第48話



 今夜は以前のマンションではなく真っ直ぐと実家マンションへと帰って来ている。
そもそも一人暮らししていた部屋に感傷的なまでの思い出があるわけではない。
どちらかといえばネガティブな想いが多いとさえ思えるマンションに思い入れがないとは
言えないが、今は真っ直ぐと帰宅できる心構えができていた。いや、真っ直ぐに帰らないと
千晶が何をするかがわからないという危機感が俺の中に渦巻いている。なにせ真っ直ぐ帰って
こないと俺の部屋を漁るという脅迫メールが千晶から舞い込んでもきていた。
 おそらく千晶なりの励ましメールなんだろうが、脅迫をポーズだけでなく実際に
やってしまいそうな、実際にやってしまうところが冗談ではすまなかった。

千晶「おっかえりぃ春希。今日も遅いお帰りでご苦労様です」

春希「ただいま千晶。でも、帰ってくる時間なんていつもこんなもんだぞ」

千晶「うん、知ってる。でも、新妻ならこんなセリフをいうかなぁって。
   ほら、春希も新妻プレイの方が喜ぶでしょ?」

 そういうことか。だから真夜中なのにエプロンなんて付けているわけだな。
小道具まで用意しているなんて、こちらこそご苦労様です。
 ひらりと揺れるエプロンの端が俺を目をくぎ付けにする。なにせ真っ直ぐに伸びた細い脚は
その付け根まで白い肌が剥き出しに放り出されていた。つまりはエプロン以外は何も着ていない
ように見えてしまう。でも、よく見ると上にはタンクトップを着ているようだ。でも、……下は?

千晶「もう、やだっ。春希ったら目がエッチだよ」

春希「違う。そんな不純な目で見てなんかいないって。それにそう思うんならなにか履けよ」

千晶「あれぇ、春希ったら仕事で疲れてはいても欲情しちゃった? 
   あっ、疲れている方が欲情しやすいタイプとかだった?」

春希「人を勝手に変態扱いするな。そもそも欲情なんかしてないって言ってるだろ」

千晶「そう? それはざ〜んねんっ。でも、こういう新妻にお出迎えされるのも嬉しいものでしょ?」

俺はため息をつこうとしたが、急に重大な事実を思い出してしまって為に息を飲みこんでしまった。
緩やかな時間が急壁に加速していき、俺の脈拍は怒涛のごとく熱とピッチをあげていく。

春希「ちょっと待て」

千晶「ん、なにかな?」

春希「母さんは帰って来てるんだよな」

千晶「帰って来てるよ。夕食ごちそうになっちゃったけどいいよね?」

春希「それはかまわないけど、今もいるんだよな?」

千晶「うん。でも寝てるんじゃないかな?」

千晶の視線の先を辿って母の寝室のドアに視線をむける。物音一つしないその部屋は、深夜の
静けさと相まってリビングにいる俺達の騒音を数倍にまで高めてしまいそうな気さえしてしまう。

春希「まあいいか。それよりも早く何か着ろって。どこに目を向けていいか困るだろ」

千晶「あぁ……このことね」
 
 と、千晶は視線を下に向けると、豪快にエプロンをめくり上げる。そこには真っ白な脚と
ベージュのホットパンツが姿を見せる。まあこんなおちが待ってるとは思ってはいたけど、
でも確信がもてないから下手な事は出来ない。俺のそんな葛藤さえわかっているから千晶は
こんな幼稚な悪戯を実行したのだろうけど、そうとわかっていても気持ちのはけ口に困ってしまう。

千晶「そんな盛大なため息つかないでよ」

春希「人が仕事を頑張ってきたというのに、心ない出迎え方をする同居人がいたもんでね」

千晶「へぇ……・、そんな不届きな人もいるものなのね」

春希「あぁ、今度会わせてやるよ」

千晶「うん、楽しみにしてるね。あっ、そうそう。これを伝える為に待ってたんだった」

春希「何かあったのか?」

千晶「どうかな? 捉え方によるからわたしには判断できないかな」

春希「で、なにを伝えたいんだ?」

千晶「うん。春希のお母さんね。春希が作ってくれたお弁当美味しかったって、さ」

春希「……そっか」

千晶「うん、これを伝えとかないと寝付けないかなってね。でもよかったね春希。美味しいってさ」

春希「さすがにまずいとは言えないだろ」

千晶「捻くれちゃって。でも、わたしも美味しかったたと思うわよ。もう少しお弁当全体の
  彩りを工夫したほうが色彩によるうまみが増すとは思うけどね。まあ、なんていうの? 
  春希らしい地味な色合いのお弁当って感じだから、もう少し華やかさが欲しいかな。
  たしかに地味な春希には難しい要求なわけだけど」

春希「ミニトマトとか、色どりが派手なのを入れたほうがいいかな」

千晶「それもありだとは思うけど、季節の物を取り入れるのもいいと思うわよ。野菜なんて
  スーパーいけば旬のものを扱ってるわけだし、見た目だってあぁ春だなぁって思う事もある
  でしょ? だから色が派手だから色どりが華やかになるってものでもないのよ」

春希「そうだな。見た目プラス心証ってところか」

千晶「だね」

春希「ありがとな千晶。これからもびしばし俺を鍛えてくれ」

千晶「それでいいの?」

春希「その為に千晶のコーチを頼んだんだろ」

千晶「はぁ〜い、じゃあさっそくやってもらいたい事っていうか、お願いがあるっていうかな」

春希「遠慮せずに言ってくれ」

千晶「じゃあ、言うね」

 そして俺の目の前まで踏み込み、俺の前に突き出したものは、
今日俺が千晶の弁当に使ったタッパだった。

春希「これ?」

千晶「うん、そう」

 あの千晶にしては珍しく、真剣な目つきで俺を見つめてくるもんだから、俺は唾を飲み込み、喉を鳴らす。

千晶「やっぱさ、見た目って大事だよね。あと真心も」

春希「俺も大事だとは思うぞ」

千晶「だったらさ、このタッパはいただけないと思わない?」

 俺は千晶の拗ねたような表情に対応が追い付けないでいた。

春希「えっと、千晶さん。どういうことで?」

千晶「だから、こんなあまりものを詰めておくタッパじゃなくて、ちゃんとしたお弁当箱が
  欲しいって言ってるの。だって春希とお母さんのはあって、私のだけないのよ。それって
  仲間外れで千晶ちゃんがかわいそうだとは春希は思わないのかな?」

春希「ちょっと待て。俺だって忙しくてそういうのをそろえる時間がなかっただけだ」

千晶「そうかな? 私のお弁当を作る話はニューヨークに行く前から決まってたんだから、
  春希だったら私のお弁当箱を買う時間くらい捻り出せていたんじゃないかな。それをして
  こなかったってことは、初めからそれほど乗り気じゃなかったってことじゃない? 
  それか、私のことなんて忘れていたとか、さ」

春希「ちょっと待てって。ほら拗ねないでくれって」

ぜったい演技だとわかっているのに、俺の心を揺さぶるのはなんでだろうか。これが超一流
女優の演技だと言ってしまえばそれまでまけど、ここまで俺の心を掴むとは思いもしなかった。

千晶「拗ねてないわよ」

春希「涙声じゃないか」

千晶「だから泣いてないって」

春希「それが泣いてるって言うんだ」

千晶「泣かせたのは春希のせいでしょ」

春希「……ごめん」

千晶「ほんとに悪かったって思ってる?」

春希「思ってる。俺が悪いって思ってる。だから機嫌直せよ」

千晶「なんだか口だけって気がするのよね」

春希「そんなわけない。ちゃんと反省してるから」

千晶「じゃあさ、その反省を行動に移してくれる?」

春希「ああぁ、行動に移す」

 あれ? なんだこの雰囲気?

千晶「わかった。しっかりと行動してくれれば許してあげる。約束は守ってよね」

春希「約束はきっちりと守るよ」

千晶「約束だよ。……じゃあ、明日お弁当箱買いにいこうねっ」

 えっ? なに……これ? 
真っ直ぐに伸びた季節外れのヒマワリが神々しく花を開かせる。天に向かってのびた幹は太く頑丈で、
ちょっとやそっとではくじけそうにないほど頑丈であった。つまりは、俺はこの陽気な同居人に
騙されたって事なのだろうけど、こうまでして真っ直ぐ伸びた嘘はすがすがしくも感じられてしまう。

春希「わかったよ」

千晶「じゃあ明日ね」

春希「でも明日まではタッパで我慢してくれよ」

千晶「りょ〜かいっ」

春希「バイトに行く前に一緒に見に行くか」

千晶「だね」

 どこまでが計算で、どこからが本音で、そこにわずかながらも俺への気遣いが含まれているか
はわからない。きっと千晶にしかわからないシンプルな計算式なのだろうけど、俺は千晶に感謝
している。きっと千晶がこの家にいなければ、今日も今までのマンションに寄ってから実家に
帰宅していたはずだ。別に帰りたくないわけではない。荷物を置いて、睡眠をとる場所としては
十分すぎるほどの機能を有している。でも、千晶がいなければ俺は実家をその認識でしか
しなかっただろう。千晶がいなければ、帰って来てこんなにも楽しい会話なんてできやしなかった。
これが千晶が執筆した台本なのかはわからない。でも、俺は千晶に感謝せずにはいられなかった。







4月14日 木曜日



武也「春希、今日はもう帰りか?」

午前の講義を終え、昼食の弁当を食べ終えた俺は千晶ご要望の弁当箱を買うべく駅へと向かおう
としていた。そこへ学食から戻ってきたいつものコンビ、武也と依緒が目ざとく俺を発見するに
至る。麻理さんとの遠距離食事会は、2限目の講義時、その時間講義がない俺は千晶の講義を
待つ合間を使って行われた。もっぱら俺が話しかけ続け、麻理さんが食べるのを見ていた。
この対処療法がいつまで効果があるかはわからない。今は味覚が低下していても吐く事はない。
この結果を喜ぶべきかは判断しかねるが、今はこれが精一杯であった。

春希「あぁ、午前の講義しかなかったからな」

武也「お前はもうちょっと大学に来いよ。講義とっていても時間割はすっかすかなんだろ」

春希「だからこうして大学には来ているじゃないか。それに俺は今までしっかりと講義を
  受けまくっていたから、その貯金を考慮すると、これくらいでちょうどいいじゃないかって
  さえ思えている」

武也「だぁ……」

依緒「こら武也。公衆の面前でうなだれるな」

 ここで依緒のけりの一つが入らないあたりは、昨日のいざこざの後遺症はないってところか。
まあ、けりがないからこそ遠慮してるともとらえることができるあたりは判断がしにくいところ
でもあるけど、みたところは大丈夫そうだな。

武也「だってさぁ、これからお経みたいな講義があるんだぜ。
  俺も春希みたいに帰りたいと思って何が悪い」

依緒「だったら3年をもう一度やり直せばいいじゃない。そうすれば4年になったときは春希
  みたいにすっかすかの講義日程を謳歌できるわよ」

武也「そのためにもう一度3年やってなにかメリットあるか?」

依緒「ん? たぶん、ない」

武也「だぁ〜」

春希「こら武也、こんな所で座り込むなって」

俺は武也に手を差し出し、その体を引きあげる。ぐいっと力強く握ぎってきたその大きな手は、
俺達の間にあるわだかまりを一時の間だけでも忘れさせてくれた。

武也「わぁったよ。真面目に講義を受けるって」

依緒「よろしい」

春希「依緒、武也のことをよろしくな」

依緒「わかってるわよ。でも、私は武也のマネージャーでも管理者でもないんだけど」

春希「でも、いつもつるんでるよな。昨日の修羅場もあって武也と距離をとるものかと
  心配してたのに、杞憂に終わってなによりだ」

依緒「まっ、腐れ縁だしね」

武也「そんな縁、腐って消えちまえ」

依緒「いったなぁ……」

春希「仲がいいってことはなによりだ」

俺の声が届いたらしく、じゃれつく二人は手を下し、頬を少しだけ赤く染めたような気がした。

春希「昨日言い忘れた、いや、言えなかった事があるんだけどさ、聞いてくれないか?」

 硬質な声が俺の緊張具合をうまい具合に表現し、武也たちの気を引き締める。
二人は目を合わせて何かを確認しあうと、俺の話を聞くべく顎をあげて俺を声を待つ。

春希「俺さ、卒論を前期日程で書き上げて、後期からはニューヨークにある開桜社で研修を
  受けることにしたんだ。一応大学の方は休学扱いになるけど、卒業には影響はない。
  だから、俺が大学にいられるのも夏までかな。あ、でも、卒業式には戻ってくるつもりだから」

武也「それはもう決まったことなんだよな」

春希「あぁ、教授とは話をつけたし、開桜社の方でも許可がでた」

武也「そっか。春希頑張ってたもんな。これは俺達の中で春希が一番の出世頭になりそうだな」

春希「それはどうかと思うけど、自分がやりたい事ができることには感謝してる」

武也「だあぁ……、俺ももっと頑張っておけば就職活動も早々に終えてバカンスと決め込めてたのに」

依緒「何言ってるのよ。春希は遊びにニューヨークに行くわけじゃないのよ。しかも、
  なによ武也。仕事の為の研修じゃなくて、あんた遊びまくるつもりじゃない」

武也「だってよ、就職したら遊びたくても遊びに行けないだろ。だったら今遊ばなくてどうする」

依緒「そういう考え方が今に至ってると、どうしてあんたは気がつかないかな」

春希「まあ、武也の気持ちもわからなくもない。でも、今回ニューヨーク行きが実現できたのも、
  俺の我儘をきいてくれた周りの人たちの協力があってこそだから、頑張ってくるつもりだ」

武也「そっか、じゃあ頑張れよ」

依緒「頑張ってね、春希」

春希「ありがとな」

武也「それで雪菜ちゃんには……」

春希「俺から言うよ。今度は文学部に逃げたときみたいな事はしない」

武也「なら安心だ」

依緒「春希が決めた事なら私は口出しをしない。でも、ちゃんとあの子に言ってあげてね」

春希「わかった」

 武也たちと別れ、終始俺達の会話を注意深く聞いていた千晶の気配が戻ってくる。今まで
そこにいたはずなのに、まったく気配を感じられなかったのはこいつなりの気配りなのかだろうか。
それとも何か考えての事なのかはわからない。でも、こいつ。依緒の事あまり好きじゃないって
いうか、苦手だろ。そういう態度は出さないけどさ。

千晶「どうしたの春希? 人の顔をじろじろ見ちゃって。もしかしてわたしの綺麗な顔に
  見惚れちゃった?」

春希「どこからその根拠もない自信が来るんだろうなと思ってな」

千晶「根拠? この大きくて自己主張が強い胸からかな」

だから胸をもむな。胸を寄せるな。そして、こっちを見るな。
子憎たらしい笑顔が俺を襲う。この心地よい襲撃に俺は何度ともなく救われる。
こいつたっらわかっててやってのけるんだから、ほんとかなわないよ。

春希「もういい。わかったから」

千晶「そう? けっこう視線感じちゃうのよね。視線が集まってくるっていうの? 
  向こうは見てません〜って顔してるんだけど、見てるのばればれなのにね。
  そんなに見たいんなら堂々と見たほうがこっちのすかっとするってもんなのに」

春希「見られてスカッとするのはお前くらいだよ」

千晶「あっ、それってじかに見た者の余裕ってやつ? そりゃあ服越しから見る胸よりは、
  生のおっぱいを見るのとではぜんっぜん違うもんね」

春希「はぁ……、もういい」

 体から力が向けていき、肩を落とす俺に千晶は慌てふためく。

千晶「ちょっとちょっとぉ……、今日はつれないんじゃない? もっとのってきてくれないと、
  私が変な女みたいに思われちゃうじゃない」

春希「安心しろ」

千晶「ん?」

春希「だから安心しろって。もう既に変な女だと思われているから」

千晶「その認識ってちょっとひどくない? まあ私も自分の事を普通だとは思ってないけどね」

春希「ならお互いの意見にひらきはないな。よかったじゃないか」

千晶「あぁっ、それはよくないって」

 こいつはいつも俺は励ましてくれる。こんなどうしようもない俺に手を差し伸べてくれる。
 俺はこいつに恩返しができるだろうか? 散々レポートとかで恩を返せよと冗談を連発したり
しているけど、あんなの千晶に恩だとは思ってほしくはない。俺がこいつから、
和泉千晶から受けている恩と比べれば、ちっぽけな施しにすぎないのだから。

春希「なあ、千晶」

千晶「なによっ、まだ何か言い足りない事でもあるの?」

春希「ニューヨーク行きの事なんだけど、俺がニューヨークに行くのは、助けたい人がいるから
  なんだ。俺が傷つけてしまったのに何を助けるんだって言われそうなんだけど、側にいて
  あげたいんだ。力になってあげたい。俺に出来ることなんて大した事ではないけど、
  それでも側にいた」

千晶は俺の突然すぎる告白を無言で聞くと、瞼を一端閉じる。そして瞼を再び開けた時には、
鋭くて優しい眼光が俺を射抜いた。こいつは最初から全てわかってたんじゃないかって
思えてくる。はっきりと具体的な事柄は想像で保管しかできいだろうけど、
こいつなら俺の気持ちをくみ取ってしまう気がした。

千晶「その人って、ヴァレンタインのライブに来ていた人でしょ?」

春希「見てたのか?」

千晶「ううん、春希となにがあったかなんて知らない。でも、私も一応あの舞台の上にいたんだ
  からわかるって。春希の事を見つめるその視線。春希のほうもまんざらではない感じ
  だったし、これは何かあるかなって思ったわけよ」

春希「そっか……」

千晶「で、どうするの?」

何に対してだろうか? ニューヨークに行ってどうするのか。それとも、かずさのことは
どうするのか。おそらくそのどちらでもあって、どちらでもない。きっと俺の決心を聞きたいはずだ。

春希「目の前の問題を解決していくだけだ。一つずつ、着実に進んでいかなければ身動きが
  取れなくなってしまうのが俺だからな。遠くの方ばかり見て足元をおろそかにしていたら、
  俺はきっと前には進めない。だから目の前にある問題から解決していくよ」

千晶「そっか。なら私は春希を応援するだけだよ。傷ついたら私のところに戻ってきてよ。
  何もできないけど、このおっきな胸で泣かせてあげるくらいならできるからさ」

春希「その時は頼む」

千晶「ふぅ〜ん」

春希「な、なんだよ?」

千晶「なんか素直だなって、ね」

春希「うっさい」

千晶「もう、かわいいやつ」

俺は千晶の両腕に捕まり、そのおっきな胸に抱きしめられ、心地よい安らぎが俺を襲う。
きっとこいつはほんとうに俺が言いだすまで待つつもりだったのだろう。
たとえ何も言わなくとも、千晶は俺の事を助けてくれたのだと思う。
でも俺にはそれができなかった。何も言わないで
利用するなんて、俺にはできなかった。
ただこいつは、和泉千晶は、俺のその性分さえも
理解したうえで待っていたのだろう。
どうしようもないいじっぱりで、暴走までしてしまう自称優等生の委員長。
どこまでも規則に従い、まっすぐすぎるほ真っ直ぐに歩いてしまう。人からは
堅物だって笑われもする。でも、今その優等生は真っ直ぐ歩けなくなってしまった。
寄り道ばかりして、本当に行きたい場所にたどり着けないかもしれない。
それはきっと間違った道順で、地図の見方を間違ってるって皆が言うのだろう。
でも、こいつだけは寄り道に付き合ってくれると馬鹿な事を言ってくれた。
いやらしい感情なんて持ち合わせてはいない。
この自他ともに認める大きな胸に抱きしめられ、俺は初めて許された気がした。
抵抗らしい抵抗をしない俺に千晶は初めこそ訝しげに見つめていたが、
俺の心情を読みとってしまうこの女性は、俺の頭を愛おしそうに撫で始める。
春の香りが俺の鼻をくすぐり、溶けゆく雪の温もりが俺達を包み込んでいった。




第48話 終劇
第49に続く



第48話 あとがき


春希とかずさの子育ては、曜子さんも加わる事によってにぎやかになるのでしょうね。
曜子さんが手を出さないわけがないですし。
どう考えても春希が中心となって子育てをするのでしょうが、
かずさママの奮闘ぶりは微笑ましいものとなるのでしょうね。
機会があれば書いてみたいものです。


来週も月曜日に掲載できると思いますので、
また読んでくださると大変嬉しく思います。

黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

更新お疲れ様です。
春希が日本にいる間は千晶にずっと振り回される日々になりそうですね。時に春希に対してまともな助言もしてはくれるけれどそういう時でさえも何処か最後にオチを付けている感じですがこれは千晶が春希に必要以上にのめり込まない為なのかもしれませんね。
次回も楽しみにしています。

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Posted by tune 2015年06月01日(月) 18:58:09 返信

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