第12話







8-2 春希 冬馬邸 1/10 月曜日 






曜子「ところで、北原君」

春希「なんでしょうか?」

冬馬邸、地下スタジオ。かずさの母親だと思うとプレッシャーを感じずには
いられなかったが、いまはそんなことを考える暇もない。
早くギターが弾けるようにならないといけないという新たなプレッシャーの前に
一人思考にふける時間もなくなるだろう。

曜子「北原君の他には、誰が出演するのかしら?」

この人は、根本的な事を全く気にしていないとは。
それに、俺が電話した時の要件さえいまだに話せてはいない。
もはやあきれることさえ、意味をなさない。
こういう人だと割り切って付き合わなければ、今後疲労していくのは俺だけだ。

春希「ボーカルはいるらしいです。ベースとドラムは、どうなんでしょうかね」

今は、ほぼ何も決まっていない。ボーカルは、和泉が用意するとは言ったものの、
なにも決まっていないといってもいい。
俺のギターさえ、まだまだ人前で演奏できる代物ではないのだ。
ましてや、高校の学園祭とは違い、二人の頼りになる存在さえいない。
だけど、今も昔も、俺がやるべきことは決まっている。
俺は、ギターを弾けるようになればいい。
他人任せだってあきれるかもしれない。言いたいやつには、いわせておけばいい。
俺は、本来自分勝手なんだよ。

曜子「ボーカルは別として、北原君のギターだけで、演奏成り立つの?」

春希「それは、俺も心配してるところなんですけどね・・・・」

乾いた笑いがこぼれ落ちるしかない。だって、事実だし。
仮に、和泉が連れてくるボーカルが雪菜級であっても、俺のギターだけで、
演奏を成り立たせられるなんて思えない。
それこそ、大学やバイトを全て休んで、一日中練習しなければ間に合わない。

曜子「そっかぁ・・・・」

曜子さんは、考えるそぶりを見せつつも、笑みを絶やさない。
きっと面倒なことを考えているに違いないって、思えてしまう。
曜子さんと話す機会なんて、わずかしかなかったけど、そのわずかな時間だけでも
和泉千晶レベルの問題児だって、認識できてしまう。

曜子「ここにいい案があります」

にやっと不敵な笑みを俺に突き出す。おもわずたじろぐ俺をみて、
さらなる笑みをにじみ出す。

春希「なんでしょうか?」

曜子「これよ、これ」

曜子さんの手には、DVDかCDのケースが一枚。
俺がぽかんと見つめる中、俺にはかまわずTVに映し出す用意を始める。
曜子さんは、用意ができるとソファーに座り、俺を呼び寄せる。
突っ立っていても邪魔になるし、他に座る場所といっても限られる。
それに、わざわざ呼んでいるのに、それを無視して違うところに座るのも
機嫌を損ねてしまう。機嫌を損ねるだけならいいけど、その後の仕返しが怖いし。
俺は、観念して、曜子さんからなるべく離れたソファーの隅に身を沈める。
曜子さんは、一瞬むっとした顔を見せたが、それも一瞬。
とりあえず、納得はしてくれたか。
そうこうするうちにTVに映像が映し出される。
画面に映されたのは、

春希「かずさ」

ピアノに向かいあうかずさ。場所は・・・・・、おそらくこのスタジオ。
映像は、かずさをアップにして撮ってるため、場所を特定するのは難しい。
だけど、この背景。見間違えるはずもない。だって、今俺もその場所にいるんだから。
映像とスタジオを交互に確認する。やはり間違いはない。
と、確信を得ると、演奏が始まる。
これは・・・・・、『届かない恋』。
かずさが奏でる音色は、まったく色あせていない。
むしろ洗練されていて、艶っぽく成長している。
郷愁と夢想が俺の心を駆け巡り、俺を虜にする。
くいるように画面を見つめる俺は、いつしか前のめりにソファーに腰掛けていた。
一瞬一瞬のかずさの演奏を、一つも見逃すまいとくらいつく。
たった5分の演奏は、あっという間に終わりを迎える。
たった5分だというのに、永遠にも等しい時間。
3年もかずさと離れていたというのに、まったく色あせぬかずさへの想い。
俺は、再生が終わった画面の向こうのかずさを想い続けた。

曜子「そろそろいいかしら」

曜子さんにとっては十分すぎる時間。俺にとっては、一瞬だったが、
かずさの演奏を聴いてから、すでに30分は経過していた。

春希「すみません」

曜子「いいのよ。私も初めて聴いたときは、あなたと同じだったし」

いつ撮った演奏なんだろうか。曜子さんに聞けば、教えてくれるのだろうか?

春希「これって、いつ撮った演奏なんですか?」

曜子「それ聞いて、なにか意味でもある?」

春希「聞いて何かできるわけではないかもしれないですけど、俺は知りたいです」

曜子「そう・・・・・。三日前よ」

春希「え?」

三日前。ということは、かずさが日本に来ていた?
このスタジオにかずさが・・・・・?

曜子「ごめんなさい、北原君。ニューイヤーコンサートだけど、あの時も
   かずさ来ていたのよ」

俺は、もはや言葉さえ発せられずに、曜子さんを見つめていた。
喉が渇き、唇も乾燥していく。握りしめた手には、汗がにじみ出て、
焦点もぼやけていく。俺の混乱をよそに、曜子さんは、事実を俺に叩きつける。

曜子「あの子、今は会えないって。コンサートの時も、この演奏を撮ったときも、
   今は、会えないって・・・・・・」

春希「そう・・・・ですか」

声にできていいるかわからない。切なそうに見つめる曜子さんが、俺を包み込む。
そっと抱きしめられるが、いやらしい気持ちなど一切抱くことはなかった。
けっして魅力がないってわけではない。むしろありすぎる。
年齢を感じさせない若々しさ。強烈に女性らしさを演出する体の曲線。
だけど、今の俺には、曜子さんの全てがかずさと結び付ける。

曜子「もう少しだけ待っててあげて。あの子、今大きく成長しようとしてるの。
   無理やり日本に連れてきて正解だったわ。
   きっとあと数年で開花するはずよ。あと3年。ううん、あと2年。
   その時、かずさに会ってくれないかしら」

春希「かずさは、俺に会ってくれるんですか?」

曜子「あの子が会いたくないわけないじゃない。今も会いたい気持ちを我慢してるのよ」

春希「そうですか」

曜子「私とかずさの我儘に付き合わせてしまって、ごめんなさいね」

春希「いいですよ。3年もかずさを待たせたんです。あと2年や3年くらい待ちますよ」

曜子「ありがとう」

春希「そうだ。一つ言い忘れていたことがあったんですけど、いいですか」

曜子「なにかしら」

春希「この前電話した時言おうと思ってたことなんですけど、
   今度のヴァレンタインコンサートのDVDをかずさに渡してくれませんか。
   それを伝えるために電話したんですよ。それなのに、まったく聞いてくれずに
   今日ここにひっぱりだされてしまいました」

曜子「そうだったの。DVD、必ず渡すわ。でも、今日ここに来てよかったでしょ」

この人は。人の話を聞かなかったことに、まったく悪びれもしないで。

春希「来てよかったです。ほんとうによかった」

その後、さらに30分かけて平常心を取り戻す。ようやく曜子さんのレッスンが始まるが
まさに地獄。かずさの指導が優しすぎるって思えるくらいであった。
ブランクがあるとはいえ、厳しすぎるレッスンに、かずさへの想いの余韻に
浸ることさえできずに、時間が過ぎ去る。
今夜はゆっくり寝られそうだ。かずさの温もりが側にあるから。







かずさ「おつかれさん」

曜子「なかなか骨が折れそうね。でも、根性だけはあるから、間に合うかな」

かずさ「大丈夫さ。春希なら」

曜子「それもそうね」

かずさ「それよりもさ・・・・・・」

曜子「なにかしら・・・・・・」

かずさの鬼気迫る迫力におびえる曜子。なにに怒っているかなんて明白すぎる。
うまくスルーしてくれそうだと思っていたのに、それは無理だったか・・・・・。

かずさ「春希に抱きつくなんて、やりすぎだ。何を考えているんだか。
    この色情魔め。年を考えろ、年を」

曜子「あら、年なんか関係ないわ。春希くん、ちょっといいかもしれないわね。
   3年前にあったときは、なにも感じなかったけど、今は・・・・・」

かずさ「ふぅ〜ん」

曜子「うそよ。うそ。娘の彼氏を横取りなんかしないから。
   ねっ、ねっ」

うろたえる曜子を睨みつけ、かずさの怒りはおさまりそうもない。
朝までみっちり北原君の練習をみていたっていうのに、まだ寝られそうにないか。
曜子は、朝日を眩しそうに見つめ、嬉しいため息を漏らした。










9-1 春希 春希自宅 1/11 火曜日 




今日から大学も始まる。ギターの練習で夜はバイトができないし、
今後のこともある。今できることは、今のうちに手をまわしておきたい。
そうしないと、ギターに集中できないし、俺に振り回されている人たちにも
申し訳なかった。
まずは、こいつからかな・・・・・・。俺は携帯を取り出し、アドレスを呼び出した。

武也「おう春希。この前は、痛いところをつかれたよ。
   依緒の方は、まあ、なんとかな・・・・・・・・」

春希「悪かったな。依緒のフォローまったくできなくて、すまない」

武也「いいってことよ。俺の方も考えるとところもあったし、春希が出てきても
   かえって感情的になってかもな」

春希「そうか。・・・・・それで、今日から大学始まるけどさ、
   出席日数ギリギリで出ると思うから、あまり大学では会えないと思う。
   だけど、それは決して雪菜に会いたくないってことではないんだ」

武也「OK、OK。今度は雪菜ちゃんのフォローしておけよってことだろ」

春希「話が早くて助かるよ」

武也「いいってことよ。春希が俺に頼ってくれてるうちは、大丈夫ってことだからな」

春希「いやな判断基準だけど、ありがとな。」

武也「おう」

和泉の乱入でひと騒動あったというのに、軽口をたたけている。
こいつが親友でよかったと、しみじみ思えた。だからこそ、雪菜を任せられる。
武やが親友でよかったなんて、口が裂けてもいうことなんでできやしないけど。

春希「うちの大学で毎年やってるヴァレンタインコンサートって知ってるよな?
   お前が毎年女の子とデートしてるやつ」

武也「知ってるけど、後半の情報は余計だ。チケット欲しいのか?
   2枚くらいなら顔がきくと思うけど、
   今年はなぜか既にチケットが全てさばけたらしい。
   隠れた人気があるコンサートで、値段の割には質もいいしな。
   今年はチケットとれるか微妙だったけど、春希の頼みなら全力で奪い取ってきてやる」

春希「いや、チケットはいい」

俺は思わず苦笑いをするしかなかった。
既に裏では『届かない恋』の噂が広まってるのだろう。
自信過剰な評価かもしれないけど、あながち過大評価とはいえないとも思える。
武也はまだ知らないみたいだけど、明日から大学が始まるし、きっと噂を嗅ぎつける。
だから、雪菜も・・・・・・・、知ってしまう。

武也「そうか? じゃあ、なんだよ?」

春希「俺が出場するんだ」

武也「は? 聞いてないぞ。雪菜ちゃんは? って、出るわけないか」

春希「ああ、雪菜はでない。それに、まだ俺が出るって言ってもない。
   だから、武也が雪菜を誘ってほしいんだ。
   今、雪菜に顔をあわせる準備もできていないし、申し訳ないけど」

そう、主にかずさと麻理さんのことで、雪菜に顔をあわせるなんて、できやしない。
かずさと麻理さんの間で、微妙なバランスをとっている今、雪菜まで加えて
バランスを取る自信なんてありはしない。
自分勝手だってわかってはいるけど、誰に対しても不誠実でいなければ
全てが崩れ去ってしまう気がしていた。

武也「それはいいけどよ、それでも春希が直接誘ったほうがいいんじゃないか?
   まあ、依緒も誘って、3人でいくことになるだろうけど」

春希「すまない。俺の我儘なんだ」

武也「わかった。俺に任せておけって。でも、チケットよろしく頼むな。
   出演者枠で何枚か貰えるだろ? ほんとは、今年どうしようかって
   考えてたところなんだよ」

春希「わかった、わかった。3枚でいいんだな。聞いておくよ」

武也「おう。・・・・・・・あのな春希」

春希「なんだよ?」

武也「お前の方は大丈夫なんだよな?」

春希「大丈夫・・・・・・だと思う。大丈夫になるようにコンサートでるんだし」

武也「そっか。わかった。雪菜ちゃんのことは俺と依緒にまかせろ。
   コンサート楽しみにしているからな」

春希「ああ、まかせろ・・・・って言いたいところだけど、ぎりぎりだな」

武也「そっか。お前がギターのことで任せろだなんていう方が心配だ。
   ギリギリって言われた方が、なんとかしそうだから、頼もしいよ。
   ・・・・・・、そういや、なにを演奏するんだ?」

話の流れとしては、聞いてくる話題だって、わかっていた。
わかっていたけど、携帯を握る手に力が入る。
口の中が乾き、口を緩やかに動かすだけで、声が出ない。

武也「春希?」

春希「あ、ああ。ごめん、ちょっとぼうっとしてた。徹夜明けなんだ」

武也「そうか。で、なにやるんだよ?」

武也は気がついてしまったはず。苦しい言い訳だからこそ、
いつも通りに語りかける武也に感謝せずにはいられない。

春希「『届かない恋』なんだ」

武也「そっか・・・・・。で、誰が歌うんだ?」

春希「文学の友達が用意するって話なんだけど、とりあえず、
   ギターの俺に声がかかったってところかな」

武也「雪菜ちゃんにはどう説明する気なんだ?」

武也の声も堅くなるのが、いやでもわかる。俺のほうなど、震えてないか心配するほどで。

春希「そのまま言ってくれてかまわない。たぶん、明日になれば大学で
   噂くらいは聞くと思うし」

武也「なるほどな。今年のチケットの売れ行きが良すぎると思ってたら、
   こんな裏事情があったんだな」

春希「チケットのことは俺も初耳だったけど、人が集まりそうだな。
   ・・・・・なあ、武也。嫌な役回り押しつけて、悪いな」

武也「そう思ってるんなら、雪菜ちゃんとのこと、しっかりけじめつけろよ。
   やっと中途半端な状態から動こうとしたんだ。
   お前が雪菜ちゃんと友達になるって宣言したんだし、俺はそれを応援するよ」

春希「ああ、頑張ってみるよ」

武也「ああ、頑張れ」

春希「じゃあ、また大学で」

武也「大学でな」

電話を切ると、心地よい疲労感で満たされる。
どうにか一人目は、クリア。次は・・・・・。
和泉に電話をしてみたが、留守電に繋がるのみ。
この勢いのままって、意気込んだけど、出鼻をくじかれるとは。
さすがは和泉だって、つまらない関心をする。
とりあえず、コンサートのことで話があるから、いつでもいいから電話がほしいと
留守電にメッセージを残す。
さてと、少し仮眠をとるか。
起きたらバイトだ。長時間の練習で疲労困憊ではあったが、
充実した時間に、体は動きたくてうずうずしていた。










9-2 春希 開桜社 1/11 火曜日 






意気込んでバイトにきたが、思いのほか平和そのものだった。
見た目の上でだが。
気持ちの切り替えができた麻理さんは、いつも以上に仕事に精を出す。
NY行きのことは、編集部内では皆知るとこるところとなり、
エースが抜けた穴を埋めようと、引き継ぎ作業に没頭する。
だから俺も通常業務の負担を減らそうと、麻理さんのお咎めがない程度にみんなの
仕事を引き受けていた。
もう無理なんかはしないって、心に決めている。これ以上の不安要素を麻理さんに
持たせたままNYへなんて行かせるわけにはいかない。
麻理さんがいない開桜社でも仕事をしていけるって証明したい。

麻理「北原、それ終わったら、こっちのほうもよろしく」

仕事を机に置き、一言声をかけるだけ。
たったそれだけの行為なのに、特別な行為だと意識する。
だって、俺の肩にそっと手をかけて、振りかえった俺に頬笑みを向けてくれるんだから、
意識するなっていう方が無理だ。
今までだって、肩をぽんっと叩くことぐらい何度もあったはず。
しかし、今日の麻理さんの行為は、今までとは全く性質が異なる気がする。
たったひとつ、頬笑みが加えられただけなのに、それが大きな意味を持つ。
でも、麻理さん。俺はとてもうれしいんですけど、ここには情報通で
噂好きの鈴木さんがいるってこと、忘れていませんか?
さっきから、俺と麻理さんが近づくたびに妙に視線が感じられるんですよね。
ほら。鈴木さんが麻理さんの後姿を追っていたと思ったら、
俺の方を見て、にたぁって笑みを浮かべてるし。
だから、「こほん」と、わざとらしく咳をする。
これ以上深入りしてこないで下さいと警告を込めて。
だけど、俺に注目している人物は一人ではないと覚えておくべきだった。
麻理さんは、俺のわざとらしい咳払いに反応し、ちらりと俺に視線を送ると、
手をキーボードの端に移動させ、指だけ上げて、手を振ってくる。
ほんの一瞬の出来事であったが、すかさずチェックをいれる鈴木さんがいるんですよ、
って、今すぐ席を立って教えてあげたい。
麻理さんは、数秒の休憩は終わりとばかりに仕事に集中してるし・・・・・。
これはもう、諦めるしかないんだろうな。
ま、いいか。俺のバイトのシフトも、麻理さんが日本にいるときに合わせて
入れられているだけだし。鈴木さん以外だったら、俺の上司は麻理さんですから、
大学の試験もあるのでそれに合わせただけですっていう言い訳も通用するのにな。
ここは、鈴木さんが噂をバラまかないことを祈るしかないか。
俺は、もう一度麻理さんの姿を少しの間見つめると、
再度気合を入れ直し、仕事に立ち向かった。





昼の休憩を済ませ、昼食から帰ってくる部員をよそに、俺はまだ仕事にいそしんでいた。
麻理さんの休憩に合わせて一緒に食事でもと企んではいたけど、
とうの麻理さんは、打ち合わせに出て、編集部にはいない。
食事のタイミングを逃した俺は、砂糖を大量に投入したコーヒーをちびちび飲んで
飢えをしのぐ。5時にはあがる予定だし、あと数時間だ。
このまま食事をしないでも大丈夫かなと考え始めたころ、突然声をかけられる。

麻理「北原。食事まだだって聞いたのだけれど、これからのバイトスケジュールや
   今後のことを話しながら食事でもどうかしら?」

春希「はい。食事に行きそびれていたので、お腹すいてたんですよ」

麻理「そうか。じゃあ、行くか」

いつもの上司と部下を演じているつもりらしいけど、麻理さんの声は堅く、
手足の動きもぎこちない。
今までさんざん自然を装って俺の肩や腕に触れてきたっていうのに、
ここにきてなんなんですか。
こればっかりはフォローのしようもありませんよ。
これ以上編集部内に麻理さんを晒さない為にも、俺は、急ぎ出かける準備をする。

春希「さ、行きましょう」

麻理さんは、返事の代りに俺の腕に自分の手をからめようとするが、
すんでのところで、ここが編集部であることに気がつく。
自分のミスに気がついた麻理さんは、誰かにばれていないかと急ぎきょろきょろと見渡す。
そして、だれも見ていないとわかると、急ぎ足で編集部をあとにした。
麻理さん。もう遅いです。鈴木さんが見てましたよ。
ほら、麻理さんが行った後、俺に向けて親指を立てて、にへらぁ〜って笑ってます。
俺は、鈴木さんの応援を振り払い、麻理さんの後を追った。




俺のバイトの時間は終わり、帰り支度を始める。
編集部内を見渡すと、いまだ仕事に精を出している部員の人たちが見受けられる。
麻理さんも、食事から戻ってからは、2度ほど仕事の受け渡しに乗じてスキンシップを
とったきり、あとは仕事に没頭している。
今は午後5時すぎ。本来の俺だったら、深夜まで仕事をしているけど、
8時からギターの練習があるので、ここまでにしてもらう。
仮眠もとなければならないし、そもそも昨夜もほとんど寝ていない。
そろそろ活動限界に近いけど、とりあえず携帯の着信だけは確認しようと
携帯をいじる。
すると、今朝留守電を入れておいた和泉千晶からの連絡が来ていた。
俺の眠気など、一瞬で吹き飛んだ。





第12話 終劇
第13話に続く

このページへのコメント

お疲れ様本がap storeととらのあなで販売されますね。
でも、予約期間が短いので9/5(金)初日に予約を済ませておいた方が安心かな?
A4クリアファイルはついてないみたいですが、コミケに行けなかった者としては
ありがたい処置で助かります!

武也も春希同様に、色々面倒な事しょっていますね。自業自得の部分もありますが、
憎めないキャラクターとして書いていければいいなと考えております。

毎週がんばって書いていきますので、また読んでくださると嬉しく思います。

0
Posted by 黒猫 2014年09月02日(火) 02:56:35 返信

俺の方も考えるところもあった、ということは武也もようやく今まで付き合ってきた女の子たちや依緒との関係にけじめをつける気になれたのでしょうかね。
依緒との中学時代からの中途半端な関係を動かす気になったのならば、千晶の糾弾も効果があったようで何よりです。

 かずさの方は今はまだ会えないというのはどんな意味を持っているのか…。ピアニストとして成功するまでは会えないということでしょうか。
麻理さんとの関係もどうなるか分かりませんし、今後の展開を楽しみにしています。

0
Posted by N 2014年08月26日(火) 23:40:37 返信

今の所定期的に新作のssが読めるのはこの作品だけなので毎週楽しみにしています。
曜子さんが春希に抱きついたのは始めからかずさの反応を見たいが為の計算尽くの行動だったのでしょうね。そして武也はなんだかんだ言っても春希の良き親友ですね。
coda編でも曜子さんと武也が要所で活躍してくれそうですね。
コミケで出たお疲れ本プロダクションノートの時の様に書店販売してくれないかなあ。

0
Posted by tune 2014年08月26日(火) 04:14:31 返信

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