……春休みも残すところあと十日程となったある日のこと……。

「……なあ、本当に俺もやるの?」
『もちろん。お願いね』

 そんな扉越しの会話の中、北原春希は何ともいえない表情でクローゼットを漁る。
 扉の向こうで着替えをしているであろう小木曽雪菜の要望で。





 ……きっかけは、小木曽家の家族旅行だった。
 孝宏の付属卒業と大学進学を兼ねた祝いとして、春休みに小木曽家で旅行に行こうということになったのだ。
 その話が出た時、雪菜は今回も残ろうとしたのだ。何せ春休みの間、バレンタインコンサートの無断出場などで父から外出禁止を言い渡されていたせいで、春希と過ごせる日が全くといっていいほどなかったのだから。
 しかし、そんな雪菜の意見はその父によってあっさりと却下された。だが雪菜の方も、今まで外出禁止を言い渡しておいて勝手すぎる、と反論した。
 すると父の方も、家族の祝いの旅行を無駄にするのかと言い出し、収拾がつかなくなってしまった。
 そんなすったもんだの末、雪菜の外出・外泊禁止を解くという条件と引き換えに、雪菜も参加することになったのだ。
 雪菜としても、家族が留守の間に春希と二人で過ごしたかったのだが、条件を呑めば自由に春希のところへ行けると考え、承諾したのだ。
 なぜなら、家族旅行の話がでたことで、あの日……三年前の誕生日に雪菜が望んでいたことを、ちょっと形を変えて春希に頼もうと画策していたのだから。





「……で、それが、この格好?」

 着替え終わった春希が雪菜に問い質す。

『まあ、ね。だってあの日、ずっと待ってたんだよ、春希くんのこと』

 雪菜も既に三年前の誕生日のことは、春希に話してある。だから春希もあまり乗り気でないながらも承諾したのだ。

『あの日から……春希くんと、ずっとこうなりたかったんだよ』

 だから、せめて気分だけでもあの頃に戻ってやり直したい。
 それが、雪菜の要望だったのだ。

「……お待たせ〜」

 そして、雪菜も着替えを終えて部屋に入ってきた。
 ……かつての、峰城大学付属の制服を身に纏って。

「……なあ、やっぱり、この格好でするのか?」

 同じく制服姿の春希が、渋々ながらも尋ねる。

「うん。いいよね、せっかくなんだし」

 ……いや、ちょっと待て。
 確かに雪菜の制服姿は久しぶりだし。
 それに、やっぱりとても可愛いし。
 ……じゃなくって!
 今さらこんな過去を穿り返すようなことをしなくても。
 俺たちには今が大事なんであって……

「春希くん、慌てないでいいからね」
「え?ええ?」
「だって、ほら、もう」

 物思いに耽っていた春希が我に返ると、春希の手は既に雪菜の着ていたブレザーを床に落とし、肩を押さえている。

「〜〜〜〜〜っ!」

 ……な、何やってるんだ俺はぁ!
 春希は、雪菜の肩を掴んだまま、ガックリと肩を落とした。
 ……お、落ち着け。落ち着くんだ俺。
 そりゃあ確かに薄手のブラウスも何だかセクシーだし。
 丈の短めのスカートから伸びた脚も健康的で……。
 ……だから、そうじゃねぇだろ!
 今を大事にしようって時に、あの過去を思い出させなくても。
 無理なんかしなくたって、俺たちは、もう……

「だからぁ、慌てなくてもいいんだってばぁ」
「……はい?」
「もう、今日の春希くん、ちょっと強引だよぅ」

 雪菜は、春希に肩を掴まれたままベッドに仰向けに横たえられ、春希に組み敷かれるような体勢になっている。

「……」

 ……やばい。
 俺、無意識に興奮してる?
 雪菜に乗せられてこうなっちゃったけど、実は俺も乗ってきちゃってる?
 ……いやいや、だから落ち着けってば。
 このままじゃあ、あの辛かった冬を思い出すかもしれないのに。
 お互いに、過去の傷を抉るだけになるかもしれないのに……。

「……ふあ、あぁん」
「……え?」

 雪菜の艶めかしい声に、春希はふと雪菜の肩を掴んでいるはずの掌の感触が、いつしか柔らかいものになっているのを感じた。
 見ると、春希の両手は服の上から雪菜の胸を鷲掴みにして揉み上げている。

「うわああぁっ!」

 あまりの展開に仰天していながらも、春希の手は雪菜の胸から離れない。

「うぅん、あぁ、ふあぁ、はあぁっ……」

 しかも、雪菜の声に合わせるかのようにリズムをつけて揉み続ける。

「せ、雪菜、あの、その」
「ううん、いいんだよ。続けて」
「え、でも」
「いいから、わたしのこと、あなたの好きにしていいんだからね」

 雪菜の言葉に、ついに春希の理性は完全に崩壊した。
 春希は勢いそのままに、雪菜の胸を掴んだまま顔を谷間に埋め、服越しに頬擦りする。
 春希の鼻息が雪菜の胸に掛かり、二人をさらに熱くする。

「ん、んうぅん。せ、雪菜……」

 すると、頬に雪菜の胸の突起が随分はっきりと感じ取れた。
 それに、心なしか、いつもよりも感触が柔らかい気が……。

「せ、雪菜……?」

 春希がその疑問を口にすると、雪菜は頬を染めて微笑んだ。

「うん、ちょっと胸がきつくて。それに……」
「それ、に……?」
「言ったよね?あなたのこと、ずっと待ってたって」
「あ、ああ……」
「少しでも早く、あなたを強く感じたかったから」

 そして一呼吸置いて、さらに頬を染めて。

「……付けて、ないんだ」

 ……ポツリと、呟いた。
 春希は再び両手で胸を揉み、服越しでも感じる柔らかさを堪能する。
 その度に雪菜のブラウスの裾がスカートからはみ出し、隙間から臍を覗かせる。

「……なあ、胸がきついって」
「うん……」
「……やっぱり、あの頃から、大きくなってるのか?」
「やだもう。恥ずかしいよ〜」
「……じゃあ、俺が楽にしてあげるから」

 そう言って春希は、雪菜の首のリボンを外し、ブラウスのボタンに手を掛け、慣れた速さで上から一つずつ外していく。
 雪菜が何か言いたそうな素振りだったが、それよりも早く春希が全てのボタンを外してブラウスを左右に開く。

「あっ……」

 ブラウスの下には、雪菜の言葉通り、春希が望む何も纏わぬ雪菜の素肌が。
 春希は左手で直に胸を覆い、指で乳首をクリクリと捏ね、掌で乳房の柔らかさを存分に楽しむ。
 もう片方の乳首に口を付け、唇で挟んで吸い上げ、歯で甘噛みし、舌で乳輪ごと舐めまわす。

「んむ、ちゅう、はむ、れろ……」
「うん、あっ、はぁ、ふあぁ……」

 雪菜が昂るのを感じながら、余った右手を滑らせ、モジモジとくねらせている内腿に這わせる。そこから少しずつ掌を上へなぞらせ、スカートの中へ……。

「……っ!」

 そこは既に春希の手をべったりと満たすほどの蜜で潤い、その熱さはいつもよりも強い。
 しかも、指先のこのかなりぬめっとした感覚……。
 驚いて見詰める春希に、雪菜はほんの少し視線を逸らして目を伏せる。

「言ったよね。付けて、ないって……」

 指の感触とその言葉の驚きで、春希は思わず身体を離してしまう。
 そんな春希を見て、雪菜は身体を起こして四つん這いに春希に近付く。
 そして隆々とそそり立つ春希のズボンの上から掌で優しくさする。

「ふふっ。春希くんのここも、すっごいきつそうだよ?」
「うっ。まあ……」
「じゃあ、わたしも春希くんを楽にしてあげなくちゃね♪」

 春希が驚くその間に、雪菜の手が春希のベルトを外しに掛かる。
 そしてズボンと下着を同時に下ろされ……。

「……うわぁ、やっぱりすごいね」

 左手で春希の強欲を包み、上下に優しくさする。

「あ、あんまり見ないでくれない?やっぱり恥ずかしいって」
「じゃあ、こうすればいいかな?」

 雪菜は春希の一物を、何の躊躇いもなく頬張った。
 途端、何とも温かく、ぬめりのある快感が春希を襲った。

「ん、じゅっ、じゅる、んぷ……」
「う、うわぁ、ああっ……」

 頭を上下に動かして内頬で擦り、舌で満遍なく舐めていく。
 さらに少しずつ吸引も始め、春希を攻め立てていく。

「ろう?はるひふん、ひもひいい?」
「あ、ああ。すごい気持ちいいよ」

 春希の言葉を受けて微笑んだ雪菜は、さらに勢いを強める。
 擦られ、吸われ、舐められ、様々な感覚に次々に翻弄され、春希は一気に昂っていった。

「んふ、んむぅ、ん、んっ、んぐうぅ、んむむぅ……」

 その時、不意に雪菜の行為のリズムに狂いが生じた。
 何かあったのかと思って見ると、雪菜は何故か表情を歪め、少し苦しそうな表情だ。
 ふと視野を広げると、開いている右手が下の方に伸びている。
 手はスカートの中に潜り込み、しかもその中で激しく動いている。
 そこから既に蜜が溢れ、シーツに染みこんでいる。

「んんっ、ふぐぅ、むぐ、んんうぅ……」

 ……春希は、目を疑った。
 雪菜が、自分の欲棒を咥えこみながら自慰に耽っている。
 しかも、付属時代の制服を身に纏い、前をはだけさせながら。
 『三年連続ミス付属の清純派美少女』の肩書きを鵜呑みにしている連中であれば、想像すらできないであろう光景。
 春希自身でさえ、にわかには受け入れられない事態だった。
 『“あの”小木曽雪菜』のする行為としては、どうしてもイメージに合わないのだ。
 でも、だからこそ春希の興奮を煽る絶好の材料でもある。
 確かに“あの頃”をやり直すという雪菜の趣旨としては合致しているのかもしれないが。

「ふぐぅ、んんっ、むぐぅ、は、はるひ、ふぅん……」

 ……わたし、なんてことを……。
 春希くんのをしゃぶりながら、興奮してる。
 しかも、自分でもしちゃって。
 こんなにエッチぃことしちゃって、春希くん、呆れないかな……?
 でも、ああ、わたし、止まらない……。
 もう、止められない、よ……。

「せ、雪菜、もう、俺、ヤバい……」

 しかし、春希の声は、もう雪菜には届いていない。
 只々、春希に夢中になってしまった、一人の女。
 自分の想いに忠実な、小木曽雪菜の真実の姿。

「んん、んむぅ、んろ、れる、んぐぅ、じゅるぅ……」

 手の動きも、口の動きも、勢いを増すばかりで一向に弱まることはない。
 そして、遂に春希の限界を超える快感を送り込むこととなった。

「うっ、くうぅ、あああああっ」

 春希の先端から白い欲が、怒濤の勢いで雪菜の口中に解き放たれる。
 雪菜は溢れかえる春希の欲を、ただ己を満たすために喉に流し込んでいった。

「ん、んく、ちゅうぅ、んく……」
「う、ああっ、うあぁ……」

 その間も雪菜は春希から少しでも吸い出そうとするかのように吸い続ける。
 その快感に春希は腰が抜けそうだった。

「んぅ、んく、んく……ぷあっ」

 そしてようやく満足したかのように口を離して一息吐いた。

「春希くん、すごかったよ。あんなに一杯……」
「雪菜が、すごくいやらしかったから……」

 春希も脱力したかのようにその場に座り込み、雪菜に近付く。

「だって雪菜も、ここ、もうこんなに」
「あっ、そこは」

 ペタンとベッドに座り込んでいた雪菜の腿に身体を滑り込ませながらスカートの中に顔を潜り込ませ。

「やっぱり、すごい溢れてる」
「あん、もう、そんなこと言って……ふああぁっ」

 蜜で潤った雪菜の秘所に口付けた。
 指を差し入れて入り口を拡げ、音を立てて蜜を啜る。

「んろ、じゅる、ちゅぅ……」
「ふあ、あん、いやぁ、あはぁ……」

 襲い来る快感に耐え切れずに雪菜はベッドに倒れ込み、恥ずかしさから両手で顔を覆う。
 それでも春希から与えられる快感は気持ちよく、春希の動きに合わせて腰が浮く。
 そんな雪菜の反応に気をよくした春希は、指で包皮を剥いて雪菜の宝石を露わにし、舌で軽く突く。

「うああああっ」

 途端、秘所から蜜が止めどなく溢れ、春希の口周りをベタベタに熱く覆う。
 それでも春希の動きは止まらず、蜜を啜りつつ舌を尖らせて中に差し込み、蜜で濡らした指で宝石を擦る。
 雪菜は春希が与える快感に翻弄され、喉が枯れんばかりに悲鳴にも似た喘ぎを漏らし、全身を振るわせ続ける。

「ん、ちゅうぅ、じゅるじゅる、んろ、れる……」

 ……やだ、やだぁ。
 こんなに乱れちゃうなんて。
 やっぱり春希くん、いつもより興奮してる?
 ああ、もう、頭が、真っ白になっちゃう。
 ……もう、何も考えられない、よ……。

「ふああああああああああぁぁぁぁぁっ」

 強烈な快感に耐え切れず、雪菜は大きな喘ぎと共に絶頂を迎えた。
 全身を痙攣させながら蜜と潮を溢れさせ、春希の顔を汚していく。

「雪菜、すごい。こんなに溢れて……」
「やだ、やだぁ。わたし、こんなに……」
「嬉しいよ。こんなに感じてくれて」
「……もう、知らないっ」
「ははっ、ごめんごめん」
「ふんっだ、もう許さないから」
「それはまずいな。じゃあ、どうすれば許してくれる?」
「……もう、本当に春希くん、意地悪だよ」

 そう言って雪菜は、春希の制服のネクタイをグイッと引っ張った。

「グエっ。せ、雪菜、ちょっとこれはシャレになってないぞ」
「ふ〜んだ。今までの仕返しだよ〜」

 そしてネクタイを解いて春希の首から抜き、ワイシャツのボタンも外していく。
 全てのボタンを外してから左右に開き、胸元をはだけさせる。

「……どうすればいいのかな?」
「分かってるでしょう?」
「……言ってくれなきゃ、分からない」
「……もう、春希くんズルいよ」
「俺は、雪菜に、どうすれば、いいのかな?」

 あくまでも答えを促す春希に、雪菜はついに折れた。

「……抱いて、下さい……」

 恥ずかしそうに呟く雪菜に春希は微笑み、腿の間に身体を入れて腰を抱え上げる。
 そしてそそり立つ己の分身を、雪菜の秘所にゆっくりと沈み込ませる。

「ああっ、は、入ってくる。春希くんが、入って……」

 春希はそのまま奥まで進んで雪菜と腰を密着させ、一度動きを止めて息を整える。
 雪菜が頷いたのを見てから、ゆっくりと腰を動かし始めた。

「あっ、ああっ、はっ、はぁ……」

 シーツをギュッと掴んで突き上げに耐えながら、雪菜は声を上げる。
 春希は徐々に動きを早くして、抱え込む雪菜の腰を引き寄せながら打ちつけも強くしていく。
 角度を微妙に変えると、普段とは違った快感が二人を包み込む。
 その内に雪菜の瞳が、何かを求めるかの表情で春希に訴えかけてくる。それに気付いた春希は雪菜に覆い被さり、そのまま雪菜の唇に吸い付いた。

「んちゅ、じゅ、んむ、ふむ……」
「んはぁ、んっ、じゅる、んろぉ……」

 雪菜もすぐに春希に応え、腕を春希の首に回して舌を絡めて唾液を交換する。
 お互いに密着したせいではだけた胸が重なり、春希の胸板に雪菜の胸が押し付けられる格好になる。
 腰の動きも止まらぬままなのでお互いの乳首が擦れ合い、二人の身体をじわじわとゆっくりとした快感を送り込む。
 春希の腕はさらに強く雪菜の腰を抱き寄せ、雪菜を奥深くまで求めて激しく突き続ける。
 自ら求めていた春希からもたらされる幸福に、雪菜の春希を抱き締める力が無意識に強くなる。それのみならず、雪菜の脚が春希の腰に絡みつき、身体をさらに密着するよう求め始めた。

「ああっ、あああっ、は、春希、くぅん……」
「はあっ、はあっ、せ、雪菜、雪菜ぁ……」

 お互いの名を呼び合い、さらに階段を上り続ける。
 身に着けたままの制服を乱し、全身を汗や性液に塗れさせながら、それでもお互いを求める行為は留まることを知らない。

「はっ、はあぁっ、うくっ、つぁ……」
「ふあ、はあぁ、ああぁん……」

 ……ねえ、春希くん。
 ……なに?
 ……わたし、嬉しいよ。
 ……なにが?
 ……あの時に失くした想いを、取り戻せたみたいで。
 ……そうか。
 ……春希くんにとって、あの時のわたしは、特別だった?
 ……ああ、もちろん。雪菜は、今だって特別だよ。
 ……あの時の春希くん、わたしと、こうなりたかった?
 ……ああ。雪菜が、欲しかったよ。ずっと。
 ……受け取って。あの時のわたしの全ても。
 ……ああ、受け取るよ。雪菜の、あの時のも、今のも、全部。

「ふぁああっ、ああっ、は、春希、くん、わたし、イく、イッちゃうよぉ」
「ああ、いいよ。俺も、一緒に、イきたい」
「ああああっ、イく、イッちゃう。わたし、もう、駄目ぇ……!」
「ああっ、お、俺も、もう、出る……」

 二人とも、お互いに激しく腰を打ちつけ合い、頂点へ駆け足で登り詰める。
 そしてついに、二人が望む場所へと辿り着くこととなった。

「あっ、ああっ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うっ、うぅっ、くっああああぁぁぁ……」

 頂点に到達した途端、二人の頭は天から注がれる光で真っ白になった。
 雪菜は春希に強くしがみ付いたまま、背中を大きく仰け反らせて絶頂を迎えた。
 それに伴い雪菜の膣が春希を強烈に締め付け、春希も顎を逸らせながら雪菜の中に解き放った。

「ああっ、あはあっ、ふあっ、ああぁん……」

 雪菜が全身を硬直させたまま、ビクッ、ビクッと痙攣する。
 春希もそれに合わせて、ドクッ、ドクッと雪菜の中に注ぎ続ける。
 そして春希の射精がようやく収まると、揃って二人の全身の力が抜け、抱き合ったままぐったりとベッドに沈み込んだ……。





 ……意識を取り戻し、絶頂の余韻から覚めた二人は、ゆっくりと浴室でお互いの汗を流し合い、裸のままベッドに潜り込んだ。

「……ありがとう」
「ん?どうした?」

 雪菜のお礼の言葉に、春希が首を傾げる。

「……わたしのワガママ、聞いてくれて」
「いつものことだろ?」
「でも、春希くんにとっては、辛いことだったと思うし」

 雪菜は、知っている。
 春希から、聞かされていたから。三年前の、空港への電車の中で。
 春希と、かずさの間にあった、行為を……。

「……それは雪菜が気遣うことじゃないって」
「だって、だからわたしはあなたに頼んだのに」
「え……?」
「かずさとのことを、あなたの特別にしておきたくなかったからなのに」
「雪菜……」
「本当、ワガママだよね、わたし」
「そんな……ことは……」
「……っ、でもね、本当に、待ってたんだよ、わたし」
「うん……」
「あの時、あなたのこと、ずっと、待ってたんだよ」
「……そうか」
「……嫌だなんて、全然考えてなかった。
 あなたになら、何もかも許すつもりだったのに……」
「……」
「……ごめん。やっぱり嫌な女だね、わたし」
「そんなことないって」
「ううん、やっぱり嫌な女だよ。
 根暗で、恨みがましくて、今でもかずさに嫉妬してて……」
「雪菜っ」

 春希はとうとう堪えきれなくなり、雪菜をギュッと抱き締めた。

「雪菜のせいじゃない。悪いのは俺なんだから」
「……やめて」
「あの日、雪菜を裏切った俺が何もかも悪いんだから」
「……やめてよぉ」
「俺が、雪菜を待たせたから。あの日から、三年も雪菜を待たせた俺が」
「やめてってばぁ!」

 今度は雪菜が春希を抱き締め、春希の言葉を止めた。

「あの時、わたしが正直に言えばよかったのに。
 春希くんと、二人だけで誕生日を過ごしたいって言えば……」
「……雪菜……」
「そうすれば、ひょっとしたら……」

 二人の間に、沈黙が訪れる。
 静寂に包まれた闇夜の中で、春希は雪菜を再び抱き締めた。
 ……今度は、そっと、包み込むように。

「もう、いいんだよ、雪菜……」
「春希、くん……」
「だって、あの時の俺たちがあったから、今俺たちはこうしていられるんだ」
「……それをあなたが言うかなぁ」
「分かってる。俺に、そんな資格はない。
 でも、そう考えよう。少しでも、前向きに考えよう」
「春希くん……」
「だって、今までずっと後ろを向いてばっかりだったから、俺たちはずっと立ち止まってたんだ。
 だから、前を向こう。これからは、俺たちはいつだってこうしていられるんだから」
「……そうだね」
「だから、この話はこれでお終い。いいよな?」
「……うん」

 雪菜も、春希をそっと抱き締める。春希の胸に顔を埋め、その温もりをそっと感じた。

「……でも春希くん、今日はすごく興奮してなかった?」
「うっ、この話はもう終わりじゃあ」
「だ〜め。だって今度はわたしの部屋でやるんだからね」
「ええ?まさか、またあの恰好で?」
「そうだよ。もちろん」
「で、でも何でまた」
「だって、本当ならあの日はわたしの部屋でするはずだったんじゃない?」
「えっ、ええっ!?」
「今日は家族が家にいたから春希くんの部屋でってことにしたけど。
 今度家族が留守の時にこそわたしの部屋でするからね。また制服で」
「で、でもさ。もしあの日にやってたとしても制服ではやらないと思うけど」
「だって、私服じゃいつもと変わらないじゃない。
 『今あの頃をやり直したい』から、やっぱり制服は必要なんだよ」
「そ、そうなのか……?」
「あ、ならいっそのこと、付属の教室の中ってどうかな?」
「お、おい」
「今ちょうど春休みだし、誰もいない教室の中で二人で……って感じで、どうかな?」

 何だか話がどんどん『あの頃をやり直したい』っていうコンセプトから離れていってるような気がするんだけどなぁ……。
 ……雪菜、元に戻ってからちょっと……いや、すごく積極的になってる?
 本当、なんていうか……。

「春希くん」
「は、はいぃ?」
「今『やっぱりワガママな雪菜はエッチぃなぁ』って考えてたでしょう?」
「げっ」
「ふふっ。いいよ、別に。
 わたし、あなたとならいくらでもエッチくなってあげちゃから♪」

 天使と小悪魔の微笑みを混ぜ合わせた、雪菜ならではの魅力的な言葉と笑顔に、春希は返す言葉もなく、心の中で白旗をあげるしかなかった……。

あとがき

またまた書いてしまいました。
やばいですね、前回よりもさらにエッチくなっちゃいました……。
ああ、妄想エロ人間ここに極まれり……(汗)。

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