第54話



 打ち合わせのために会議室に行くと、中から懐かしい言語が聞こえてくる。
 どうやら先に取材相手が待っているらしい。しかも、日本人が。

麻理「お待たせしてすみませんでした」

曜子「いいんですよ。こちらが早く来すぎたせいですから」

麻理「そうですか?」

曜子「この子ったらあいかわらずの取材嫌いで、
   時間に余裕を持って行動しないといつも遅刻するんですよ」

麻理「いえ、時間に余裕を持つ事は悪い事ではないですよ。冬馬さん」

 麻理さんが冬馬さんと言った人物は、冬馬曜子。つまりかずさの母親だった。
 曜子さんも俺が会議室に入った瞬間こそ目を細めはしたが、そこは冬馬曜子であり、
自分の仕事を優先させる。そして麻理さんも、開桜社の人間としての仕事を遂行していた。
会議室にいる四人のうち、今起こっている事態に対応できないでいるのは残りの二人であった。
俺と、そして冬馬曜子の娘にして取材対象の冬馬かずさであり、
なおかつ俺にとってなによりも大切な人。

かずさ「母さんっ! これはどういうことだっ。説明してくれ。あたしを驚かせたかったのか?
    それともコンクールで無様な結果を晒せたかったのか?」

 かずさは叫ぶ。
 それこそ曜子さんに掴みかかる勢いで。……実際には曜子さんに掴みかかったわけだが、
俺の視線を感じ取ってか、すぐに手を離していた。
 かずさは俺と同じように何も聞かされていなかったのだろう。
また、曜子さんも知らなかったようだ。
 知っていたのは、おそらく麻理さんただ一人のみ。
曜子さんが知っていたのならば、俺を見た瞬間にほんのわずかすら驚きをみせるはずがなかった。

曜子「少し落ち着きなさい、かずさ。私も春希君がいるなんて、今まで知らなかったわ。
   あなたと同じように、この部屋に春希君が来て知ったばかりだもの」

かずさ「ほんとうに?」

曜子「ほんとうよ。今あなたが言ったじゃない。何も準備もなしにコンクール前のあなたに
   春希君を会わせてなんのメリットがあるのよ。むしろあなたが言うように、
   コンクールに悪い影響を与えるわ。だってねぇ、今のあなたの状態だと、
   春希くんへの想いに演奏がひっぱられてしまうでしょうし」

かずさ「当然だ。あたしがどんだけ春希に会いたい気持ちを我慢してきたと思ってるんだ」

曜子「そうよねぇ。これがコンサートだったら、今の感情をだだ漏れにした演奏であっても
   あなたの感情にひっぱられて号泣する観客も出てくるでしょうけどね。でも、
   困ったことに今目の前にせまっているのはコンクールなのよね。そんな演奏したら、
   確実に審査員受けは悪いでしょうし。……というわけで、風岡さん。
   どういうことか説明していただけないでしょうか?」

麻理「冬馬さん。娘さんのコンクールがあるからこそ今回私に取材がまわってきました」

曜子「ええ、そうね。日本の方からニューヨークにいる優秀な編集部員を紹介するって
   いわれたわ。でも、春希君がいるとは知らされてなかったわ。……あっ、そうそう。
   私は曜子でいいわ。こっちのうるさいのはかずさで。ほら、苗字一緒だと紛らわしいし。
   それと……、春希君はただの部下って感じではないのでしょう?」

 曜子さんはフレンドリーに接しているようでそうでもない。笑顔の下に隠された素顔には、
目いっぱいの警戒心が潜んでいた。
しかも今やその警戒心さえ隠そうとしていないような気もしてしまう。 
これが本当にただの上司と部下だったならば、ちょっとしたサプライズで終わったのかもしれない。
かずさが懸念する隠しきれない俺への想いが演奏に与える影響さえも、コンクールまでに
調整させてしまうだろう。それこそ俺はできるかぎりの協力を願い出ていたと思う。
 しかし、俺が部屋に入ってすぐの、俺がかずさを見た時の態度が最悪だった。
 俺がかずさに示した感情は、後ろめたさ、だった。いくらサプライズであろうとも、
感動の再会ならば、喜びであるべきだ。
 それなのに俺ときたら、なにかかずさに隠していますってばればれの顔をしてしまった。
 だからこその曜子さんの警戒であり、かずさが素直に喜べないで戸惑っている理由のはずだ。

麻理「はい、全てをお話しします。かずささん。そして曜子さん。今日ここにお二人が
   来ることは、北原は知りませんでした。一カ月前に日本から取材の要請がありましたが、
   一カ月使っても私は北原に告げる事ができませんでした」

曜子「そう……。ちょっといいかしら?」

麻理「はい」

曜子「ううん、風岡さんにではなく、春希君に」

麻理「……北原」

春希「はい、なんでしょうか? すみません、俺も事態が飲み込めていなくて、
   うまく説明できるかわからないです」

曜子「大丈夫よ。私もわかっていないから。でも、今から私が春希君に聞く事は、
   今の事態を理解していなくても大丈夫な事よ」

春希「それでしたら」

 曜子さんが隠しもしないプレッシャーに体がこわばる。それは隣にいる麻理さんも、
そして曜子さんが体を張って守るはずのかずさ本人にさえ、曜子さんの熱にやられていた。

曜子「ねえ、春希君」

春希「はい」

曜子「浮気した?」

春希「はい」

曜子「……そう。目をそらさないのね」

春希「事実ですから」

曜子「でも、隣の彼女は浮気だとは思っていないようね。
   ……そうねぇ、事故ってところかしら?」

 俺とかずさは、曜子さんの指摘を聞くと、すぐさま麻理さんに視線をむける。
かずさは俺の浮気肯定発言に対して何も反応しなかった。
反応できなかったともいれるかもしれないことが、それがかえって俺を不安にさせるが、
それよりもまずは、曜子さんの発言の意図に俺もかずさも意識を奪い取られた。

春希「麻理さん?」

麻理「曜子さんのおっしゃる通りです。浮気……、キスしたのは私からであり、
   キスしたのもその一回だけです。そのキスさえも私が抑えてきた北原への想いが
   かずさんがニューヨークに来るとわかり、私の心が不安定になってしまたっからに
   すぎません。かずささん、曜子さん、本当に申し訳ありませんでした。そして、
   どうしてこのような事態になったかをこれから説明させてください。もちろんコンクール
   前だという事は重々承知しております。しかし何も知らせずにコンクールを終え、その後
   事実を告げられるよりも、今の方がいいと、勝手ながら判断させてもらいました。
   今回のコンクールよりも、来年のジェバンニが本番でしょうから」

曜子「そうね。事前準備としては最悪だけど、タイミングとしては悪くはないわ。
   では、話してもらおうかしら。風岡さんも何度も頭を下げなくていいわ」

麻理「はい。……北原?」

春希「…………すみません」

 俺は麻理さんの呼びかけのおかげでようやく金縛りがとけたが、みっともないうろたえ
まくった姿は相変わらずだった。
 本当は、麻理さんに事故だなんて言ってほしくはなかった。かずさのことだけを思えば、
事故だと押し通すべきだ。けれど、俺が救いたいのは麻理さんであって、かずさではない。
 欺瞞だと嘲笑われるだろうけど、俺はかずさとは、かずさの隣に立って、
共に歩いていきたいと願っている。
 わかってはいる。両立などできないし、自己満足にしかならないと。
 俺の身勝手な決断に、今目の前で、俺が大切にしたい二人が傷ついている。
しかも麻理さんに至っては、自分で傷つこうとさえしていた。

曜子「じゃあ、話してもらいましょうか」

麻理「はい、少し長くなるかもしれせんが」

曜子「かまわないわ」

 麻理さんは俺達の物語を語りだす。
 それは思いのほか日本で初めて麻理さんと出会った時まで遡った。
 麻理さんの俺への第一印象としてはとくになく、どうせすぐにやめてしまうだろうと
思っていたこと。しかし、予想を超える逸材で、いつしか自分を超える編集者に育てたいと夢を
抱いていたこと。そして、曜子さんのコンサートでかずさに会えなかった夜の事。
傷ついていた俺を、初めて男として愛おしく思った事。
 俺の好きな相手はかずさだけであっても、俺の事を忘れることができなくなり、
ヴァレンタインコンサートで告白した事さえ全て打ち明けていった。
 それは曜子さんとかずさに説明するというよりは、俺に聞いてもらいたかったのではないかと
さえ思えてしまう。だって、俺に愛を語りかけてきているって思えてしまう。
 その声が、その悲しみが、その流せない涙が、俺に突き刺さる。
 そしていつしか話題は麻理さんの心因性味覚障害についてにうつり、
今現在リハビリの為俺と同居している事に至る。
 麻理さんは、同居はリハビリ期間限定であり、一人で生きていける準備が整い次第同居は
解消すると、何度も念を押す。しかも、同居といっても共同生活という具合であり、
事実そうなのだが、まったく同棲とは違うものであると力説する。
 最後は、キスの話題だった。あの日あった出来事を、俺以上に詳しく説明していく。
誰がどのような仕事をしていて、どのようなトラブルがあったのか。
俺でさえ知らない編集部でのスケジュールをわかりやすくプリントにまとめてさえあった。
 おそらくこれは麻理さんが、今回の説明の為に準備しておいたのだろう。
しかも俺に気がつかれないように慎重に。

曜子「風岡さんの事情はよくわかったわ。もちろん春希君の人柄も理解しているから、
   彼はきっとあなたとのキスは事故ではないと押し通すでしょうね。
   それは風岡さんもそう思っているのではなくて?」

麻理「はい。北原ならそうするはずです」

曜子「だったらそれは事故だとはいえないのではないかしら?」

麻理「…………それは」

かずさ「ねえ、春希?」

春希「……あっ」

 俺と目を合わせようとして何度も失敗していたかずさが、今ようやく俺の視線を捉える。
 まっすぐと俺だけを見つめるその瞳に、俺は逃げ出したかった。けれど一度その意思が
こもった黒い瞳に見つめれれると、俺は懐かしさと愛おしさに悩まされる。
 何度も逃げようと揺れ動く俺の瞳に、かずさは黙って俺が落ち着くのを待ってくれた。
かずさの方こそこの場から立ち去りたいほどだろうに、俺の事を「まだ」見つめてくれていた。

かずさ「ねえ、春希。あたしのこと嫌いになった? ううん、興味がなくなったというのか、
   な? らしくないな……。あたしより、風岡、さん、の方を愛してる?」

春希「俺は、俺は……、かずさを愛してる。誰よりも、何よりも」

かずさ「そう……。じゃあ、風岡さんは?」

春希「かずさに対する愛情とは違う、と、思う。でも、幸せになってもらいたいと思っている」

かずさ「どう、ちがう、か……説明してよ」

春希「麻理さんは俺を救ってくれた。もちろん仕事に関しても尊敬している。けど、俺のせいで
   味覚障害になって、麻理さんの大切な仕事の邪魔をしてしまった。俺のせいで、
   俺のせいで麻理さんから仕事を奪ったままなんて、できやしない」

かずさ「うん、それはさっき風岡さんが説明してくれたからわかるよ。春希なら責任感じ
   ちゃって、治るまで面倒みるはずだと思う。……でもね、あたしがどんな気持ちで
   ウィーンにいたと思うんだよ。そりゃあさあ、あたしの我儘で春希をほったらかしの
   ままウィーン行っちゃったよ。しかも母さんのコンサートの時、あたし逃げたしさ。
   春希が楽屋まで来たの、知ってたんだ。
   楽屋の隅で隠れて春希が母さんと話しているところを覗いてたんだ」

春希「いた、のか?」

かずさ「ああ、いた。でも怖くて、春希の気持ちがあたしから離れているんじゃないかと
   思って会えなかった」

春希「なにも思ってない奴の為にわざわざコンサートになんて行くかよ。
   楽屋までいかないだろ」

かずさ「でも、春希が仕事で貰ったチケットだったんだろ? いくら母さんが準備したチケット
   であっても、仕事の為に来たと思って何が悪い。3年だぞ3年。まったく音沙汰も
   なくいたのに、どうして春希があたしの事を好きなままだと思うんだよ。
   いくらあたしの事を愛したままであっても不安になっちゃうよ。
   ……怖いよ。怖いよ、はるきぃ……」

春希「かず、さ」

かずさ「ねえ、どうやって会えに行けばよかった? あたしを隠していた花束とか棚を倒して
    出ていけばよかったのかなぁ。そうすれば春希も傷つかなくて、風岡さんになぐさめて
   もらわないで済んだのかなぁ。ねえ、春希。教えてよ。あたし、どうすれば
   よかったのかなぁ? わからないよ。わからないよ。……春希の気持ち。
   まったくわからないよ」

 かずさの気持ちが押し寄せる。積み重なった3年分の気持ちが一気に解放され、
俺を覆い尽くしていく。
 俺の気持ちなどどうでもよかった。後悔などあとですればいいとさえ思ってしまった。
 だって、かずさが目の前にいるから。
 だって、かずさの声が耳に響くから。
 その声が、その表情が、悲しみに打ちひしがれていたとしても、
俺はかずさに出会えたことに倒錯した喜びを感じてしまう。
 目の前で曜子さんが呆れていようと、隣で麻理さんが不安で押しつぶされていようと、
俺はかずさだけを選んでしまう。
 この瞬間の俺は、きっと全てを投げ捨ててもかずさを選んでしまうだろう。
 かずさを目の前にしてしまったら、目の前で麻理さんが倒れていても、
かずさに手をさしのばしてしまうだろう。
 その真っ直ぐすぎる愛情に溺れてしまっていた。
 かずさだけをみて、かずさだけを幸せにして、かずさだけを愛してしまうことに、
気がついてしまった。

春希「俺は……」

曜子「はい、ストォ〜ップ。はい、はい、かずさも自分の失敗の責任を春希君に押し付けない」

 俺の言葉にしてはいけない愛情を曜子さんが遮る。きっと曜子さんの事だから、
俺の言おうとしていた言葉を感じ取ってしまったのだろう。
 それは母親としてではないのかもしれない。
たぶんピアニストとしての冬馬曜子が止めに入ったのだろう。
 だって、俺だけを見つめている冬馬かずさに、
ピアニストとしての価値が本当にあるのだろうか?、と悩んでしまう。
曜子さんも恋人を作るなとは言ってはいない。そもそも曜子さんは俺とかずさの仲を認めている。
 でも、偏った愛情はピアニストとしては致命傷なのだろう。 
 なにせ演奏する曲調は一つではないのだから。
いつも偏った愛情がこもった演奏をしていては、かずさの成長はそこで止まってしまう。
 それを曜子さんはよしとはしない。そして俺もそれを望んではいない。
 だからこそ曜子さんは、俺の暴走を止めてくれたのだろう。
 そしてこの瞬間俺は我儘な俺に戻る。
 かずさを愛して、そして、麻理さんを幸せにしたいと願う、傲慢な俺に戻ってしまった。
 きっと俺はかずさ一人を選んだとしても、永遠に麻理さんの事を考え続けてしまうだろう。
俺が傷つけた、俺を愛してくれた、大切な麻理さんを、
俺は忘れることなんてできやしないのだから。
 だからこそ俺は、一瞬でも麻理さんを見捨ててしまった事に恐怖を覚える。
 自分の身勝手さが自分の限界を見せつけてくる事で、
俺は本当に麻理さんを幸せにできるのか、と恐怖を覚えてしまった。

かずさ「そんなことしてないだろっ。あたしは、あたしは……」

曜子「もぉ……、泣かないの」

かずさ「泣いてないっ。……ほんとに泣いてないからなっ、春希っ」

春希「あっ、うん……」

 かずさは肩をさする曜子さんの手を振り払うと、
涙を流してしないはずなのに目をこすって涙をふく。
 真っ赤に充血しているかずさの目は、俺をまだ捉えて離さないでいてくれた。

かずさ「ごめん、春希」

春希「いや、俺の方が悪いから。ごめん、かずさ」

かずさ「うん……」

曜子「さぁって、この色ぼけ馬鹿娘はいいとして……」

かずさ「だれが色ぼけ馬鹿娘だっ」

曜子「あなたのことよ?」

かずさ「誰がだよ」

曜子「だから、冬馬かずささんよ」

かずさ「……ふんっ、言ってろ」

曜子「はい、はい。いい子ねぇ」

かずさ「馬鹿にしやがって……もういいよ。話を進めてくれ。…………それと、
   頭の撫でるのはやめてくれ」

曜子「もうっ、恥ずかしがっちゃって。かわいいんだから」

 ほんと、曜子さんにはかわなない。この場の雰囲気だけじゃなくて、
情けなすぎる男さえも救おうとしてくれている。
 ほんとうならひっぱ叩いて取材拒否になってもおかしくないところを、
この人はもっと先の事を見つめて行動している気がする。
 一カ月後のコンクールだけではなく、1年後のコンクウールでさえない。
 もっとさきの、何年も先のかずさを思って行動しようとしている気がした。

曜子「さてと春希君。そして風岡さん」

春希「はい」

 麻理さんは返事の代りに顎を引くと、まっすぐと曜子さんの方に意識をむけた。

曜子「私があなた達の関係をどうこうすることはないわ。ましてや怒る事もない。
   ただ、かずさのことを思うと、……娘の母親としてはやるせないわ」

春希「はい」

曜子「でも、この子は自分が日本で春希君から逃げてしまったからだと自分を責めている
   ように、私もこの子をかくまったことを後悔しているわ。せっかく春希君が会いに
   来てくれたのに会いもしないで、しかも、その後ストーカーみたいにして春希君に
   会いに行ったのにね。そんな回りくどい事をするんなら、
   会いに来てくれたときに会っておけばいいのにって思っちゃったわよ」

春希「え?」

かずさ「母さんっ」

曜子「だって本当の事じゃない。春希君に電話できないって言って、会う約束もしていない
   のに会いに行ったじゃない。電話じゃ自分の気持ちを伝えられないって泣いてた
   じゃない。ただねぇ、ちょっと我が娘ながら抜けていると事があるのよねぇ。
   春希君がどこに住んでいるかさえ知らないで会いに行ったのよ。……あっ、大学の側に
   住んでいるのは聞いてたから、駅で春希君に会おうと張り込みしていたのよね? 
   ね、かずさ?」

かずさ「……忘れた。覚えてない」

曜子「そう? しかも、春希君が風岡さんとタクシーから降りるところを見て、
   泣いて帰ってきたじゃない? それも忘れちゃった?」

かずさ「あぁ〜、忘れた。忘れたんだよっ」

曜子「はいはい。素直じゃないんだから」

かずさ「いいだろ、べつに」

曜子「そうやって意固地になるから次のチャンスの時も、せっかく私がおぜん立てしたのに、
   結局は会わなかったわよね。私の予想では我慢できなくなって会うと思ってたのに」

かずさ「あの時は母さんも協力してくれたじゃないか」

 次のチャンス? かずさは少なくとも3回は会うチャンスがあったのか?
 俺は最初の一回目では、かずさに会えないからって麻理さんにすがってしまった。
自立した大人になりたいって言って独り暮らしして、開桜社でも認められるようになって、
しかもニューヨークまで来たというのに、肝心の部分がまったく成長していないじゃないか。
 いくら表面上の仕事ができるようになっても、心が成長していなければ、かずさと一緒に
歩いていくことなんてできないし、仕事に関しても、いつかはぼろが出てしまう。
 今の俺はどうしようもない子供に見えた。
 まさに母親を無視していたあの頃の自分そのものだった。

曜子「あれはぁ……、私も悪のりしすぎたなって反省はしているのよ」

かずさ「だろうな」

曜子「ごねんね」

春希「あの……、どういう事でしょうか?」

かずさ「春希……、ごめん。会いたくないわけじゃないんだ。本当だよ。
   だって春希のお弁当食べられて、あたしすっごく幸せだったんだ。
   会いたい気持ちを抑えるのに必死だったんだ」

 弁当?  というと、ギターの練習を見てくれるお礼として曜子さんに差し入れて
いた弁当を、曜子さんがかずさに渡していたってことか?
 たしかに曜子さんのコンサートの時も隠れていてっていうんなら、
かずさは自宅にはいないよな。ホテルにでも…………。
 いや待てよ。俺が麻理さんとタクシーって……。
あのときもかずさがいたのか。俺が麻理さんに抱きしめてもらっているところを見られたのか。





第54話 終劇
第55に続く



第54話 あとがき


過去回想。一番厄介なシーンです。ええ……、ほとんど忘れていますから。


来週も月曜日に掲載できると思いますので、
また読んでくださると大変嬉しく思います。

黒猫 with かずさ派

このページへのコメント

毎週、楽しみに読ませて頂いています。
とうとう春希とかずさが再会しましたね。
でも、修羅場なので、再会の感動よりも片付けなければならない問題があってちょっともどかしいです

それはさて置き、気がつけば、この「心の永住者」は連載開始してから1年以上が経過されたんですね。
1年経過が1ヶ月以上経ってからのコメントで申し訳ありませんが、本当にありがとうございます。
次の話も是非とも楽しみにしてます。
(ところで、タイトルの章を表す数字は3桁ですね。ということは…)

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Posted by TakeTake 2015年07月14日(火) 01:58:12 返信

修羅場来たか!?と思いきやただの暴露回でしたか。
概ね理性的に話が進んでいるようですが、もっと感情的な想いのぶつけ合いを見たかった気もします。特に春希とかずさの。
次回以降に期待します。

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Posted by N 2015年07月13日(月) 21:37:13 返信

更新お疲れ様です。
大雑把に展開は予想は出来ましたが、曜子さんも知らないというのは予想外でした。春希もかずさも互いに対して積極的にならなかったがゆえにもっと後悔するはめになるのはWA2ではお約束でもありますね。取り敢えず今回は曜子さんが何とかしてくれそうではありますが、麻里さんを含めた3人のこの後の展開がどうなるのか次回も楽しみにしています。

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Posted by tune 2015年07月13日(月) 18:24:14 返信

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