21 納涼会＋千晶の誕生会 ／ 2015年７月初旬
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ushigara_neko 2014年06月06日(金) 05:53:31履歴
セカンド・シングル『幸せな記憶』は、無事、冬馬曜子オフィスの手を離れ、7月末の販売を待つだけになった。録音から一か月で販売に乗せるというのは、生産ラインやプロモーションの関係からもありえないことだが、何とかやり終えた。
ミックス・ダウンには、本当に手こずった。
……「えと、山口さん、サビはギター、もっと全面に出してもらえますか」
「かずさ、何言ってるの。ピアノ、もっと聴こえるようにしないとダメよ」
「雪菜、ここはあたしの言うことを聞いておけ。絶対ギターが前の方が良い」
「ダメだよ。ここは譲らないよ。絶対ピアノが前」
「左右に振って、双方に際立たせましょうか？」
「ダメです」雪菜が断言する。
「それはダメだな。一体になってなきゃいけないんだよ」
「そうそう。一体になってないとね」
「んで、ギターをもう少し上げてと」
「ちょっと、かずさ、勝手に触っちゃダメよっ。山口さんっ、ピアノ上げ死守ですっ」
「お前ら、いい加減にしろ」さすがに春希は切れた。
「「春希（くん）は黙ってろ（て）！！」」
同時に切れられた。
「春希、お前はここから出て行け」
「そうよ！ 春希くんは出て行って」
「俺はどうしたら良いの？」松岡は呆れた声を出す。
「この論争に口出ししたら出て行ってもらう」
「とりあえず春希くんは出て行って！
今日はトコトンやるわよ〜」
キィー、バタム、キュッ。
それから別室で二時間は待たされたが、追い出される前とどう違うのか、春希には全く聴き取れなかった。
…………。
一方、ここに来て、もう一つ、急なリリースの企画が浮上した。春希が提案した、大学の学園祭ツアーに先立つシングルの録音、バンド��SETSUNA�瓩箸靴討離螢蝓璽垢砲弔い董∨盻�っ娘ものアニメの主題歌にどうか、というタイアップの話が舞い込んだ。
当初、ドラマ『届かない恋』のオープニング曲を歌った歌手が予定されていたのだが、交際が噂されていた若手男性俳優に不正薬物使用の嫌疑がかけられ、任意同行された。そのとばっちりで、企画が飛んだ。
その代役を打診されたのだ。
面白い話だったが、有名な原作のアニメ化とは言え、深夜枠だ。ミリオン・セラーを出した歌手のする仕事かどうか、春希は判断しかねたが、雪菜、松岡、杉田の返事は即決だった。「やります」
予定していた曲は取り止めて、急遽、別の曲を用意。杉田がDTMで書き貯めていた曲の中に、ぶっ飛んだ疾走感の曲があり、それを採用。バンドは短時間でアレンジを加えて行った。作詞は雪菜と石川真矢の共作。石川真矢はアニオタで、作品の世界観を熟知していた。原作の名台詞を雪菜に教えて、雪菜は笑いながら組み合わせて行った。
デモ音源は、原作マンガ家、アニメ監督、制作委員会から絶賛の嵐を受けた。
『幸せな記憶』ミックス・ダウンの記憶も薄れぬ間に、バンド��SETSUNA�瓩魯淵ぅ張譽魁璽百惴�台スタジオの第二スタジオで録音を実施。
杉田はドラムを叩く代わりに、キーボードを叩き、新旧電子パッドを叩いた。サイド・ギターは、曲が速過ぎる上に裏でリズムを取るという難しいアレンジのため、雪菜の腕ではどうしても付いて行けず、松岡が弾いた。
石川真矢の落ち着いたピアノと、杉田のぶっ飛んだエレクトリック感覚が、馬鹿っ速い曲に、奇妙な浮遊感を曲にもたらした。
トーチ・ソングの似合う女、小木曽雪菜の印象とは全く関係のない、全く現実的でない世界観の曲が出来上がった。だが、千晶に演劇の基礎を教えられていた雪菜は、曲との距離が取れれば取れる程、違う自分を演じることに楽しさを感じ、思い切った声が出た。
カップリングは、オーディションの時に石川真矢が持参したバラード。歌詞を女子三人でキャッキャ言いながら手直しした。曲は松岡が手入れした。生のストリングスを使ったために、収録はこっちの方が手間取った。
だが予定より順調に録音は終了。リリースは、当初の予定通り、『幸せな記憶』のリリースの四週間後に決まった。
この間、清水早百合はマネージャーとして十分すぎる程、役割を果たした。しかし、やっぱり人手は足らず、各種確認等も含めて、春希はバンド��SETSUNA�瓩粒萋阿肪蚤嚇�に関与せざるを得なかった。
冬馬家での夕食の準備がままならない日が生じた。
雪菜は本当に忙しくなった。バンドの運営と曲作りは、ある程度、松岡と杉田に任せておけたが、ソロ・コンサート・ツアーが間近に迫ってくる。『幸せな記憶』以外のオリジナルの新曲の創作、数曲のカバー曲の選定、レッスン及びバンド練習、プロモーションビデオの録画撮りなど、目紛しい忙しさだった。
かずさはかずさで、コンチェルトの録音を控えてレッスン及び帝都フィルとの合同練習。おまけに指揮者の鳴瀬望に気に入られてしまい、年末にあの二曲を帝都オペラシティで演奏しないかと提案され、受けてしまった。
ツアー終了後、大バッハの「ゴルトベルグ変奏曲」の録音が決まっているというのに……。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
ある日の午前中、西御宿のオフィスでオケとの最終打合せを行った後、かずさと春希が一瞬の空き時間をほっこりと過ごしていると、雪菜と早百合が帰って来た。
「はあ〜」ソファーに座るなり、雪菜がため息を付いた。
「お疲れ？」かずさが声をかける。
「そうだね。……って、かずさもじゃない？」
「少しだけ、な」
「でも、わたしの場合は、贅沢なため息だよね。もう毎日が面白くて面白くて仕方ないんだけど、ね」
春希が付き添わない、雪菜の活動はそれでも少しずつ増えている。早百合が来てくれて良かった、とかずさは思っていた。
春希を雪菜に全く会わせたくない、ということではないが、やっぱり、自分の知らない所で雪菜と春希が会うのは、少し心配になるから。それに、早百合がいれば、二人きりにならないから。
「でもね、かずさ、わたしは、やっぱり、かずさと練習している時が、一番楽しいな〜。一緒に練習して、それが終わって、帰るまでの間、三人で何気ない話をしている時間が、一番幸せ」
かずさの心を見透かしていたように、雪菜が言った。
本当に、幸せそうな表情をして。
「うん。そうだな」
かずさは笑って返す。その言葉と表情に嘘はない。
……ただ、少し心に粉雪が降っているだけだ。
「おっと……」
メールをチェックしていた春希が声を漏らした。
「何？」かずさが怪訝そうな声を上げる。
「あたしはこれ以上の仕事は受けられないぞ」
「いや、そうじゃない……」
「だ、ね」iPhoneの呼び出し音で、メール・チェックした雪菜も言う。
「武也から、納涼会のお誘いだ」
「部長から？」
「武也くんが、二人が帰って来たのに、みんなで集まらないのはおかしい、って、言うの。だから、峰城大付高校のOB、OGみんなで、飲まないかって」
「…………」
二人は、一瞬口籠った。だが……。
「良いよ。日程が合うなら」かずさは、答える。
「ごめん、かずさ。わたしが、二人の空いてる日程を、武也くんに教えちゃった」
雪菜は、少しだけ、気不味そうな顔をする。
「良いんじゃない。えっと……、あたしも、まだ、部長には、会えてないから」
「あのメンバーと、会っても、大丈夫？」
「雪菜」かずさは、ソファーから立ち上がる。
そして、雪菜の隣に座り直す。
「あたしが日本に帰って来たのは、ちゃんと向き合うためなんだよ？」
「かずさ……」
「あたしは……」
「かずささん、私、席を外しましょうか？」と、早百合が言う。
「良いよ。いて。早百合ちゃんや、雪菜の弟くんや友達のこともひっくるめて、あたしは背負わなきゃね」
「かずさ……」春希が呟く。
「無理すんな。俺が負うべき責任だ」
「あたしは無理するよ。お前には、あたしのわがまま以外の無理は、させたくないからな」
�狷辰法△△燭靴叛禳擇隆屬量簑蠅砲蓮△吻�
「…………」春希は黙る。
「あたしは、二年前、……雪菜にしか、会えなかった。それだけで、あたしは……、限界だった。
全部、春希に押っ被せて……」
「かずさ、もう言わなくて良い」雪菜は、静かに言う。
「雪菜……、あたしは、もう誤摩化さないって、決めたんだ。
あたしは、これから永遠に、お前と親友でいる。そして、永遠に、お前のライバルでいる」
「っ、かずさっ」雪菜は、きつい目をして、かずさを見る。
「この前のレコーディングから、心に決めていた。あたしは、お前のことを誰より一番分かっている。そして、お前は、誰よりもあたしのことを一番分かってる。
これについては、お互い、春希以上に、だと思う。
そして、お前が、あたしのことを愛してくれていて、そして、同じように憎んでいるにしても、あたしを苦しめるつもりが全くないことも分かっている」
�猝軌媼韻砲靴討靴泙Α�以外には��
「…………」
「お前に、腹芸は通じない。しても、意味がない」
「…………」
「それが分かっている以上、できるだけ早く、みんなに会うべきなんだと思う」
「かずさ……」
「そして、それは、あたしが決断すべきことなんだ」
三人と、一人は、暫く、沈黙した。
「ホントはね……」雪菜が語る。「わたしは一応、千晶の誕生日を、目安に考えていたんだけど……」
「あいつの誕生日って、いつ」かずさは問う。
「8月6日」
「そりゃ……、大変な日だな」春希が、呟く。
「何が、大変？」かずさは尋ねる。
「広島に原爆が落ちた日だよ」
「あ、……ごめん」
「口にはしないんだけど、千晶には、その日は静かに過ごしたい、って、気持ちがあるみたいで……。でも、だからこそ、わたしは、祝いたい気持ちもあって。
だから、武也くんに相談していたんだけれど。まさか、オール・キャストの企画を考えてるとは、思わなくて」
「飲もう」春希はそう言って、立ち上がる。
「俺も、依緒に会わなきゃ」
「春希……」かずさは、春希を見上げる。
「雪菜、質問がある」
「はい……」
「千晶も、朋も、そして、みんな、岩津町の家のこと、良く知ってるよな」
「…………」
「あれは、何度も雪菜と曜子さんが、あの家で、俺達を迎え入れるための打合せを、みんなと重ねてくれたから、なんだよな。
みんな、腑には落ちてなくても、雪菜の意見を聴いてくれているんだよな」
「ピンポン、正解」
雪菜は、目を伏せたまま、ベタに返す。
「ありがとう」春希は言う。
「お前な」かずさは、雪菜の頬を撫でる。
「余計なこと、しやがって。
本当に、ありがとう……」
「止めて、よ……」雪菜は俯き、目を逸らす。
「かずさの言う通りだよ。わたしの中には、あなた達には絶対に言えない気持ちだって、渦巻いてるよ」
「だとしても、だ。ありがとう」
かずさは、雪菜を抱きしめる。
「ずるいよ、かずさ……」
�爐△蠅�とうなんて、言われたら……��
「ごめん、な」
「腹立つなあ、もう。かずさの、ごめん、なら、受け入れるしか、ないじゃない……」
「だから、ここから先は、あたしと春希が、なんとかしなきゃ、いけないんだよ、な」
「そうだ、な」
「うん」雪菜は、微笑む。
「かずさ、そして、春希くん。わたしのところに、帰って来て……。みんなの所に、帰って来てよ」
「分かってるよ」かずさは、雪菜の背中を撫でながら、言う。
抱き合って泣いてる二人を背後に、春希は、武也にメールを打ちに外に出た。
�爐△蠅�とう。三人とも、行くよ�瓩函�
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「この居酒屋に、個室があるとは知らなかった……」
御宿の雑居ビルにある、例の居酒屋の奥に、MAX十人程度の狭い個室が存在したことを知って、春希は驚いていた。
「ふふ〜ん。この店はなぁ、実は業界ではコスト・パフォーマンスが良いことで有名で、結構、有名人の御用達なんだよ」と、武也が自慢げに言う。
「ということは、雪菜から、教えてもらったんだけどな」と、依緒が言う。
「らしい……んですよ。あの、体格の良い、お兄さんがいるでしょう。あの人が、こういうお忍びの会合のセッティングと、セキュリティ担当、らしいんですよ。元、海上自衛隊、なんだそうです」と、朋が小さい声で言う。
「それで、あんた達の、その出で立ちは何？」
上半身にピッタリ合った水色のノースリーブに、男物のビンテージのLevis 501をウエストでぎゅっとしぼって、ビーサンを履いた千晶は、恐ろしくカッコ良かった。
それにひきかえ……。
「これで、全員、揃ったの？」
全く似合っていないツインテールに、黒く太いフレームの伊達眼鏡をかけ、ダボダボの黒いＴシャツとダボダボの迷彩色のズボンを合わせたかずさが、少し緊張気味に言った。
「まだ、かな」
同じく、ワインレッドの太いフレームの伊達眼鏡をかけ、髪を一つにまとめて編んだ上に、そばかすまで描いて、ピンクハウスのふりふりのワインレッドのワンピースを着た雪菜は言った。
……既に二人は、お互いの変装を罵倒しあった後だ。
「ところで……、ある意味、めちゃめちゃ可愛いですね、かずささん。写真撮って、ブロマイドを自主制作して売りませんか」と、朋が悪態をついた。
「そういうニッチな商売は、コスト管理が大変だからお断りする」と、春希が即断する。
「朋、わたしのは」雪菜が、小首を傾げつつ、苦笑して問いかける。
「あんたのは狙いすぎで、悪目立ちしてるからダメ」
「うっくくく」かずさは、笑いを禁じ得ない。
が、次の瞬間、「おっと、……今晩は。友近センセ、水野センセ」と、朋は言い、高校時代には、関わりのなかった二人を向かい入れる。
「揃ったな。え〜、それでは」武也が、宣言する。
「峰城大付及び峰城大OG、OBの拡大メンバーによる、納涼会を開催しま〜す」
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「みんな、グラスは行き渡ったね」と、依緒が確認する。
「それじゃ、一番年長の、水野先生、乾杯のご挨拶を」
「……まいった。僕に振られるとは思ってなかった」
「ビールの泡が消える前まで、ですよ」
「分かりました。えっと、冬馬さん、和泉さん、……そして、北原さん。僕のことは初めてだと思います。僕は、峰城大学の医学部の出身です。
和泉さんと、北原さんには、雪菜さんと柳原さんが参加された医学部の合コンの時に、ニアミスしてる、そういう間柄です」
春希は、息を飲んだ。……そういえば、自分が電話をかけた合コンの幹事が、水野という名だった。
「今は、雪菜さんの……」水野は一瞬、口籠る。
だが、思い切ったように、キッと春希を見つめて、言う。
「主治医をさせてもらってます。
今日は、納涼会、兼、和泉千晶さんのお誕生日会に呼んでいただいて、ありがとうございます。和泉千晶さん、おめでとうございます」
「えっ」これには、千晶が声を上げた。「何で……」
「では、再会と、新たな出会いと、和泉さんのお誕生日を祝して、乾杯しましょうか？
じゃあ、乾杯」
「「「乾杯」」」
複雑な想いを抱えて、並んで座っている、かずさと春希を含めて、計九人がグラスを合わせた。
「あたしのお誕生日会って、何」と、千晶が雪菜に問う。
「だって、千晶、この前、誕生日にお誕生日会しようって言ったら、困った顔してたじゃない……」
「…………」
春希はびっくりした。困ったような、嬉しいような、こんなに素の顔を晒した千晶を見るのは、異例だった。
「だから、ちょっと前倒しで、させてもらいたいなと思って」
「負けたよ、雪菜には」
だが、一瞬で千晶の表情は、何時ものそれに戻る。
「まあ、あんたに勝てるとは、一度も思ったことないけどね。
よし。じゃあ、今日は、祝われておくか」
そして、一瞬、思案する。それから……。
「おーい野郎ども。良いかぁ、今日の主役はあたしだぁ。
存分に祝ってもらおうじゃないかぁ」
中ジョッキのグラスを掲げながら、立ち上がり、椅子に右足をかけて、千晶は宣言する。
依緒は大声で笑い、武也は右手を顔に当て、困った顔をする。
「野郎ども、祝え。ハッピー・バースデーを歌え」
みんなは、雪菜の音頭で、歌う。
雪菜、朋、依緒は、屈託なく笑い、春希とかずさは困惑し、武也は困った顔をしながら笑い、水野と友近は雰囲気に呑まれる。
「そして、あたしへの生け贄は、ここに並んで座ってる、この二匹だぁ」
ばさっ、と、音がする勢いで、千晶は、かずさと春希を指差す。
「さあ、本日の主役たるあたしは、この生け贄を、楽しませてもらうぞ。
良いかぁ、野郎ども。
生け贄を喰いたければ、あたしを通せよ」
�狎蘊宗帖牒�
かずさと、雪菜と、春希は、驚いた。
だが、全てを分かって、狂言回しを引き受けてくれた千晶に感謝する。
「まずは、あたしを讃えながら、酔え。話は、それからだぁ」
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「まさか、ここで天才女優に会うとは思わなかった。
というか、北原、お前の周りには、何故、こんなにも素晴らしい女性ばかり集まるんだ？」
友近は、生中五杯目に取りかかったところだ。
「お前、去年の秋の連続ドラマ『届かない恋』、見てないのか？」
春希は、生中を四杯空けたところだった。
「いや、見てたけど……。脚本家・瀬之内晶が峰城大卒だとは思っていなくて」
「あんたね、肝心なところ、抜けてるよ。あたし達の近くにいない人間が、書ける脚本じゃないだろ」
持ち込んだモエ・エ・シャンドンのネクターを、グラス二杯分空けて、かずさは、ぽそっと言う。
「というか、お前ら男どもは、千晶のこと、何も分かってないだろ」
「お前は、千晶を分かってるのか」
春希は、かずさに問う。
「最近は、少しは、分かってきたよ」
かずさは、自分で三杯目を注ぐ。
「かずさ、女性は自分でワインを注いじゃ、だめよ」
同じく持ち込んだモエのロゼを呑んでいた雪菜は、たしなめる。
「あたしは最近、女の体に興味が出て来たんだ」
ぶっ。春希はビールを吹き出す。
「何言ってんだ、お前」
「千晶の肉体は、あれは相当、鍛えてるぞ」
「え……」
「あのデカい胸をキレイに見せるための大胸筋と、腹直筋のしなやかな付き方。腕周りのインナーマッスルのしなやかさ。あの豪快な食いっぷり、呑みっぷりからは想像できないけど、あいつの日々の鍛錬は、かなり凄いと思うよ」
「そうなのか」春希には、千晶の素晴らしさは、それが千晶だという程度の認識しかなかった。
「お前な……。特にこれ見ろ」
かずさは、立ち上がり、千晶に近づいてノースリーブの脇をめくり上げる。
男どもの視線が集まる。
「何……」
獺祭の発泡にごり酒50を呑んでいた千晶は、しかし慌てなかった。
「この脇腹と腹筋の締まり具合を。この素晴らしい腹斜筋を」
確かに……、素晴らしいけど……、見てて良いのか？
「それから、この背中の筋肉、これも凄いぞ」
かずさは、千晶の背中をなで回す。
「うひゃひゃひゃ、かずさ、あんた、何するの」
「柔らかくて、柔軟な筋肉だよ」
というか、かずさ、何時からそんなに詳しく……。
「とかなんとか言って、あんたのそのお尻のぷりっぷり感は何だ」
千晶は、かずさの尻をなで回す。
「ひゃぁぁぁぁあ、な、何すんだ、お前は！」
「あたしの体を勝手に見せびらかすからだよ……。というか、あんた、感じやすいの？」
「ううう、うるさい！」
「……春希、お前、楽しそうで、良かったね」
千晶は、春希を一瞥して言うと、ぷいっと横を向いた。
呆れた顔をして見ていた雪菜も、ぷいっと横を向いた。
かずさは、逃げるように春希の横に帰ってくる。
「ああ、びっくりした。な、凄いだろ」
「やっぱり、女優っていうのは、凄いよな」
友近も、目の保養が出来たのか、少し嬉しそうだった。
「まあ、学生の頃から、学部の男連中は、高値の花を見るように千晶を遠巻きに見て、誰も手を出せなかったからなぁ」
「学部の男連中のために、そこそこ気を使ってたわけじゃないよー」
千晶は、向こうを向きながら言う。
「分かってるよ。芝居のためだろ」
「違うよ。春希に食ってもらうためだよ」
「「なっ」」
かずさと、雪菜が立ち上がる。
「ええっと、その……、冗談だよな」
千晶を睨んだ後、自分を睨んでいるかずさに怯えながら、春希は言った。
「冗談じゃ、ないよ。
もう一旦書き上げちゃったから言っちゃうけど、あたし、三回生の冬、あんた達三人の話を芝居にしようと思ってね。雪菜から逃げ回ってる春希に近づいた。
話を引き出すのと同時に、役作りのために、春希がどういう風に女を抱くのか、知りたくて。
女っ気を無くして近づいて、友達のフリして懐に入り込んでから、間近であたしという花の香りを嗅がせて抱かせる、という作戦だったんだけどな」
「……ち、千晶、おま、お前なっ」と、かずさが吃る。
「うっふーん。どうなったと思う？」
「は、春希、お前、まさか」
「ないよ。だって、俺達は友達だからな」
「これだよ……。春希は、強情というか、一途というか、最後まであたしを女として見てくれないんだわ」
「そ、そうか……」
「問題なのは、そこですっぱり諦められなかったことなんだよ」
「何、だと？」と、かずさは怪訝な声を出す。
「未だに、抱かれたい男が現れないんだよ」
「はあ？」
「天才女優の晶様は、年齢イコール彼氏いない歴の、痛すぎる魔女候補、というわけ」
「……えと、魔女候補って何」と、春希が言った。
「三十歳を超えても処女だと、魔女になるんだよ」
「え」
「だから、さすがに早く食っちゃって欲しいワケ」
そう言って千晶は、春希の頬に手を伸ばした。
「じょ、冗談は止めろよ」
「いや……。こいつの言ってることは、冗談じゃない。
千晶が春希に惚れてるってことは、分かってたよ」
そう言って、かずさは、千晶の手を取った。
「えっ」春希が大きく驚いた。
「分かってなかっただろ」
「それは……、ないよ」春希の声が震える。
「お前、ホントに女ってもんが、分かってないよな」
「かずさぁ。なんで、あんたの口から言うの」
千晶が、かずさを睨む。
「あたしはね、外野に口出されるのが一番嫌いなんだよ。分かってんだろ」
千晶は立ち上がり、空いてる左手で、かずさのシャツの首根っこを掴む。
「あたしは、外野じゃないよ」
かずさは、千晶の右手を離す。
「あたしの想いが、かずさを経由してる訳じゃない」
千晶の、トーンが低くなる。
「…………」
「…………」
「かぁずさぁ」
雪菜の、間延びした声が聞こえた。
「千晶はぁ、今日の？」
「女王様、だったな」かずさは微笑む。「すまない」
「クソがぁ……」千晶は、かずさを解放する。
「まあ、仕方ないか……。そうだよ」そして、頭を掻く。
「あたしは春希に惚れてるよ。悪いか？」
素のように見える千晶が、春希を見つめて言った。
男達はみんなビビっていた。
だが、女達は、�爐鵑覆海箸蓮∧�かってるよ�瓩箸いΥ蕕鬚靴討い拭�
「こいつら二人みたいな、超訳あり物件じゃなくて、あたしにしとけば良かったんだよ、春希」
「「超訳ありって、何だよ！（何よ！）」」
かずさと雪菜が叫んだ。
「あたしだって優秀なマネージャー兼恋人が欲しいんだよ。こんな連中が相手だから、何度も、捨て身で打ち明けたのに……」
「千晶……」春希は、心底驚いた。
「春希って、本当にこの二人以外眼中にないんだもんな。大学三回生の一年間、あたしは、春希の一番側にいながら、何時も敗北感を味わっていたよ。
まあ、ミイラ取りがミイラにされたのが、一番悪いんだけどね」
「…………」
春希は、千晶を見つめる。
本当は、何度か千晶に傾きかけたことがあった。ゼミ仲間だと思っていた女友達の�狃�の顔�瓩鮓�た後、心をかき乱された。
大学三回生のクリスマス、有海インテグラル・ホテルで雪菜と苦い別れをした夜。もしも、千晶に連絡を取っていたら……、どうなっていただろうか。
だが、千晶と、男と女の関係になることが想像できなかった。
千晶との友情を壊すような選択肢を、選ぶことができなかった。
「ごめん……」春希は、言った。
「ふう〜」千晶はため息をつく。
「ごめん、は、なし。春希くんの、ごめん、は、良いこと、起きないんだもん」
「なっ」一同、驚いた。
千晶の演じる、雪菜は、本人そのものだった。
「だから、謝らなくて良い。だってわたしは、今でも虎視眈々と、春希くんを狙っているんだから。かずさが隙を見せないかって、何時だって思ってるんだから」
「お前な……」と、かずさが言った瞬間だった。
「お前な、春希に指一本でも触れてみろ。……左足をぶち込んでやる」
「うぉっ」一同、またも驚いた。
千晶の演じる、かずさは、本人そのものだった。
「……和泉さん、そこが弱み、だな」
友近は、驚きながら言った。
「春希にベタ惚れ、と、同時に、雪菜さんと、冬馬さんに、ベタ惚れなんだろ」
「……議員、あんた、嫌な男だね」千晶は悪態をつく。
「あたしは、三人が、大好きだよ。確かに。だからこそ、春希をモノにできなかったのかもしれないね」
「千晶……」春希が口を開く。
「何……。引いた？」
春希は首を横に振る。
「お前が以前、言ってくれてたことが、ずっと引っかかっていた。
その……、『恋人でないなら、親友のつもりなんだけどね』という言葉を」
「……春希、よく覚えてたね」
「俺は、改めて、その言葉を本当に光栄だと思ってる。お前に、親友と言ってもらえるなんて、本当に嬉しいって、思ってる。
だから、俺はお前に、こう言いたい。
ありがとう、千晶。ずっと、大切な親友でいてくれ。頼む、よ」
「春希……、あんたは本当に」千晶が、苦笑いする。
「嫌な男だね」
「その通りだ」
「分かったよ。親友で、いてやる、よ。
おい、そこで涙目になってる、ワンコちゃん」
千晶は、かずさの頭を撫でる。
「そういうことだから、心配すんな。あ、でも、春希への愛情に手を抜いたら、すぐ奪いにやってくるからね〜。頑張れよ〜。
さて」千晶は、一息つく。
「そろそろ、生け贄を喰らう時間に移ろうか〜」
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「さて、誰から喰らい付きたい？」千晶は、戯ける。
「じゃあ、あたしから……」かずさが手を挙げる。
�爐┐叩帖牒瓩函△澆鵑覆�思う。
「水野、先生は、雪菜の、主治医、だったっけ」
「ええ」
「あたし達に、怒ってるんだよね」
「そうです、ね」
「そうか……。でも、あたしは、水野先生には、謝らないよ」
「おい、かずさ……」
面識のある春希は、少し気が引いた。
「あたしは、先生を知らないし、雪菜を巡っては、同じ立場だよね」
「……確かに」
「だから、春希が先生に対して引け目を感じる必要はないから、それは宣言しておく。同じように、友近……議員？」
「おう」
「あんたにも、謝らないからな」
「そんなことは、分かってる。俺の気は、もう済んだ」
「そうか……。さて、水野先生……」
「なんですか」
「雪菜を、好き、なんだよね」
かずさは、ストレートに訊く。
千晶を除いて、一同、息を呑んだ。そう思ってはいたが、確認した者がいなかったから。
そして、水野は、雪菜を見る。雪菜も、水野を見る。
「和泉さんが、宣言したからには、僕は、隠せないよな」
「そうだよ、ね」かずさは、言う。
「その通り。僕は、雪菜さんのこと、大好きです」
「先生……」雪菜はため息と共に、言う。
「ありがとう、ございます」
「それ以上は、言わなくて良いですよ。一応、今は主治医の立場が一番大事ですから。雪菜さんの気持ちは、良く分かってるつもりだから」
「……ありがとうございます」
「えっと、ちょっと待った」
「はい、友近議員」千晶が指差す。
「俺は、一度、小木曽さんに告白して、フラレてます。それでも、今でも、大好きです」
目の据わって来た友近が言った。
「多分、そうなんだろうな、ということは分かってます」と、朋は言った。
雪菜は、ちょっと困惑したような、はにかんだ顔をしていた。
「ただ……、この馬鹿が」友近は春希を睨む。
「小木曽さんを悲しませたくせに、ノコノコ帰って来て、それでも、小木曽さんはこの馬鹿の側にいて、冬馬かずさも側にいる。それが、不思議でならない」
「まあ、不思議だよね」中ジョッキ五杯目を空けた依緒は、低く言う。
「でもね、友近センセ、この三人の人間関係を不思議に思っても、仕方ないよ。あたし達は、外野なんだから。
もしも、割って入りたいなら、もっと真剣にならなきゃ。それこそ、全てを捨てるつもりで」
そして、追加オーダーのブザーを鳴らそうとする。
「だよなぁ」武也は、代わりに押してやる。
「腹立つけど、この三人は……、全てを捨ててでも、答えを探そうとする。真似、できないからなぁ」
「あたしは、クラシックなんて、全く分からなかったけど」依緒が言う。
「かずさがウィーンに行ってから出したCDをね、貶してやろうと思って、出たら買って聴くんだけど、その度に、感動して……。
あ、生中一つね」
店員がやって来て、各自、各々追加オーダーする。
「えと、腰が抜ける程、コテンパンにされて……。
だから、帰って来た時に、ぶっ飛ばすつもりだったのが、……もうダメだよ」
かずさは、目線で依緒に感謝する。依緒は、左手で小さく会釈する。
「同じように、雪菜のアルバムには、めちゃくちゃに感動した……。
あたし、雪菜が親友だからって、それだけじゃなくて……」
依緒は、急に涙目になる。
「歌詞と、声と、メロディと、ピアノに……、泣けて泣けてぇ……」
「お前、馬鹿だな。いっつも、そればっかり」
武也は、依緒の頭に手を回し、肩に乗せてやる。
「悪い……。ちょっとだけ借りる」
依緒がおしぼりを目に当てる。
「そう……、なんだよな」少し赤い顔をした友近が言う。
「小木曽さんの歌詞と歌を聴きながら、やっぱり、ピアノも聴いてる。
曲を、口ずさんでしまう。
小木曽さんを包み込むような、曲の素晴らしさに抱かれてるんだよ、な」
「ふん」朋が鼻を鳴らした。「腹が立つことにね」
「まあ、その通りだよね」
水野は、ワイングラスを傾けながら言う。
「医者としては、本当に腹立たしいよ。人の心を抉りながら、同時に癒してしまうんだ。
……冬馬かずさ、っていう、アーティストは。
ホントに、凄いよね……」
水野は、ため息を付くように言った。
「そして、小木曽雪菜と冬馬かずさという、類希な才能を持つ美女の間にいる男。
色々と問題を抱えていたピアニストと、そしてこっぴどく傷付けられた歌うたいを、結局は二人とも大きく花開かせた要因になっている、北原春希という、底の見えない男について、ホントに腹立たしく、不思議に思っている」
そう、水野は言った。
「同じく」友近も言う。
「お前という男は……、一体何なんだ、と思う」
「あたしが教えてあげよう〜」と、千晶が言った。
「こいつはね、ただのマザコン。全ての女にハバボバボボドゲ……」
「千晶はっ、もう、余計なこと言わないでっ」
雪菜は千晶の口を塞ぐ。
「ぶは〜、何すんだ雪菜。今日のあたしは女王様だぞ」
「王位剥奪するわよ」
「分かったよ。んで、この二人のセンセのわだかまりは、解くの、解かないの」
「解かないよ。わだかまりなんて、誰でも持ってる。わだかまりなんて、嫉妬に比べたら、どうってことない。
……かずさ、もう一杯もらって良い？」
「春希……、雪菜の限界って、どこまで？」
かずさは、冷えたロゼを注いでやる。
「ワイン一本で記憶が無くなる程度、かな？」
「これ含めて、後二杯だな」
「あの、ですね」雪菜は、一口飲む。
「かずさと、春希くんのことを、傷つける人は、わたしが許さないよ」
「はいはい。分かってるから……」
千晶は、三合目の獺祭に口をつける。
「友近くんは、この前、ほっぺたが腫れる程、春希くんを殴ったのよね」
雪菜は、少しきつめの口調で言う。
「雪菜、そのことはもう良い。俺と友近は、じゃれ合ってただけだ」
春希の声は落ち着いている。
「でも、二度は許さないよ」
「分かってます。もうしないから」友近は、苦笑いする。
「千晶、もう一回、あたしから良いかな」
かずさは、千晶に問う。
「どうぞ〜」
「……部長は、春希を殴ってやろうとは、思わないの？
あたしを、罵ろうとは、思わないの？」
「部長って、飯塚武也のことだっけ」と、千晶が雪菜に問う。「うん」
「俺かぁ。俺は……、そうだな。雪菜ちゃんが歌を取り戻してなかったら、今でも北原春希と、冬馬かずさを憎んでいたかもしれないなぁ。
でも、雪菜ちゃんが本当に頑張って、歌を取り戻してくれたから、俺は勇気をもらったし、怒りを振り解くことができた。
それに、冬馬かずさがヨーロッパで頑張ってるのを知ったから。冬馬かずさのマネージャーが日英独仏伊の五か国語を操り、各国の民法と商習慣に精通した敏腕だって聞いていたから、ああ、色々あっても、こいつらの頑張りはスゲーなって思ったから。
だから、俺が拘るのはそこじゃねーなって思ったんだよ。
俺は雪菜ちゃんの考えに従う。色んな感情の揺れ動きは、三人にも、俺達にもあるんだろうけど、そんなことは、三人でいたい、っていう、雪菜ちゃんの想いに比べたら、小さいことだと思う。
春希は、俺にとって二番目に古い親友だし、雪菜ちゃんが許すって言うなら、拘る理由はないよな」
「ごめん」春希は感謝する。「イタリア語はまだ全然だよ」
「部長……」
「武也くん……、ありがとう」雪菜は、改めて言う。
「俺こそ、俺も、頑張んなきゃな〜、って、思わせてくれる、雪菜ちゃんに感謝してるよ」
「何言ってんだよ。同期入社の中で、一番営業成績、良いんだろ。あたしだけだよ、この中でグダグダなのは」
依緒は、既に六杯目の生中を半分空けていた。
「お前な、女性を美しくするための商売をやって、営業成績出す位、俺は頑張んなくたって、できるの。頑張ろうと思うのは、……私生活の方。
お前だって、営業に回って来て、順調に会員数、伸ばしてるんだろ」
「あたしの成績は、雪菜と、かずさのおかげが大きいの。……それに、私生活って、何？」
「教えない」武也も、五杯目の生中のグラスを空ける。
「……また何時か、訊くからな。
ところでな、春希」今日、初めて、依緒が春希に口を利いた。
「なんだよ」春希は、身構えた。
「お前、かずさを、お姫様抱っこ、できるか？」
「ぶっ」かずさがネクターを吹いた。「依緒、お前な……」
「可愛い系男子の春希には、無理なんじゃな〜い」と、千晶が言う。
「ああ、できないと、思うな」
「情けないなあ……。お前、日頃身体動かすことないだろ」
「ない、な」
一日三十分は歩くようにしている。それだけだ。
「やれやれ」依緒は、両手の掌を上に向ける。
「日本一の美女二人の心を掴んで離さないお前も、今のままじゃ三十歳過ぎたら、腹の出た中年になるしかないな。
そうなれば、お前がどんなに、この二人に執着しても、二人の心は絶対に離れて行く」
「えーと、依緒？」雪菜は苦々しく笑いながら言う。
「喧嘩売ってる？」
「腹が出た春希は、……確かに嫌だな」
かずさは、ぽそりと言った。
「この二人は、身体、動かしてるぞ。この美は衰え知らずだよ、きっと」
「私だって、節制してますよ」朋は、苦々しく言う。
「割り勘負けしても文句も言わず、ウーロン茶でみんなについて行ける程には、節制してますよ」
「あたしも節制してるよ〜。どう、この超魅力的な素晴らしいスタイル」
千晶は立ち上がり、しなを作ってみせる。
「それだけ暴飲暴食して、なんで、それ。不公平だわ」
朋は、歯噛みする。
「この中で、かずさと対抗できるのは千晶らけよね」
雪菜のろれつが、段々怪しくなってきた。
「俺は少食だし、太ることはないよ」と、春希は言った。
「馬鹿かお前は。男の少食なんて、褒められる美点じゃ無いんだよ」
うんうん、と、友近が頷く。
「食って、身体動かして、必要最低限の筋肉つけろよ。お前、そのヘナヘナの身体で、かずさが暴漢に襲われた時、どうやって守るんだよ」
「どうやって、って？、えっと」
そう言えば、この前も、かずさに守られてしまった。
「ほらみろ、何も考えてないだろ。その時点で、お前はマネージャー失格なんだよ」
「依緒、それ以上、春希をクサすなよ」
かずさが声を上げる。
「まあ、あたしに任せろ」
「分かった。確かに依緒の言う通りだ。俺も積極的に、身体を動かすことにするよ」
「やっと分かったか。じゃあ、これ」
「……これって何」
「小木曽雪菜さん、冬馬かずささんも通ってらっしゃる、当社のジムの、エグゼクティブ・コースのカタログと、申込書です」
「うっくくく。そういうことか」かずさは、笑い出す。
「依緒、お前、はめたな……」
「嫌なら良いんだよ、あたしは別に。お前が中年太りになって、ハゲ頭になって。美人の嫁さんとか、嫁さんの美人の親友とか……」
「美人の愛人とか〜」千晶が色っぽく言う。
「美人の旧友とか、美人の後輩とかから相手されなくなって、無視されても」
「お前、今密かに自分を美人と評したな」
「確かに、男性型脱毛症には、有酸素運動による血行促進は有効だけど」水野は冷静に言う。
「よくあるんだよな。嫁さんは友達と悠々外で遊んでるけと、夫だけ家にポツンと残されて、猫とか犬だけを相手にしてる図。
それか、ここにいるちゃらんぽらんな中年太り予備軍と、せいぜい場末の酒場で、愚痴を言い合う程度のことしかできなくなるってわけだ」
「おい、何気なく、俺をディスるのはやめろ」と、武也が訴える。
「分かったよ。ただし、俺は一般のコースに行くよ。俺の給料はそんなに高く無いんだ。アーティストじゃ、無いんだから」
「そうか、なら、仕方ないな。それじゃ、このテコンドーのコース、やってみろよ。簡単な防御なら、すぐ身につくぞ」
「分かった。じゃ、帰ってから、書いて、送るよ」
「今書けよ」
「今、ハンコ持ってないよ」
「うふふ〜ん。その黒カバンの一番手前のファスナー開けて、弄ってみ」
「何を言ってるんだ、お前は。……あった」
「うっくくく」
「かずさに頼んでおいたんだよ」
「なっ！ お前もグルか」
「かずさは、我が夫に一度でもお姫様抱っこしてもらえるなら、エグゼクティブ・コースの費用は自分が出すと言ってる」
「おい依緒、それは言わないって約束だろっ」
かずさの顔は赤くなる。
「回文言うな。
春希ぃ、かずさは、曜子さんと違って、ホントにお金を使わないらしいな」
「ピアノと、音楽以外、趣味がないからな」
「唯一の趣味が、マネージャーたる夫とのイチャイチャじゃ、そりゃ、金は要らないわな」武也が小さく言う。
「部長、蹴られたいのか」かずさが低く言う。
「武也くん、殴るわよ」雪菜が便乗して怒る。
「そうですか。そりゃ、もうプラトニックな関係じゃ無いわけですしね。日本じゃヤらないって言ってたのに。
そりゃ、そうですよね。まあ、そうなら、そろそろ赤ちゃんでもできても、おかしくないんじゃないですかね。もしそうなら、ウチの局で独占取材させて下さいよ」
「柳原、ちょっとその話題、勘弁してくれ」
「そうよ、朋。あんた最悪よ」雪菜が本気で怒りだす。
「ということで、エグゼクティブ・コースで良いわね」
「……分かったよ」
「じゃあ、こことここ、書いてね。ハンコは、ここね」
「これ一体、何の会？」友近は、少し呆れた。
「水沢さんは、ホント、面白い人だよね」水野は、苦笑いする。
「ひょっとして、水野先生も、入会してるんですか」友近は訊く。
「雪菜さんが、通ってるから……。まあ、たまにしか、会いませんが」
「じゃあ、書いたわね。……それじゃ、女王様」
「ほいほい、なんですか」
「本日のメイン・イベントに行きたいのですが」と依緒は言った。
「まだ、なんかあるのか」春希は身構える。
「譲れない、メイン・イベント、だよ……」
依緒は真顔になる。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「仕切りは依緒に任せて良いの？」千晶は、問う。
「うん、任せて」
「依緒……、何、する気？」
�爐劼腓辰箸靴董∈�やるつもりなのか？��
かずさと雪菜は、心配げな視線を交わした。
「春希。武也はさっき、お前を許したみたいに言ってたけど、あたしは今でも、お前を許しちゃいない。お前が逃げてしまってから、雪菜がどんな思いで、立ち直って来たか、どんな思いで今の雪菜になったか、お前は知らないだろう？」
「そう、だな」�狎禳擇聾譴蠅燭�らないから��
「あたしは今、こうやって、お前とハンパな、馴れ合いの会話を続けてるのも、本当は、反吐が出そうな位、嫌なんだ」
「依緒、止めてよ」雪菜は、静かに言った。
「……すまない」
「謝るな。雪菜は謝罪を望んでない。それどころか、あたし達が、春希や、かずさと仲良くなることを望んでる。
それに、かずさは、あたしに、春希と仲直りしてくれと、頭を下げた」
えっ。春希は、かずさを見る。かずさは、困ったような顔をしていた。
「雪菜は本当に強くなった。美しさに磨きをかけ、心の傷を憂いに変え、自分の思いを隠さず、かずさの曲に乗せ、歌であたし達を、リスナーを感動させる。
もしも、雪菜があのまま壊れて切ってしまって、戻って来なかったら、あたしは絶対に、お前と、かずさを許しはしなかった。
でも、雪菜が、強い雪菜が戻って来てくれてえ……、うっうう」
依緒は、どんどん、泣き声交じりになる。
「そして、あたし達にも、許してやってくれと言うからには、その想いは、無視できないよ……。
それに……、かずさに、真っ正面から、誠実に、頭を下げられたら、あたしが、拘り続ける訳にはいかないよ。
だから、あたしは、メチャクチャ不本意ながら、お前を許すことにした。
ただし、どうしても気がすまないから、一発、殴らせろ」
「依緒、分かった」
そう言うが速いか、立ち上がった依緒の右手が、春希の頬に炸裂する。
もんどり打って椅子ごと壁に当たる春希。
「春希くん！
ちょっと依緒、あんたはっ」雪菜の目が据わってる。
「依緒、強過ぎるよっ」かずさも、依緒を睨む。
「今のはやりすぎかぁ」千晶の目が、三白眼になる。
「大丈夫かぁ、春希」武也は、春希の顔を覗き込む。
「流石に、効いたな……」
親友の拳は、本当に痛かった。心に、響いた。
「友近のより、効いた。でも、歯まで行かないところをみると、お前、手加減しただろ。……もう一度、やってくれよ。
今度は、思い切り、奥歯全部、持ってくつもりでさ」
春希は立ち上がり、依緒の前に歩み出る。
春希の目は、穏やかで、優しかった。
だが、雪菜とかずさが、春希の両手を引き、依緒の前に出る。
「そんなこと、できないよ。二度もお前を殴ることなんて、できるわけ、ないじゃないかよ……。うう、うあーん」
依緒は、泣きじゃくる。
「な」武也は春希に囁く。
「だから俺がお前を殴る必要はないんだよ」
そして、ポン、と春希の肩を叩いた。
雪菜が、依緒を抱きしめる。かずさは、依緒の肩に手を置いて俯いた。
…………。
「……すいません。お客さん」
あの体格の良いお兄さんが、皿を引きにやってきた。
「あの、皆さん、常連さんだから、あんまりこういうこといいたく無いんですか、これ以上の乱闘になるなら、どなたがいらっしゃろうと、帰ってもらいますから」
「ああ、すみません。今からは多分、大人しく呑みます」
武也は、頭を下げる。
「たしか、社会人三年目じゃなかったですか。そろそろ、そういう青春ドラマみたいな、大騒ぎ、止めといた方が良いですよ。
とりあえず、これ以上騒いだら、お勘定してもらいますから」
「すみません。えと、ちょっと片付けて、一呼吸入れようか」と、武也が言った。
�爐靴�し……、止めろと言われても、無理だ�瓩函�武也は思う。
�狃婀�と、雪菜ちゃんと、冬馬かずさがいて、そして俺たちがいる限り、物語がおとなしく進行する訳がない��
「……えっと、お兄さんは行った？」獺祭を飲み直して、千晶は言った。
「しかし、無茶なこと言うね〜。んなもん、春希と、かずさと、雪菜がいて、あたし達がいて、物語が大人しく進行する訳ないじゃん」
千晶は立ち上がり、春希の側に行く。
「な、春希」そして、身を屈めて、依緒に殴られた頬に強くキスをし、引き際にぺろりと舐めた。
「治療でチュ」
「「こらぁ、千晶！」」かずさと雪菜が、立ち上がり叫んだ。
依緒と朋は、顔を見合わせて笑った。
春希は苦笑いし、その他の男どもは、大声で笑った。
……怒号が渦巻き、九人が店を追い出されたのは言うまでもない。
目次 ／ 前回 ／ 続き
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
ミックス・ダウンには、本当に手こずった。
……「えと、山口さん、サビはギター、もっと全面に出してもらえますか」
「かずさ、何言ってるの。ピアノ、もっと聴こえるようにしないとダメよ」
「雪菜、ここはあたしの言うことを聞いておけ。絶対ギターが前の方が良い」
「ダメだよ。ここは譲らないよ。絶対ピアノが前」
「左右に振って、双方に際立たせましょうか？」
「ダメです」雪菜が断言する。
「それはダメだな。一体になってなきゃいけないんだよ」
「そうそう。一体になってないとね」
「んで、ギターをもう少し上げてと」
「ちょっと、かずさ、勝手に触っちゃダメよっ。山口さんっ、ピアノ上げ死守ですっ」
「お前ら、いい加減にしろ」さすがに春希は切れた。
「「春希（くん）は黙ってろ（て）！！」」
同時に切れられた。
「春希、お前はここから出て行け」
「そうよ！ 春希くんは出て行って」
「俺はどうしたら良いの？」松岡は呆れた声を出す。
「この論争に口出ししたら出て行ってもらう」
「とりあえず春希くんは出て行って！
今日はトコトンやるわよ〜」
キィー、バタム、キュッ。
それから別室で二時間は待たされたが、追い出される前とどう違うのか、春希には全く聴き取れなかった。
松岡は疲労困憊だった。
…………。
一方、ここに来て、もう一つ、急なリリースの企画が浮上した。春希が提案した、大学の学園祭ツアーに先立つシングルの録音、バンド��SETSUNA�瓩箸靴討離螢蝓璽垢砲弔い董∨盻�っ娘ものアニメの主題歌にどうか、というタイアップの話が舞い込んだ。
当初、ドラマ『届かない恋』のオープニング曲を歌った歌手が予定されていたのだが、交際が噂されていた若手男性俳優に不正薬物使用の嫌疑がかけられ、任意同行された。そのとばっちりで、企画が飛んだ。
その代役を打診されたのだ。
面白い話だったが、有名な原作のアニメ化とは言え、深夜枠だ。ミリオン・セラーを出した歌手のする仕事かどうか、春希は判断しかねたが、雪菜、松岡、杉田の返事は即決だった。「やります」
予定していた曲は取り止めて、急遽、別の曲を用意。杉田がDTMで書き貯めていた曲の中に、ぶっ飛んだ疾走感の曲があり、それを採用。バンドは短時間でアレンジを加えて行った。作詞は雪菜と石川真矢の共作。石川真矢はアニオタで、作品の世界観を熟知していた。原作の名台詞を雪菜に教えて、雪菜は笑いながら組み合わせて行った。
デモ音源は、原作マンガ家、アニメ監督、制作委員会から絶賛の嵐を受けた。
『幸せな記憶』ミックス・ダウンの記憶も薄れぬ間に、バンド��SETSUNA�瓩魯淵ぅ張譽魁璽百惴�台スタジオの第二スタジオで録音を実施。
杉田はドラムを叩く代わりに、キーボードを叩き、新旧電子パッドを叩いた。サイド・ギターは、曲が速過ぎる上に裏でリズムを取るという難しいアレンジのため、雪菜の腕ではどうしても付いて行けず、松岡が弾いた。
石川真矢の落ち着いたピアノと、杉田のぶっ飛んだエレクトリック感覚が、馬鹿っ速い曲に、奇妙な浮遊感を曲にもたらした。
トーチ・ソングの似合う女、小木曽雪菜の印象とは全く関係のない、全く現実的でない世界観の曲が出来上がった。だが、千晶に演劇の基礎を教えられていた雪菜は、曲との距離が取れれば取れる程、違う自分を演じることに楽しさを感じ、思い切った声が出た。
カップリングは、オーディションの時に石川真矢が持参したバラード。歌詞を女子三人でキャッキャ言いながら手直しした。曲は松岡が手入れした。生のストリングスを使ったために、収録はこっちの方が手間取った。
だが予定より順調に録音は終了。リリースは、当初の予定通り、『幸せな記憶』のリリースの四週間後に決まった。
この間、清水早百合はマネージャーとして十分すぎる程、役割を果たした。しかし、やっぱり人手は足らず、各種確認等も含めて、春希はバンド��SETSUNA�瓩粒萋阿肪蚤嚇�に関与せざるを得なかった。
冬馬家での夕食の準備がままならない日が生じた。
雪菜は本当に忙しくなった。バンドの運営と曲作りは、ある程度、松岡と杉田に任せておけたが、ソロ・コンサート・ツアーが間近に迫ってくる。『幸せな記憶』以外のオリジナルの新曲の創作、数曲のカバー曲の選定、レッスン及びバンド練習、プロモーションビデオの録画撮りなど、目紛しい忙しさだった。
かずさはかずさで、コンチェルトの録音を控えてレッスン及び帝都フィルとの合同練習。おまけに指揮者の鳴瀬望に気に入られてしまい、年末にあの二曲を帝都オペラシティで演奏しないかと提案され、受けてしまった。
ツアー終了後、大バッハの「ゴルトベルグ変奏曲」の録音が決まっているというのに……。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
ある日の午前中、西御宿のオフィスでオケとの最終打合せを行った後、かずさと春希が一瞬の空き時間をほっこりと過ごしていると、雪菜と早百合が帰って来た。
「はあ〜」ソファーに座るなり、雪菜がため息を付いた。
「お疲れ？」かずさが声をかける。
「そうだね。……って、かずさもじゃない？」
「少しだけ、な」
「でも、わたしの場合は、贅沢なため息だよね。もう毎日が面白くて面白くて仕方ないんだけど、ね」
春希が付き添わない、雪菜の活動はそれでも少しずつ増えている。早百合が来てくれて良かった、とかずさは思っていた。
春希を雪菜に全く会わせたくない、ということではないが、やっぱり、自分の知らない所で雪菜と春希が会うのは、少し心配になるから。それに、早百合がいれば、二人きりにならないから。
「でもね、かずさ、わたしは、やっぱり、かずさと練習している時が、一番楽しいな〜。一緒に練習して、それが終わって、帰るまでの間、三人で何気ない話をしている時間が、一番幸せ」
かずさの心を見透かしていたように、雪菜が言った。
本当に、幸せそうな表情をして。
「うん。そうだな」
かずさは笑って返す。その言葉と表情に嘘はない。
……ただ、少し心に粉雪が降っているだけだ。
「おっと……」
メールをチェックしていた春希が声を漏らした。
「何？」かずさが怪訝そうな声を上げる。
「あたしはこれ以上の仕事は受けられないぞ」
「いや、そうじゃない……」
「だ、ね」iPhoneの呼び出し音で、メール・チェックした雪菜も言う。
「武也から、納涼会のお誘いだ」
「部長から？」
「武也くんが、二人が帰って来たのに、みんなで集まらないのはおかしい、って、言うの。だから、峰城大付高校のOB、OGみんなで、飲まないかって」
「…………」
二人は、一瞬口籠った。だが……。
「良いよ。日程が合うなら」かずさは、答える。
「ごめん、かずさ。わたしが、二人の空いてる日程を、武也くんに教えちゃった」
雪菜は、少しだけ、気不味そうな顔をする。
「良いんじゃない。えっと……、あたしも、まだ、部長には、会えてないから」
「あのメンバーと、会っても、大丈夫？」
「雪菜」かずさは、ソファーから立ち上がる。
そして、雪菜の隣に座り直す。
「あたしが日本に帰って来たのは、ちゃんと向き合うためなんだよ？」
「かずさ……」
「あたしは……」
「かずささん、私、席を外しましょうか？」と、早百合が言う。
「良いよ。いて。早百合ちゃんや、雪菜の弟くんや友達のこともひっくるめて、あたしは背負わなきゃね」
「かずさ……」春希が呟く。
「無理すんな。俺が負うべき責任だ」
「あたしは無理するよ。お前には、あたしのわがまま以外の無理は、させたくないからな」
�狷辰法△△燭靴叛禳擇隆屬量簑蠅砲蓮△吻�
「…………」春希は黙る。
「あたしは、二年前、……雪菜にしか、会えなかった。それだけで、あたしは……、限界だった。
全部、春希に押っ被せて……」
「かずさ、もう言わなくて良い」雪菜は、静かに言う。
「雪菜……、あたしは、もう誤摩化さないって、決めたんだ。
あたしは、これから永遠に、お前と親友でいる。そして、永遠に、お前のライバルでいる」
「っ、かずさっ」雪菜は、きつい目をして、かずさを見る。
「この前のレコーディングから、心に決めていた。あたしは、お前のことを誰より一番分かっている。そして、お前は、誰よりもあたしのことを一番分かってる。
これについては、お互い、春希以上に、だと思う。
そして、お前が、あたしのことを愛してくれていて、そして、同じように憎んでいるにしても、あたしを苦しめるつもりが全くないことも分かっている」
�猝軌媼韻砲靴討靴泙Α�以外には��
「…………」
「お前に、腹芸は通じない。しても、意味がない」
「…………」
「それが分かっている以上、できるだけ早く、みんなに会うべきなんだと思う」
「かずさ……」
「そして、それは、あたしが決断すべきことなんだ」
三人と、一人は、暫く、沈黙した。
「ホントはね……」雪菜が語る。「わたしは一応、千晶の誕生日を、目安に考えていたんだけど……」
「あいつの誕生日って、いつ」かずさは問う。
「8月6日」
「そりゃ……、大変な日だな」春希が、呟く。
「何が、大変？」かずさは尋ねる。
「広島に原爆が落ちた日だよ」
「あ、……ごめん」
「口にはしないんだけど、千晶には、その日は静かに過ごしたい、って、気持ちがあるみたいで……。でも、だからこそ、わたしは、祝いたい気持ちもあって。
だから、武也くんに相談していたんだけれど。まさか、オール・キャストの企画を考えてるとは、思わなくて」
「飲もう」春希はそう言って、立ち上がる。
「俺も、依緒に会わなきゃ」
「春希……」かずさは、春希を見上げる。
「雪菜、質問がある」
「はい……」
「千晶も、朋も、そして、みんな、岩津町の家のこと、良く知ってるよな」
「…………」
「あれは、何度も雪菜と曜子さんが、あの家で、俺達を迎え入れるための打合せを、みんなと重ねてくれたから、なんだよな。
みんな、腑には落ちてなくても、雪菜の意見を聴いてくれているんだよな」
「ピンポン、正解」
雪菜は、目を伏せたまま、ベタに返す。
「ありがとう」春希は言う。
「お前な」かずさは、雪菜の頬を撫でる。
「余計なこと、しやがって。
本当に、ありがとう……」
「止めて、よ……」雪菜は俯き、目を逸らす。
「かずさの言う通りだよ。わたしの中には、あなた達には絶対に言えない気持ちだって、渦巻いてるよ」
「だとしても、だ。ありがとう」
かずさは、雪菜を抱きしめる。
「ずるいよ、かずさ……」
�爐△蠅�とうなんて、言われたら……��
「ごめん、な」
「腹立つなあ、もう。かずさの、ごめん、なら、受け入れるしか、ないじゃない……」
「だから、ここから先は、あたしと春希が、なんとかしなきゃ、いけないんだよ、な」
「そうだ、な」
「うん」雪菜は、微笑む。
「かずさ、そして、春希くん。わたしのところに、帰って来て……。みんなの所に、帰って来てよ」
「分かってるよ」かずさは、雪菜の背中を撫でながら、言う。
抱き合って泣いてる二人を背後に、春希は、武也にメールを打ちに外に出た。
�爐△蠅�とう。三人とも、行くよ�瓩函�
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「この居酒屋に、個室があるとは知らなかった……」
御宿の雑居ビルにある、例の居酒屋の奥に、MAX十人程度の狭い個室が存在したことを知って、春希は驚いていた。
「ふふ〜ん。この店はなぁ、実は業界ではコスト・パフォーマンスが良いことで有名で、結構、有名人の御用達なんだよ」と、武也が自慢げに言う。
「ということは、雪菜から、教えてもらったんだけどな」と、依緒が言う。
「らしい……んですよ。あの、体格の良い、お兄さんがいるでしょう。あの人が、こういうお忍びの会合のセッティングと、セキュリティ担当、らしいんですよ。元、海上自衛隊、なんだそうです」と、朋が小さい声で言う。
「それで、あんた達の、その出で立ちは何？」
上半身にピッタリ合った水色のノースリーブに、男物のビンテージのLevis 501をウエストでぎゅっとしぼって、ビーサンを履いた千晶は、恐ろしくカッコ良かった。
それにひきかえ……。
「これで、全員、揃ったの？」
全く似合っていないツインテールに、黒く太いフレームの伊達眼鏡をかけ、ダボダボの黒いＴシャツとダボダボの迷彩色のズボンを合わせたかずさが、少し緊張気味に言った。
「まだ、かな」
同じく、ワインレッドの太いフレームの伊達眼鏡をかけ、髪を一つにまとめて編んだ上に、そばかすまで描いて、ピンクハウスのふりふりのワインレッドのワンピースを着た雪菜は言った。
……既に二人は、お互いの変装を罵倒しあった後だ。
「ところで……、ある意味、めちゃめちゃ可愛いですね、かずささん。写真撮って、ブロマイドを自主制作して売りませんか」と、朋が悪態をついた。
「そういうニッチな商売は、コスト管理が大変だからお断りする」と、春希が即断する。
「朋、わたしのは」雪菜が、小首を傾げつつ、苦笑して問いかける。
「あんたのは狙いすぎで、悪目立ちしてるからダメ」
「うっくくく」かずさは、笑いを禁じ得ない。
が、次の瞬間、「おっと、……今晩は。友近センセ、水野センセ」と、朋は言い、高校時代には、関わりのなかった二人を向かい入れる。
「揃ったな。え〜、それでは」武也が、宣言する。
「峰城大付及び峰城大OG、OBの拡大メンバーによる、納涼会を開催しま〜す」
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「みんな、グラスは行き渡ったね」と、依緒が確認する。
「それじゃ、一番年長の、水野先生、乾杯のご挨拶を」
「……まいった。僕に振られるとは思ってなかった」
「ビールの泡が消える前まで、ですよ」
「分かりました。えっと、冬馬さん、和泉さん、……そして、北原さん。僕のことは初めてだと思います。僕は、峰城大学の医学部の出身です。
和泉さんと、北原さんには、雪菜さんと柳原さんが参加された医学部の合コンの時に、ニアミスしてる、そういう間柄です」
春希は、息を飲んだ。……そういえば、自分が電話をかけた合コンの幹事が、水野という名だった。
「今は、雪菜さんの……」水野は一瞬、口籠る。
だが、思い切ったように、キッと春希を見つめて、言う。
「主治医をさせてもらってます。
今日は、納涼会、兼、和泉千晶さんのお誕生日会に呼んでいただいて、ありがとうございます。和泉千晶さん、おめでとうございます」
「えっ」これには、千晶が声を上げた。「何で……」
「では、再会と、新たな出会いと、和泉さんのお誕生日を祝して、乾杯しましょうか？
じゃあ、乾杯」
「「「乾杯」」」
複雑な想いを抱えて、並んで座っている、かずさと春希を含めて、計九人がグラスを合わせた。
「あたしのお誕生日会って、何」と、千晶が雪菜に問う。
「だって、千晶、この前、誕生日にお誕生日会しようって言ったら、困った顔してたじゃない……」
「…………」
春希はびっくりした。困ったような、嬉しいような、こんなに素の顔を晒した千晶を見るのは、異例だった。
「だから、ちょっと前倒しで、させてもらいたいなと思って」
「負けたよ、雪菜には」
だが、一瞬で千晶の表情は、何時ものそれに戻る。
「まあ、あんたに勝てるとは、一度も思ったことないけどね。
よし。じゃあ、今日は、祝われておくか」
そして、一瞬、思案する。それから……。
「おーい野郎ども。良いかぁ、今日の主役はあたしだぁ。
存分に祝ってもらおうじゃないかぁ」
中ジョッキのグラスを掲げながら、立ち上がり、椅子に右足をかけて、千晶は宣言する。
依緒は大声で笑い、武也は右手を顔に当て、困った顔をする。
「野郎ども、祝え。ハッピー・バースデーを歌え」
みんなは、雪菜の音頭で、歌う。
雪菜、朋、依緒は、屈託なく笑い、春希とかずさは困惑し、武也は困った顔をしながら笑い、水野と友近は雰囲気に呑まれる。
「そして、あたしへの生け贄は、ここに並んで座ってる、この二匹だぁ」
ばさっ、と、音がする勢いで、千晶は、かずさと春希を指差す。
「さあ、本日の主役たるあたしは、この生け贄を、楽しませてもらうぞ。
良いかぁ、野郎ども。
生け贄を喰いたければ、あたしを通せよ」
�狎蘊宗帖牒�
かずさと、雪菜と、春希は、驚いた。
だが、全てを分かって、狂言回しを引き受けてくれた千晶に感謝する。
「まずは、あたしを讃えながら、酔え。話は、それからだぁ」
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「まさか、ここで天才女優に会うとは思わなかった。
というか、北原、お前の周りには、何故、こんなにも素晴らしい女性ばかり集まるんだ？」
友近は、生中五杯目に取りかかったところだ。
「お前、去年の秋の連続ドラマ『届かない恋』、見てないのか？」
春希は、生中を四杯空けたところだった。
「いや、見てたけど……。脚本家・瀬之内晶が峰城大卒だとは思っていなくて」
「あんたね、肝心なところ、抜けてるよ。あたし達の近くにいない人間が、書ける脚本じゃないだろ」
持ち込んだモエ・エ・シャンドンのネクターを、グラス二杯分空けて、かずさは、ぽそっと言う。
「というか、お前ら男どもは、千晶のこと、何も分かってないだろ」
「お前は、千晶を分かってるのか」
春希は、かずさに問う。
「最近は、少しは、分かってきたよ」
かずさは、自分で三杯目を注ぐ。
「かずさ、女性は自分でワインを注いじゃ、だめよ」
同じく持ち込んだモエのロゼを呑んでいた雪菜は、たしなめる。
「あたしは最近、女の体に興味が出て来たんだ」
ぶっ。春希はビールを吹き出す。
「何言ってんだ、お前」
「千晶の肉体は、あれは相当、鍛えてるぞ」
「え……」
「あのデカい胸をキレイに見せるための大胸筋と、腹直筋のしなやかな付き方。腕周りのインナーマッスルのしなやかさ。あの豪快な食いっぷり、呑みっぷりからは想像できないけど、あいつの日々の鍛錬は、かなり凄いと思うよ」
「そうなのか」春希には、千晶の素晴らしさは、それが千晶だという程度の認識しかなかった。
「お前な……。特にこれ見ろ」
かずさは、立ち上がり、千晶に近づいてノースリーブの脇をめくり上げる。
男どもの視線が集まる。
「何……」
獺祭の発泡にごり酒50を呑んでいた千晶は、しかし慌てなかった。
「この脇腹と腹筋の締まり具合を。この素晴らしい腹斜筋を」
確かに……、素晴らしいけど……、見てて良いのか？
「それから、この背中の筋肉、これも凄いぞ」
かずさは、千晶の背中をなで回す。
「うひゃひゃひゃ、かずさ、あんた、何するの」
「柔らかくて、柔軟な筋肉だよ」
というか、かずさ、何時からそんなに詳しく……。
「とかなんとか言って、あんたのそのお尻のぷりっぷり感は何だ」
千晶は、かずさの尻をなで回す。
「ひゃぁぁぁぁあ、な、何すんだ、お前は！」
「あたしの体を勝手に見せびらかすからだよ……。というか、あんた、感じやすいの？」
「ううう、うるさい！」
「……春希、お前、楽しそうで、良かったね」
千晶は、春希を一瞥して言うと、ぷいっと横を向いた。
呆れた顔をして見ていた雪菜も、ぷいっと横を向いた。
かずさは、逃げるように春希の横に帰ってくる。
「ああ、びっくりした。な、凄いだろ」
「やっぱり、女優っていうのは、凄いよな」
友近も、目の保養が出来たのか、少し嬉しそうだった。
「まあ、学生の頃から、学部の男連中は、高値の花を見るように千晶を遠巻きに見て、誰も手を出せなかったからなぁ」
「学部の男連中のために、そこそこ気を使ってたわけじゃないよー」
千晶は、向こうを向きながら言う。
「分かってるよ。芝居のためだろ」
「違うよ。春希に食ってもらうためだよ」
「「なっ」」
かずさと、雪菜が立ち上がる。
「ええっと、その……、冗談だよな」
千晶を睨んだ後、自分を睨んでいるかずさに怯えながら、春希は言った。
「冗談じゃ、ないよ。
もう一旦書き上げちゃったから言っちゃうけど、あたし、三回生の冬、あんた達三人の話を芝居にしようと思ってね。雪菜から逃げ回ってる春希に近づいた。
話を引き出すのと同時に、役作りのために、春希がどういう風に女を抱くのか、知りたくて。
女っ気を無くして近づいて、友達のフリして懐に入り込んでから、間近であたしという花の香りを嗅がせて抱かせる、という作戦だったんだけどな」
「……ち、千晶、おま、お前なっ」と、かずさが吃る。
「うっふーん。どうなったと思う？」
「は、春希、お前、まさか」
「ないよ。だって、俺達は友達だからな」
「これだよ……。春希は、強情というか、一途というか、最後まであたしを女として見てくれないんだわ」
「そ、そうか……」
「問題なのは、そこですっぱり諦められなかったことなんだよ」
「何、だと？」と、かずさは怪訝な声を出す。
「未だに、抱かれたい男が現れないんだよ」
「はあ？」
「天才女優の晶様は、年齢イコール彼氏いない歴の、痛すぎる魔女候補、というわけ」
「……えと、魔女候補って何」と、春希が言った。
「三十歳を超えても処女だと、魔女になるんだよ」
「え」
「だから、さすがに早く食っちゃって欲しいワケ」
そう言って千晶は、春希の頬に手を伸ばした。
「じょ、冗談は止めろよ」
「いや……。こいつの言ってることは、冗談じゃない。
千晶が春希に惚れてるってことは、分かってたよ」
そう言って、かずさは、千晶の手を取った。
「えっ」春希が大きく驚いた。
「分かってなかっただろ」
「それは……、ないよ」春希の声が震える。
「お前、ホントに女ってもんが、分かってないよな」
「かずさぁ。なんで、あんたの口から言うの」
千晶が、かずさを睨む。
「あたしはね、外野に口出されるのが一番嫌いなんだよ。分かってんだろ」
千晶は立ち上がり、空いてる左手で、かずさのシャツの首根っこを掴む。
「あたしは、外野じゃないよ」
かずさは、千晶の右手を離す。
「あたしの想いが、かずさを経由してる訳じゃない」
千晶の、トーンが低くなる。
「…………」
「…………」
「かぁずさぁ」
雪菜の、間延びした声が聞こえた。
「千晶はぁ、今日の？」
「女王様、だったな」かずさは微笑む。「すまない」
「クソがぁ……」千晶は、かずさを解放する。
「まあ、仕方ないか……。そうだよ」そして、頭を掻く。
「あたしは春希に惚れてるよ。悪いか？」
素のように見える千晶が、春希を見つめて言った。
男達はみんなビビっていた。
だが、女達は、�爐鵑覆海箸蓮∧�かってるよ�瓩箸いΥ蕕鬚靴討い拭�
「こいつら二人みたいな、超訳あり物件じゃなくて、あたしにしとけば良かったんだよ、春希」
「「超訳ありって、何だよ！（何よ！）」」
かずさと雪菜が叫んだ。
「あたしだって優秀なマネージャー兼恋人が欲しいんだよ。こんな連中が相手だから、何度も、捨て身で打ち明けたのに……」
「千晶……」春希は、心底驚いた。
「春希って、本当にこの二人以外眼中にないんだもんな。大学三回生の一年間、あたしは、春希の一番側にいながら、何時も敗北感を味わっていたよ。
まあ、ミイラ取りがミイラにされたのが、一番悪いんだけどね」
「…………」
春希は、千晶を見つめる。
本当は、何度か千晶に傾きかけたことがあった。ゼミ仲間だと思っていた女友達の�狃�の顔�瓩鮓�た後、心をかき乱された。
大学三回生のクリスマス、有海インテグラル・ホテルで雪菜と苦い別れをした夜。もしも、千晶に連絡を取っていたら……、どうなっていただろうか。
だが、千晶と、男と女の関係になることが想像できなかった。
千晶との友情を壊すような選択肢を、選ぶことができなかった。
「ごめん……」春希は、言った。
「ふう〜」千晶はため息をつく。
「ごめん、は、なし。春希くんの、ごめん、は、良いこと、起きないんだもん」
「なっ」一同、驚いた。
千晶の演じる、雪菜は、本人そのものだった。
「だから、謝らなくて良い。だってわたしは、今でも虎視眈々と、春希くんを狙っているんだから。かずさが隙を見せないかって、何時だって思ってるんだから」
「お前な……」と、かずさが言った瞬間だった。
「お前な、春希に指一本でも触れてみろ。……左足をぶち込んでやる」
「うぉっ」一同、またも驚いた。
千晶の演じる、かずさは、本人そのものだった。
「……和泉さん、そこが弱み、だな」
友近は、驚きながら言った。
「春希にベタ惚れ、と、同時に、雪菜さんと、冬馬さんに、ベタ惚れなんだろ」
「……議員、あんた、嫌な男だね」千晶は悪態をつく。
「あたしは、三人が、大好きだよ。確かに。だからこそ、春希をモノにできなかったのかもしれないね」
「千晶……」春希が口を開く。
「何……。引いた？」
春希は首を横に振る。
「お前が以前、言ってくれてたことが、ずっと引っかかっていた。
その……、『恋人でないなら、親友のつもりなんだけどね』という言葉を」
「……春希、よく覚えてたね」
「俺は、改めて、その言葉を本当に光栄だと思ってる。お前に、親友と言ってもらえるなんて、本当に嬉しいって、思ってる。
だから、俺はお前に、こう言いたい。
ありがとう、千晶。ずっと、大切な親友でいてくれ。頼む、よ」
「春希……、あんたは本当に」千晶が、苦笑いする。
「嫌な男だね」
「その通りだ」
「分かったよ。親友で、いてやる、よ。
おい、そこで涙目になってる、ワンコちゃん」
千晶は、かずさの頭を撫でる。
「そういうことだから、心配すんな。あ、でも、春希への愛情に手を抜いたら、すぐ奪いにやってくるからね〜。頑張れよ〜。
さて」千晶は、一息つく。
「そろそろ、生け贄を喰らう時間に移ろうか〜」
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「さて、誰から喰らい付きたい？」千晶は、戯ける。
「じゃあ、あたしから……」かずさが手を挙げる。
�爐┐叩帖牒瓩函△澆鵑覆�思う。
「水野、先生は、雪菜の、主治医、だったっけ」
「ええ」
「あたし達に、怒ってるんだよね」
「そうです、ね」
「そうか……。でも、あたしは、水野先生には、謝らないよ」
「おい、かずさ……」
面識のある春希は、少し気が引いた。
「あたしは、先生を知らないし、雪菜を巡っては、同じ立場だよね」
「……確かに」
「だから、春希が先生に対して引け目を感じる必要はないから、それは宣言しておく。同じように、友近……議員？」
「おう」
「あんたにも、謝らないからな」
「そんなことは、分かってる。俺の気は、もう済んだ」
「そうか……。さて、水野先生……」
「なんですか」
「雪菜を、好き、なんだよね」
かずさは、ストレートに訊く。
千晶を除いて、一同、息を呑んだ。そう思ってはいたが、確認した者がいなかったから。
そして、水野は、雪菜を見る。雪菜も、水野を見る。
「和泉さんが、宣言したからには、僕は、隠せないよな」
「そうだよ、ね」かずさは、言う。
「その通り。僕は、雪菜さんのこと、大好きです」
「先生……」雪菜はため息と共に、言う。
「ありがとう、ございます」
「それ以上は、言わなくて良いですよ。一応、今は主治医の立場が一番大事ですから。雪菜さんの気持ちは、良く分かってるつもりだから」
「……ありがとうございます」
「えっと、ちょっと待った」
「はい、友近議員」千晶が指差す。
「俺は、一度、小木曽さんに告白して、フラレてます。それでも、今でも、大好きです」
目の据わって来た友近が言った。
「多分、そうなんだろうな、ということは分かってます」と、朋は言った。
雪菜は、ちょっと困惑したような、はにかんだ顔をしていた。
「ただ……、この馬鹿が」友近は春希を睨む。
「小木曽さんを悲しませたくせに、ノコノコ帰って来て、それでも、小木曽さんはこの馬鹿の側にいて、冬馬かずさも側にいる。それが、不思議でならない」
「まあ、不思議だよね」中ジョッキ五杯目を空けた依緒は、低く言う。
「でもね、友近センセ、この三人の人間関係を不思議に思っても、仕方ないよ。あたし達は、外野なんだから。
もしも、割って入りたいなら、もっと真剣にならなきゃ。それこそ、全てを捨てるつもりで」
そして、追加オーダーのブザーを鳴らそうとする。
「だよなぁ」武也は、代わりに押してやる。
「腹立つけど、この三人は……、全てを捨ててでも、答えを探そうとする。真似、できないからなぁ」
「あたしは、クラシックなんて、全く分からなかったけど」依緒が言う。
「かずさがウィーンに行ってから出したCDをね、貶してやろうと思って、出たら買って聴くんだけど、その度に、感動して……。
あ、生中一つね」
店員がやって来て、各自、各々追加オーダーする。
「えと、腰が抜ける程、コテンパンにされて……。
だから、帰って来た時に、ぶっ飛ばすつもりだったのが、……もうダメだよ」
かずさは、目線で依緒に感謝する。依緒は、左手で小さく会釈する。
「同じように、雪菜のアルバムには、めちゃくちゃに感動した……。
あたし、雪菜が親友だからって、それだけじゃなくて……」
依緒は、急に涙目になる。
「歌詞と、声と、メロディと、ピアノに……、泣けて泣けてぇ……」
「お前、馬鹿だな。いっつも、そればっかり」
武也は、依緒の頭に手を回し、肩に乗せてやる。
「悪い……。ちょっとだけ借りる」
依緒がおしぼりを目に当てる。
「そう……、なんだよな」少し赤い顔をした友近が言う。
「小木曽さんの歌詞と歌を聴きながら、やっぱり、ピアノも聴いてる。
曲を、口ずさんでしまう。
小木曽さんを包み込むような、曲の素晴らしさに抱かれてるんだよ、な」
「ふん」朋が鼻を鳴らした。「腹が立つことにね」
「まあ、その通りだよね」
水野は、ワイングラスを傾けながら言う。
「医者としては、本当に腹立たしいよ。人の心を抉りながら、同時に癒してしまうんだ。
……冬馬かずさ、っていう、アーティストは。
ホントに、凄いよね……」
水野は、ため息を付くように言った。
「そして、小木曽雪菜と冬馬かずさという、類希な才能を持つ美女の間にいる男。
色々と問題を抱えていたピアニストと、そしてこっぴどく傷付けられた歌うたいを、結局は二人とも大きく花開かせた要因になっている、北原春希という、底の見えない男について、ホントに腹立たしく、不思議に思っている」
そう、水野は言った。
「同じく」友近も言う。
「お前という男は……、一体何なんだ、と思う」
「あたしが教えてあげよう〜」と、千晶が言った。
「こいつはね、ただのマザコン。全ての女にハバボバボボドゲ……」
「千晶はっ、もう、余計なこと言わないでっ」
雪菜は千晶の口を塞ぐ。
「ぶは〜、何すんだ雪菜。今日のあたしは女王様だぞ」
「王位剥奪するわよ」
「分かったよ。んで、この二人のセンセのわだかまりは、解くの、解かないの」
「解かないよ。わだかまりなんて、誰でも持ってる。わだかまりなんて、嫉妬に比べたら、どうってことない。
……かずさ、もう一杯もらって良い？」
「春希……、雪菜の限界って、どこまで？」
かずさは、冷えたロゼを注いでやる。
「ワイン一本で記憶が無くなる程度、かな？」
「これ含めて、後二杯だな」
「あの、ですね」雪菜は、一口飲む。
「かずさと、春希くんのことを、傷つける人は、わたしが許さないよ」
「はいはい。分かってるから……」
千晶は、三合目の獺祭に口をつける。
「友近くんは、この前、ほっぺたが腫れる程、春希くんを殴ったのよね」
雪菜は、少しきつめの口調で言う。
「雪菜、そのことはもう良い。俺と友近は、じゃれ合ってただけだ」
春希の声は落ち着いている。
「でも、二度は許さないよ」
「分かってます。もうしないから」友近は、苦笑いする。
「千晶、もう一回、あたしから良いかな」
かずさは、千晶に問う。
「どうぞ〜」
「……部長は、春希を殴ってやろうとは、思わないの？
あたしを、罵ろうとは、思わないの？」
「部長って、飯塚武也のことだっけ」と、千晶が雪菜に問う。「うん」
「俺かぁ。俺は……、そうだな。雪菜ちゃんが歌を取り戻してなかったら、今でも北原春希と、冬馬かずさを憎んでいたかもしれないなぁ。
でも、雪菜ちゃんが本当に頑張って、歌を取り戻してくれたから、俺は勇気をもらったし、怒りを振り解くことができた。
それに、冬馬かずさがヨーロッパで頑張ってるのを知ったから。冬馬かずさのマネージャーが日英独仏伊の五か国語を操り、各国の民法と商習慣に精通した敏腕だって聞いていたから、ああ、色々あっても、こいつらの頑張りはスゲーなって思ったから。
だから、俺が拘るのはそこじゃねーなって思ったんだよ。
俺は雪菜ちゃんの考えに従う。色んな感情の揺れ動きは、三人にも、俺達にもあるんだろうけど、そんなことは、三人でいたい、っていう、雪菜ちゃんの想いに比べたら、小さいことだと思う。
春希は、俺にとって二番目に古い親友だし、雪菜ちゃんが許すって言うなら、拘る理由はないよな」
「ごめん」春希は感謝する。「イタリア語はまだ全然だよ」
「部長……」
「武也くん……、ありがとう」雪菜は、改めて言う。
「俺こそ、俺も、頑張んなきゃな〜、って、思わせてくれる、雪菜ちゃんに感謝してるよ」
「何言ってんだよ。同期入社の中で、一番営業成績、良いんだろ。あたしだけだよ、この中でグダグダなのは」
依緒は、既に六杯目の生中を半分空けていた。
「お前な、女性を美しくするための商売をやって、営業成績出す位、俺は頑張んなくたって、できるの。頑張ろうと思うのは、……私生活の方。
お前だって、営業に回って来て、順調に会員数、伸ばしてるんだろ」
「あたしの成績は、雪菜と、かずさのおかげが大きいの。……それに、私生活って、何？」
「教えない」武也も、五杯目の生中のグラスを空ける。
「……また何時か、訊くからな。
ところでな、春希」今日、初めて、依緒が春希に口を利いた。
「なんだよ」春希は、身構えた。
「お前、かずさを、お姫様抱っこ、できるか？」
「ぶっ」かずさがネクターを吹いた。「依緒、お前な……」
「可愛い系男子の春希には、無理なんじゃな〜い」と、千晶が言う。
「ああ、できないと、思うな」
「情けないなあ……。お前、日頃身体動かすことないだろ」
「ない、な」
一日三十分は歩くようにしている。それだけだ。
「やれやれ」依緒は、両手の掌を上に向ける。
「日本一の美女二人の心を掴んで離さないお前も、今のままじゃ三十歳過ぎたら、腹の出た中年になるしかないな。
そうなれば、お前がどんなに、この二人に執着しても、二人の心は絶対に離れて行く」
「えーと、依緒？」雪菜は苦々しく笑いながら言う。
「喧嘩売ってる？」
「腹が出た春希は、……確かに嫌だな」
かずさは、ぽそりと言った。
「この二人は、身体、動かしてるぞ。この美は衰え知らずだよ、きっと」
「私だって、節制してますよ」朋は、苦々しく言う。
「割り勘負けしても文句も言わず、ウーロン茶でみんなについて行ける程には、節制してますよ」
「あたしも節制してるよ〜。どう、この超魅力的な素晴らしいスタイル」
千晶は立ち上がり、しなを作ってみせる。
「それだけ暴飲暴食して、なんで、それ。不公平だわ」
朋は、歯噛みする。
「この中で、かずさと対抗できるのは千晶らけよね」
雪菜のろれつが、段々怪しくなってきた。
「俺は少食だし、太ることはないよ」と、春希は言った。
「馬鹿かお前は。男の少食なんて、褒められる美点じゃ無いんだよ」
うんうん、と、友近が頷く。
「食って、身体動かして、必要最低限の筋肉つけろよ。お前、そのヘナヘナの身体で、かずさが暴漢に襲われた時、どうやって守るんだよ」
「どうやって、って？、えっと」
そう言えば、この前も、かずさに守られてしまった。
「ほらみろ、何も考えてないだろ。その時点で、お前はマネージャー失格なんだよ」
「依緒、それ以上、春希をクサすなよ」
かずさが声を上げる。
「まあ、あたしに任せろ」
「分かった。確かに依緒の言う通りだ。俺も積極的に、身体を動かすことにするよ」
「やっと分かったか。じゃあ、これ」
「……これって何」
「小木曽雪菜さん、冬馬かずささんも通ってらっしゃる、当社のジムの、エグゼクティブ・コースのカタログと、申込書です」
「うっくくく。そういうことか」かずさは、笑い出す。
「依緒、お前、はめたな……」
「嫌なら良いんだよ、あたしは別に。お前が中年太りになって、ハゲ頭になって。美人の嫁さんとか、嫁さんの美人の親友とか……」
「美人の愛人とか〜」千晶が色っぽく言う。
「美人の旧友とか、美人の後輩とかから相手されなくなって、無視されても」
「お前、今密かに自分を美人と評したな」
「確かに、男性型脱毛症には、有酸素運動による血行促進は有効だけど」水野は冷静に言う。
「よくあるんだよな。嫁さんは友達と悠々外で遊んでるけと、夫だけ家にポツンと残されて、猫とか犬だけを相手にしてる図。
それか、ここにいるちゃらんぽらんな中年太り予備軍と、せいぜい場末の酒場で、愚痴を言い合う程度のことしかできなくなるってわけだ」
「おい、何気なく、俺をディスるのはやめろ」と、武也が訴える。
「分かったよ。ただし、俺は一般のコースに行くよ。俺の給料はそんなに高く無いんだ。アーティストじゃ、無いんだから」
「そうか、なら、仕方ないな。それじゃ、このテコンドーのコース、やってみろよ。簡単な防御なら、すぐ身につくぞ」
「分かった。じゃ、帰ってから、書いて、送るよ」
「今書けよ」
「今、ハンコ持ってないよ」
「うふふ〜ん。その黒カバンの一番手前のファスナー開けて、弄ってみ」
「何を言ってるんだ、お前は。……あった」
「うっくくく」
「かずさに頼んでおいたんだよ」
「なっ！ お前もグルか」
「かずさは、我が夫に一度でもお姫様抱っこしてもらえるなら、エグゼクティブ・コースの費用は自分が出すと言ってる」
「おい依緒、それは言わないって約束だろっ」
かずさの顔は赤くなる。
「回文言うな。
春希ぃ、かずさは、曜子さんと違って、ホントにお金を使わないらしいな」
「ピアノと、音楽以外、趣味がないからな」
「唯一の趣味が、マネージャーたる夫とのイチャイチャじゃ、そりゃ、金は要らないわな」武也が小さく言う。
「部長、蹴られたいのか」かずさが低く言う。
「武也くん、殴るわよ」雪菜が便乗して怒る。
「そうですか。そりゃ、もうプラトニックな関係じゃ無いわけですしね。日本じゃヤらないって言ってたのに。
そりゃ、そうですよね。まあ、そうなら、そろそろ赤ちゃんでもできても、おかしくないんじゃないですかね。もしそうなら、ウチの局で独占取材させて下さいよ」
「柳原、ちょっとその話題、勘弁してくれ」
「そうよ、朋。あんた最悪よ」雪菜が本気で怒りだす。
「ということで、エグゼクティブ・コースで良いわね」
「……分かったよ」
「じゃあ、こことここ、書いてね。ハンコは、ここね」
「これ一体、何の会？」友近は、少し呆れた。
「水沢さんは、ホント、面白い人だよね」水野は、苦笑いする。
「ひょっとして、水野先生も、入会してるんですか」友近は訊く。
「雪菜さんが、通ってるから……。まあ、たまにしか、会いませんが」
「じゃあ、書いたわね。……それじゃ、女王様」
「ほいほい、なんですか」
「本日のメイン・イベントに行きたいのですが」と依緒は言った。
「まだ、なんかあるのか」春希は身構える。
「譲れない、メイン・イベント、だよ……」
依緒は真顔になる。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「仕切りは依緒に任せて良いの？」千晶は、問う。
「うん、任せて」
「依緒……、何、する気？」
�爐劼腓辰箸靴董∈�やるつもりなのか？��
かずさと雪菜は、心配げな視線を交わした。
「春希。武也はさっき、お前を許したみたいに言ってたけど、あたしは今でも、お前を許しちゃいない。お前が逃げてしまってから、雪菜がどんな思いで、立ち直って来たか、どんな思いで今の雪菜になったか、お前は知らないだろう？」
「そう、だな」�狎禳擇聾譴蠅燭�らないから��
「あたしは今、こうやって、お前とハンパな、馴れ合いの会話を続けてるのも、本当は、反吐が出そうな位、嫌なんだ」
「依緒、止めてよ」雪菜は、静かに言った。
「……すまない」
「謝るな。雪菜は謝罪を望んでない。それどころか、あたし達が、春希や、かずさと仲良くなることを望んでる。
それに、かずさは、あたしに、春希と仲直りしてくれと、頭を下げた」
えっ。春希は、かずさを見る。かずさは、困ったような顔をしていた。
「雪菜は本当に強くなった。美しさに磨きをかけ、心の傷を憂いに変え、自分の思いを隠さず、かずさの曲に乗せ、歌であたし達を、リスナーを感動させる。
もしも、雪菜があのまま壊れて切ってしまって、戻って来なかったら、あたしは絶対に、お前と、かずさを許しはしなかった。
でも、雪菜が、強い雪菜が戻って来てくれてえ……、うっうう」
依緒は、どんどん、泣き声交じりになる。
「そして、あたし達にも、許してやってくれと言うからには、その想いは、無視できないよ……。
それに……、かずさに、真っ正面から、誠実に、頭を下げられたら、あたしが、拘り続ける訳にはいかないよ。
だから、あたしは、メチャクチャ不本意ながら、お前を許すことにした。
ただし、どうしても気がすまないから、一発、殴らせろ」
「依緒、分かった」
そう言うが速いか、立ち上がった依緒の右手が、春希の頬に炸裂する。
もんどり打って椅子ごと壁に当たる春希。
「春希くん！
ちょっと依緒、あんたはっ」雪菜の目が据わってる。
「依緒、強過ぎるよっ」かずさも、依緒を睨む。
「今のはやりすぎかぁ」千晶の目が、三白眼になる。
「大丈夫かぁ、春希」武也は、春希の顔を覗き込む。
「流石に、効いたな……」
親友の拳は、本当に痛かった。心に、響いた。
「友近のより、効いた。でも、歯まで行かないところをみると、お前、手加減しただろ。……もう一度、やってくれよ。
今度は、思い切り、奥歯全部、持ってくつもりでさ」
春希は立ち上がり、依緒の前に歩み出る。
春希の目は、穏やかで、優しかった。
だが、雪菜とかずさが、春希の両手を引き、依緒の前に出る。
「そんなこと、できないよ。二度もお前を殴ることなんて、できるわけ、ないじゃないかよ……。うう、うあーん」
依緒は、泣きじゃくる。
「な」武也は春希に囁く。
「だから俺がお前を殴る必要はないんだよ」
そして、ポン、と春希の肩を叩いた。
雪菜が、依緒を抱きしめる。かずさは、依緒の肩に手を置いて俯いた。
…………。
「……すいません。お客さん」
あの体格の良いお兄さんが、皿を引きにやってきた。
「あの、皆さん、常連さんだから、あんまりこういうこといいたく無いんですか、これ以上の乱闘になるなら、どなたがいらっしゃろうと、帰ってもらいますから」
「ああ、すみません。今からは多分、大人しく呑みます」
武也は、頭を下げる。
「たしか、社会人三年目じゃなかったですか。そろそろ、そういう青春ドラマみたいな、大騒ぎ、止めといた方が良いですよ。
とりあえず、これ以上騒いだら、お勘定してもらいますから」
「すみません。えと、ちょっと片付けて、一呼吸入れようか」と、武也が言った。
�爐靴�し……、止めろと言われても、無理だ�瓩函�武也は思う。
�狃婀�と、雪菜ちゃんと、冬馬かずさがいて、そして俺たちがいる限り、物語がおとなしく進行する訳がない��
「……えっと、お兄さんは行った？」獺祭を飲み直して、千晶は言った。
「しかし、無茶なこと言うね〜。んなもん、春希と、かずさと、雪菜がいて、あたし達がいて、物語が大人しく進行する訳ないじゃん」
千晶は立ち上がり、春希の側に行く。
「な、春希」そして、身を屈めて、依緒に殴られた頬に強くキスをし、引き際にぺろりと舐めた。
「治療でチュ」
「「こらぁ、千晶！」」かずさと雪菜が、立ち上がり叫んだ。
依緒と朋は、顔を見合わせて笑った。
春希は苦笑いし、その他の男どもは、大声で笑った。
……怒号が渦巻き、九人が店を追い出されたのは言うまでもない。
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このページへのコメント
誕生日の件については、春から夏のお話を書こうと思った時、ちょっと困ったことの一つです。春希の誕生日が四月だ、という話は何処かに書いてあったんですが、日付が分からないので、イベントが設定できませんでした。武也と依緒の誕生日が分かれば、そこに和解のイベントを仕込むことも検討できたのですが、さすがに誕生日をオリジナル設定するのは憚られました。
先日、かすさの誕生日会イベントに行ってきたのですが、そういうのを開催してもらうために、５人だけ設定してあるのかな。とすると、依緒は春希のヒロインにはなり得ないのか…。
tuneさま、何時もありがとうございます。
今まで、blogとかで妄想小説を書いた経験はあったのですが、登場人物９人という大所帯は初めての試みでした。うち７人はアイデンティティの定まっている既存の登場人物であったにも関わらず、さすがに全部で９人は多過ぎたみたいで、取り仕切りができませんでした。折角、千晶が狂言回しを買って出てくれたのに…、彼女には悪いことをしました。
でも、どうしてもこの話で型をつけてしまいたかったので、登場人物のみんなには、無理をしてもらいました。
個々の会話のやり取りは面白かったですが、登場人物が多いせいかちょっとゴチャゴチャになってしまっているかも、後かずさTのその後でSSを書く作者の皆さんは先ずかつての仲間といかにして和解をするかが最初の悩みどころだろうと思います。次回も楽しみにしています。
誕生日といえばWA2の登場人物でかずさと雪菜、CCの三人のヒロインだけ誕生日が決めてあるんですよね、依緒や武也に無いのはまだしも春希に無いのはちょっと気の毒な気が・・・。