大晦日のコンサートに向かったら 第九話

「なぁーホントに春希ん家行くのか、依緒?」

「絶対春希変だって。ここ一週間姿も見てないし、昨日はついに電話にも出なかったじゃない。

こうなったら直接家に行くしかないでしょう? あんたは春希が心配じゃ無いの?」

武也と依緒は、大晦日二人で居酒屋で過ごし、その後二年参りに向かった。

そしてつい先ほどまで、依緒の家で。依緒と二人っきりで、というわけにはいかず、依緒のお母さんと三人でこたつの中でごろごろと過ごしていた。

昨日は春希と雪菜にも二年参りの誘いの電話を入れたのだが、雪菜は家族と過ごすからと言って断り、春希は電話にすらでなかった。

クリスマス以来、今までおかしかった春希と雪菜の関係がさらにこじれたように二人は感じていた。

依緒はいてもたってもいられず、武也を連れて春希のマンションへ向かったのだった。

「心配だけどさぁ、春希がおかしくなったのってクリスマスからだろ? 

それはつまり雪菜ちゃんと何かあったってことでさ、そのクリスマスのお膳立てしたの俺たちじゃん? そう考えるとこれ以上のお節介はヤバイ気がするんだよね」

「あたしたち四人は友達でしょ、お節介は焼いて当然、だけど…」

「だけど?」

「とりあえず春希の家に行って、クリスマスに何があったか聞く。
春希が引きこもるぐらいだから相当な事があったと思うよ。
だからその内容によってはさ、これ以上、あの二人をくっつけようとするのはやめようと思うんだ」

「…………」

「あたしたち四人が友達なのは変わらない、ずっとね。だけどあの二人はそれぞれ別の恋人を探し始めるんだよ。それでもし必要ならばその新しい恋人の関係に対してあたしたちはまたお節介をやいていく」

「ふーん、今の依緒の意見には大まか賛成」

「大まかって、気に入らない部分がある?」

「さぁどの部分でしょーねー」

武也は不満そうな顔をしながら空を見上げた。四人が友達なのは変わらない、春希と雪菜はそれぞれ別の恋人を見つける。

じゃあ残りの二人、武也と依緒も、ずっと『友達』のままなのだろうか。

今の依緒の提案、依緒もどこか自分たちとは別の場所にいる、恋人を探したいのだろうか。

――俺の気持ちが通じる日は来るのだろうか。

「た、武也!」

「――え? どうした」

依緒が武也の裾を引っ張った。依緒は春希のマンション近くに停まっているハイヤーを指さした。

そこにいたのは黒髪で長身の美女、三年経っていたが見間違えるはずが無い、冬馬かずさの姿だった。

かずさは左手でトランクを転がし、右手にビニール袋を持ちながら、早足でマンションへ向かっていく。春希の住んでいるマンションへ。

「冬馬!?」

思わず武也は声を出してしまった。

「えっ?」

突然名を呼ばれ、驚くかずさ。

声のする方に顔を向けると高校時代、最後のほんの数ヶ月交流があった武也と依緒の顔があった。

「――ッ」

かずさに迷いは無かった、まっすぐ二人のもとへ歩み寄る。

かずさの思いもよらない行動に、ぎこちない笑みを浮かべる武也と、武也の後ろに隠れながらかずさをにらみつける依緒。

「ひ、久っしぶりだなぁ、冬馬! あっちでの活躍、聞いてるぜ。いやぁお前が所属していたサークルの部長として鼻が高い高い!」

必要以上に警戒する依緒を中和するように、必要以上に馴れ馴れしく接するのを心がける武也。

「部長…それに水沢…これからあんたたち、春希の部屋に行くのか?」

「そ、そのつもりだけど!」

語尾が強くなる話す依緒。

「あ、あのさ…」

かずさはぎこちなく口を開いた。本当だったらあの部屋に春希と二人でいたい。

でも今優先すべきは、春希の体調を整えること。

「――ちょっと…助けてくれないか」

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