第65話



千晶「って、感じだったかな」

麻理「佐和子のやつぅ……」

 ちょっとした小芝居をまじえつつ、当時の事を思い出しながら演じてゆく。
 自分を自分で演じるのは案外難しい。自分を客観的に見ている人なんていないのだから当たり前か。
 春希にとっても和泉千晶はどうみえているのかな? きっと面倒な奴って思っているん
だろうけど、まあいいか。それでも面倒をみてくれているんだから感謝しなくちゃね。
 佐和子さんの出来はまあまあかな? 麻理さんも嫌な風にはみていなかったようだし。
 しかし、麻理さんも最初こそは佐和子さんのことを懐かしそうに聞いてはいたが、
話が進むにつれて顔を赤めていってしまった。
 春希の方はそんな麻理さんに対してどう接していいのかわからないようで、
ただただ沈黙を続けるしかないみたい。それに、ここでわざとらしく春希が介入しても、
わたしの餌食になるだけなんだけどね。
 だから春希。なにか面白いことしてほしいなぁ。

千晶「佐和子さんも悪気があったわけじゃないし、いいんじゃない?」

麻理「あなたが言うかなぁ?」

千晶「わたしだからこそだって。それに、佐和子さんと一緒にこの本買ってきてあげたんだ
   から感謝してよね。こっちじゃ売ってないんでしょ? でもほんとうはもう買って
   あるとか? わざわざ日本から取り寄せるなんて、よっぽど好きじゃないとできないよね」

 そういいながらわたしが差し出したものは、いわるゆレディコミ。
 しかも麻理さんお気に入りのシリーズであり、
カフェで佐和子さんと待ち合わせた時に教えてもらった本でもある。
 表紙は、……まあ、ふつうなのかな? よくはわからないけど、
見た目だけではそういった内容なのかはわからないと思う。絵柄は綺麗だし、
本屋に置いてあってもジャンル分けしてなかったら気がつかないはずかな。
 春希はというと、ぽかんとしながら本を見つめている。内心どきどきなはずだけど、
どう対処していいかわからないという点では、今の表情と一致しているかな。
 そして麻理さんはというと、予想通り過剰なまでの反応を見せてくれている。
今にも逃げ出しそうなくらい顔を赤く染め、両手を震わせていた。

麻理「買ってないからっ」

千晶「そっか、買ってなかったんだね」

 勢いよくわたしにくってかかってきたのものの、わたしがあっさり引き下がったもの
だから、麻理さんの体から力が抜けていく。
そして一度かき集めたエネルギーをどう発散すべきかと戸惑っているかんじでもあった。
 その一方で春希ときたら何を思ったのか、身を固くして警戒レベルをあげたようだ。
 …………でも正解。春希のその反応正解なんだな。

麻理「そうよ。私は買ってないわ」

千晶「そうだよね。さすがに最新刊は買ってないよね。アメリカじゃあ売ってないだろうし、
   日本から取り寄せるにしても春希と一緒に住んでいたんじゃ難しいよね。しかも
   一日中べったりと二人でいる事が多いみたいだから、なおのこと隠し事は困難を極めるよね」

麻理「和泉さん?」

千晶「素直になろうよ。だって麻理さんがこの本を読んでいるの知ってるんだからさ。
   それともこの本処分しちゃってもいい?」

麻理「かまわないわ」

千晶「ほんとうにぃ?」

麻理「本当よ」

 わざとらしく下から覗きこむように麻理さんを見上げると、さすがに羞恥心が満ち溢れて
いるようで、麻理さんは逃げるようにわたしから視線をそらす。
 そのそらした視線の先には当然のように春希がいるわけで、日ごろの習慣というか、
春希を信頼しているっていうか、春希に頼りきっているっていうのがよくわかってしまった。

 まっ、今回は春希にさえも見せたくない事実であったわけで、
麻理さんは春希と目があった瞬間、逃げるように視線を自分の膝に移したんだけど。

千晶「じゃあ春希読む? わたしは舞台が終わっちゃったからこれいらないし、
   べつに手元に置いておきたいわけでもないんだよね」

春希「いや、俺は……」

千晶「内容としては春希も楽しめるんじゃないかな? 年上の女上司が若い部下と同棲する
   っていう話だし、親近感もわいて楽しめるんじゃない?
   もしかしたら今後の参考にもなるかもよ?」

春希「えっと、その……」

さすがに春希も手を出せないか。そりゃそうよね。なんたって麻理さんが今にも泣きそうだもん。

麻理「は、春希ぃ……」

春希「俺は読みませんから。ほら千晶。麻理さんも困ってるだろ。ちょっとやりすぎだぞ」

千晶「わかったわよ。はい、麻理さん」

麻理「え?」

 わたしは処分に困っていた本を麻理さんに差し出す。
 麻理さんはその本を目の前に差し出されて困惑しているみたいだけれど、これが最善かな。

千晶「わたしが持っていてもしょうがないし、捨てるにしても春希には見せたくはない
   でしょ? ほら、教育上よくないっていうかんじ? だから麻理さんが処分してくれる
   と助かるかな。わたしが日本に持って帰ってもいいけど、そうすると、
   いつ春希がこっそりと盗み出して読むかわからないしさ」

春希「俺はそんなことしないって」

千晶「ちょっとぉ、春希は黙っててよ」

 ほんのちょっときつめの顔を作り出し、春希を会話の外へと追いやる。
 でも、ちょっとかわいそうだったかな。
なんだか子犬が飼い主の不機嫌さに脅えているっていうのかな。

春希「わ、わかったって」

千晶「で、麻理さん。どうかな? 麻理さんが処分してくれると助かるんだけど」

麻理「わかったわ。私が処分しておくわ」

 麻理さんは渋々と本を受け取る。なんというか、ちょっとばかりやりすぎたかな?
 ほんとうはもっと軽い感じで冷やかすつもりだったんだけど、
あまりにもラブラブすぎてね。しかも、当の本人たちは無自覚だし。
 だから、今回だけは麻理さんをフォローしておいてあげよう。だから春希。許してね。

千晶「まっ、内容としては春希の秘蔵コレクションには及ばないマイルドな感じだったかな。
   過激な描写はほとんどなくて、ストーリー重視だったから、レディコミの中では
   おとなしめっていうの? 役作りのために渡されたレディコミのなかでは面白かったと思うよ」

麻理「そう?」

千晶「ストーリー自体はありきたりだとは思うし、わたしが似たような題材で脚本作れって
   言われたら見向きもしないで断るとは思うけど、それでもなんていうか、あったかい。
   そう、ほのぼのした内容だと思うな」

春希「なんだかんだ言っても千晶も読んでいるじゃないか」

千晶「だから読んだっていったじゃない。これでも女優よ女優。役作りのためにはなんだってやるって」

春希「すまない」

 やばっ。まだ春希に対しては刺々しさを解除してなかったわ。
なんだか可愛らしく震えているから、抱きしめてあげたいかも。
 …………自分で虐めて、自分で慰めるって、なんだかなぁ。
 でも、最後の仕上げがあるから、それが終わるまでは許してね。

千晶「でもさぁ、過激さっていうの? 女も男も変わらないよね」

春希「千晶?」

千晶「だってさぁ、春希秘蔵のコレクションを見た時は、春希も男の子なんだなって思える
   ような趣味だったけど、女も澄まし顔をした顔の下には春希と同じような狂気があるんだもん」

春希「千晶っ、お前……」

千晶「春希っていつもはまじめですぅって感じだけど、やっぱり頭の中はエロい事も考えて
   いるわけじゃない? だからさ、人間本質はみんな同じなのかなって」

春希「おい千晶」

 春希がなんか言ってきているけど、ここは無視しかないでしょ。
 というか、ここは春希がピエロになってくれないと麻理さんがかわいそうでしょうよ。

千晶「でもさぁ……、春希の趣味って変わってるよね。アブノーマルとまでは
   いかないけれど、あれはちょっとひいちゃう人もいるんじゃない?」

春希「おい千晶ってば」

 無視ばかりしていたものだから、春希ったら今度は実力行使?
 わたしの両肩をつかみ揺さぶるその姿には、理知的な様相は吹き飛び、
いわるゆ年相応の男にしか見えない。
 焦っているし、本人も自分の行動を客観的には判断できてはいないのだろう。
 まあ、後ろめたい事があるからしょうがないかな。
だってなにも後ろめたい事がなかったんなら、わたしの戯言を突っぱねればいいだけだしさ。
そうすれば、ここにはわたしと麻理さんしかいないわけだから、
当然ながら麻理さんは春希の主張を信じるはずだ。
 つまり、春希が焦っている時点で、自白しちゃったんだよ、春希。

千晶「ん? なにかな北原春希君?」

春希「まずはその憎たらしい顔をやめてくれ」

千晶「これはデフォルトだから無理」

春希「じゃあ、その挑発的な発言をやめてほしい」

千晶「挑発的?」

春希「そうだろ?」

千晶「まっ、春希からしたら挑発的かもね。
   だって、春希がニューヨークに来る前に日本で証拠はすべて消去しているはずだしね」

春希「千晶?」

 わたしの肩を掴んでいた両手から力が抜け落ち、その手のひらはわたしの腕をするするっと
滑り落ちていく。そしてすとんと両手が宙に放りだされると、
春希の体が一回り小さくなってしまった気がした。

千晶「裁判の判決とか雑誌の記事とかだと証拠が大事だよね。
   裏付けがない情報なんて嘘だってはねつけられちゃうみたいだし」

春希「千晶、さん?」

千晶「わたしがパソコンに詳しかったらデータを普及できるかもしれないけれど、
   そんなのは無理だし、もしかしたらパソコン本体は無理でもハードディスクくらいは
   交換しているかもしれないのよね」

春希「和泉、さん?」

 だんだんと涙声になってきてない? 泣くような事かなぁ?
 ほら、性欲って人間の三大欲求の一つだし、悪い事ではないと思うよ。
 ………………春希を追い詰めているわたしが言うのはどうかとは思うけど。

千晶「でもさ、もし春希の家に寝泊まりとかして、寝泊まりとまでもいかないまでも頻繁に
   春希の家に行く事があったとして、そして春希がその相手にパソコンを貸して
   あげたりする事もあったりしたら、どうなのかなぁ? ほら、よくあるデータのコピーとか?」

 ………………あっ。

千晶「大丈夫だって。いくらわたしでも春希の秘蔵コレクションをコピーしてないわよ。
   ほら泣かないでよ。ねっ、ねっ、春希ちゃん」

 やりすぎちゃったかな?
 床に崩れ落ちるその春希の姿に、さすがのわたしも戸惑いを隠せない。
 このままだとやばくない? 最悪、麻理さんに追い出される気もしないでもないし。

千晶「本当に春希の秘蔵コレクションのコピーはとってないから安心してよ。春希が
   マンションから実家に戻ってくるときに綺麗に消去したじゃないの。だから、ね。
   ほら。データはないんだよ。
   春希のマンションでデータを消しちゃったから、もうないの。わかる?」

麻理「あのね、和泉さん」

千晶「麻理さん、なに?」

麻理「それ、全然フォローになっていないわよ。むしろとどめを刺したというのかしら?」

千晶「げっ……」

 床には死体が…………、ではなくて春希の目から生気が消えかけていた。
 ごろんと床についた両手がみょうに哀愁を語っていて、この私でさえどう対処していいか
わからなくなってしまう。下手すれば春希に必要もないトラウマさえ植え付けてしまいそうだ。
 …………なんとかしなくちゃやばい。
 それは麻理さんも同意見だったらしく、
麻理さんはわたし以上に真剣に春希のフォローに入ろうとしたいた。

麻理「大丈夫よ。春希も男なんだし、エッチなことに興味がない方が不健全よ。
   だから、そのね。元気出して」

春希「……麻理さん」

 こいつぅ。わたしには無反応だったくせに、麻理さんには反応するって、なによ。

千晶「そうだよ春希。黒いストッキングが好きだなんて、ちょっと趣味が偏っているように
   思えるけど、それ以外は普通だよ。うん、SMとかに走っちゃっていない分
   健全だと思うな。だから春希。落ち込む必要はないから」

 わたしもわたしなりにフォローをしたつもりだったのだけれど、
わたしの発言を機にふたりの視線は麻理さんの足へと向かう。
 正確に言えば、太ももからふくらはぎかな。
 わたしもふたりの視線につられて麻理さんの脚を見てみたが、
これといって変わっている箇所はないと思えた。麻理さんはくるぶしまである靴下に
スリッパを履いていて、どこにでもある組み合わせだと思う。
 まあ、今日は自宅で仕事だと言っていたわけだから外行きの服装ではないはずだ。
もし外で会っていたらそれなりの服装はしていたはずだけれど。
 …………まさか?

千晶「もしかして、麻理さんって普段黒いストッキングを愛用しているとかしてないよね?」

 あっ、沈黙。
 でも、麻理さんのはにかんだ笑顔が私の予想が当たっていると結論付ける。
 麻理さんが普段どんな服装をしているかは知らないけど、黒いストッキング愛用かぁ。
 そりゃあ麻理さんは喜んじゃうよね。
 これは麻理さんには言わないけど、言ってしまうと春希をさらに追いこんじゃうわけ
なんだけど、別に春希秘蔵コレクションは黒いストッキングばかりってわけでもなかったんだよね。
 黒髪ロングの綺麗な人が基本って感じだったかな。
 それで、年上のお姉さんって感じが半分。
あとの半分は、目つきがきっついとういか、まあ冬馬かずさ系なんだろうけどさ。

千晶「えっとぉ、その。春希、ごめんね?」
どうにもおもっ苦しくて面倒な気配が春希から溢れ出てくる。焦燥とでもいうのだろうか。
さっきレディコミの時は麻理さんが逃げ出そうとはしてはいたが、
あれはある意味パフォーマンスなんじゃないかって勘ぐってしまう部分もある。
 同性の女であるわたしからすれば、ちょっと恥ずかしい事実を彼に見つかってしまい
照れているって感じであり、いわば甘えている、とさえ言い変えてしまう事ができる。
 なんていうのか麻理さんがそういった駆け引きができる人ではないとは思うので、
ナチュラルでやってしまっているところが末恐ろしくはあるのだが。
 一方春希といえば……、崖の前で立っている自殺志願者?
 かなり大げさな感じではあるとは思うけれど、どうもこの表現がしっくりしてしまう。
 深刻になやんでいる春希には悪いけど、たぶん麻理さん、喜んでると思ううよ?
 うん、なんていうか…………、うん、死んじゃえ。
 そうしないと、こっちが悶え死ぬじゃないのよ。



 どのくらいの時間を待ったのだろうか。
 何度か二人に声をかけて場の雰囲気を変えようとしてみたものの、
どうやらわたしでは力不足だったらしい。わたしが爆弾を投下したわけで自業自得では
あるが、この桃色の甘ったるい空気、じわじわとわたしの精神を削っていく。
 春希も春希で、最初は絶望していますっていう顔をしていたくせに、
麻理さんの甘ったるい雰囲気にのまれちゃってさ。だらしがないんだから。
 そんなわけで、わたしは拷問に等しい時間を甘んじて受け入れていた。
 そして、甘い沈黙をやぶったのは当然というか麻理さんであった。

麻理「それより春希」

春希「なんです?」

麻理「わたしにも水をくれないかしら? 喉が乾いちゃって」

春希「あっ、はい」

 麻理さんの要請に、春希は自分が持っていたペットボトルを麻理さんに手渡す。
そして麻理さんの方も、最初から春希からペットボトルを受け取るつもりだったのか、
一直線に春希の手へと手を伸ばした。

麻理「ありがと」

春希「いえ」

 短く言葉をかわした麻理さんは、緩く締めてあったペットボトルのふたを開け、
そのまま口をつける。そして中に入っていた水を喉に流すことで、
ようやく面倒な来訪者の襲来に一息つけたようでもあった。

春希「ん? 千晶、どうかしたか?」

千晶「ううん、なんでもない。けっこういい部屋に住んでいるんだなって思ってただけだって」

春希「そうだな。俺が自分の財力だけで維持しなければならないとしたら無理だよな。
   こればっかりは麻理さんに頼りっぱなしでなさけないよな」

千晶「今はしょうがないんじゃない? 春希も頑張ってはいるんでしょ?」

春希「頑張るのは当然だからな。麻理さんも頑張ってるから、俺がいくら頑張ろうと
   なかなかその差は埋まらないから焦ってしまうときさえあるんだぞ」

千晶「たしかに」

麻理「春希は自分のペースで成長していけばいいのよ。
   それに、今年からは春希も家賃を入れてくれているじゃない」

春希「ちょっとだけで申し訳ないと思っているんですけどね」

麻理「そんなことはないわ。私の方が……ね」

麻理さんは申し訳なさそうに渋い顔をすると、手に持っていたペットボトルを春希に返した。

千晶「わたしも喉が渇いたんだけど」

春希「悪い。今用意するからちょっと待っててくれ。水でいいか?
   炭酸がはいってるのもあるけど?」

千晶「じゃあ炭酸入りの方で」

春希「わかった、ちょっと待ってろ」

 キッチンの方に消えていく春希の後姿を見送ると、
わたしは春希が置いていったペットボトルに目を移す。
 たしかにこの部屋はいい部屋だと思う。日当たりも良さそうだし、
昼寝をするには最高な場所だとさえ思える。
 だけど、わたしが目にとめていたのは日当たりがいいリビングではない。
その部屋に住んでいる北原春希と風岡麻理の関係に意識が向かっていた。
 春希が飲んでいたペットボトルの水を麻理さんがそのまま飲む。
 中学生じゃないんだから、今さら間接キスがどうとか騒ぐつもりはない。
 麻理さんに張り合うわけでもないけど、日本にいた時はわたしも春希の飲みかけの飲み物を
奪い取ることはしょっちゅうあった。奪い取らなくても、飲みたいっていえば、
新しいドリンクを用意してくれるか、新しいのがなければ飲みかけのものをくれることもあった。
だけど、今春希と麻理さんの間にあるような自然なやり取りは構築できてはいなかったと思う。
 大学在籍時代にわたしと春希が付き合っていると宣言したとする。たぶんうちの学部の
人間だったら、やっぱり付き合っていたのか。ようやく付き合う事にしたのかなど、
わたしと春希が付き合っていると「思ってくれる」だろう。
 もちろん大学の外でわたしが春希にじゃれついているところを他人が見れば恋人だと
勘違いしてくれるとは思うが、春希と麻理さんの関係はわたしと春希の関係の上をいっていた。
 今リビングでドリンクの受け渡しをしたような春希と麻理さんの関係を見れば、
春希たちのことを知らない人間であっても春希と麻理さんが付き合っていると
「思ってしまう」だろう。さらには夫婦であると「思ってしまう」人間も少なくないはずだ。
 恋人に近い関係と恋人そのものの関係には大きな差がある。
別に麻理さんに嫉妬しているわけではない。
 ただ、こうも近すぎる麻理さんと春希の関係は、冬馬かずさと春希のことを少なからず知る
わたしとしては、麻理さんに多大な心配を抱いてしまう。
 演劇でよく陥ってしまう錯覚。恋人を演じた役者が本当の恋をしてしまったと
錯覚して実際に付き合ってしまうというあの現象。
 わたしは役にのめり込む方だけど、劇は劇だと割り切っている。
でも、付き合ってしまう役者がいても悪い事ではないと思ってはいる。まあ、他人事だから
気にも留めないっていうのが実情だけど、これで二人がうまくやっていけるのなら問題はない。
もちろん別れてしまったのなら、やっぱり劇が陥らせてしまった錯覚だったんだなって思うだけ。
 でも、麻理さんと春希は、そんな劇が演出する錯覚の上をいっている気がしてしまう。
もうすでに夫婦とか恋人とか。嘘ではない事実になっているような……真実。
 だからわたしは麻理さんを心配してしまう。
北原春希と風岡麻理、そして冬馬かずさの真実をあらためて突き付けられた時、
麻理さんは大丈夫なのだろうかと、心を痛めずにはいられなかった。




第65話 終劇
第66話につづく




第65話 あとがき


もう少しすれば、また冬がやってくるんですね。
来週も月曜日に掲載できると思いますので、
また読んでくださると大変嬉しく思います。


黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

更新お疲れ様です。
春希と麻里さんをもて遊んでやろうという千晶の目論見の様でしたが返って2人のきずなの強さ(もしくは麻里さんの春希への依存度の強さ)を見せつけられて千晶も麻里さんの事を心配し始めている辺りこの後麻里さんは春希をかずさに返すことができるのか今後の展開が気になります。
次回も楽しみにしています。

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Posted by tune 2015年09月28日(月) 12:52:18 返信

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