まえがき

420 :名無しさんだよもん [↓] :2012/01/21(土) 03:33:24.22 ID:53UTQOEu0 (1/9) [PC]
このスレの頭のSS書いた人。6レス予定。最近書き出すと止まらない。でも続きじゃない。ウィーンでの2年間のスポット的なお話。
春希はもう、仕事的に独り立ちしてるのかな?

以下、最初の部分はウィーン語に翻訳してお楽しみください。



―冬馬曜子オフィス 欧州支部―

―時刻 19:47

春希  「…ですから、会場の手配、支払い等も含めて、必要経費は全てそちらでみていただけるというお話だったでしょう。最初の打ち合わせの際にもきっちりと確認させていただきましたし、契約書に添付されている実施計画書にも
     明記されています。そもそも今回のコンサートはそちらからのごり押しが発端で、はっきりいって、弊社にも、弊社のタレントにおいてもうまみは多くないものなんですが?」

春希  「…ええ、結構ですよ。こんな初歩的な意思疎通も図れないようでは、弊社としては手を引かざるをえません。…弊社のタレントは、近々ロシアでの権威あるコンクールに出場し、少なくとも、入賞することを確信しております。
     そうなれば、今回の件はますます無用、御社との関係も、はっきりいって不要ですので。…ではもう、よろしいですか?」

春希  「…ああ、そうですか。それでは、計画書通り進めるということでよろしいですね?…ええ、ええ。了解しました。それでは、コンサートに向け、万全の準備をお願いします。…ああ、後、今回の件で、弊社としては
     御社に対して不信を抱かざるを得ません。実施準備について、今週末に報告書の提出を求めます。また、会場の設営に入った時点で、私自らが現場に入ります。そこで、ひとつでも弊社のタレントがコンサートを行うに
     ふさわしくないと判断される要素があれば直ちに指摘させていただきますし、それが改善されないようであればその時点で手を引かせていただきます。もちろん、一切の保障は行いません。…それで、よろしいですね?」

春希  「…ええ、では、明日御社へ出向いて、今お話させていただいた内容について改めて書面での確認をさせていただきますので。ええ、ええ、では、くれぐれも、よろしくお願いいたします」

…電話を降ろす手から力を抜くのに、とても苦労した。業界のしがらみで無理やりねじこんでおきながら、ちゃぶ台返しをしようとするとは。オーストリアの国民性が陽気でおおらか、って誰がいったんだ?
だいたい、そういう社会でのしがらみを全く理解しようとしない弊社タレントを説得するのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。
それでも、多少は今後のそいつのためになると思って受けてやったっていうのに。

…駄目だ、がらにもなく熱くなってるな。ちょっとクールダウンしないと。今の件も、ちゃんとフォローを…。…また「お母さん」に迷惑かけちゃうな。すいません、曜子さん。

色んな方面でどうリカバリーしようかを考えながら…

それとは別に、何かひっかかりを、感じる。

というか、その「ひっかかり」の正体は、わかっているような…。
わかっていて、脳が思い出すことを拒否しているような…。

とても重要な何かがあった、よな…。

―予定外のトラブルで、想定外に時間をとってしまっていた。
―とても重要な「約束」を、すっかり失念していた。
―時計を見るのが、ちょっと、いや、とても怖い。

…今、何時…

―時刻 20:04

…あ。…過ぎちゃってる。
…まずい。
…非常にまずい。

Brrrr Brrrr Brrrr

事態の深刻さに、一刻も早く連絡しようと携帯に手をかけたとき、その携帯に、着信が入った。
…今一番リカバリーしなきゃいけない人物からの着信であることは、あまりにも明白で。
…それにしても、弊社タレントは気が短すぎやしないだろうか。

なんだろうこの感じ…。電話を取りたいような、取りたくないような。声を聞きたいような、…声を、聞きたいような。

…Pi

春希  「…はい、もしm
かずさ 「おいっ!!何で帰ってこないんだ!!」

耳をつんざくかずさの怒声。…それはやっぱり、聞きたい声だった。

俺は、かずさの言動にではなく、自分の心の動きに一種の理不尽さを感じながら、平謝りする。
これこそが聞きたかった、って思うのは、…駄目すぎるよなあ。

春希  「悪かった!悪かったってば!」
かずさ 「謝って欲しいんじゃない!なんで帰ってこないのかって!ひとつの連絡もよこさないのかって聞いてるんだ!今どこにいるんだよ?!」
春希  「…事務所だよ。仕事してたの、頑張ってたんだよ、俺」
かずさ 「そんなの知るか!というか仕事なら持って帰ってすればいいだろ?なんでそんなとこにいなきゃいけないんだよ!」
春希  「想定外のトラブルがあったんだって。それd
かずさ 「それで、時間を忘れて、あたしとの約束を忘れて、仕事、してたって?何なんだよお前、ほんとに何なんだよ!」

かずさの怒声が、徐々に涙声まじりに変わってくる。
…仕事と恋愛、って昔からあるはなしだけど。ここまで極端なのは、なあ。

確かに約束したよ?
「毎日、かずさの練習が終わるころの、20:00までには家に帰る。どうしても駄目なときは、必ず事前に連絡する」って。
でもお前…、たった数分も、待てないのかよ。

…喜んでる俺が、いっていいことじゃない、けど、な。

春希  「悪かった。本当に悪かった。いますぐ帰るから、な?」
かずさ 「…今から帰ったって、後、数十分はかかるじゃないか…。なんでそんなに待たされなきゃいけないんだ…。
     20:00までに帰るって、絶対帰る、って約束、したのに…」

俺は、約束の内容が飛躍していることに苦笑する。

春希  「超特急で!超特急で帰るから!」
かずさ 「…やだ。待てない。あたしもそっち行く。どっか途中で落ち合って
春希  「馬鹿。そんなことしなくていい。約束破ったのは俺の方なんだから、お前は待っててくれればいいんだよ」
かずさ 「馬鹿はおまえの方だ。約束なんて、今日は、今は、どうだって、いい。…早く、早く会いたい、会いたいんだよ、春希」
春希  「…かずさ。ごめん、本当にごめん。でも待っててくれよ。今日はもうタクシーで帰るからさ。
     …その間もずっと、お前の声を、聞いてるからさ」
かずさ 「…はるきぃ」

必要最小限の帰り支度を最速で済ませ、俺は事務所を出る。

かずさ 「…はるき」
春希  「…なんだ?かずさ」
かずさ 「…ごめんな」
春希  「何を謝ってんだよ。約束を破ったのは俺のほうだろ?」
かずさ 「…ほんとはさ、わかってるんだ。わかってるんだよ。おまえがさ、あたしのために頑張ってくれてるって」
春希  「…かずさ」
かずさ 「…でもさ、やっぱり駄目なんだよ、あたし。駄目なときがあるんだよ。お前があたしのこと愛してるって。あたしだけのこと、愛してるって信じられても、駄目なものは駄目なんだ。駄目なときは、もっと駄目なんだ。
     …お前がそばにいてくれなきゃ、駄目、なんだよ」
春希  「…なんか、あったのか?」
かずさ 「…ううん、何もない。朝、お前の胸の中で目覚めて、お前と一緒に朝ごはん食べて、お前とキスして別れて、ピアノに向かってお前のこと考えて…
     それだけ、それだけの、幸せな、一日だった」

…昼飯はどうした、って突っ込みたいところだったけど。他にも色々と言いたいことはあったけど。
俺の胸が満たされていることが、一番駄目なところだったから、何も言えなかった。

かずさ 「…お前が、約束を破ったこと、以外は」
春希  「…」
かずさ 「…春希ぃ、はるきぃ、はやく、はやく、あいたい、よお」
春希  「…ああ」

タクシーを呼びとめ、乗り込む。行き先を告げる。
熾火はもう、燃え盛っている。…十数分ほど、かずさに遅れをとって。

かずさ 「…春希ぃ、あたしを、不安にさせないでくれよ…」
春希  「…かずさ、…かずさ、ごめんな?」
かずさ 「信じてても、不安なんだよ…。一度それが出てきたら、もう駄目なんだよ…」
春希  「…今日は、いつもより、キスしよう?抱きしめあおう?」
かずさ 「…うん、…うん。」
春希  「…かずさ、俺も会いたい。お前に会いたい。いますぐに会いたい、よ」
かずさ 「…春希ぃ、…遅い、よ」
春希  「…そうだな。いつだって俺は、遅いよな」
かずさ 「…そうだよ、いつまでだって、春希は、足りない、足りないんだよ。全然、足りない」

俺は、俺たちは、いつしか、胸を焦がしていて。
いつまでも、胸焦がし続ける。

早く、早く、会いたいな。かずさ。

…五年間、くすぶっていた火が、熱量が、そう簡単におさまるはずなかったんだよな。
…それはいつも、俺の裏切りによって、より一層燃え盛るものだったよな。

早く、早く、会いたいな。かずさ。

あの時、ストラスブールで出会った、お前に。
いつも、五年間会えなかった、お前に。

あとがき

終了。張ってて思ったけど、ちょっと現状肯定しすぎだな。ノリで書くとこういうことになる。
でもま、こういう日もあったってことで。

2012/1/28 作 再編

このページへのコメント

すごく良かったです!
今年になってWHITEALBUM2を始めて、一昨日全ルートを終えたのですが、どうしてもまだものがたりから抜けられなくて2次創作を漁っていたら2020年もこうして書いていただける方がいて嬉しかったです。

4
Posted by fujara 2021年02月04日(木) 21:41:13 返信

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