最終更新:ID:kpw1d0Loxw 2012年03月15日(木) 11:23:20履歴
【WHITE ALBUM2】冬馬かずさスレ 砂糖12杯目 872を見てSSに初挑戦。
文章書くのは嫌いじゃないんで。数式とか、小論文とか、化学式とか・・・。
2人がどんどん勝手に動き出すので、テキストを起こすのが大変でw。盛り込みすぎ?
いろんなものが混ざっています、はい。どうか大目に見てください。お願いします。
・設定的には、いわゆるかずさT後、2人がウィーンに住んで1,2年後位?
まだかずさのピアニストとしての地位は 若手挑戦者クラスかと。
・タイトルは 実際の映画のものと似ているけど、全く関係ありません。
・すみません、エロを文字に起こすのは慣れてないんで。テヘッ
・さて、どうやってオチをつけよう・・・。
謝辞
WA2をリリースしてくれたLeaf。こんなにハマるとは一体どうしてくれるんだ。
ネタを頂いた2chの皆さん、SS作家の皆さん、そして読んでくれる皆さんに。
「なあ、かずさ。今年の夏の仕事なんだけど…」
二人で遅めの朝食を済ませ、食器をシンクで洗いながら 振り返って声を掛けた。
かずさはダイニングテーブルの椅子に座り、大き目のマグカップを両手で抱え、中身を啜りながら緩んだ表情でこちらを眺めている。
もう3月とは言え、ウィーンの朝晩は冷え込むので ヒーターは欠かせない。それなのに素肌にシャツだけ羽織った格好でって、
そのシャツ俺のなんだけどな。
・・・何幸せそうな顔してんだよ。俺まで 若気(にやけ)てしまうだろ?益してやそんな格好されたら、男なんてイチコロなんだぞ?
心の中で悪態にならない悪態を付きながら、シンクに視線を戻す。
カップの中はカフェオレ・・・と本人は言っているが、俺にとってはまだまだ甘ったるく薄すぎて飲めたものじゃない代物だ。
まぁ、それでも 昔冬馬邸で飲まされた事がある「色のついたお湯」というレベルよりは「大分薄いコーヒー」くらいになってると思う。
少しずつ慣らして、ようやくここまで辿りついた。そう、カフェオレを淹れたのは俺。相変わらず「マズイ」って
無表情で どこか嬉しそうに言われるけどな。
食べ物の好き嫌いが多いのは変わらないが、昔ほど激しくは無く ぶつぶつ文句を言いながらも食べる様にはなった。
熱い・辛いという刺激物が苦手で、甘いものが大好きというのは相変わらずなのだけど。
それでも食べ物の良し悪しは分かるみたいで、良いものを口にした時は何も言わないが、あまり良くないものを口にした時は一瞬表情に出る。
やっぱり芸術家ってのは、どこか感覚が鋭いのかな。しかし・・・おまえは沼津産の干物しか食わない猫かよ、贅沢なやつめ。
まぁ 猫っていうよりは犬っぽいけど・・・。
「夏なんて、なんでそんな時期に仕事しなくちゃなんないんだ。暑くていやだよ・・・。二人でクーラーの効いた部屋に籠もっていればいいんだ。
それくらいの食い扶持はあるだろ?」
いや、湿度がない分 日本よりずっとすごしやすいと思うんだが。大体、夏にも働かないキリギリスって、何時働くんだよ。
日本国民として勤労の義務はどうした?
「元々オフにするはずだったじゃないか。それなのに仕事を入れるなんて、お前はマネージャとして あたしの体が心配じゃないのか?」
毎日練習こそ欠かさないものの、それでも1日10時間もピアノに向かう日は週に数日あるかどうかになっている。俺がいると、練習も長く続かず
何だかんだ言いつつ纏わりついてくる。そんなかずさだが、相変わらず ピアノはすごい・・・と思う。
でもな、大きなコンサートやコンクールの前くらい、傍から見ていて鬼気迫るというか 入り込んだお前を見せてくれてもいいんだぞ?かずさ。
何か お前を見ていると、満ち足り過ぎてて ハングリーさ というかそういうものがだな・・・と言いたくなったが、昔 曜子さんに聞いた事を思い出した。
「かずさがウィーンに発ってから、ずっとピアノだけだった。私以外の人と触れ合おうとしなかった」って。「ピアノを通して、ギター君だけとだけ会話していた」って。
ピアノを通してなら、世界を創り上げる能力を持っているのに、なんで人間関係を構築するのは苦手なんだろうな?
その上、ピアノの能力に全く執着しないってのが困り者なんだよな・・・。俺はお前のすごさを、世界中に知らしめたいってのに。
まぁ、俺も人間関係を結ぶ事については 人の事を言えたものでもなかったか…と一瞬 遠い日々が、今でも記憶から消し去る事のできない連中の顔が、頭をよぎる。
しかしそれも束の間の事で、シンクの皿を流れる水が すぐに現在に俺の意識を引き戻す。
「そんな事はいってないぞ?まだ仕事が入っていないって言っただけだろ?」何も無かったように、ちょっと後ろを振り返りながら声を掛けまた視線をシンクに戻す。
「夏休みにわざわざ動き回るなんて、まともなやつのやる事じゃない。学生時代にやったことがあるけど、途中で行き倒れるかと・・・あっ」
「かずさ、おまえ何しに学校に?そんなに学校が好きな・・・」訳ないよなぁ。
「ばっ、どうでも良いだろ、そんな事・・・」
「お前がいたからじゃないか」と口ごもり、顔を赤らめながらそっぽを向く かずさ。
何気なく振り返ったら、そんなかずさの横顔を見てしまい ちょっとドキドキしてしまう。しばらく考えていたら 高校3年の夏、ギターの練習をしていた頃の話だと 思い当たった。
まだかずさは口をもごもごとさせて、「まったくおまえは…」とか「だいたいなぁ…」とか何かもごもごと言っている。まったく・・・かわいいやつめ。
流しに振り返り、最後のマグカップを洗いながら、胸の中に懐かしい光景が、そして あの夏のにおいが鼻腔に湧き上がってきた。
もうあれから何年も経ってるっていうのに、まだこんなにも鮮やかに蘇ってくるなんてな。
まだ軽音楽同好会が空中分解する前、俺が正ギターパート担当になる前の話だ。いつもの様に 同好会の練習の前に、自主練をしていたら
ひょっこりと顔を出し、散々俺の演奏を貶した挙句 自分はあっさりと弾いてみせやがった。おかげで俺のプライドはズタズタだったぞ?
あの時はまだ、第2音楽室の主が誰かも分からずにセッションを楽しんでいたんだよな・・・。 それが、こんな、俺にとっての女神だったなんて気づきもしなかったなんて・・・
全く 何やってたんだよ俺。
「とっ、とにかく バカンスの時期に仕事をするなんて、日本人とドイツ人くらいだろ?」
かずさは顔を赤くしながら、ちょっと早口でまくし立てた。
「・・・かずさ、俺よりも長くこっちにいるのに それは偏見というものだぞ?」
「大体、勤勉といわれているドイツ人だって、しっかりバカンスを取っててだな。」
そもそも俺たちは どうあがいても 日本人なんだぞ?故郷を、日本を捨てても、忘れてないよな?
遠く捨てたはずの故郷の風景を思い出す。そして、大事だと思っていた人たちのことを。
今の幸せな気分をかみしめつつ、まだ心が痛むのを感じながら。
俺は洗い物を終え、エプロンで手を拭きながら かずさの向かいに座った。
かずさは テーブル上にマグカップを置き、隣の椅子に置いてあった大きいクッションを抱いて顎を乗せていた。
「まぁ、それはともかくだな。場所は地中海クルーズの豪華客船の中での演奏だ。10日間で3回。仕事が終わったら、二人でバカンスを過ごそう?」
俺だって、せっかくのバカンスの時期に仕事「だけ」を考えているわけじゃない。狙える時は一石で二鳥も三鳥も取ってやる。
ああ、バイト先の出版社で みっちり仕込まれたんだもんな・・・NYに居る麻理師匠は元気でやっているだろうか。
「船の上ぇ〜!?」
かずさにしては珍しく 素っ頓狂な声を上げたので、ちょっとずっこけた。
「やっ、やだよ、船の上なんて。ピアノだってロクなものが置いてあるわけないだろ?
よっ、よくも そんなピアノをあたしに弾かせようとするな。おまえにとって、あたしのピアノはそんなものだったのか…?」
「どうした?そんなに興奮しなくても・・・」
事務所に送られてきた、この仕事の企画書に添付されていた 船の設備やらを思い出しながら話をする。
「ピアノは悪くないんじゃないかな?何かベーゼルなんとかっていうメーカーのピアノがあるって言ってる。ちゃんと調律師も同乗してるし、エアコン付のピアノ保管庫もあるって話だぞ?」
かずさのピアノの為には、そこは妥協できないもんな。
「たしか、ここウィーンのピアノメーカーって言ってなかったか?かずさは嫌いな音じゃないって…」
昔、ピアノと楽しそうに戯れるかずさが 世界のピアノメーカーや音の特徴について 話してくれたことがあったっけ。
「もちろん、船の上だからな。そんなに大きいホールじゃ無いけど、オペラハウス風の造りになっているらしい。クルーズ中のコンサートとかオペラとかを売りにしている運営会社らしく、観客は芸術にうるさいお金持ちだ。」
やっぱり ここヨーロッパに根をおろして活動するなら、上客は掴んでおかないとな。何時の時代でも、芸術家にとってパトロンは大事にすべきだし。
わざわざ船の上までピアノを聞こうと思う人間に気に入られたら、演奏家として「これから」につながるだろ?
「れっ、練習はどうするんだよ。」
「それも問題ない。ちゃんとリハ用の部屋があって、航海中は自由に使っていいって。」
…まったく どんだけだよ、この船。オペラハウスやらホテルやら娯楽設備まで、街が丸ごと海に浮かんでるみたいじゃないか。
金持ちの考える事は 分からないな。
しばし考えている様子だったが、何やら観念したのか かずさの声のトーンが落ち着いてきた。
「…春希も一緒にいるんだよな?」
「あたりまえだろ?」「駄目か?仕事が終わったら、ビーチでバカンスが過ごせると思ったんだけど…」
かずさの水着姿を想像しながら、ちょっと上目遣いにかずさを見てみる。これ、かずさは弱いんだよな。
「バカンスなんてお前さえ居てくれれば 何処でもいい・・・」
かずさは、そんな俺の視線に耐えられなくなったのか、視線を外して 顔半分をクッションに埋めた。
「かずさがいやなら、このオファーは断るよ。」
「いやだなんて、そんなこと言ってない…」
抱えたクッションを くにくに潰しながら、口ごもる。
「あ、あのな?絶っ対笑うなよ? あたしは泳げないんだ…」
赤くなりながらむくれた様にそっぽを向く。
「ぷっ」
思わず噴き出す。
「なっ、おまえっ!」
クッションが宙を舞い、視界を埋めたと思ったら 顔面にボスッと軽い衝撃を感じた・・・。
文章書くのは嫌いじゃないんで。数式とか、小論文とか、化学式とか・・・。
2人がどんどん勝手に動き出すので、テキストを起こすのが大変でw。盛り込みすぎ?
いろんなものが混ざっています、はい。どうか大目に見てください。お願いします。
・設定的には、いわゆるかずさT後、2人がウィーンに住んで1,2年後位?
まだかずさのピアニストとしての地位は 若手挑戦者クラスかと。
・タイトルは 実際の映画のものと似ているけど、全く関係ありません。
・すみません、エロを文字に起こすのは慣れてないんで。テヘッ
・さて、どうやってオチをつけよう・・・。
謝辞
WA2をリリースしてくれたLeaf。こんなにハマるとは一体どうしてくれるんだ。
ネタを頂いた2chの皆さん、SS作家の皆さん、そして読んでくれる皆さんに。
「なあ、かずさ。今年の夏の仕事なんだけど…」
二人で遅めの朝食を済ませ、食器をシンクで洗いながら 振り返って声を掛けた。
かずさはダイニングテーブルの椅子に座り、大き目のマグカップを両手で抱え、中身を啜りながら緩んだ表情でこちらを眺めている。
もう3月とは言え、ウィーンの朝晩は冷え込むので ヒーターは欠かせない。それなのに素肌にシャツだけ羽織った格好でって、
そのシャツ俺のなんだけどな。
・・・何幸せそうな顔してんだよ。俺まで 若気(にやけ)てしまうだろ?益してやそんな格好されたら、男なんてイチコロなんだぞ?
心の中で悪態にならない悪態を付きながら、シンクに視線を戻す。
カップの中はカフェオレ・・・と本人は言っているが、俺にとってはまだまだ甘ったるく薄すぎて飲めたものじゃない代物だ。
まぁ、それでも 昔冬馬邸で飲まされた事がある「色のついたお湯」というレベルよりは「大分薄いコーヒー」くらいになってると思う。
少しずつ慣らして、ようやくここまで辿りついた。そう、カフェオレを淹れたのは俺。相変わらず「マズイ」って
無表情で どこか嬉しそうに言われるけどな。
食べ物の好き嫌いが多いのは変わらないが、昔ほど激しくは無く ぶつぶつ文句を言いながらも食べる様にはなった。
熱い・辛いという刺激物が苦手で、甘いものが大好きというのは相変わらずなのだけど。
それでも食べ物の良し悪しは分かるみたいで、良いものを口にした時は何も言わないが、あまり良くないものを口にした時は一瞬表情に出る。
やっぱり芸術家ってのは、どこか感覚が鋭いのかな。しかし・・・おまえは沼津産の干物しか食わない猫かよ、贅沢なやつめ。
まぁ 猫っていうよりは犬っぽいけど・・・。
「夏なんて、なんでそんな時期に仕事しなくちゃなんないんだ。暑くていやだよ・・・。二人でクーラーの効いた部屋に籠もっていればいいんだ。
それくらいの食い扶持はあるだろ?」
いや、湿度がない分 日本よりずっとすごしやすいと思うんだが。大体、夏にも働かないキリギリスって、何時働くんだよ。
日本国民として勤労の義務はどうした?
「元々オフにするはずだったじゃないか。それなのに仕事を入れるなんて、お前はマネージャとして あたしの体が心配じゃないのか?」
毎日練習こそ欠かさないものの、それでも1日10時間もピアノに向かう日は週に数日あるかどうかになっている。俺がいると、練習も長く続かず
何だかんだ言いつつ纏わりついてくる。そんなかずさだが、相変わらず ピアノはすごい・・・と思う。
でもな、大きなコンサートやコンクールの前くらい、傍から見ていて鬼気迫るというか 入り込んだお前を見せてくれてもいいんだぞ?かずさ。
何か お前を見ていると、満ち足り過ぎてて ハングリーさ というかそういうものがだな・・・と言いたくなったが、昔 曜子さんに聞いた事を思い出した。
「かずさがウィーンに発ってから、ずっとピアノだけだった。私以外の人と触れ合おうとしなかった」って。「ピアノを通して、ギター君だけとだけ会話していた」って。
ピアノを通してなら、世界を創り上げる能力を持っているのに、なんで人間関係を構築するのは苦手なんだろうな?
その上、ピアノの能力に全く執着しないってのが困り者なんだよな・・・。俺はお前のすごさを、世界中に知らしめたいってのに。
まぁ、俺も人間関係を結ぶ事については 人の事を言えたものでもなかったか…と一瞬 遠い日々が、今でも記憶から消し去る事のできない連中の顔が、頭をよぎる。
しかしそれも束の間の事で、シンクの皿を流れる水が すぐに現在に俺の意識を引き戻す。
「そんな事はいってないぞ?まだ仕事が入っていないって言っただけだろ?」何も無かったように、ちょっと後ろを振り返りながら声を掛けまた視線をシンクに戻す。
「夏休みにわざわざ動き回るなんて、まともなやつのやる事じゃない。学生時代にやったことがあるけど、途中で行き倒れるかと・・・あっ」
「かずさ、おまえ何しに学校に?そんなに学校が好きな・・・」訳ないよなぁ。
「ばっ、どうでも良いだろ、そんな事・・・」
「お前がいたからじゃないか」と口ごもり、顔を赤らめながらそっぽを向く かずさ。
何気なく振り返ったら、そんなかずさの横顔を見てしまい ちょっとドキドキしてしまう。しばらく考えていたら 高校3年の夏、ギターの練習をしていた頃の話だと 思い当たった。
まだかずさは口をもごもごとさせて、「まったくおまえは…」とか「だいたいなぁ…」とか何かもごもごと言っている。まったく・・・かわいいやつめ。
流しに振り返り、最後のマグカップを洗いながら、胸の中に懐かしい光景が、そして あの夏のにおいが鼻腔に湧き上がってきた。
もうあれから何年も経ってるっていうのに、まだこんなにも鮮やかに蘇ってくるなんてな。
まだ軽音楽同好会が空中分解する前、俺が正ギターパート担当になる前の話だ。いつもの様に 同好会の練習の前に、自主練をしていたら
ひょっこりと顔を出し、散々俺の演奏を貶した挙句 自分はあっさりと弾いてみせやがった。おかげで俺のプライドはズタズタだったぞ?
あの時はまだ、第2音楽室の主が誰かも分からずにセッションを楽しんでいたんだよな・・・。 それが、こんな、俺にとっての女神だったなんて気づきもしなかったなんて・・・
全く 何やってたんだよ俺。
「とっ、とにかく バカンスの時期に仕事をするなんて、日本人とドイツ人くらいだろ?」
かずさは顔を赤くしながら、ちょっと早口でまくし立てた。
「・・・かずさ、俺よりも長くこっちにいるのに それは偏見というものだぞ?」
「大体、勤勉といわれているドイツ人だって、しっかりバカンスを取っててだな。」
そもそも俺たちは どうあがいても 日本人なんだぞ?故郷を、日本を捨てても、忘れてないよな?
遠く捨てたはずの故郷の風景を思い出す。そして、大事だと思っていた人たちのことを。
今の幸せな気分をかみしめつつ、まだ心が痛むのを感じながら。
俺は洗い物を終え、エプロンで手を拭きながら かずさの向かいに座った。
かずさは テーブル上にマグカップを置き、隣の椅子に置いてあった大きいクッションを抱いて顎を乗せていた。
「まぁ、それはともかくだな。場所は地中海クルーズの豪華客船の中での演奏だ。10日間で3回。仕事が終わったら、二人でバカンスを過ごそう?」
俺だって、せっかくのバカンスの時期に仕事「だけ」を考えているわけじゃない。狙える時は一石で二鳥も三鳥も取ってやる。
ああ、バイト先の出版社で みっちり仕込まれたんだもんな・・・NYに居る麻理師匠は元気でやっているだろうか。
「船の上ぇ〜!?」
かずさにしては珍しく 素っ頓狂な声を上げたので、ちょっとずっこけた。
「やっ、やだよ、船の上なんて。ピアノだってロクなものが置いてあるわけないだろ?
よっ、よくも そんなピアノをあたしに弾かせようとするな。おまえにとって、あたしのピアノはそんなものだったのか…?」
「どうした?そんなに興奮しなくても・・・」
事務所に送られてきた、この仕事の企画書に添付されていた 船の設備やらを思い出しながら話をする。
「ピアノは悪くないんじゃないかな?何かベーゼルなんとかっていうメーカーのピアノがあるって言ってる。ちゃんと調律師も同乗してるし、エアコン付のピアノ保管庫もあるって話だぞ?」
かずさのピアノの為には、そこは妥協できないもんな。
「たしか、ここウィーンのピアノメーカーって言ってなかったか?かずさは嫌いな音じゃないって…」
昔、ピアノと楽しそうに戯れるかずさが 世界のピアノメーカーや音の特徴について 話してくれたことがあったっけ。
「もちろん、船の上だからな。そんなに大きいホールじゃ無いけど、オペラハウス風の造りになっているらしい。クルーズ中のコンサートとかオペラとかを売りにしている運営会社らしく、観客は芸術にうるさいお金持ちだ。」
やっぱり ここヨーロッパに根をおろして活動するなら、上客は掴んでおかないとな。何時の時代でも、芸術家にとってパトロンは大事にすべきだし。
わざわざ船の上までピアノを聞こうと思う人間に気に入られたら、演奏家として「これから」につながるだろ?
「れっ、練習はどうするんだよ。」
「それも問題ない。ちゃんとリハ用の部屋があって、航海中は自由に使っていいって。」
…まったく どんだけだよ、この船。オペラハウスやらホテルやら娯楽設備まで、街が丸ごと海に浮かんでるみたいじゃないか。
金持ちの考える事は 分からないな。
しばし考えている様子だったが、何やら観念したのか かずさの声のトーンが落ち着いてきた。
「…春希も一緒にいるんだよな?」
「あたりまえだろ?」「駄目か?仕事が終わったら、ビーチでバカンスが過ごせると思ったんだけど…」
かずさの水着姿を想像しながら、ちょっと上目遣いにかずさを見てみる。これ、かずさは弱いんだよな。
「バカンスなんてお前さえ居てくれれば 何処でもいい・・・」
かずさは、そんな俺の視線に耐えられなくなったのか、視線を外して 顔半分をクッションに埋めた。
「かずさがいやなら、このオファーは断るよ。」
「いやだなんて、そんなこと言ってない…」
抱えたクッションを くにくに潰しながら、口ごもる。
「あ、あのな?絶っ対笑うなよ? あたしは泳げないんだ…」
赤くなりながらむくれた様にそっぽを向く。
「ぷっ」
思わず噴き出す。
「なっ、おまえっ!」
クッションが宙を舞い、視界を埋めたと思ったら 顔面にボスッと軽い衝撃を感じた・・・。
タグ
このページへのコメント
かずさの実の父親の登場とかどうですか?
勝手なことですけど、
是非続き書いてください
砂糖12杯目 872で元ネタ出した者です
書いてくれてうれしい
かずさ「もし船が沈没しても春希と一緒じゃないと救命ボートに乗らないからな」
春希「もしそんな事態になったらピアノぶっ壊してそれでイカダ作ってやるよw」
生きるのも死ぬのも絶対に一緒だーみたいなイチャラブを希望