最終更新: tominosyou 2023年01月25日(水) 14:20:59履歴
- 「シャハルサーガ第1部」 転載元:https://togetter.com/li/435053
- 「シャハルサーガ第2部」 転載元:https://togetter.com/li/460081
- 「シャハルサーガ第3部」 転載元:https://togetter.com/li/488912
- 「シャハルサーガ第4部」 転載元:https://togetter.com/li/563956(更新停止)
各サブタイトルはマーディール大陸の追加設定。
「……わかりました、おばさま。氏族の壁を越えて、あたくしを育んでくださった、ラナークお養父(とう)さまの親切に報いるためにも……おまかせください。行きますわよ、アード・サイレントウルフ!」
幼い狼を従え、キノコ帽のエルファ娘が旅に出る。
#SSG選択 #シャハル4 0‐B
マーディール大陸の北領域には、森が広がっている。地峡砂漠を越えたあたりは、まだまだ広葉樹だが、さらに北へ向かうと針葉樹が増えてくる。最北には、一年のなかばが雪に覆われている地域もあった。
黒みを帯びた太い木々と、細い葉が、雪にくるまれた森に、ひとりの少女が姿をあらわした。人間としても小柄、エルファとしてなら、まだ幼児とも見える背丈だ。しかし、横に広がったとがった耳の形は、すでに成人しかけている年齢のもの。
防寒服でふくれあがった少女は、森の入り口で、雪の中にひとりたたずんでいる。いや、彼女の足もとに、ころころした小さな影がもうひとつ。白と灰色の毛皮につつまれた、毛むくじゃらの生き物。幼い狼だ。
かふ、かふかふかふっ。仔狼が、森の一角に向けて吠える。
「静かにしなさい。あなたはサイレントウルフの名を継ぐ者でしょう」
かふ、かふかふっ。
「だからこそ吠える? 隠れた相手の匂いをかぎつけたくらい、自慢にはなりませんよ」
森は黒い。枝や根の上、地面に積もった雪は真っ白でなめらかだ。何か動物がそこにいる痕跡など、そこには認められない。人間の目なら。だが、ここはエルファの森だ。
この大地に三番めにあらわれた緑の月。その月に住まうのは、あらゆる動植物たちの祖霊(トーテム)たち。彼ら祖霊に学び、自然との調和を尊び、森と一体となって生きる、長身痩躯に、長くとがった耳の種族、それがエルファである。
エルファ族は、森の民である。広大な大陸北部を覆う森のほとんどは、彼らの領域であった。だが、黒い森の前にたたずむ少女は、まとう衣装は人間族のもの近く分厚く、また身体にほどこされて個人の経歴をあらわす刺青も、この大陸のエルファたちとは、微妙に異なっていた。
「我はサイスの森、西南の三本の大樫の丘の部族において、緑の守りたる偉大なる樹人ラナーク・レスティリの養い子、カアンルーバと梟を崇めるラウンドアイ(全周を見る目)にて螺旋を進める、ソフィアなり」
少女は、その小柄な体つきからは想像もつかない、朗々とした声で名乗りをあげた。木の枝のひとつから、雪が、はらはらと零れ落ちた。細い、とうてい一人の体重を支えられるとは思えない枝の上に、人影が現れる。だが、少女ソフィアへの直接の返答は、まるで異なる場所から響いた。
「そのような森の名、聞いたこともないぞ、来訪のはらからよ」
人影が見えたのは少女の左にある木だが、声は右の高い杉から聞こえた。幹の先端から聞こえ始め、だんだんとおりてくる。だが、ところどころ雪がはりついた幹に、動く影など見当たらない。
ソフィアの足もとで、狼が小さな声で唸った。
「……そう、魔法の気配はないのですね。体術だけで姿を隠しているということですか。これほどの手腕を持つならば、この森こそは期待できようというものです」
少女は、小さく息を吐いた。
少女から数歩の位置で、突然、雪が噴きあがった。雪煙がおさまると、そこに長身の男が立っていた。雪の中にいるのに衣服は手足がむきだしだ。あるいは手足にほどこした鱗のような刺青に、魔法的な防寒効果でもあるのかもしれない。ジャング、見張りを役目とする氏族である。
エルファは、崇める祖霊ごとに、異なる役割を持ち、同じ役割を持つものたちの集まりを氏族(クラン)と呼ぶ。あらゆる禁忌を排除するジャングの氏族は、森の外から穢れが入りこむことも防がねばならない。
「おまえの森ではどうだか知らぬが、このゼアレタの森では、偽りの名乗りは、懲罰を受けるのだ」
深い皺を刻まれた男の顔は、頑固とか狭量といった言葉を形にしたものように思えた。
膝まで届く長い両腕が、体の左右にだらりと垂れ下がっている。手の中はからっぽだが、ジャングの氏族は大蛇を祖霊としており、その身を大蛇のごとく敵に巻きつけ、締め上げて骨も砕く武術を心得ている。男からは、明確な殺気が放たれていた。仔狼が、相棒をかばって前に進み出る。
「少々、失礼させていただきますわね」
だが、ソフィアと名乗った少女は、まったく怖じけたようすもない。彼女は、ふところから、目のまわりを囲む枠だけの仮面を、顔に装着した。男が身構え、仔狼が唸る。
「……なんだ、それは?」
「眼鏡と申しますの」
「わたくし、目が悪いものですから……。せっかく、雪を噴き上げてこけおどしをしていただきましたのに、よくわかりませんでしたのよ。そのままでは失礼かと思いまして。あなたさまの、怒った顔を怖がってさしあげることもできませんし」
「こちらでは、まだ眼鏡は普及しておりませんが、わたくしが生まれ育ちました曙の大陸では、視力の矯正に使われる、安価な道具ですわ」
「曙の大陸……だと?」
「はい。一月かけて海を渡ってまいりました。我が森の名を聞かれたことがないのは、それゆえでしょう」
「わたくしの申し上げていることが嘘かどうか、わからぬ方ではないとお見受けしますが?」
しばらく睨みあった末、この森を、外部の穢れから守る役目の老いたエルファは、ようやく、ほんのわずか態度をやわらげた。
「で、その、よその大陸の者がなんの用だ」
「あなた方のフェルトレに会わせてください」 部族をまとめ導く役目の氏族との対面を、ソフィアは要求した。
「あなた方のフェルトレは、この世界を裏切っている可能性があります。必要とあれば、死んでいただかねばなりません」
冷徹な口調であった。 #SSG選択 #シャハル4 21‐A
「この森では、罪を犯した者を追うのは、プファイトの方? それともジャングの方ですか?」
返事を待たず、ソフィアは先を続けた。
「その方々、追跡行に出ておられますね? わたくし、追うもの追われるもの、双方の命が無駄になることを防ぎたいのです」 #SSG選択
というわけで、ソフィアの冒険は、これからはじまります。今回は、行動というより、彼女の性格の選択になるでしょうか。 #SSG選択 とあるツイートを公式RTするか、 #シャハルサーガ投票 のタグでご発言ください。
コメントをかく