第60話



麻理


 春希とかずささんがニューヨークでの最後の夜を過ごしている中、
私は自室でインタビューしたものをまとめていた。
 冬馬かずさの人物像を組み立てていくほど、
春希がこの子を好きになった理由がよくわかってしまう。
 かずささんに嫉妬していないといえば嘘にはなる。私も大人になったといっても聖人君子に
なったわけではないのだから、一人の大人の女性として、
好きな男性が他の女性に夢中になっていればヤキモチを妬いてしまうのは当然のこと。
 綺麗事を言ってしまえば、この黒くなりきっていない嫉妬を表に出さないのは好きな男の
為でしかないともいえる。でも、春希の為に行っている事とも言えるけど、
本当はたぶん私が無理なんだと思う。
 かずささんから春希を奪ってまで幸せになりたいとは思えない。
 それをしてしまったら、きっと私は不幸になってしまうもの。
 もし春希を奪ってしまったら仕事ができなくなって退職して、
春希以外のものには興味さえなくなってしまう気がしてしまう。
 そんな私を想像すると、嫉妬する事さえ怖くなってしまう。
 それと同時に、そんな甘美な世界なら溺れ死んでしまいたいという女の私もいる事は
消しようもない事実なのよね。
 だけど、私が求める未来ではない。
 私は幸せになりたいけど、春希には、私以上に幸せになってほしいもの。
 だから春希を奪う事はしない。
だから、…………奪わないから、今は、今だけは、ちょっとだけでいいから甘えさせてください。
 インタビューのチェックが進み、一区切りがつくころには日付が変わっていた。
 日本にいるときだったらあたりまえの工程日程であって、
24時が過ぎてもまだまだ就業時間ではあった。
ところがニューヨークに来てからは、体の不調もあって健康的すぎる睡眠をとるようにしている。
 だから、今の24時は本来ならばベッドの中にいる時間だった。
 そこに、控え目にドアを叩く音が告げられる。
 一番最初に頭に浮かんだのは春希だった。
 まっ、当然よね。一緒に住んでいるんですもの。だけど、春希が夜中に会いにくるかしら?
 よっぽどの緊急事態なら来るでしょうけど、基本春希は私の睡眠を邪魔しないのよね。
だから春希という選択肢はすぐに取り下げられた。変わって浮上したのは、かずささんだった。
 候補は二人しかいないのだから、当たり前だけど。

麻理「どうぞ」

かずさ「ちょっといいかな?」

 私の予想は当たり、ドアの隙間から顔を覗かしたのはかずささんだった。

麻理「大丈夫よ。仕事の方ももう終わりにする予定だったから」

かずさ「お邪魔します」

 やっぱり仕事に逃げるなって、春希に言えなくなっちゃったわね。
 今日も春希とかずささんが一緒にいるってわかっているだけで落ち着かなかったもの。
だから仕事をして、仕事にのめり込もうとしてしまった。
 皮肉にも、仕事の内容は冬馬かずさなのだから、嫌なめぐり合わせね。

麻理「そこの椅子に座ってね」

かずさ「ありがとう」

麻理「春希とは、しっかり話せた?」

かずさ「おかげさまで」

麻理「……そう」

 かずささんは私の顔を見て、そして床を数秒ギュッと凝視してから勢いをつけて顔を
あげると、内に貯め込んだ思いを一気にぶつけてきた。

かずさ「あたしには、力を貸してくれる母さんがいる。そして、ピアノもある。
    でも麻理さんは、春希がいなくなったら大切な仕事を失うかもしれない」

麻理「大げさねっていえないところが辛いわね」

かずさ「あたしも似たようなものだからな」

 自嘲気味に笑うその姿に、親近感を覚えてしまう。
 きっとかずささんの言う通り、私たちは似すぎているのだろう。
好きな人まで似てしまった事は残酷ではあるけれど。

麻理「でも私にも佐和子っていう親友がいるわ。今は日本にいるけど、ちょくちょくこっちに
   来てくれるのよ。やっぱり旅行代理店勤務っていうのは、こういうときは便利よね」

佐和子、ごめんっ。便利だっていうところには嘘はつけないけど、本当に感謝しているのよ。

かずさ「だけど今、仕事に支障をきたしているだろ?」

麻理「そう、ね」

かずさ「今春希がいなくなったら麻理さんは駄目になってしまうよね?」

麻理「ごめんなさい」

かずさ「いいんだ。あたしもこのままだとピアノが駄目になるかもしれないからさ。
    だから明日ウィーンに帰るよ」

麻理「……そう」

かずさ「驚かないんだな」

麻理「どうして驚くのかしら?」

かずさ「だってさ、あたしのことだから、このままニューヨークに残るって言いだすと
    思ってたんじゃないのか?」

麻理「そうね。そういう可能性もあったのかもしれないわ。
   でも、かずさんは春希を幸せにする事を選んだのでしょ?」

 私の発言に、逆にかずささんを驚かせてしまう。
 はっと息を飲み、照れ隠しなのかすごくきつい目つきで睨んできたかと思えば全身の力が
脱力してふにゃけてしまっている。
 こんな妹がいたのなら、きっと可愛がって恋の応援なんかしてしまうのだろうな。
 …………恋愛レベル平均以下の私がなにを偉そうにって佐和子に言われるかな。
 でも、自分の事じゃないからのめり込むっていうか、……まあ、今は関係ないか。

かずさ「聞こえていたのか?」

麻理「かずささんが叫んだ声が一度だけ聞こえてきただけよ」

かずさ「やっぱりあれを聞いちゃったら全部わかっちゃうんだな」

麻理「なんとなくだけどね」

 これも密着取材をして、なおかつ春希とかずささんが一緒にいてくれたからこそ見られた
冬馬かずさであって、私一人では無理だったろうけど。
 恋敵とも言える私に見られてしまって嫌だったかもしれないわね。
 でも、謝らないわよ。私だってひっどい状況の自分を見せたと思うから。

かずさ「そっか」

麻理「…………ええ」

 なんとなくどうなったかは想像できるけど、聞いてもいいのかしら?
 興味ないなんていい子ぶるつもりもないから、正直聞きたい。
 春希がどうなるか、すっごく聞きたい。
 だって、私にとっても死活問題なのよね。そもそも心の準備をする時間くらいは欲しいし。
 …………えっ?

かずさ「ごめんごめん。馬鹿にして笑ったんじゃないよ」

麻理「まあ、そうよね?」

 もうっ……。私ったら顔に出てたみたいね。
 たしかに心の底から聞きたいのも事実だから、顔に出てしまうわよね。
 そう自分を慰めはしたものの、羞恥心が私に押し寄せ身を小さくさせてしまう。
 年下の女の子に、しかもかずささんに年甲斐もない姿を見られてしまった……。
恥ずかしいすぎるわよ。春希にだったらいくらでも情けない姿を見せるのに慣れてしまったけど、
……いやいや、そもそも春希に対してだって情けない姿は見せちゃいけないのよね。
 えっと、なんでかずささんの前でも無防備になってしまったのかしら?

かずさ「麻理さんってかわいいな。春希が好きになるのも頷けるよ。
    あたしにはできなかったからさ」

麻理「かわいい? 年上をからかわないでよ。私からしたら、
   かずささんの方がずっと健気で可愛らしいと思うわ」

かずさ「そう思えるのは日本でのあたしを知らないからだよ」

麻理「日本での……? 高校のときってことかしら?」

かずさ「春希から聞いているんだよな。そう言ってたし」

麻理「ごめんなさい」

かずさ「いいんだ。前もあたしに謝ったけど、その時も気にしていないって言っただろ?」

麻理「そうだったわね」

 春希が深く傷ついていたのだから、きっとかずささんも傷ついていたはずよね。
 自分を責めて、何度も逃げ出そうとしては捕まって、なおも自分を許せないという悪循環を
何年も続けていたのに、どうして今はそんなにも気丈でいられるの?
 春希がいるから?
 私が春希と共に病気と闘っているみたいに、かずささんも春希と再会したことによって
強くなったとでもいうのかしら?

かずさ「違うよ」

麻理「ごめんなさい。やはり以前許してくれた事は……」

かずさ「それも違うよ」

 かずささんがなにが違うと言ってるのかわからない。
 だから私は訝しげな視線をかずささんに送ってしまう。
でもかずささんは、私を見ても嬉しそうに肩をすくめるだけだった。

かずさ「ごめん。あたしの中だけで理解してたことだった。
    ちゃんと言葉にしないと伝わらないよな」

麻理「そうね。できれば言葉で伝えて欲しいわね」

 ちょっと拗ねすぎた口調だったかしら?
 ……ちょっと待ってよっ。今の私たちって、私の方が年下みたいじゃないの。

かずさ「わかったよ。そのね、麻理さんが、あたしが春希と再会したから強くなれたって
    思ってるんじゃないかと思ったんだ。だからそれは違うと言ったんだ。いやさ、
    麻理さんがそういうふうに考えて、自分を責め出しそうな勢いだったから、
    それは違うよって先に言ってしまったんだ」
 
麻理「シンパシー?」

 私も口から自然と言葉がこぼれてしまった。
 脳が理解する前に心が反応してしまったようね。それはかずささんも似たようなものかな。

かずさ「だと思うよ。春希っていう共通の大切な人があたしたちを結びつけているのかもな」

麻理「嬉しいような、困ったような、判断がつけにくいところね」

かずさ「たしかにそうだな。こればっかりはしょうがないで済ませられない状況になって
    しまったけど、……そうだな。今ならしょうがないで済ませてもいいと思ってる」

麻理「かずささん?」

かずさ「味覚がなくなって大変な目にあっている麻理さんを前にして言う言葉ではないけど、
    あたしは、ニューヨークにきて充実した毎日を送ったと思えているんだ。
    そりゃあ楽しい事よりも苦しくて切なくて、逃げ出したい事ばっかだったけど、
    麻理さんに出会えてよかったと思ってる。だからさ、…………春希のことを
    よろしくお願いします。あたしはウィーンに戻らないといけないから」

 目の前で深々と頭を下げられてしまう。このお願いが意味することろは、
おそらくかずささんが私に会いに来たことの一番の理由なのだろう。
 これこそがシンパシーだとすれば、
かずささんからこの後の理由を聞かなくても理解してしまえる。
 それでも私は聞かねばならない。
かずささんの口から聞かないと、私はまた決心を覆してしまうから。

麻理「どういう意味かしら?」

かずさ「あたし、春希と別れたんだ。あたしは、このまま春希の側に居続けたら駄目に
    なるって理解してしまったんだ。だから別れた。別れなきゃならなくなった」

麻理「……そう」

かずさ「ちゃんとあたしの気持ちは伝えたよ。春希もどうにか理解してくれたと思う。
    でも、あたしの我儘で別れたんだけど、春希は自分の事を責めてしまうと思うんだ」

麻理「そうね。春希ならそうしてしまうでしょうね。それがわかっていても別れたのよね?」

かずさ「あぁそうだ。春希が傷つくとわかっていて別れたんだ」

麻理「春希の事が好きなのでしょう?」

かずさ「好きだよ。大好きだ。こればっかりは麻理さんにも負けないって自信がある。
    もうさ、誰だろうと負けないって自惚れてさえいる」

麻理「それなのに、どうして別れたの?」

 私っていやな女ね。かずささんが別れた理由をわかっていながら聞いてしまうんですもの。
 そして、そう聞かせるように仕向けているかずささんも酷いわね。
 これが、いわゆるけじめってやつかしらね。
 またの名を、女の執念?って感じかしら?

かずさ「春希の側にいる為だ。今のあたしでは駄目だけど、
    きっとすぐに春希の元に戻ってくる。今度はずっと離れないんだからな」

麻理「身勝手な人ね」

かずさ「あぁそうさ。身勝手なんだよ」

麻理「酷い人ね」

かずさ「酷い奴なんだよ」

麻理「でも、頑張ってしまうのよね」

かずさ「そうなんだ。高校のときから要求するレベルが高すぎるんだよ」

麻理「それは編集部でも同じだったわ」

かずさ「だろうな。あいつったら自分の理想を押し付けてくるんだよ。こっちは必死にやって
    るっているのに、あいつの理想は今あるあたしの現実を大きく上回ってるんだよ」

麻理「そうねぇ……。彼ったら女性に夢でも見ているのかしら? 
   同じ人間だという事を忘れているわね、きっと」

かずさ「そもそもあいつの方が人間離れしてるよな。機械みたいに行動してるっていうかさ」

麻理「それもあるわね。自分の心さえもロジカルに割り切ってしまうのよね」

かずさ「……あぁ」

麻理「見ているこっちの方が辛くなってしまうわ」

かずさ「そのくせこっちの気持ちに気がつかないんだ。こっちはばれているとさえ思ってたのに」

麻理「鈍すぎるのよねぇ。他の事なら知らなくてもいい事まで論理的に気がついて
   しまうのに、はたや自分の事に関しては、というよりも、
   恋愛関係に関してだけはわかってくれないのよ」

かずさ「一度蹴り倒す必要があるな」

麻理「暴力はいけないわよ」

かずさ「じゃあどうするんだよ?」

麻理「…………甘え倒す、とか?」

 うぁ……。自分で言っておきながら恥ずかしすぎるわね。
 鏡を見なくても顔が真っ赤なのがわかるもの。

かずさ「それは麻理さんがしたいだけなんじゃ……」

麻理「違うわよっ」

 ……違わないけど。

かずさ「じゃあなんでだよ?」

麻理「春希って、ほら? ……えっと、頼まれたら断れないところがあるじゃない」

かずさ「たしかにあるよな。高校の時も自分にはまったく関係がない事でさえ首を
    突っ込んでさ。しなくてもいい仕事を自分で見つけてさえくるんだ」

麻理「それは簡単に想像できてしまうわね」

かずさ「それで?」

麻理「だから、春希は甘えられても断れないと思うのよ。だから、こっちが満足するまで
   とことん甘え尽くす。春希が倒れてもうだめだって顔をしても、
   ギブアップって謝るまで甘え倒すのよ」

 強引だったかしら? でも、案外効果がありそうね。
 ………………いつか実行してみようかしら?
 …………………………あら? かずささんが睨んでる、わね。
 あっ、顔に出ていたのかしら?

麻理「なにかしら?」

かずさ「なんでもない」

 綺麗な顔をしているんだから、そんな怖い目をしない方がいいわよ?
 ほら、綺麗な顔をしている人が怒っている顔こそ怖いって言うじゃない?
 私が逃げ出そうと体を捻っても、
そこは椅子の背もたれに阻まれてしまうわけで逃げられないのよね。

麻理「冗談よ、冗談。いくらなんでも恥も醜聞も捨て去って甘え倒すなんてできやしないもの」

かずさ「そうかな? 案外麻理さんならできてしまいそうだとは思うけど?」

麻理「それをいうのならかずささんの方ができてしまうじゃない」

 この後お互いの弱点を抉りだすように言いあったのは割愛しておくわ。
 絶対春希には聞かせられない内容だし、
お互い言われた事が事実過ぎて、さらにヒートアップしちゃったのよね。
ようやくお互い落ち着きを取り戻せたときには肩で呼吸を整え、顔を真っ赤にして見悶えていた。

麻理「そろそろやめにしましょう。不毛すぎるわ」

かずさ「……だな。でも、麻理さんも案外子供っぽいところがあるんだな」

麻理「だからぁ……、もうやめましょうよ」

かずさ「これは違うよ。これはあたしが安心したっていうか、仲間意識みたいなものかな」

麻理「と、いうと?」

かずさ「あたしはまだまだ大人になれてない。でも、社会人の先輩でもある麻理さんでさえ
    完全には大人になれてはいないんだなってわかって、安心したというか」

麻理「それはどんな大人でもあることよ。なまじ社会的地位がある人が子供っぽい理屈で
   権力を振りかざすものだから、周りにいる人間にはいい迷惑よって話がよくあるわ」

かずさ「そういう輩は、とっとと大人になるべきだ」

 あら? 眉をひそめちゃって、誰か思い浮かぶ人でもいるのかしらね。

麻理「でも、仕方ないわ。だって、大人と子供の明確な境界なんてないんだもの。
   人が勝手に境界線をひいているだけよ」

かずさ「それはそうだな」

麻理「でしょう?」

 いつもきつい目つきをしているのに、こうやって柔らかい笑顔も見せるのね。
 コンクールの為にニューヨークに来たというのに、
春希だけじゃなくて私っていう邪魔者までいたら気を抜く事が出来ないわよね。
 でも、最後にこの笑顔を見れたってことは、少しは許されたのかしら?
 …………ううん、許されることなんてない。

かずさ「じゃあさ、この境界も曖昧だよな」

麻理「どんな境界かしら?」

かずさ「友達と恋人」

 やはり私は許されてない、か。そりゃそうよね。
 心のどこかで期待している気持ちがあったようで、落胆していくのがわかってしまう。
 さっきまでかずささんにつられて笑顔を見せていたはずなのに、
私の体から熱が急激に奪われていっているのが実感できてしまった。
 これも罰なのだろう。許されることなんてない罪なのだから。
 だったら素直に罰を受けるわ。それを望んでもいたんだし。

かずさ「ちょっと待って。ちょっと待ってよ」

 目の前でかずささんが困惑した顔で必死に手を振っているわね。
 どういう意味かしら?
 体温が下がってしまうと思考も落ちるって言うし、幻かしら? 
だって困惑した顔ではなくて怒っている顔をしているはずだもの。
 
かずさ「麻理さんっ。ねえったら。ちょっと」

 今度は強硬手段にでたらしく、私を両肩を激しく揺すってくる。
ただ、私のことであるはずなのに、私の心と体は切り離されてしまっている。
 いくら揺さぶられようと心が暗闇の中に沈んでいくようで、それがむしろ気持ちよかった。
 もう何も考えなくてすむ。嫉妬も後悔も懺悔も何もない。
 でも、…………もう一度だけ春希には会いたかったかな。

麻理「痛たっ!」

 頬が熱い。目もくらっとくるくらい熱くて若干ぼやけているような気もする。
 頬に手をあて冷やそうとしても効果がないってわかっていても手で頬を冷やし、
現実を確認していく。
 目の前には息を切らせ肩で息を整えているかずささんがすごい形相で私を睨んでいる。
 なにかあったのかしら?
 あぁ……、私の事を恨んでいるのよね。だからか。
 でも私、なんて言ったのかしら?

かずさ「怒ってないから。恨んでもない。そりゃああたしも嫉妬くらいはするさ。ううん、
    すっごく嫉妬してる。でも、麻理さんがいなくなればなんて思ってないから。
    春希の前から消えてくれなんて思ってないから。だから、しっかりしてよっ。
    ちゃんと前を見てよ。あたしを見てっ」

 私がふわふわとした感じのままかずささんを見つめていたら、
かずささんは私の両肩を掴む手に再度力を込めて揺さぶってくる。
 その必死さがこれは現実であると脳に刺激を与え続ける。
 そして私の焦点も定まり、何があったかをいっぺんに理解していった。

麻理「大丈夫だから。大丈夫、だから……」

かずさ「ほんとうか?」

麻理「本当よ」

かずさ「……そっか」

麻理「ごめんなさい。私よりかずささんの方が傷ついているのに、私って弱いわね」

かずさ「あたしも負けないくらい弱いからいい勝負だって」

麻理「あまり競いたくはない勝負ね」

かずさ「だな」

麻理「ええ……」

かずさ「さっきは誤解するような質問して悪かった。友達と恋人の境界について
    聞いてみたのは、麻理さんのことじゃないんだ。あたしのことなんだ」



第60話 終劇
第61話につづく




第60話 あとがき


猛暑もいくぶんやわらいできましたが、残暑がライフを削っていきます……。
来週も月曜日に掲載できると思いますので、
また読んでくださると大変嬉しく思います。

黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

冬馬かずさSSにあったので本作を読ませて頂きましたが、高校時代、二番目に好きな女性に良い顔をして、結果、二人の女性を傷つけた男が、微塵の反省もなく今度はまた別の女性を自分に依存させ、つきっきりで介護をする展開に心底胸くそ悪くなりました。
作者様の中ではこれが『春希』で『かずさ』で『麻理』なんでしょう。そのことをとやかく言うつもりはありませんが、この『春希』なら本編のcodaで雪菜を含む全てを投げ捨ててかずさを選ぶことはないと思いますので(雪菜もかずさも幸せな大団円を目指すことでしょう)、本作を冬馬かずさSSに置くのはやめていただけないでしょうか?長編SSやその他SS、風岡麻理SSに本作があれば、かずさや、かずさを他の何より優先する春希が好きな人間を下手に期待させずに済むと思いますので

0
Posted by 白 2015年08月25日(火) 07:58:49 返信

更新お疲れ様です。
かずさと麻里さんお互いに春希に対しての惚気あい+腹の探り合いの様な会話ですね。しかしながら余り感情的なものではなく相手の立場も理解しての冷静な会話ですね。かずさの方が少しだけ強く主張していたでしょうか?
春希がその場にいたらどんな反応をしたんでしょうね?
次回も楽しみにしています。

0
Posted by tune 2015年08月24日(月) 07:52:00 返信

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