かずさ「北原?」

自分を呼ぶ声で本当に目が覚めた。

ここは、夕方の音楽室。
ピアノを弾く冬馬と、椅子に座った俺がいた。
ついさっきまで冬馬のピアノを聴いていたのだが、どうやら寝てしまっていたようだ。
あれ?なんか夢を見ていたような…

春希「冬馬…」

かずさ「お前、また寝てただろ?」

春希「い、いや…そんなことは…」

かずさ「バレバレだよ。ピアノを弾きながらだって分かるぞ。音に集中したいからって目を閉じてただけって訳じゃないよな。寝息で分かる」

春希「さすがに誤魔化せないか…。ごめん。」

かずさ「当たり前だ。ピアニストの耳をなめるな」

春希「うーん。言い訳をさせてもらうと、最近ろくに寝てなかったからな」

かずさ「だからって、折角あたしがピアノを弾いてやってるんだ。寝るバカがあるか」

春希「ごめんってば。やっぱり冬馬のピアノって何か安心できるんだよ」

かずさ「前にも聞いたよ。あたしのピアノは催眠音波か。」

と、ここでため息をつく冬馬。

かずさ「折角Sound Of Destinyのギターソロが一応通しでできたってのにな。もぬけの殻か」

春希「一応って、あれ、完璧じゃなかったのか?」

かずさ「確かにミスはしてなかったけど、向上の余地はまだまだあるぞ」

春希「嘘だろ?あれでも、俺の120%どころか200%の実力が出せたと思ったんだけどな〜」

かずさ「まだまだ甘い。次はもっときついギターソロを担当させる曲でいくぞ」

春希「うへー」

雪菜「相変わらず、春希くんには厳しいね。冬馬さん」

と、俺たちの掛け合いの間に雪菜が入ってきた。

かずさ「小木曽…」

春希「あ、せつ…な…」

俺は、音楽室に入ってきた雪菜に振り向いて、言葉を失った。
雪菜は、ステージ用の白い衣装のままだった。
それはいい。
ステージ用の衣装のまま女給さんをさせられていたと聞いていたから。
でも、その上に赤いコートを羽織っていた。


赤いコート…?

冬馬にキスされ

雪菜に告白され

さっきの夢を思い出した。



春希「〜〜〜〜」

雪菜「どうしたの?春希くん?」

顔が赤くなる俺を雪菜が不思議がる。

春希「あ、ああ…。い、いや、何でもない。」

そう、この場は誤魔化さなくてはいけない。
我ながら、何という夢を見たんだ!
どれだけ自惚れてるんだ!
恥ずかしくて死にそうになる。
この場は、別の話をして誤魔化そう。

雪菜「あれ?冬馬さん、ステージ衣装のままだったんだ」

と焦った俺をフォローする様な形で冬馬に話しかける雪菜。

かずさ「ああ、着替えるのが面倒だったんだよ…」

雪菜「ふーん」

と少しニヤニヤしている様に見える雪菜に俺は別の話題を振った。

春希「そ、そのコートは?」

雪菜「これ?お母さんが昨日家に帰ってないからって持ってきてくれたんだよ」

ん?
夢の中でも、雪菜はそんなことを言っていたような…?
って今は、あの夢のことを思い出すな!
何か別の話題を〜


かずさ「それで、クラスの出し物はもういいのか?小木曽」

雪菜「予定より早く終わっちゃったの。材料が底を尽きちゃって」

かずさ「間違いなく小木曽のせいだろ」

春希「だ、だな」

何とか普段の調子を取り戻す俺。

春希「この分だと、明日のミスコンは雪菜の圧勝じゃないのか?」

雪菜「え〜?そうなのかな」

春希「だって、メンバー紹介の時に、「例の投票よろしく」って言ったときは笑いたくなったぞ」

かずさ「それは、あたしも同意見だ。なんだかんだ言って勝ちたいんだろ?」

雪菜「ま…まぁ、あれは何と言うか、あの場を盛り上げるための方便というか」

春希「確かに盛り上がっていたけど、例の柳原朋なんかは怒りに震えてるぞ」

といつも通りに談笑する俺たち。


春希「でも、終わっちゃったな…」

雪菜「そうだね」

春希「気分は興奮しているのに、何だろ…すごく不思議な気分だ」

かずさ「ああ、それ、あたしも分かるよ。すっごく気持ちが良かったコンクールの後の気分だ」

春希「また、やりたいな…」

雪菜「うん!絶対やろうよ!」

かずさ「まぁ、悪くは無いかな」

春希「思えば、この音楽室で冬馬がピアノを弾いてくれたから俺たち三人が集まることができたんだよな」

かずさ「思えばって何だよ。北原って時々おっさんみたいなことを言うよな」

春希「う、うるさいな」

と、ここでふと思いついた。

春希「なぁ、三人で写真撮らないか?」

かずさ「ん?ライブ前にも撮っただろ?」

春希「でも、ここは俺たちにとって思い出の場所だから。それに二人とも折角ステージの衣装のままなんだしさ」

雪菜「春希くん、言い方がいやらしい〜」

春希「い、いや、そういう意味じゃなくて、俺たちはこの姿でステージを成功させましたって意味を込めてさ」

雪菜「はいはい、分かりました〜。」

かずさ「別に写真ぐらいいいけど…」

雪菜「あれ?でも、撮ってくれる人、誰もいないよ?」

春希「ああ、俺の携帯のカメラ、タイマー機能あるからさ」

と、俺の提案に二人は承諾してくれたため、三人でピアノをバックに写真を撮った。

撮った写真の中での三人は、ライブ前に撮ったものと同じくらい良い表情をしていたと俺には思えた。

何だよ。ライブが終わっても、俺たち三人は別に変わらないじゃないか。


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