美代子さんから連絡が来た時、
ウィーンは深夜だった。

この数ヶ月幾度と無く悪化と回復を繰り返していた病状は、
しかし確実に曜子さんの体力を消耗していた。


なぁ、お前はどうすればいいと思う?


かずさの問い掛けに、俺は答える事が出来なかった。

でも一つだけ確実なのは
俺が大切な家族を失おうとしている事実だった。




「行こう、日本へ」





空港に向かう二人は無言だった。
ずっとタブーとしてきた。
でも何時か必ず通らなくちゃいけない関門。

大切な肉親が出来たからこその
哀しい現実。


あたしはお前が行くのなら、
何処だって着いていく。
例え地獄の奥底でも。

でも春希。
お前は大丈夫か?


かずさの気遣いに胸が熱くなる。

「俺もかずさが一緒なら、地獄にだって喜んでいく」

精一杯の強がりだった。




ウィーンから成田への直通便。
搭乗手続きをする俺の携帯が鳴った。

「貴方達、まさか日本に来ようとしてるんじゃないでしょうね?」

紛れも無く曜子さんだった。

「貴方達の覚悟はそんな物だったの?
だとしたら期待外れ。
私はそんな奴らを、家族だなんて思いたくない。

血反吐を吐いても歯を食い縛って耐えなさい。
それが貴方達の負う十字架よ。」

かずさが携帯をひったくる。
その勢いを曜子さんの声が遮る。

「かずさ聞きなさい。
貴方は私の自慢の娘です。
昔貴方が私にくれた言葉の礼を、今送ります。

かずさ、生まれてきてくれてありがとう。
幸せになってくれてありがとう。
私はあなたの母親で本当に幸せでした。

そして今、親としての最後の勤めを果たします。

かずさ耐えなさい。」







美代子さんがそれから三週間後現れた。
何度も何度も頭を下げ、泣き腫らした目で。

かずさは泣かなかった。
子としての、最後の約束を守るため。




ねぇ春希。
昔のあたしはなんて馬鹿だったんだろうな。
母さんは世界一の母親だったんだな。




俺は無言でかずさを抱きしめた。




あとがき

リクエストあったので
Jakob ◆VXgvBvozh2

このページへのコメント

この話は、イイですね。
とても苦しいけど、之がこの選択をした避けることの出来ない結末。
セツナトゥルーの、ラストの一枚が、リンゴの皮むきをみるカズサ。
ドチラが、カズサにとっても、幸せだったのか?を、考えるとき、矢張りこの現実は避けては、考えられない。
そう思います。

0
Posted by のむら。 2017年01月22日(日) 00:05:47 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu

SSまとめ

フリーエリア

このwikiのRSSフィード:
This wiki's RSS Feed

どなたでも編集できます