第28話


4−2 千晶 3月2日 水曜日



食事を終えた私は、何故だか春希のジャージを無理やり着せられてから、
テーブルの前でレポートと格闘を始めていた。
たしかに朝布団をまくったら、スカートまでまくれていたのは私の不手際だけれど、
あそこまで怒らなくてもいいじゃない。
私だってレポートで疲れていたわけで、寝るときの服装なんて気にする余裕なんてない。
春希だって、帰って来てから着替えもしないでそのまま寝たくせに、不公平じゃない?
私は、大きすぎる紺色のジャージの袖をもう一度まくりあげながら、不平を噛み殺していた。
正面の春希の様子を盗み見ると、先ほどシャワーを浴びてきて、今朝まであった髭は、
綺麗に剃り落とされていた。
寝不足気味だった顔色も、私という湯たんぽでぬくぬく眠れたおかげで
すっきりとした印象を見てとれる。
私の視線を機敏に察知した春希は、とっととレポートに戻れと訴えかけてくるので
おとなしくレポートに集中した。

春希「ほら、食事にするぞ。テーブルの上のものを片付けてくれから、
   これでテーブルを拭いてくれ」

エプロン姿の春希が台所から顔を見せると、私に台布巾をほおってよこす。

千晶「OK〜」

私は、春希の声に反応して台布巾をキャッチしようとした。
しかし、無情にもレポートで全ての体力を使いきった私には、腕を上げるのさえ一苦労で、
放物線を描いた台布巾は減速する事もなく、私の手のひらをすり抜けて、
見事私の顔へと着陸した。

千晶「ぶっ」

春希「大丈夫か? 強く投げたつもりはなかったんだが、悪かった。
   でも、綺麗に洗ってあるから、汚くはないぞ」

春希らしい見事なフォロー付きの謝罪を、嫌みつきのにこやかな顔で受けながそうと顔を作る。

千晶「大丈夫、問題ないよ。春希も、厄介事に巻き込まれてストレス溜まってるよね。
   だから、台布巾くらい私に投げつけても問題ないって」

・・・・・・・あれ?
なんで春希は黙ったままなの?
いつもだったら、ちょっと困った顔をして、お説教付きで言いかえしてくるのに。
今は、俯いたまま神妙な顔をしていた。

春希「そんなこと思ってないから。それは前もって言ってくれた準備もしやすいし、
   スケジュールも確保しやすいかとは思う事もある。
   でも、ストレスがたまるとか、和泉と関わるのが嫌だなんて、思った事はない。
   ましてや、女性の顔に向けて、台布巾であっても投げつけたりなんてしない」

なんなのこの雰囲気。いつもと違いすぎない?
本来だったら、笑いながら食事の準備を進める場面じゃないの?
それなのに、なんでこうなったんだろう。
私はなにもミスをしていない。それとも、私が春希と会っていない間に、春希に大きな変化でも
あったのだろうか?
わからない。ぜんっぜん、わからない。
とりあえず、ちょっと困った感じで、反省しています風の顔を作るか。
あとは春希の出方を見ながら、軌道を修正するしかないかな。

千晶「いやぁ〜、ごめんね。私もそんなつもりで言ったんじゃないよ。
   いつもの軽い冗談のつもりだったんだけどさ・・・」

春希の動きが鈍い。私が入れたフォローも不発。
それどころか、ますます春希の顔が厳しくなっていった。
どこか腫れものに触るような目つき。違いよ。違うって。
私は、こんな春希は求めていない。

春希「ごめんな、和泉。いつも冗談を言いあってたけど、和泉も女の子だもんな。
   男友達っていうか、性別を感じさせないから、それに甘えていた。
   でも、それは間違っていた。ごめんな」

なんで? 私は、春希が望む女友達を演じてきたのに。
どうしてこうなったの? わからない。わからないって。

千晶「どうしてそんなこと言うの?」

私の低い声が春希に突き刺さる。楽しい夕食の時間になるはずだったのに、
重い空気が部屋に満たされていく。
キッチンから匂ってくる美味しそうな香りも、どこか別の空間の出来ごとのようで、
なんだか自分の空間を侵食してくるみたいで癇に障った。

春希「どうしてって?・・・それは」

千晶「どうして!」

私は怒鳴りつけるように思いを吐き出すと、春希に詰め寄ってしまった。
あと少し判断が遅れてしまったら、春希の胸ぐらを掴んでしまっていたかもしれない。
春希を押し倒していたかもしれない。
目の前に、春希の悲しそうな顔がなければ、私は理性を失っていたと思う。

春希「それは、・・・和泉が悲しそうな顔をしていたから。
   言葉とは裏腹に、寂しそうな顔をしていたから。
   だから、俺が悪かったんだって、思うじゃないか」

千晶「え?」

春希の告白を聞き、力が抜けていく。膝から崩れてゆき、そのまま座り込んでしまった。
なんなのよ。そんなお芝居していないって。
いつもの和泉千晶を演じていたはずなのに。
両手で顔を確認してもわかるはずなのに、指で顔なぞって何度も確認しようとしてしまう。
春希はきっと、困った顔をしてるのだろう。
だけど、どんな顔をして春希と向き合えばいいっていうの。今は無理。
私は、顔を手で隠しながら立ちあがると、バスルームに駆け込んで、鍵を閉めた。
春希は追ってこなかった。声をかけてくる事もなかった。
けれど、バスルームの前にいる気配だけはしていた。
心配はしているけど、声はかけない。
春希らしい気遣いに感謝しつつ、私は鏡に映る私を確認する。
・・・・・・なによ、これ。春希が心配するに決まってるじゃない。
疲れきった顔。力ない表情。そして、悲しそうな瞳。
こんなの私じゃない。私が作り出した和泉千晶じゃないって。
どうして? どうして? どうして、こうなった?
なんなのよ。なにがあった? わからない、わからないって。
落ちつけ、落ちつけ、私。舞台の上でもこんなミスしたことはない。
舞台の上で、パニックになったことなんてない。
ここは舞台の上。場面は、春希のマンション。
夕食前の楽しい一時。登場人物は、北原春希と和泉千晶。
仲がいい友人で、冗談をいいあって、じゃれあっている場面。
レポートを手伝ってくれる春希。料理をしてくれる春希。
レポートで疲れきっている和泉千晶。春希の手料理を楽しみにしている和泉千晶。
さあ、これから春希の手料理を食べる和泉千晶を演じるんだ。
私は、ゆっくりと顔を上げ、鏡の中にいる和泉千晶を確認する。
ぜんっぜん、駄目。どうしちゃったの、私。こんなの和泉千晶じゃない。
いくらレポートで疲れているからといって、演じられないなんて。
とりあえず、落ちつけ。いつまでもバスルームにこもっていたら、春希が心配するだけ。
時間が立つ分だけ、春希が自分が悪いって思ってしまって、自分を傷つけてしまう。
それだけは絶対しちゃだめだ。春希を傷つけるのだけは、やっちゃ駄目だ。
かちゃりとバスルームのドアを開けると、目の前に立っていた春希が顔を上げる。
目を合わせる事はできないけど、顔をそらすのだけは駄目。
私は、ゆっくりと自分の体を操縦しながら、この場をやり過ごすことにした。

千晶「心配掛けさせちゃって、ごめんね」

春希「いや、俺がわるかった」

千晶「違うんだって。なんだか慣れないレポート作業を根詰めてやったせいで
   つかれちゃったみたい」

春希「そうなのか? 夕食作る前に確認した分までだけど、予想以上に進めていたよな。
   この分なら予定より早く終わりそうだって思っていたんだけど、
   無理はするなよ。
   いくら短期間でやらないといけないといっても、2、3日で終わるものじゃ
   ないんだからさ」

千晶「そだね。休憩がてら、春希お手製の夕食でもいただきましょうか」

春希「そうだな。・・・本当に無理だけはするなよ」

千晶「わかってる」

春希「今日は食事したら、ゆっくり風呂にでも入って寝たほうがいいかもな。
   レポートの方は、一度俺が直し入れてからの方がいいかもしれないし。
   ほら、もし勘違いしている部分なんてあったりしたら、そのまま進めてしまうと
   直しも大仕事になってしまうからさ」

いかにもっていうフォローね。春希らしくあり、気を使っているのがわかってしまう。
だから、今の私は素直にその台本を演じる事にした。
ううん、そうじゃない。私には、それしか選択肢がなかった。

千晶「うん、そうする」

なんだか空々しい台詞が、どこか遠くの方で聞こえるような気がした。









千晶 3月3日 木曜日


真面目人間和泉千晶は、北原春希という看守がいなくとも、一人春希宅にて
レポート作業に没頭する。
内心、昨日の失態を思い出したくない思いが強く、目の前に転がっているレポートに
逃げているともいえるかもしれない。それはそれで仕方がない。
だって、あんなミス初めてだったし、リカバリーさえできなかった。
さてと・・・、いつまでも落ち込んでいたってしゃーないか。
これを糧にして、次失敗しなけりゃいいのよ。
そ・れ・に、今日は3食とも春希が作った食事が用意されている。
昼食用のお弁当。これは、無理を言ってお弁当箱に詰め込んでもらったものだ。
なんとなく、お昼御飯といえばお弁当かなと。ま、気分の問題ね。
で、夕食と夜食はレンジで温めればいいように準備されている。
まさにオアシスよね。もし春希が作った食事がなかったら、きっとテンション低かったし、
適当にレポートを仕上げてたね。
以前レポートを手伝って貰った時はカレーだったけど、あれはあれで文句はない。
美味しかったしね。だけど、今回の食事は、毎回違うし、その分楽しみでもある。
だからこそ、つら〜いつらいレポートを真剣にやっているわけで。
だけど、深夜バイトから帰ってきた春希が下した評価は、私の予想をやや下回るものであった。

春希「昨日よりはペースが落ちているけど、これでも想定よりまだ早い。
   このままやっていけば、十分余裕を持って仕上げられるぞ」

千晶「そ・・・っか。うん。昨日は頑張りすぎて最後は失速しちゃったもんね。
   だから今日はペース配分をしっかりしてみましたぁ」

春希「だな。これでいいよ」

千晶「春希は食事すんだの?」

春希「ああ、食べてきた。仕事しながら食べてたから味なんか全くわからなかったけどな」

千晶「それって消化に悪いぞ」

春希「わかってるって。でも、急ぎの仕事だったんだよ。
   松岡さんも急ぎの仕事だってわかってるんなら、もっと早く俺に回してくれれば
   いいのに、ギリギリまで黙ってるんだもんな」

千晶「そんなギリギリの場面で頼ってくれているんだし、ある意味春希の仕事が
   認められたって事じゃないの」

春希「だったら、いいんだけどな。誰かさんみたいに、いいように利用しているだけって
   いう場合もあるから、用心しないとな」

うまく和泉千晶を演じられているはずなのに、なんで苛立ってるのよ。
春希だって、違和感なく私と話しているのに。
この胸を締め付けようとする痛み、いったいなんなのよ。
私は、体の内側で暴れまわる不快感を覆い隠し、春希との会話を演じ続ける。
今日の演技はうまくいっている。うまくいっていると感じること自体が
演者としては落第点なんだけど、今はうまくいってくれと願うしかなかった。







千晶 3月4日 金曜日




誰よ、肩をゆするのは。せっかく人が気持ちよく寝ているっているのに、
なんだって安眠をじゃまするのよ。
ぬくぬくと暖まった布団を手繰り寄せ、外界からの侵入を試みようとする。
けれど、いくら布団を掴もうとしても、手は空を掴むのみだった。

春希「和泉、和泉ったら。寝るんだったらベッドで寝とけよ。
   風邪引くぞ」

春希? 眩しい光が私の眼球を刺激する。強すぎる刺激は私の脳をショートさせ、
視覚を半分以上奪っていた。
寝ぼけながらも自分の身の回りを確認すると、寒いはずだ。
なにせ毛布一枚羽織らないで寝ているんだもん。
エアコンはついているけれど、あまり温度が高すぎると眠くなるからという理由で
やや低めに設定してあったのが裏目に出てしまった。
春希の心配ではないが、これじゃあまじで風邪ひいちゃうって。
げんに寒いっ。少しでも暖を取ろうと体を震わせて、両腕でぎゅうっと身を抱きしめたが
そんな横着すぎる暖の取り方では、冬の夜にはまったく効果を果たさなかった。

春希「ほら、とりあえず毛布でも着ておけって。
   この部屋寒すぎるぞ。エアコンの設定上げておくな」

春希は、私が起きたのを確認すると、私の暴君的要求を聞く前に行動を始めていた。
毛布を頭からかぶって待っていると、ホットミルクが目の前に差し出される。
おずおずと毛布から左手を引き出すと、私が取りやすいようにと
取っての部分を私の方へと向けてくれた。

春希「熱いから気をつけろよ。ハチミツとバニラエッセンスを勝手に入れたけど
   甘いの苦手じゃないよな?」

千晶「だいじょぶ。バニラエッセンスなんて入れてるの?」

春希「バニラエッセンス苦手だったか?」

千晶「苦手じゃないけど、春希が入れてくれるなんて意外だったから」

マガカップを両手で掴んで暖を取りながら中身もちょうだいする。
うん、懐かしい。体がぽかぽかする冬の味。
かなり甘めになるけど、寒い日にはこれよね。

春希「そうか? まあそうかもな。俺も最近料理を勉強し出して覚えたばっかだしな」

千晶「でも、これってかなり甘いから、春希は苦手じゃない?」

春希「甘いのが苦手ってわけではないから、嫌いじゃない。
   嫌いじゃないけど、俺が飲む場合は、もう少し蜂蜜の量を減らすけどな」

千晶「そう? だったら、私の好みに合わせてくれたってわけね」

春希「散々食事をねだられたからな。いくら学食で貢いだと思っているんだ。
   しかも、それ以外でも奢らせようとして、行きもしない店の情報まで
   わざとらしく話していたしな」

千晶「そうだっけ?」

春希「そうだったんだよ。そのおかげで和泉の好みはわかったつもりだ」

千晶「だったら、私の努力も実ったじゃない」

春希「役に立ってほしくはなかったけどな」

千晶「勉強もいつ役に立つかわからないけど勉強するんでしょ?
   それと同じように、私の好みをしっかり勉強したほうがいいわよ」

春希「いかにもっぽく言ってるけど、勉強と食事をたかるのを同列にするなよ。
   ・・・うん、今日の分のレポートはできているな。
   この分だと、予定通りに終わりそうでよかったじゃないか」

春希は、私との会話をしながらも、目と手だけは私のレポートチェックを進めていた。
本格的なチェックはあとになるはずだけれど、ざっと目を通して、今日の成果を
吟味していた。

千晶「頑張ったからね。春希が食事の準備をしっかりしてくれたおかげかな。
   明日も春希が3食分作っていってくれたら、今日みたいな成果が期待できると
   思うんだけどなぁ・・・」

私は体一つ分だけ春希に詰め寄ると、首をかしげながら下から見上げる。

春希「わかったよ。作ってやるから明日も頑張れよ」

千晶「りょ〜かい。じゃあ、お風呂入ってくるね」

春希「帰って来る時、かなり寒かったから、しっかりあったまっとけよ。
   今夜も冷えるぞ」

千晶「じゃあ、一緒に入って、私がしっかりとあったまるか春希が監視でもする?」

春希「馬鹿言ってないで、とっとと風呂に入れ」

千晶「はい、はい。鍵はかけないでおいてあげるから、いつでも入ってきていいからねぇ」

そう言うと、春希のお小言を遮るようにバスルームの扉を閉めた。
・・・鍵はかけないでおいてあげよう。
あの春希が入ってくることなんてあり得ないけど、万が一ってこともあるしね。








千晶 3月6日 日曜日



体が熱い。喉が痛い。頭が痛い。目を開けているはずなのに、なんだかぼやけてない?
しかも、私をゆすっているのは誰よ。こっちは体中が痛くって動きたくもないのに
そんなに揺したら、体に響くじゃない。
だから私は文句を言ってやろうと声を出そうとしたんだけど、
その声は目の前にいるはずの人間に届く事はなかった。
なにせ、私の声ったら売り切れだったのか、声が出やしない。
わずかに残った残高分だけかすれ声漏れたんだけど、そんなの役に立つわけないじゃない。
もう誰よ、ほんとうに辛いんだから、やめてったら・・・。
最後の力を絞って抗議してやろうとしたんだけど、出たのは激しい咳のみ。
喉が焼けるような痛みが走り、息が詰まりそうになる。
それでも咳が止まる事はない。咳をするたびに体が揺れ動き、ただでさえ頭が
痛いっていうのに追い打ちをかけてくる。
しまいには涙まで出ているんだから、これはちょっとやばめかも。

春希「しっかりしろ。背中さすってやるからな」

ん? 春希?
咳が収まらぬ中、声の主を探ろうとすると、なんとか春希だということだけは確認できた。
心配そうに見つめる様は、私の症状の悪さを物語っている。
こりゃ、かなりやばめってことか。

春希「水と薬持ってくるからちょっと待ってろよ。
   その前に体温計だな。たぶん風邪だと思うけど、今日は日曜だし病院が
   救急外来しかやってないか。
   とりあえず、風邪薬飲んで様子見て、やばそうだったら、うちの大学病院
   で救急外来やってるから、行ってみるか」

春希はなんだか忙しそうに動いているらしいんだけど、私に薬を飲ませてくれたところまで
しか意識を保つ事が出来なかった。
う〜ん・・・、和泉千晶一生の不覚。体調管理さえできないなんて、女優失格じゃない。




なんだか美味しそうな匂いがしてくる。
鼻がひくひくと小動きして、臭いの発生源を探ろうとする。
なんか美味しそうな匂い嗅いじゃうと、お腹もすいてくるじゃない。
お腹がぎゅるるぅって鳴ってしまうのは、私のせいじゃない。
この美味しそうな匂いのせい。だとすれば、その原因とやらを確認しないとね。
ゆっくりと瞼をあけると、部屋は薄暗く、台所の方からの光がわずかに漏れてきていた。
窓の外を見ると太陽はおらず、かすかに伝わってくる街の光が灯されている。
ゆっくりとだが脳が再起動してくれたおかげで自分の状況がわかってきたのだが、
それに伴い体の不調も再認識してしまった。
まず、頭が痛い。で、喉も痛い。さらに体の節々も痛いし、なおかつお腹が空いた。
とりあえず前3つの不調はどうしようもないか。
だったら最後の4つ目の不調を解消すべく、あたしはふらつく足取りで
美味しそうな匂いの方へと歩み寄っていった。

春希「もう起きても大丈夫なのか?」

千晶「大丈夫じゃないけど、お腹が空いたぁ」

春希「もうちょっと待ってほしい。これでも飲んで待っててくれ。
   風邪にはいいんだぞ」

春希は、鍋の中身をマグカップに入れると、私に差し出した。
ショウガの香りがつう〜んときて、お腹がすいた私の食欲を掻き立ててしまう。
とりあえず春希の勧め通りに一口喉を通すと、いがらっぽい喉が拒否反応を起こすが、
蜂蜜のどろりとした感触が、うっすらと喉に膜を作ってくれるようで
痛みが緩和されていゆく。
一口、また一口の飲み進めていくと、鼻から柚子の香りが抜け出てくるのが
頭の痛みをやや緩和してくれた。

春希「ほら、これも着ておけよ。エアコン少し強めにしてたけど、温かくしたに
   こしたことはないからな」

春希は、紺色のフード付きフリースの上着を私の肩にかけると、
すうっと私のおでこに手をあてた。
ひんやりとした感触が心地いい。
けれど、春希はすぐに手を離してしまうものだから、もう少し手で冷やしてよって
無言の要求を目で訴える。
うつろな意識のせいで、とろんとした目で見つめ、
熱のせいで上気した頬になってしまう。
けれどこれは演技ではなく、自然に体が反応してしまった結果。
体が熱いんだから、仕方がないじゃない。
だって春希の手が冷たくて、気持ちがいいんだもの。
あっ、わかった。私は風邪ひいたんだ。
ようやくここ数日の不調の原因を認識した瞬間であった。





第28話 終劇
第29話に続く








第28話 あとがき



かずさ「あたしの出番がないんだけど、どうなってるんだ?」

麻理「私もよ」

かずさ「まだいいじゃないか。前半でまくって、春希といちゃついてたじゃないか」

麻理「ごめんなさい」

かずさ「ふんっ」

麻理「でも、さすがに著者も本編を置き去りにできないから、『千晶、踊る子猫』の
   中軸エピソードは書かないそうよ」

かずさ「へぇ、そうなんだ」

麻理「どうなるんでしょうね・・・」

かずさ「・・・・・・・」

麻理「・・・・・・」

千晶「来週も、火曜日、いつもの時間帯にアップできると思いますので
   また読んでくださると、大変うれしいです
   こわっ!」




黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

更新お疲れさまです。
時に素の自分を見せることがある様に、千晶にとって春希は演技の為の単なる興味対象というだけではなく無意識の内に恋心に近い物があったのだと思います。
coda編なので春希の方には恋心は無いでしょうが彼が1番苦しい時期に時に救いになる存在だった事に感謝しているからここまで面倒を見ているのでしょうね。
今年も毎回楽しみにしています。

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Posted by tune 2015年01月06日(火) 18:15:35 返信

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