貨幣から他の金融資産により多くの資源が割り振られるだけであり、消費や投資への効果はない。したがっていわゆる実需に効果はない一方、貨幣の膨張で貨幣は紙切れ同然になっているので、ハイパーインフレが出現する(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、247頁)
反論
ジョセフ・E・スティグリッツ
増発された紙幣は消費を刺激せず、インフレにつながるだけだとする、矛盾に満ちた主張も一部で見受けられる。消費に回らなければ、どうやってインフレを促進することになるのか(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、97頁)
田中秀臣
第一に、確かに貨幣の増加によって、貨幣以外の流動性資産に資産選択の軸足が移動するかもしれません。しかしそれは株や社債あるいは外債などへの投資が増加するということを意味するのであり、これは実質投資を増加させる経路として機能します。これらの金融資産の価値が上昇し、実質投資も復調すれば、やがて投資も増加することが容易に予想できるでしょう。第二に、過去のハイパーインフレの事例を見ればわかるように、ハイパーインフレの真の原因は、税収によってまったく対処できないと予想される巨額の財政赤字です。貨幣の増刷はこの財政赤字をファイナンスするために行われたからにすぎません。デフレあるいは不況を解消するために打ち出された超金融緩和政策が原因となってハイパーインフレが発生したという事例は、歴史上に存在しないのです(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、248頁)。
中野剛志
中央銀行による国債の引き受けについては、ハイパーインフレを引き起こすことを懸念する人がいますが、何もそこまでやらずとも、デフレを脱却する程度にやればよいだけの話です。現に、アメリカのFRBは、リーマン・ショック後、金利上昇を回避しつつ、デフレを防ぐため、大量の米国債を買い入れています。FRBの米国債保有残高は、二〇一一年六月の段階で一兆四〇〇億ドルに上り、FRBは外国人に次いで第二位の米国債保有者になっています。しかし、アメリカにハイパーインフレの兆候は全くありません(中野剛志 『レジーム・チェンジ-恐慌を突破する逆転の発想』 NHK出版〈NHK出版新書〉、2012年、176頁)。

国債暴落懸念

反論
若田部昌澄
それに国債が下落するのがいやだからといって、永久にデフレをつづけるのかという根本問題があります。デフレをつづけるのは不可能です(田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編著 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、122頁)。

バブル懸念

ニューズウィーク日本版編集部
先進諸国では量的緩和を行って経済成長が加速しても、インフレがすすまないという共通の課題をかかえている。賃金が上昇し、物価が上がるはずが想定されたようには賃金も上がらず、物価にも反映されない。背景には量的緩和によって大量に供給された資金が国内ではなく、人件費の安い国々や原油など国外市場に流れるなど構造的問題もある(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、144頁)。
山口広秀
日銀の山口広秀副総裁は、参議院の公聴会で「緩和政策の副作用としてで円キャリートレードを生み出し、それが何がしか海外市場に影響を与えた可能性は否定できない」とのべた(池田信夫 『希望を捨てる勇気-停滞と成長の経済学』 ダイヤモンド社、2009年、152頁)。

実証研究・統計

田中秀臣
景気回復が本格化したのは2004年からだが、この年には、それまでのデフレ予想が急速に改善していったことが知られている(田中秀臣 『不謹慎な経済学』 講談社〈講談社biz〉、2008年、126頁)。
飯田泰之
日本銀行は2001年から2006年にかけてゼロ金利政策に量的緩和政策を加えた緩和を行ってきたけれど、その間に消費者物価指数(インフレ率)は-1%のデフレからほぼ0%まで、失業率は5%後半から4%前後まで下がっている(飯田泰之 『世界一わかりやすい 経済の教室』 中経出版〈中経の文庫〉、2013年、233頁)。

各国の動向

アメリカ

ニューズウィーク日本版編集部
08年の金融危機後のアメリカでも投資と消費を増やせるとして、金融市場の大混乱の中で米FRB(連邦準備理事会)が資産購入による量的緩和に踏み切った(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、144頁)。
田中秀臣
FRBが買い入れ対象としなかった証券の買い入れや、それを担保とする資金貸し出しについて、バーナンキは「信用緩和(credit easing)」と称しました。これは日本銀行が二〇〇一年に実施した「量的緩和(quantitative easing)」を意識して、コンセプトの違いを表明した言葉だといえます(田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、39頁)。

ヨーロッパ

ニューズウィーク日本版編集部
そしてECB(欧州中央銀行)もデフレをユーロ圏の脅威とみなし、14-15年に国債などの購入で量的緩和を実施している(ニューズウィーク日本版編集部編著 『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来』 CCCメディアハウス、2017年、144頁)。

スウェーデン

上念司
少なくともリーマンショックのときに日本以外の国はものすごい金融緩和をしたのは2章で述べたとおりです。例えば、スウェーデン中央銀行はショックの後で通貨発行量を4.5倍に増やしました(田中秀臣・上念司 『震災恐慌!〜経済無策で恐慌がくる!』 宝島社、2011年、148頁)。

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