晴れて名門青泉大学へと入学した4月のある日。
にもかかわらず杉浦小春は街中でひとり溜息をついていた。

「はぁ、プレゼントどうしよう」

4月、それは小春の彼氏・北原春希の誕生月でもあった。
昨年は状況が状況だけに知らない間に過ぎていたというミスを犯し、祝うことさえできなかった。
だからこそ今年は…と一月以上前からプレゼントを物色していたのだが、とうとう今までめぼしいものが見つからず途方にくれていた。
振り返ればこの1年は励まされ、怒られ、教えられ、愛された与えられてばかりの1年だった。
最後には大学合格という結果をもたらすことができたが、結局それも自分に与えられたものだった。

「本当貰ってばっかり。私が先輩に何を返すことができるんだろう」

小春の想いが大きければ大きいほど、それを形にするのは難しくなる。
そうした反比例にも似た状況に再度溜息をつきつつ俯く小春に突然声がかかった。

「もしかして杉浦?」

「お、小木曽?」

そこにはかつての級友で、元後期委員長の姿があった。


「久し振りだな。まずは青泉合格おめでとう」

立ち話も何だからと近くのコーヒーショップに入り向い合うなり祝福の言葉が飛ぶ。

「…ありがとう。でもどうして」
「あぁ、その、亜子から聞いた」
「あぁ亜子から…。亜子ねぇ」
「なんだよ」
「いや、私が浪人している間に小木曽は楽しい学生生活を送ってたんだなぁって」

冗談交じりで嫌味を返すと孝宏は照れくさそうに目を逸らす。
しかし次に目を合わせた時、その目は真剣味を帯びていた。

「そういう杉浦こそ、その、彼氏とはうまくいっているのか」
「え…」
「付属最後の頃にできた彼氏。…もしかして別れちゃったか」
「いや、別れてないけど…。その、小木曽はどこまで知っているの」
「うん、まぁ、だいたいのことは」

いつかは話さなければ、でも話したくなかった話題がでる。

「そっか。軽蔑したよね。本当ゴメン」
「いや謝ることなんてねぇよ。軽蔑もしてない。まぁ何の蟠りもなかったといえば嘘になるけど」

話を振った孝宏のほうも居心地を悪そうにする。

「でも男女の仲だしな。第三者が口に出すことでもないし。それにあの頃の杉浦を支えていたのは彼氏だったんだろ。だったら感謝する部分もある」

けれど話を止めることなく、自分の気持ちを言い切った。

「小木曽、何か大人になったね」
「なんだよ、今までだって十分大人だったろ。杉浦は俺のこと過小評価しすぎ」

そんな孝宏に小春は笑顔で応える。

「そうだ、大人ついでに相談にのってやるよ。何か悩みがあるんだろ。
 大学に合格して幸せ一杯のはずなのに、さっき会ったときの杉浦凄く暗かったからさ」
「ん…それは…。ううん、聞いてくれる?たぶん気分を悪くさせるだろうけど」

一度は断ろうとしたが、今の小木曽ならと打ち明けた。

「その、私の彼氏の誕生日、もうすぐなんだ。で、そのプレゼントに悩んでて」
「プレゼントというより私に何ができるのかなって。私は去年いろんなことをしてもらったけど、私自身は何もできてなくて」
「大事にするって言ったのに、先輩に負担をかけてばっかり。離さないって決めてたけど、もしかしたら他の人のほうが先輩のことを…」

今まで誰にも相談できず貯めこんできた想い。話せば話すほどそれが溢れてしまい、最後には感極まって泣き出してしまう。
周りから見れば別れ話をするカップルのようで、まさにそのように男が女を優しく諭す。

「結論から言うとさ、俺はそんなことないと思うぞ。杉浦は今まで人にお節介ばかりしてきて他からは余り何かをしてもらうってことなかったじゃん。
 だから今はして貰う側になって必要以上に返さなくちゃっていう強迫観念にとらわれてるんじゃないか」
「杉浦は自分が思っている以上に周りを幸せにしてる。委員長時代もそうだったし、矢田の件だってそう。
 その、だから俺だって杉浦のことを好きだったんだしさ。別に杉浦って俺のことを特別に意識したことなんてなかっただろ。
 それでも俺は杉浦にたくさんの幸せを貰ってた」
「なら近くにいる北原さんはより一層そのはず。だからこそ北原さんも姉ちゃんじゃなくて杉浦を選んだんだと思う。だからもっと自信をもて」

顔を真っ赤にしてそう話す孝宏に小春は再度笑顔を見せた。

ようやく落ち着くと周りから好奇の目で見られていることに気付き二人は足早に店を出る。

「いろいろありがとう。みっともないとこ見せちゃってごめんね」
「気にすんなって。でも少しでも役にたったならひとつお願いが…。今日のこと、亜子には内緒な。あいつ意外と嫉妬深くって」
「わかった。…じゃあね、小木曽」

謝罪を軽く流す孝宏に別れを告げ、お互い違う方向に歩みだす。
しばらくして小春の背中に最後とばかりに大きな声がかかった。

「杉浦!あとプレゼントのことなんだけどさ、気持ちを形にできないなら気持ちを乗せやすいものがいいんじゃないか。
 別にモノだけで気持ちをあらわす必要なんてないんだし。プレゼントと同時に今の想いを伝えればきっと北原さんは喜んでくれるよ」

大声で叫ぶ孝宏に、こちらもと大きな声で返す。

「本当ありがとう!何か思い当たった気がする」
「そっか。じゃあまたな」

そして今度こそ別れた後、小春は進んでいた方向とは別の方へと足を向けた。


4月某日、春希のマンションで家主の誕生日会が開かれていた。
所狭しと料理とケーキが並ぶテーブルを2人の男女が囲む。

「先輩、誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。それにしても豪華な食事だな」
「はい、今までの感謝の気持ちを込めましたから。もちろんご飯だけじゃありませんよ」

そしてプレゼント包装された小箱を小春が春希に手渡す。

「はい、どうぞ誕生日プレゼントです。是非いまあけてください」
「おぉありがとう。そんな気を使わなくていいのに。それにしても随分急かすな。一体何なんだ」
「一応今の給料の3ヶ月分です」

開けるとそこにはイニシャル入りの指輪が入っていた。

「先輩、絶対世界で一番幸せにしますからね」


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