翌日、春希は憂鬱な気分で出社した。
別に小春が一緒に働いているぐらいは問題は無かった。
けれど、小春はあの日ずっと春希に猛アピールをしていた……ように周りからは見えたらしい。
小春のかわいさもあってか、特に独身男性社員からは無言の反感を感じていた。誰とは言わないが、すぐ上の先輩なんかは特に…

「おはようございまーす」
編集部に入ると周りからの視線が集中した。え…?と動揺した春希に
「おはよう、元カレ君!」
「…鈴木さん……えっと…俺、誰の元彼なんですか……?」
「何言ってんの、あんな……すっごくカッコ良かったよ!」
その言葉でピンと来た。そう言えば、きのう学園祭のDVDを探しに行ったんだっけ…
「もうさぁー、これで麻里さんが何で北原君にぞっこんだったか分かっちゃった気がしてねぇ」
「いや、麻里さんが俺にぞっこんって、そんなあり得ない事を…」
「あー、これだから女心が分からないヤツは……」
鈴木はやれやれといった表情で春希を見た。

「麻里さんもあれ見ちゃったんだよねぇー、そりゃクラッとくるわよ……」
いや、こっちが今クラッときたんですけど…、と春希が思っていると、松岡が
「そんなにすごい映像だったんですか?いったい北原何したんです?」
「いやー、あたしもさぁ、最初全体の映像が映って、左の黒髪ロングに目が行ったわけよ。あっ、冬馬かずさだ、って。
でも、カメラは真ん中のボーカルのコばっかアップで映すわけよ」
「冬馬かずさを映さないなんてもったいない……」
「あたしも一瞬そう思ったんだけどね、これがまたすんごいカワイいコなわけよ。ある意味冬馬かずさ以上ってぐらいの。
でさ、そのコがまた歌がすっごくうまいの。きっと学園のアイドル的存在だったんだろうねぇ…」
「そんな子と冬馬かずさが組んでるって…それってすごい事なんじゃないですか?」
もはや松岡も興奮気味である。

「でもね、もっと驚いたことがあるのよ、実は…」
「もう、いいじゃないですか、鈴木さん。ほら、仕事しないと浜田さんが……」
だが、春希が見回しても浜田の姿は無かった。鈴木はそれを見ると肩をすくめて、
「一曲目の途中で冬馬かずさがサックスを吹きだしたのよ。もーびっくりしちゃって」
春希はとりあえずほっとした。まだその話題なら…
「へぇー、冬馬かずさってピアノだけじゃなくそんな事も出来るんだ」
「しかも、二曲目はベース弾いてたしね」
「うわ、もうなんか嫌になっちゃいますよね、俺たちなんか楽器なんて全然ダメだもんなぁ、北原」

しかし、松岡の何気ない言葉に鈴木の目が輝いた。
「ダメダメ松ちゃん、北原君を自分と同じなんて思っちゃ…って、それは置いといて、二曲目何だったと思う?なんと緒方理奈の『SOUND OF DESTINY』なのよ」
「『SOUND OF DESTINY』って…確か最後のギターソロが、無茶苦茶カッコイイやつじゃ… でも難しくて俺の同級生であれ弾けるヤツなんて一人もいませんでしたよ」
「そのギターソロを完璧に弾いちゃったのが、ここにいる北原君だったのよぉ、もぉサイコーにカッコヨかったよぉ!
そんで、そのソロが終わった後にさぁ、もう、燃え尽きたって感じの北原君に冬馬かずさがそっと寄ってって、顔にコツンって拳を当てたりしちゃってさぁ、
あー、なんだよこいつら、通じ合ってるじゃんって思ったんだよ、ね、元カレ君」
「だから、元彼違いますって!おれはあいつとはつき合ってませんから」
「あいつとは?…じゃぁ、ボーカルのコ?」
「うっ………」

言葉に詰まってしまった春希は、しまった、と思ったがもう遅かった。
「え?えぇ?……えー!! ホントにホント?あのコ?あの綺麗なコ?あのコが北原くんの彼女なの?もしかしてこの間…」
「…だから、今はつき合ってませんから。もう別れましたから」
「やっぱ元カレじゃん」
「『誰の』という処の認識が違ってると思うんですが…っていうか、そろそろ仕事しないとホントに浜田さんが…」
春希がなんとかその場を切り抜けようとした時に
「北原!」
浜田の大声が響いた。
「ほら、言わんこっちゃな……」
「北原、アンサンブルの編集長がお前に来て欲しいそうだ。冬馬曜子のご指名だと。今から一緒に行くぞ!」
「は…はい!」

春希は浜田について行った。こっちは確か応接室か……曜子さん来てるんだ。
「この間のインタビューでお前の事すっかり気に入ったみたいだぞ。よくやった、いい関係を作れてるな」
「はぁ…」

この間のインタビューって……あの、後半かずさと言い合ったやつかよ…なんか顔合わせづらいな…

応接室に入ると、曜子と吉松編集長が談笑していた。曜子の影になって見えないが、もう一人いるみたいだった。
「どうも、冬馬社長。いつもお世話になっております」
挨拶する浜田の影に隠れるように、春希は少し後ろに下がっていた。
「あら、やっと来てくれたのね。今日はウチの新人を紹介するわ」
そう言うと、横の人物を春希たちの前に出した。

「初めまして。冬馬曜子オフィス・冬馬かずさ担当マネージャーの小木曽と申します。今後ともよろしくお願いいたします」

「………………」

「よろしくね、ギター君」
「よ…曜子さん!これはいったいどういう事です!?」
思わず春希は曜子に問いただしてしまった。
「ギター君?…曜子さん?……おい、北原。おまえ冬馬社長とどういう…」
戸惑う浜田に曜子は
「あら、言ってなかったかしら?ウチの娘が彼に5年前からベタ惚れでねぇ…」
「娘って……しかも5年前からぁ?」
「は…浜田さん、それは……えっと…冬馬社長のいつもの冗談ですから!気にしないで下さい」
春希は必死に誤魔化そうとした。だが、それよりも問題は雪菜だ。なぜ雪菜がかずさのマネージャーに……?


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このページへのコメント

何つーか、このSSかずさと雪菜が百合属性入ってね?春希がおまけポジションってwwwwwww
女の復讐って怖い。3人とも其々悪いのにこの返しはないわ。まあSS自体は面白いんですけどね^−^

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Posted by せんど 2014年04月07日(月) 15:10:04 返信

とても面白いです!サブヒロインからのcodaはやっぱり気になりますよね!
続きが楽しみです。

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Posted by syabon 2014年04月06日(日) 21:31:01 返信

tuneさん、いつもコメントありがとうございます。
sharpbeardさん、CCヒロイン共通の後日談としてあり得ると思います
確かに春希にとっては不安な出来事でしょうが、小春にとっても不安になります。春希と小春の想いをかずさと雪菜が試すような展開になってしまいました。
いろいろ考えが二転三転してしまい、前回の更新から結構開いてしまいました。実は、この後の展開もまだ迷っています。CC、CODAを何度もプレイしながら考えています。

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Posted by finepcnet 2014年04月06日(日) 18:34:29 返信

ああそうか。小春エンド後とかなら雪菜とかずさのタッグという恐ろしいモノがあり得るんだ。いや、これは春希と小春には悪いが面白そうだわ

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Posted by sharpbeard 2014年04月06日(日) 18:02:31 返信

今回の話は春希にとっては、曜子さんがかずさと雪菜の手を組ませて復讐に来たのではないかと思う位の正に悪夢な事ではないでしょうか。続きが楽しみです。

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Posted by tune 2014年04月06日(日) 17:55:11 返信

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