「おい、春希起きろ!」
 突然かずさから無理やり起こされる。
 「今、何時だよ。う〜ん、まだ4時半じゃあないか。2時前に寝たんだからもう少しゆっくりさせてくれ。」
 寝ぼけた口調で、かずさに文句を言う。
 ここのところ仕事が忙しく朝早くから夜は11時過ぎまで働く日々を過ごしている。
 そして、それから夫婦二人による夜の残業を経て寝るのが2時過ぎ。
 さすがにこれが毎日ではさすがにクタクタになってしまう。
 せめて一日5時間くらいは寝させてもらいたいものだ。
 「で、どうしたんだ。何があった?」
 なんとか働かない頭を使って返事をすると
 「これを見ろ、春希。出来たんだよ。」
 弾むようなかずさの声。
 何をこんな早朝から喜んでいるんだ?
 「??? 何ができたんだ?」
 よく見るとかずさの手にはなにやら、体温計くらいの長さの白い棒をもっている。
 なんだ、熱でもあるのか?
 「いや、ちょっと待て。何かの間違えかもしれない。もう一回確認してくる。」
 突然寝室から出ていき、なにかをやりにいった。
 「なんなんだ。まあいいや、もうちょっと寝よ。」
 俺はまたうつらうつら船を漕ぎ出すと、またかずさに叩き起こされる。
 「おい、寝るな。これを見てくれ。もう一度私のおしっこをかけてきたんだがやっぱりできてるんだ。」
 えっ? おしっこ????
 寝ぼけた頭はぐるぐると回転し俺の頭の中は混乱する。
 そして、おしっこという言葉だけが、頭の中に残りとぼけた発言をする。
 「その白い棒に今おまえのおしっこがついてるのか?なんか少し臭うような気がするぞ。それも少し甘酸っぱいような。お前糖尿の気があるんじゃないか?」
 「な・・・・・・」
 わなわなと声が震えているような気がするが俺はお構いなしに説教じみたことを言ってしまう。
 「1日につきデザートは2個までって約束しているに、お前俺に隠れて食べてるの知ってるんだぞ。このままだと体を壊して将来大変なことになるぞ。もう若くないんだから体を大切にしないと・・・・・・」
 寝ぼけてはいるがこういった発言は慣れたものか、すらすらと頭からでてくるものだ。
 すると、薄ぼんやりした寝室の中、俺の寝ぼけまなこでもよくわかるくらいにかずさの顔色がみるみると青くなり、そして信号機が赤に変わるかのようなスピードで真っ赤に顔が染まっていく。
 「え・・・?え・・・?」
 何かまずいことでもいったか?
 「はるきぃぃぃぃ〜〜」
 かずさは鬼のような形相をし、俺をベッドから叩き落とした。
 そしてそのままジリジリと寝室のドアまで追い詰め
 「出て行け〜〜〜〜!」
 俺はかずさに蹴り出され、パンツ一丁の姿で寝室から追い出された。
 なにがなんだかわからないまま、立ちすくむ俺
 ふと足元を見ると、先ほどかずさが必死になって見せていた白い棒が落ちていた。
 「え・・・・・・ これって!」
 よく見ると真ん中あたりに赤い線が一本入っていた。
 自分のしたことの重大さに気づいたときには、もう時すでに遅しだった。




 家路に着く帰り道、俺の前を終始無言で歩いていくかずさ。
 「なあ、3ヶ月だってなあ。やったなかずさ!!!」
 なんとかなだめすかして、産婦人科に行き、しっかりとした検査を受けたあとでもかずさの機嫌は一向に治らなかった。
 診察を受けているときも、終始無言で頬を膨らませたままで、医者も看護師も不思議そうな顔をしていた。
 理由を説明しようにも、あまりにもくだらなく恥ずかしい事なので俺はただひたすら苦笑いをし、その場をやり過ごすので精一杯だった。
 「家に帰ったら曜子さんに連絡しないといけないなあ。今ならまだ日本の時間にも間に合うよな。」
 「・・・・・・・」
 「なあ、今夜はレストランへいってお祝いをしよう。お前の好きなものなんでも頼んでいいからさあ。」
 「・・・・・・・」
 「今日は食事ではウザイこと言わない。」
 「・・・・・・・」
 「すまない、かずさ。本当にごめん。お前の気持ちを踏みにじって本当に反省している。だから機嫌直してくれ、お願いだ。」
 「・・・・・・・」





 「4個だ」
 「えっ?」
 前を歩くかずさが突然何かを言った。
 「だから食後のデザートは4個注文するといったんだ。」
 「いや、いつも食後のデザートは2個じゃなかったけ?」
 俺は気の利かない返事をしてしまう。
 「私が2個、お腹の中の子の分が2個で4個だ。そんなのも分からないのか。」
 「かずさ・・・・・・」
 お前お腹の中の子も超甘党にするのかと、思わず言いそうになったが、これはかずさからの仲直りのメッセージだと理解した。
 「そうだな。今日は特別だ。でも明日からは俺がしっかりと食事の管理をしていくぞ。」
 「まったく、どこまでもウザイ奴だ。これからもっとウザくなると思うとゾッとするなあ。」
 どことなく呆れるような、笑うような声がした。
 「もういい、これで許してやるよ。さあ、早く家に帰ってかあさんに報告しよう。」
 そしてくるりと振り返ると、俺の腕をとりしっかりと組んできた。
 その時に見た笑顔はここへ来て初めて見る、心から幸せに満ち溢れた笑顔だった。



 かずさは今、春希の子を身ごもり母親になれる喜びを感じていた。 




 あとがき

 調子にのってもう一個書いてみました。
 ビデオレターの件はなかったという勝手な設定になっています。
 伏字のタイトルにまたなってしまったのは偶然です。
 長編は書ける実力がありませんので、スラップスティックで最後にちょっぴりほんわか風にしています。



written by tototo

このページへのコメント

素晴らしい! tuneさんが仰っているように春希の反応がさもありなんという感じで笑えます。ほのぼの路線、良いですねぇ。

0
Posted by SP 2014年05月22日(木) 23:22:01 返信

重い話は苦手なので、これからもこの系統でSSを書いていきます。あと伏字はあくまでも下ネタが入っているためでこれが続くとは限りません(笑)次の作品は以外な人物を主役にしておりますので、よかったらまた感想をお願いします。

0
Posted by tototo 2014年05月22日(木) 21:00:38 返信

前回と同じくコメディ系の話ですが、春希の反応がさもありなんという感じで、その後のかずさの反応や行動も同じくですねベタな話と思う方もいるかもしれませんが私は好きです(笑)。今後もタイトルに○○○が基本付くのでしょうか?

0
Posted by tune 2014年05月22日(木) 20:09:05 返信

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