2年前。美穂子は、通っていた塾のバイト講師をしていた男性に惹かれ、
告白をし、予想外のこっ酷い言葉を投げつけられた経験がある。
その話を聞き、塞ぎ込んでいた美穂子のためにその相手――北原春希――に
会いに峰城大まで単身乗り込んでいったのが小春だった。

その時は、必要以上に深く傷つけられた美穂子のことを思っての行動に他ならなかった。
春希と、そして一緒にいた春希の親友を自称する飯塚武也。
3つも年上の男性2人を前にして、小春は物怖じもせずに春希の言葉を非難した。
美穂子が学校にも来なくなるほど酷く傷ついていることを訴えた。
春希は

「酷い態度を取ってしまった事、謝るよ」

と答え、自分の非を認めた。だから小春は目の前の男の取った行動が、
何らかの事情があってのことだと察した。
そこで改めて、というより、更にもう一歩踏み込んでしまった。
当時、小木曽雪菜と冷戦状態にあった春希に

「嘘をつかずに、本当のこと全部話してください。本当は彼女がいるなら、そう言ってあげてください」
「美穂子、本気だったんです。だから、断るにしても誠実でいてください。…お願いします」

そう言って「美穂子への誠実さ」を求めてしまった。
勿論、当時の春希と雪菜の微妙な関係を知る由もない小春に落ち度は無い。
小春のそんな絶対正義に満ちた瞳は、昔の春希にそっくりで――

春希は、三つも年下の女の子に、心の奥底に隠していたはずの、醜い感情をぶつけた。

春希と小春。2人のファーストコンタクトはお互いに最悪の印象を植え付けたのだ。

その後、二人はここ、グッディーズ南末次店というバイト先で再会することになる。
無論紆余曲折あったが、二人は少しずつ親密になっていく。

そんな折、合コンに出席したはずの雪菜が行方知れずになったことがあった。
ちょうど春希と一緒にバイトを上がった小春は、雪菜捜索のため春希と行動を共にした。
その時の「北原先輩」は、今まで小春が見たことのない行動力と「恐怖政治」ぶりを発揮する。
それは2人が捜索活動を始める直前、小春自身が春希に投げかけた
「先輩に興味を持ってしまうからです!」
という言葉をますます助長することになる。
結果、雪菜は意外な形で発見することができたが、春希と雪菜は深夜の公園で
和解することも出来ず、更に傷つけあうこととなってしまった。
そして、いつの間にか姿を消していた小春はその光景をこっそり見ていたのである。
……きっとあの時の帰りのタクシー代は、小春は思い出したくないだろう。

やがて――小春は、春希に対して恋心を持ってしまった。
しかし雪菜という存在、そして美穂子の気持ち。それを知っていた小春は
どうすることもできず、ただただ一人、苦しんでいた。
届かない恋を、していた。
届けてはいけない恋に、もがいていた。

そんな小春が北原先輩のために、小木曽先輩のために。そして誰より、自分のために出した結論。
それは、春希と雪菜の仲を後押しすること。武也と水沢依緒を、グッディーズの面々をも
(主にシフト的な意味で)巻き込んで外堀を埋めにかかり、クリスマスイブ……12月24日に、
2人のデートをセッティングするという行動に出たのだ。
単なる先輩と後輩とは思えない行動力とお節介さに、当時の依緒は
女の勘とでも言うべきか、少なからず小春の行動を疑問視した。
春希と雪菜を後押しすることで得られる、小春のメリットはなんだろうか、と。

「純粋な親切。言い換えればただのお節介」と返す武也に

「自分のことは何一つ省みず、春希が幸せになれればそれでいいって…?」と依緒。

「けど、まさか。相手は春希だぞ? あの堅物にそこまでズブズブにハマる女の子が…」

「雪菜の時も最初そう言ってたよね、武也。…冬馬かずさの時だって」

この時、武也に返す言葉は無かった。いや、返せなかったと言った方が正しいか。
ただ、武也と依緒に共通する想いは「考えすぎであって欲しい」という願いだった。

2人にとって救い――小春にとっては不運かも――だったのは、春希が
こういった「女性から自分に向けられる想い」に愚鈍であった事だろう。
好意的に解釈すれば、「クリスマスイブ」に「雪菜とデート」という据え膳に
頭が一杯だった、のかもしれない。少し考えれば、誰がそのお膳立てをしたのか判ったであろうに。

ともあれ、この時も春希と雪菜はお互いの間にある溝を更に、そして決定的に深めることとなってしまった。
その後、武也や依緒、小春は勿論のこと。和泉千晶や風岡麻理とのやり取りもあって
春希は立ち直り、前を向こうと決心するのだがそれはまた別のお話。

小春は春希への想いをそっと胸にしまい、やがて関係を修復してゆく春希と雪菜を
見守る立場となり、峰城大バレンタインコンサートで2人の奏でる『届かない恋』を見届けた。

♪孤独なふりをしてるの なぜだろう 気になっていた♪

 ……ねぇ、北原先輩。初めて会った時のこと、覚えていますか?
 美穂子のためにと思って先輩にお会いして。そんな時先輩が言ったことを。
 「俺みたいな奴なんか好きにならないでくれよ!」って。
 どうしてあんな言葉を先輩が言ったのか。
 どうして私はあんな言葉を言わせてしまったのか。
 ずっと、気になっていたんですよ……?
 
♪気づけば いつのまにか 誰より 惹かれていた♪

 ……おかしいな、北原先輩に惹かれていたのは美穂子だったのに。
 私の、親友だったのに。

♪どうすれば この心は 鏡に映るの?♪

 ……私は。私の、この気持ち……は……。
 ダメ。私の本当の気持ちは、鏡の前には曝け出せないよ……。
 悲しむ人が、多すぎるもの……。
 失うものが、大きすぎるもの……。

♪届かない恋をしていても 映しだす日がくるかな♪
♪ぼやけた答えが 見え始めるまでは 今もこの恋は 動き出せない♪

 ……小木曽先輩と、幸せになって下さい……ね。
 そうでないと……私、困ります……困ります……よ……?



その2週間後。小木曽家で行われたちょっと遅れた雪菜の誕生日パーティ兼
孝宏たちの卒業祝いパーティ。美穂子はまだ気持ちの整理がつかず欠席していたが
早百合、亜子と共に小春もその場に参加していた。
……春希と、雪菜の「終章」を、周囲の友人たちとは少し違う感情を抱きつつも、見届けていた。

第2話 了

第1話 怒れる小春 / 第3話 心の痕(きずあと)
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このページへのコメント

トンプソン様
コメントありがとうございます。
実は第3話の展開を先読みされたようなコメントで正直驚いてしまいました。
が、せっかくなので修正せずUPいたしました。
期待にお応えできるよう、頑張ります。

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Posted by pU7TGRxo+Q 2014年10月31日(金) 14:24:48 返信

小春は誰にも気持ちを相談できてなかったんですよね。そう思うと小春は強い子だなと思いました。小春があの二人のつながりになるのかな?
千晶と小春と麻里さんの3人娘は「春希」の味方だと思ってますが、これからどうなるか楽しみです、頑張ってください

0
Posted by トンプソン 2014年10月31日(金) 08:27:52 返信

N様
コメントありがとうございます。
私も、小春ルート後の小春より、雪菜ルート後の小春や
かずさルート後の小春が気になっておりまして、今回後者について考えてみようと思いました。

tune様
コメントありがとうございます。
そうですね、最初は悲しさが一番に来るかと想像しましたが
小春と春希のやり取りを本編で何度も確認して、「これは怒りの方が強いな」と考えを改めた経緯があります。
そして武也たちとの接触も「どっちの味方になるか」もお見通しのようですね(笑)
次回も楽しんでお読みいただけるよう、尽力します。

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Posted by pU7TGRxo+Q 2014年10月31日(金) 07:52:07 返信

かずさTedの顛末を知れば小春の最初の反応はこのssの様な感じになると思います。この物語では今のところ孝宏から亜子を通して聞いた様ですが、この後武也辺りからもっと詳しい事を聞かされた時どう思うのか興味深いですね。ただ基本は雪菜の味方かなあとは思います。

0
Posted by tune 2014年10月31日(金) 03:50:53 返信

かずさTEND後の小春が春希のしでかした事を聞いてどんな行動をとるかは気になっていたので、小春主役のこの物語がこれからどんな展開になるのか楽しみです。

0
Posted by N 2014年10月31日(金) 01:36:10 返信

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