「ご紹介頂きました、新郎・新婦の友人『だった』友近浩樹です。
私が二人と出会ったのは大学のゼミでした」
「…ぷっ」
友近が話し始めたとたん、かずさが周りに聞こえるぐらい大げさに吹き出した。
そして、不満そうに見つめる友近に向かって
「何気取ってんだよ。そんなのあんたらしくないだろ?」
「こういう場には、それなりの礼儀も必要なんだよ」
そして、周りに聞こえるぐらいの言い合いが始まった。
「他のやつらにする説明なんて、必要ないだろ?今すべきなのは、あんたの言葉であいつらにお祝いを言う事じゃないのか?
そんな畏まった言葉遣いじゃ、二人に届かないぞ」
確かに、朋が自分の事を詳しく紹介してくれた。それで十分なんだろう。
何も考えていないようで、ちゃんと考えているんだな…。友近はかずさを少し見直した。
そして、ただ二人に伝えるだけの言葉を、自分の本音を口にした。
「春希、小木曽…じゃなくて、雪菜…さん?…なんか言いにくいな…とにかく、結婚おめでとう。この日を俺はずっと待ってた。
今日、この日が、俺の人生のターニング・ポイントになると確信している。
俺が今日この場に来られたのは、本当に偶然が数多く重なったからなんだ。
そして、そのほとんど全てに春希が絡んでいるんだ。全くおかしなことにな…」
ここで友近は新郎・新婦に向けていた視線を少し上に向けた。
「特に『冬馬かずさ』さんと知り合えたのは、正に春希がいたからこそだった。
大学時代、何とか入学出来た俺は、ただ無目的にがむしゃらに勉強するだけだった。
そんな俺に、目的を持ち、効率的に、攻めの学び方を教えてくれたのがお前だったんだ」

友近の言葉を、春希は真剣な表情で聞いていた。雪菜はそんな春希と友近を交互に見て穏やかな表情を浮かべていた。

春希がいかに自分の人生に影響を与えたかを淡々と語っていた友近は、やがて暫く言葉を止めると、春希をじっと見つめた。そして、
「……今日、こうして二人の前に立つ事ができて嬉しいよ。だから…」
ゆっくりと二人の前に歩いて行き
「これは、俺からの結婚祝いだ。受け取ってくれ」
そう言うと、春希の目の前に御祝儀袋を差し出した。

暫くそれを言葉もなく見ていた春希は、やがてゆっくりと手を差し出して受け取った。
その瞬間、裏書きを確認し、友近を睨むと
「何なんだこれは?こんなの非常識だろ?お前何考えてるんだよ!」
言葉を荒げた春希にも動じず、友近は平然と答えた。
「俺が大学に残れたのは、お前がいてくれたからなんだ。お前のおかげなんだよ。今の俺があるのは」
春希も友近と対照的な態度を変えず続けた。
「だからって、こんなのは納得出来ない。受け取ってほしければ俺を納得させてみろよ!」
凄む春希の視線を真正面に受け続けていた友近は、ふと春希の隣に立つ雪菜に目を向けた。
相変わらず穏やかに微笑んでいた雪菜は、友近と目が合うとこくりと頷いた。

『遠慮しなくていいよ、友近君』

言葉は無かったが、そういう想いが伝わってきた。
再び視線を春希に向けると、今度はゆっくりと視線を下げ、自分の握り締めた拳に向け、また春希を見た。春希がかすかに頷いたように見えた。そして、

!!!



一瞬の沈黙の後、ざわめきが会場を包み始めた。しかし、それはさして大きなものにはならなかった。
何故なら、春希の隣にいる雪菜が相変わらず穏やかな表情で微笑んでいたから。
そして、司会の柳原朋、ピアノの前の冬馬かずさ、春希の友人らから拍手が二人に向けられた。
「お前ら、最初から分かっていたんだな…」
左の頬をさすりながら春希はつぶやいた。
「全く、こんな場所でやることか?」
そして右手をすっと友近に差し出した。友近もそれに気付くと右手を差し出し固く握りしめた。
「…つっ!」
友近が顔を歪めた。春希はそれを見て
「なんだお前、殴ったやつが痛がるなんて、情けない男だな」
さすがにこの言葉に友近は
「お前だって、あの時俺を殴って手を痛めてただろ?お前だって…」
「ああ、そうだな。情けない男だったんだよ、あの頃の俺は…」
そう言うと、春希は会場に目を向けて言った。


「皆さんに改めて紹介します。俺の『親友』の『友近浩樹』です」

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