予想外の展開に会場中がざわめく中、
「それでは、ここで司会者の交代をお知らせします」
澄んだ声が響き渡った。
朋をはじめとした皆が唖然とする中、会場横のスタッフ出入り口からオーシャンブルーのドレスを着た女性が現れた。
「ここから後は、私が司会進行を務めさせて頂きます」
一礼した女性が顔を上げ、スポットライトが当たると、会場中のざわめきがさらに増した」

「緒方理奈だ!」
「え、うそ!」
「やった!ラッキー」

皆が口々に感激を表わす中、理奈は春希、雪菜、そして朋に言った。
「ごめんなさいね、こんな時間にしか来られなくって。でも、思った通りの、いえ、それ以上の結末になって良かったわ」
朋は考えた。たしか、理奈は今日は一日中、CD発売イベントとしてあちこち都内のCDショップをまわっているはず。だからここには来られないって…。それに、司会交代って…
不安そうな朋の表情を見た理奈は
「お疲れ様、後の事は任せてね。もちろん冬弥君も了解済みよ」
朋に向ってウィンクすると
「皆さま、新たな幸せに向かって一歩を踏み出した二人が退場します。盛大な拍手で送り出してあげましょう!」
拍手と歓声と、恐らく友近に対してのやっかみ半分のヤジが入り混じって騒然とした中、二人はしっかりと手を繋いで会場正面の出入り口の前まで歩いて来た。
二人が扉の前まで来るとゆっくりと扉が開き、その隙間からスポットライトの光が洩れて来た。
眩しくて外の様子は分からなかったが、扉を閉じられる位置まで進むと二人は振り向いて会場内に向かって頭を下げた。
二人のシルエットを扉が隠し、光が消えるまで会場の拍手は止まなかった。


頭を下げていた二人は、やがて、扉が閉じ、スポットライトも消えたことを確認すると頭を上げ、お互いの視線を絡めて頷き会うとざわつく後を振り返った。

パン!
パパン!

二人に向かってクラッカーが鳴らされた。
「朋、おめでとー!」
「やったな、友近!」
「おいおい、マジかよー」
出入り口の周りには何重もの人垣が出来ていた。
「これは、いったい…」
唖然とする二人に朋の友人が答えた。
「だって、モニター見てたら何かすごい事になってきちゃってたから、どうなる事かと心配してたら、だんだん人が集まってきて、何かテレビのスタッフらしき人からクラッカー渡されるし…
朋は驚いた、誰かがこの展開を予想してたって事?考えられるのは……そう、理奈さん。
「でもさぁ、友近。これってホントにマジな話なのか?俺たち信じられないんだけどさぁ」
「そうそう、いくらなんでもお前と朋ちゃんが…」
「実は、テレビ用のドッキリだったりしてさ」
恐らくは友近の同僚のからかい半分の言葉だろうという事は、朋には分かった。
けれど、何となく彼を馬鹿にされたような気分にもなったので
「じゃぁ、信じられるようにしてあげましょ?」
そう言って友近の方を向くと、その首に腕を廻して顔を近づけてきた。
「おいおい、いったい何を…」
もちろん、朋の行動が何を意味するのかは分かったが、こんな皆の前でという気持ちがあり、躊躇した。
「私とじゃ、いや?」
その言葉に、友近の心は決まった。
「いやな訳、あるかよ」
そっと顔を近づけると、唇を重ねた。

「おぉ…」

周りのどよめきはもう気にしないことにした。
そっと唇を離すと、そのまま見つめ合ったまま朋は言った。
「覚悟しておいてね。これ、私のファーストキスだから」
「奇遇だな。俺もファーストキスなんだ」



  ― THE END ―
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このページへのコメント

な、なんと、ピュアなラブロマンス。
予想外の話に、驚きでした。

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Posted by のむら。 2017年04月14日(金) 23:18:05 返信

お二人の応援のおかげで、最後まで書ききることができました。
実際にはすでに頭の中には様々な展開が出来上がっていて、それをまとめるだけでしたが、ほとんど週末いっぱいかかってしまいました(笑)
読んでいただき本当にありがとうございました。

0
Posted by finepcnet 2014年02月16日(日) 17:24:48 返信

良い物語だったと思います。作者さんがこの後どんなSSを書いてくれるのかを楽しみにしています。

0
Posted by tune 2014年02月16日(日) 16:12:07 返信

こんなにも短時間で 作者さんが沢山の更新をしてくれて 本当にありがとうございます。感謝感謝です。

0
Posted by black 2014年02月16日(日) 16:02:16 返信

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