※かずさTエンド後のウィーンでの話になります。


「トリックオアトリート!」
春希が仕事を終えて自宅に帰って来ると玄関でかずさの声が出迎えた。
そういえば今日はハロウィンだったな、と春希は思い出した。日本人である自分にはあまり馴染みの無い風習ではあるがここはヨーロッパのウィーンである。本場ケルトやアメリカ程ではないが最近街並にはハロウィン独特の飾り付けがチラホラとなされ、そこそこの風情を見せていた。
かずさが日本を離れて5年以上が経っており、こちらの風習に馴染んでいるのを事ある毎に見せ付けられていたし、春希もそんな彼女に対して「元日本人」などと冗談で呼んだりもしたものだ。
だからかずさがケルトの風習に則り耳慣れない台詞を叫ぼうともそれは一向に構わない。構わない話なのだが、問題はその格好だ。頭に黒い三角帽子を被り、肩からも黒い光沢のあるマントを羽織っている姿はハロウィンらしく魔女の格好なのだろうが、春希の常識で許容出来るのはそこまでだ。肝心の体を覆う衣服の部分が何とも凄い事になっている。
他と同じく黒い布地を主としているワンピースなのだが、ぴったりと張り付くように裁断された生地は限りなく薄く、体のラインどころか本来出してはいけないくっきりとした凹凸まで浮かび上がらせてしまっている。そしてその布面積がまた小さく、左右の胸の間は大きく抉り込まれており革の編み込みで結ばれていなければかずさの豊満すぎる胸はとっくに零れ落ちているに違いない(尚、編み込み部分がかなりきつく結ばれている為要所要所がはち切れんばかりに強調されていてこれまた扇情的だった)。そしてスカート部分の裾はもはや膝上何センチという呼ぶのもおこがましい状態で、根元側から数えた方が実際的だなと春希は益体も無い事を考えた。
「ト、トリックオアトリート!!」
一瞬物思いに沈んでいた春希に抗議するかのようにかずさがもう一度ボリュームを一段上げて同じ言葉を叫ぶ。その声でようやく我に返り、現状の把握と状況の打開の為に頭をフル回転させる。とにかくハロウィンでトリックオアトリートと言われたら問答無用でお菓子を出せば良いのだ。瞬間的に判断した春希はポケットをまさぐり、普段かずさを餌付けする為に常備している飴やらグミやらを取り出した。ハロウィンって子供が家を回ってお菓子を貰うイベントだと思ったけど家で待ち構えていてお菓子をせがむとかどうなんだとか、でもかずさは精神的には子供みたいなもんだよなとか埒も無い事を思い浮かべながら目の前に差し出すと――
「あ、ありがとう………ってそうじゃなくて」
反射的に受け取ってお礼を言った後、何故かかずさは短い唸り声を上げ胡乱な目つきで春希を睨んで来た。今の衣装を着てその上目遣いは凶悪に可愛過いからやめて欲しい、それとそんな衣装を着るならちゃんと整えないと胸元から大事な部分が顔を出してしまう、というのは置いておいてどうやら対応を誤ったらしいと気付き問い掛ける。
「なあかずさ、お菓子が欲しいんじゃなかったのか? ハロウィンなんだからいつもほど口喧しくは注意しないぞ。ほら、食べて良し」
愛犬に許可を出すように言いつつかずさの様子を窺ってみると…
「いただきます………うー、違う。そうじゃない」
お菓子はきっちり食べつつ抗議を続ける。
「その様子だと説得力無いけどな…」
「ひはふんははうひ」
どうやら「違うんだ春希」と言いたいらしい。食べ終わってから喋るように促すとかずさはんぐんぐと可愛らしく咀嚼してから改めて声を上げた。
「その、さ。お菓子をくれたのは嬉しいけど、あたしは……もう片方の事がしたいんだよ」
もう片方? そこまで言われて流石に朴念仁の春希もようやくかずさの意図を悟る。
「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ」というハロウィンのしきたりの悪戯の方。と言ってもかずさの悪戯はただの悪戯では済むまい。つまりこの大胆過ぎる格好もその、アレな悪戯の為の専用装備って事なのだろう。ただそれでもまだ分からない事もある。
「かずさ、そうは言うけどほら、俺達毎晩その、悪戯し合ってるじゃないか」
しどろもどろになりながらも春希はわざわざ大袈裟な出迎え方をしてイベントに乗ったかずさの行動理由を探る。言葉通り毎晩やる事をやっているくせにどうも直截的な表現を使うのは憚られる春希である。
「毎晩やってるからこそ刺激っていうかたまには変化が必要なんだよ!」
かずさはそれに対して力説し始めた。
「あたしはお前にして貰えるだけで満足だけど、それだけじゃお前に飽きられるかもしれない! それが嫌なんだ!」
凄い内容を大声で叫ぶかずさに思わず春希は周りを見回した。ちなみに自宅には自分達以外誰もいないので話を聞かれる心配は無い。
「かずさ、俺がお前に飽きたりするわけがないよ。俺は今のままでも十分満足だって」
春希はかずさを抱き寄せると帽子に隠れた黒髪を右手で丁寧に撫で付けながら耳元で囁いてやる。
「春希ぃ…」
この行動はかずさの心を捉えたようでどうやら落ち着きを取り戻して大人しくなった。そう見て取るなり春希は畳み掛ける。
「で、今日に限ってそういう事を思い付いたのは何でなんだ?」
かずさはこの手のイベント事に興味を持つタイプではなく、ハロウィンにかこつけて盛り上がってしまおうという発想を思い付く事自体に違和感がある。
「そ、それは母さんが…」
しかしかずさのその一言で春希は事態の全容を何となく把握した。
「そういやこの前お義母さんとビデオチャットしてた時様子がおかしかったな。急に赤くなったり…向こうは何か大笑いしてたし、この企みを吹き込まれてたのか?」
無言でこっくり頷くかずさ。とするとこの衣装も全部曜子さんの準備したものという事なのだろうか? 相変わらず面白い事の為には手間を惜しまない人だ。
「母さんに言われたんだ。尽してくれる優しい旦那さんに甘えるのも良いけど夜はその分ちゃんとサービスしないと駄目だって。『いつか愛想尽かされても知らないわよ』って」
その言葉はかずさにとってクリーンヒットだったのだろう。家事の出来ないかずさは普段からその辺りの事に思い悩んでいたのかもしれない。そこに自分が春希に対して出来る得意分野でアイディアを出されては迷いなく飛び付くのも無理はない。
 正直余計なお節介ではあるのだが、今回は義理の上でも受けておくべきだ――いや……
「あ! 春希…そのさ、あたしの太もものところに何か固いのが当たってるんだけど」
赤面しながら言うかずさに春希は内心で言い訳していた自分への嘘を訂正しなければならなかった。かずさを宥める為に密着しなくてはならず、そうするとただでさえ視覚的に凄い事になっていたのに今度は触覚で特殊装備の破壊力を身をもって味わってしまった春希は若い滾りを抑える事など出来ず、一瞬で臨戦態勢になってしまったのだ。
 曜子さんの入れ知恵は春希にとって全く余計なお節介などではなく、本当に嬉しい成果をもたらしている。
「『カメラだよ!」って言っても信じないよな…」
照れ隠しにそんな冗談を言ってみるがかずさは乗って来ない。
「勘違いしないでくれ、嫌なわけじゃないんだ。むしろそうなってくれて嬉しいというか。春希がそうなってくれるようにこんな衣装着たんだしさ…」
そう言って目を逸らすかずさに春希は欲情以外の何かも呼び起こされ、思わず問い掛ける。
「ごめんかずさ、俺、もう我慢出来ないみたいだ…ここで………良いか?」
言いながらも許可を待たずに衣装の上からかずさの体をまさぐり始める。
「…ん」
かずさはそれに対して返事ともつかぬ応(いら)えを返し、代わりにキスで答えた。春希は一秒でも惜しいとばかりにかずさの肩からマントを取り外し、それを床に敷いてその上にかずさの体を優しく横たえ、自らも覆い被さっていく。
 二人のハロウィンの夜が更けて行った。



後書き
ハロウィンという事でつい突発的に書きたくなり投稿してしまいました。
もう書かないような事を言っていたのですが……かずさのハロウィン仮装姿見たいです

このページへのコメント

かずさの黒魔女コスは似合うでしょうね。
ハロウィンを楽しむ二人が見れて良かったです。

0
Posted by N 2015年11月07日(土) 21:35:59 返信

お疲れ様です。かずさの後日談は新妻ダイアリーじゃないけどこういうので良いと思うんですよね。
ただ2人でイチャイチャしてるのが好きです。

0
Posted by ナガレ 2015年11月01日(日) 15:27:43 返信

ハロウィンの魔女コスプレかずさとイチャイチャというのは良いですよね
クリスマス、バレンタインはあったけどハロウィン物の話は初の筈

0
Posted by SP 2015年10月31日(土) 19:57:40 返信

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