どうしてこうなるんだろう……。

 初めて、好きな男ができた。
 親友だと、思える友達ができた。

 嬉しいことが二つ重なって、その二つの嬉しさが、また、たくさんの嬉しさを連れてきてくれれば良かったのに。
 あたしには、無理だった。あたしには、そんなきれいな世界なんか作れなかった。
 あたしの狭い心が作る世界に、あたしと、あたしの好きな男と、あたしの親友は、一緒に居られなかった。
 だって、あいつは……、あたしの好きな男は……、親友の恋人、婚約者、だったから。

 あたしは、親友を裏切った。
 一度ならず、二度までも。

 一度目の裏切り。
 本心を隠して、二人の幸福を願って身を引くつもりだったのに、あいつとキスして、高等部卒業の日、ウィーンへ旅立つ前夜には身体まで重ねて。
 空港では親友の目の前であいつと抱き合い、キスをした。
 そして、あたしの名を呼び、泣き叫ぶあいつと、親友を空港に置き去りにして、日本から旅立った。

 二度目の裏切り。
 五年後の、クリスマスの夜。ストラスブール駅で、あたしは、あいつを見つけてしまった。
 何も考えられず、夢中であいつの後を追い、クレベール広場で声をかけてしまった。
 途中で転んで捻挫し、凍傷になりかけていた足を看病させた。大聖堂のクリスマスミサに、婚約者だった親友と一緒に参列するはずだった、あいつに。
 そして、日本公演。母親の画策とはいうものの、あいつの隣の部屋に滞在し、あいつの心を引っ掻き回した。
 そして、あいつの決心を……、三年間の冷戦を経て、二年間、親友と付き合い、婚約までした決心をぶっ壊し……、あいつと親友との愛をぶっ壊し……、そして、あたしは親友を、ボロボロに壊してしまった。
 周りの人たちも、深く傷つけてしまった。
 血反吐を吐く想いで、あたしを選んでくれた、あいつのことも、深く傷つけた。

 でも、あたしは、そうして、世界一の幸せを手に入れた。
 親友を不幸にして、大好きな男の心に一生消えない傷を付けて、手に入れた幸せだけど、あたしは心から浸った。
 あたしの悲しみや、辛さや、後ろめたさは、どんな嬉しさや、楽しさ、前向きな気持ちでも、絶対に和らげることはできない。
 でも、この幸福感は、どんな悲しみや、辛さや、後ろめたさでも、絶対に消すことはできない。
 だから、あたしは生を受けてから、一番の幸せを手に入れた。
 一生分の運を、あいつの愛を得るために費やしたと思う。
 命を奪われても仕方がない程の罪を、犯したのかもしれない。
 いずれ天罰が下るかもしれない。
 でも、生きている間は、あいつの側にいられる。それだけで良い。

 ……春希と一緒に暮らせるだけで良い。

 そう思っていたのに。

 なのに、どうして、こうなっちゃったんだろう……。





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