あの日から五ヶ月が経ち、やっぱり卒業はしないとってことで俺は日本に戻ってきている。
休学か留学を考えたけど、なるべく早く卒業したかったし、留学早々ヒモになるのもどうかと思ったから。
つまらない意地だったけどあの人はそんな俺を尊重してくれた。
当たり前のことだけど依緒には未だ冷たい目で見られている。
でも何故か武也は相変わらずだし、…彼女はむしろ前より笑ってくれるようになった。
転科したのに、別れてしまったのに、それどころか自分から振ったのに今も4人の繋がりは完全に切れていない。
ありがたくて、そして心が痛い。
やってしまったことがあるので正直辛いが、逃げてばかりもいられない。
ここまで健気で素敵な人と別れたんだ。俺は今の幸せを大事にしないといけない。

今日は、その大切な人が一時帰国する日だ。
…勿論仕事のついでですけどね。

『24時30分。いつもの場所で』

相変わらずそっけないメールだよなぁ…
それと、普通こんな時間に待ち合わせなんてしませんよ、麻理さん。とてもらしいけど
これだけ見ると本当に愛されてるのかちょっと自信をなくす時もある
そんなわけないのも分かってるけどね、…今25時35分だけど

「…原!北原!」
「あ、来た。麻理さん~!」
「はぁ、はぁ、…は、ふぅ、はぁ…遅くなって、その、はぁ…は、悪かった!」
「いやそんなのいいですよ。まずは息整えてください」
「本当に、久しぶりなのに、どうしてもやっておかないと、駄目な仕事が、できてしまって。ふぅぅ…」

出版社からここまで走ってきたのか。見られたくないからって結構離れた場所で会ってるのに。…ヒールなのに
携帯で連絡すればいいのに。…そこまで思い付かないのが麻理さんらしいような、らしくないような

「そんなに急がなくてもよかったのに…」
「だって…会いたかったよ。…少しでも早く。北原は、違うのか?」
「そんなわけないじゃないですか。俺も会いたかったですよ、麻理さん」
「北原ぁ…本当に、遅くなってごめんな?」

本当、可愛いな、この人は

「大丈夫ですってば。あんまり気にしないでください。…時間の方は」

だから、つい意地悪したくなるんだ。

「時間の方は、って?…あ」
「約束、しましたよね」
「いや、でもここアメリカじゃないし…。苗字で呼ぶのが普通だし…誰かに聞かれたら、その、恥ずかしいじゃないか」
「麻理さん」
「う…」
「約束、しましたよね」
「分かった、分かったよ!………春希」
「はい、よくできました」
「うぅぅ、仕事場で名前呼んでしまったらどうするんだ…」

ここまで漕ぎ着けるのに本当に苦労したんだ。思い出すだけでも赤面しちゃうような歯の浮くような台詞の数々…
もう一度やれと言ったら絶対無理だ。その分二人の時くらいはいつでも呼んでもらわないと
後麻理さん、名前で呼ぼうが苗字で呼ぼうが佐和子さん経由で少なくとも鈴木さんにはバレてますよ、もう

「こほん!とにかく、久しぶりに会ったんだ。…二人きりで、ゆっくり過ごしたいよ」
「はい…麻理さん」

勿論そんな嬉しい言葉を俺が断るわけもなく、俺たちはいつもの場所で待ち合わせて、いつもの場所に帰っていく。
改めて、あの日から五ヶ月が経った。
つまり、もう麻理さんの部屋はないわけで。
こういう風に時々帰国する日は、…はい、俺の部屋に来てくれるようになりました。

「久しぶりだからな。…今日こそ、私がリードしてもらうぞ?」

一応期待してみます。

………
……


彼女の名誉のため、その夜誰が主導権を握ったかは伏せておく。

おやすみなさい。
…早く卒業して、あなたの隣に立つ日が来ますように
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