『触るな!!』
これが二人の、冬馬かずさと北原春希の交わした一言目だった。



(なんなんだこいつは....)
と彼女が困惑している側で彼、北原春希はお得意のお節介真っ最中。
他の生徒はよく見る光景。と我関せずといった態度だ。

顔を上げると春希は、ハッとした表情を直して続ける。
『よかったよ、学校に来てくれて。今日来なかったら家まで届けに行こうと思ってたから』
プリントを手にしてまだまだ饒舌な春希の口は動いている。

(誰かこいつの口を止めさせろ。うざい)
最終的に手を伸ばしてきたあたりで、イライラの沸点が達し冒頭の一言へと繋がったわけだ。

(これでこのうざいやつも私に関わろうとしないだろ...)


一ヶ月後
周りのクラスメイトは新しいクラスにも慣れ昼食もグループでとっている。
彼女は一人、コンビニで買った菓子パンを甘いコーヒー(彼女はブラックだと思っている)で流し込むのが日課だ。

(やっぱり一人のが落ち着く。しかし、あいつはなんなんだ)
彼女は甘いブラックコーヒーを一気に流し込んだ。




彼女の不良たる態度の成果もあって
冬馬かずさを取り巻く環境は恐ろしいほどにまったく変わっていなかった。
最近は教師でさえ関わろうとしない。クラスの人間も関わろうとしてこない。

途中でチャラついた奴が馴れ馴れしく声をかけてきたけどケリいれてやったっけ。違うクラスのやつだったけど。
と、ここまでは、彼女の予定通り。
だったのだが...


『冬馬ぁー!次の授業、移動教室だから寝て起きたら誰もいませんでした。なんてことになるぞ』
『なあお前、起きる気あるのか?頼むから起きてくれよ』

(こいつマゾか...絶対そうだ)

この一ヶ月でよく見る光景がここにあった。
そのたびにシカト、暴言、退避。といった手段を使ってきた彼女は呆れにも似た感情を抱いていた。

無言で席を立ち上がる

そのまま教室を出て行こうとすると
『どこいくんだよ冬馬。教室の場所わからないだろ?視聴覚室だからな。』
『別に...どこに行こうか勝手だろ。うざいよお前』
『そのうざい奴のおかげで起きてくれたんだから、俺としては勝ちにも等しい気分なんだけどな』
『...やっぱうざいよお前』

と、入学当初より一方的に馴れ馴れしくなった北原春希との関係がここにあった。


第二音楽室
彼女のテリトリーだ。
趣味という趣味を持っていない彼女は放課後を主に(授業中サボったりもする)自分の感情をピアノにぶつけていた。自分の感情を伝える手段が彼女にはこれしかないのだ。
この日は奴の言いなりになるのが嫌だったので授業をサボってここに来た。

放課後はお隣の第一音楽室でどうやら軽音楽部が使ってるらしい。


翌日、指定席でピアノを弾いていると懐かしいメロディがギターの音色に乗って聞こえてきた

(へたくそなギターだな..こんなへたくそで窓を開けて弾くとはとんだ馬鹿野郎だ)

でもこの曲。WHITEALBUMは彼女の大好きな曲だった。
危なっかしい音色はあるフレーズから先になるとたどたどしく前に進まない
いたたまれなくなった彼女は、ピアノの旋律をギターの音色に重ねていった。



春と呼ばれる季節もすっかり過ぎ、制服も夏服に変わった頃
今日も第二音楽室に彼女はいた。

(相変わらず下手くそだな...ついて来い)
相変わらずなギターにピアノの音色を重ねる。
ここ最近のストレス解消方法だ。

この日、かずさは初めてギターの主を知ることになる。
帰り際に見えたのだ。見てしまった。
『まさか..!委員長.!?』



『いよー!春希ぃ元気してたか?』
『今日なんだけどよ、美希ちゃんとその友達とカラオケ行くんだけど春希、お前も来るだろ?』
『やめとく。そもそも、夏休みがあけてひと月したら学園祭なんだぞ。大丈夫なのかよ俺たち。っても俺は補欠だけど』
『大丈夫大丈夫!俺は恋愛も趣味もどっちも楽しみたいの!夏休み頑張れば大丈夫よ!』
『とりあえず、今日はパス。悪いけど他当たってくれ』
『なんだよ釣れないな、おい親志ー!』
『切り替え早っ』


この数ヶ月で、このチャラついた男。前にケリを食らわせた奴と北原が仲が良いということがわかった。
どうやらこの男も同好会のメンバーらしい。
『ところで浮かない顔してんなー春希。どうした?恋愛相談ならいつでものるぜ』
へへっとこの男。武也がふざけた調子で言う。
『恋愛というかだな、なかなか自分の思惑通り進まないってこんな辛いんだな』
『な、ちょ春希、どういうことだよ。お前にもそんな相手出来たのかよ!?』
『違うって。ただ、シカトって一番こたえるよな。』と、お隣さんに聞こえるようわざと声の大きさを変えて

放課後、第一音楽室
『春希ーまだ弾いてんのかよ、ゲーセン行こうぜ』
『なんだよ武也、美希ちゃんはいいのかよ』
『親志もこれないってゆーからよぉー今日は無しって事で』
『ところでよー昼に言ってたあの話、どうゆうことだよ?』

『ん?あぁ、俺の隣にいつも寝てる奴いるだろ?冬馬かずさって言うんだけどさ、お前知ってる?』
『げっ、冬馬かずさ...でそのお隣さんが、どうした?』
『あいつ誰とも関わろうとしないからさ、クラスの連絡事項や提出物やら色々世話してるんだけどウザいやら、キモいやら挙句の果てにシカトまでされてさ』
『あは、はは彼女ってそんな感じの子だよね』
『ん?なんで武也知ってるんだよ。まぁいい、それに目もそらされるし俺、悪いことなにもしてないはずなんだけどな』
『彼女に同情するわ....』

(目を背けられるねぇ..背けるってのは背ける前にそいつの事を見ていないと出来ない事だって気づいてんのかね春希は...)

続く

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